東京五輪殺人事件   作:ひねもす@HAMELN

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フランスといえば。

エッフェル塔、ボジョレヌーボー、ナポレオン。

ルノー、ミラージュ、マジノ線。

個性的、おしゃれ、常に2番手。

フランス革命は1789年。

そんなとこですかね。

 

「フランス革命はハーバート・ジョージの本でもまるまる一章語られてなかったかな」

 

あ、そこは飛ばしました。

民主主義の出発点だったんですよね?

 

「ほう。

民主主義の出発点ねえ。

面白い発想だな」

 

え。ちがうんですか。

 

「さっきナポレオンと言っていたけれど。

人物・魚・サクランボ・ブランデー・ダンス曲・カードゲーム・兵器。

どれのつもりだった?」

 

予の辞書に不可能は載っていない、と言い放った軍人のナポレオンです。

 

「ナポレオン・ボナパルトといったら皇帝なんだが。

彼が帝国の元首として君臨したのは何年か言えるかい?

フランス革命より前か後かでもいいよ」

 

え?

帝国といったら民主主義の真逆ですから、フランス革命より前でなければおかしいですが、そうではない?

 

「なんだか君はまたヤポに逆戻りしてるな。

もう一度あの本を持ってきてやるから、読みなおすか?」

 

できれば、ぜひ。

あ、正解を教えてください。フランスは民主主義革命を起こしたあとで帝政に戻ったってことですか?

 

「なんで僕がそんなところからいちいち説明してやらにゃならんのだ。

ナポレオン1世の帝国は1804年に誕生し、1814年に滅んだ。その翌年に再蜂起したが、ワーテルローでボロ負けして島流し。パリを首都とするフランス領土の支配者にはブルボン王朝が返り咲いた。

なお現在のFRが民主主義国家を始めたのは、連続性でいうなら1946年からだ」

 

1946年ということは、第2次世界大戦より後?

ああ、戦争中はドイツに占領されていたから、民主主義じゃなかったんだ。

 

「1789年の革命なんて、貧しい民衆が王族を血祭りにして政権を奪ったっていう左翼テロだからね。

首謀者たちは政治の動かし方なんてわかっちゃいなかったから、国民を更なる極貧へと突き落とした。

その渦巻く不平不満をエネルギーに換えて登場したアイドルが、ナポレオンなのさ。

失うものなど何ひとつ無い若者たちが結集して皇帝に忠誠を誓い、強力な軍隊をつくりあげる。10年間にわたって、周辺国へ突入しては連戦連勝し領土を拡げて得意絶頂。

ところがロシアの冬を舐めてたんだね。

ここですべてを失い、壊滅する。

こんなところでいいか。まったく、素人に政治なんかやらせちゃいけないって意味で、フランス革命はいいお手本だよ」

 

ナポレオンは独裁者ですか。

 

「皇帝だから独裁者だよ。何を言いたいんだ」

 

ヒトラーと、どこが違うんでしょう。

あ、いえ、言い直します。

聞いていて、ナポレオンとヒトラーがまったく同じような人物に思えてきました。しかし今でもナポレオンは英雄として讃えられていますけど、片やヒトラーは世紀の極悪人です。

何がふたりの評価をここまで変えさせたんだろうと不思議に感じます。

 

「ユダヤ人を怒らせたかどうかの一点じゃないかね」

 

え、それだけ?

 

「僕には興味の無い論点だ。納得いかないなら気のすむまで自分で考えろ。僕に報告はしなくていい」

 

あ……はい。

 

「フランス史についてもっと知りたいなら、教授に尋ねたまえ。あの人の出身はFRだから」

 

え。あ、そうなんですか。

先日もアヴァンティへ来られてましたけど、でも俺、話したことないんですよね。

 

「博士と違うタイプの気難しさがあるからなあ、教授は。

でも打ち解ければ面白い話がたっぷり聴けるよ。とくにFRをディスらせてごらん、最高だ」

 

ん?フランス出身なのにフランスが嫌いなんですか?

 

「知識を高めることで祖国へのヘイトを募らせるようになる現象は別段珍しいものではないが、教授のこじらせ方は並大抵のレベルじゃないから。

理詰めな上に破壊力が強烈なので、気を抜くと吹っ飛ばされる。

でも君なら基礎教養が無さすぎるから、案外へらへら笑いつづけていられるかもしれない」

 

うーんと。たとえば、どんな話をされるのですか。

 

「フレデリック大統領が発言するたびに採点をしてるよ。昨日は13点、今日は9点とか」

 

100点満点で?それは手厳しい。

 

「教授に言わせるとUSのドナルドは2匹の駄犬を飼っていて、それがフレデリックとノブスケなんだそうだ。

2匹は互いに自分の方が御主人様に愛されていると胸を張って吠えあってるが、みっともないからフレデリックはとっとと直立歩行をせよと」

 

へーえ。

日本の首相をそんな風に評する人はたまにいますけど、フランス大統領もそんななんですか。

意外だなあ。

 

「たしかにFRには、決して主導権を握らずトップランナーと反対の方角を見て行動すべしという処世訓が根付いている傾向はある。

冷戦期にそれで一定の成功をおさめてしまったから、世界の分析にかけてなら自分たちが最強だという自信もつけてしまって。それもまた正しいんだが、なにせ実行するだけの財力体力を磨いてこなかったから、どうにかして大国に動いてもらわなくてはならないとする、ヒーローらしからぬ挙動が目立つようになってきたんだ。

フレデリックは若いから、この、じたばたしている苦しさが顔に出やすい。

それでも政治家か、と教授は叱っているわけだよ。

そんなことも考えないでいられるヤポは、しあわせなんだろうねえ。いつ見てもヘラヘラと笑っている」

 

そう見えてますか。けっこう傷つくんですよ、日本人だって。顔で笑って、心で泣いて。

しかしまあ、自立できるだけの力はたしかに必要ですよね。

お金なら持ってるんだけどなあ。

 

「少し話は反れるんだが、イスラーム系武装勢力の小規模なテロは、特にFR内で頻発している。

これには理由がある。

FRの国民気質そのものが、イスラームと相性よくないんだ。

フレデリックはどうやらそこが理解できていなくて、しばしば無思慮な発言および治安部隊への命令を繰り返しており、ますますイスラーム勢力からのヘイトを煽る流れをつくってしまっている。

教授はよくそこも指摘して減点する。

僕は、聞いているとムズムズしてしまう。まるで愚かな選択ばかり重ねてゆくホラー映画を観ている気分になるからさ。せめて出口の方向を教えてやりたいくらいなんだが、FRにカモッラの支部は無いんでねえ」

 

大きな話になってきましたね。

フランスとイスラムは相性が悪い?

俺はどっちもよくわからないのですが。

 

「わかってる。期待もしちゃいない。

適当に聞き流しててくれ。

まず、FRは民族国家ではない。

これこそが1789年の置き土産なんだが、フランス共和政ではすべての人間が生まれながらにして平等であり、人種や身分・宗教によって差別されることがあってはならないと説く。

国民は、自分たちの代表によって制定された法によって結束するべきであり、フランス人はフランス語を公用語とすることで一つの国家を形成する。

これが断続的に今日まで誕生と滅亡を繰り返してきたフランス共和政の基本となる理念だ。

共和制国家が登場するたびにカトリック教会の権力は弱められ、国語授業の充実が図られ、人口統計から民族に関する項目は消された。

現在のFRは1958年の憲法改正で混迷期を脱し、革命宣言の原則に準じることで安定を保ってきた。今年で62年目だ。

メンテナンスとリフォームが必要な時期は、とっくに過ぎているんだがな」

 

ふええ。

まるでアメリカ独立宣言みたいだと聞きながら思ったけど、そのお手本となったのがこのフランス革命だということなんだろうな。

 

「1958年当時からFR国民だった者にとっては、自分たちが参加し投票して決めた憲法だから一応納得はしている。

それ以降の移民たちは、これを了解し馴染んでいかなくてはならない。

移民をどのくらい受け入れるか、どう向き合っていくかは各国でさまざまに試行錯誤していくものだが、FRでは特有の問題が存在する。

民族国家や宗教国家であれば基本、住み分け前提で法整備をしていくのだが、FRでは民族差別をしないことが鉄則だ。特定民族だけの集落はつくらせない。

移民も既住者と一緒に暮らしなさい。

市民もかれらを受け入れなさい。

美しいフランス語を学びなさい。

宗教的な装束を身にまとうことを禁止します。

さああなたも立派なフランス人になれました。

これがFRの希求する理想社会なのさ」

 

う。胸が苦しい。

それ、なんか日本がやっていることと近い気がする。

日本は民族国家だから、もう少し複雑なんだろうか。

 

「いろんな事情があって、辛く苦しい屈辱や別れも経験して、無一文でFRへ辿りついた人間がいたとする。

移民申請をして、低賃金でも文句ひとつ吐かずに働き続けた。

そうして何年もかけてFR国籍を手に入れる。

でも訛りは抜けないし、身についた習慣は残っているし、肌の色など変えようもないことだ。

そんな異邦人が、FR国内には大勢いるんだよ。

だがかれら自身は反抗しない。せっかく今日まで耐えに耐えて手に入れたしあわせだ。失いたくはないだろう。

だが、あなたはフランス人ですかと尋かれても、胸を張ってそうだとは言えないし、言わない。

出自を公言しても咎められたりしないUSにくらべると、FRはそんな息苦しさがつきまとう国なんだ」

 

昔からフランス軍が弱い理由って、これかな。

国民としての団結力に決定的な弱点があるんだ。

なぜだろう。理想的な、平等社会であるはずなのに。

 

「そんな人造的すぎる西洋文明国家と、あるがまま生きよと説くイスラーム文明圏は、もともと相性が悪すぎた。

そこを理解して距離をおいていればいいものを、フレデリック大統領はことさらイスラームに敵意を燃やして、余計な挑発ばかりする。

しかも伝統芸を駆使して攻撃はUSにさせるよう仕向けていくのが得意技だ。

イスラーム勢力はちゃんとわかってる。だからFRを標的にする。

残念だがフランス人は、世界を分析することは得意でも、自分自身を客観的に省察する経験は積んでこなかったらしい」

 

わかっているなら止めてあげましょうよ。

なんとか方法あるでしょう?

教授、どうにかしてよ。

 

「そんなことを普段から何ひとつ考えもしないでヘラヘラ笑って過ごしてるヤポって、ほんと、しあわせな連中だよな」

 

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