心は砕け、流した涙は地に溶け消える。
その先に救いは――。
「死ね! 死ねよ! クソガキが!」
「ぐっ!」
頬を叔父に殴られる。
痛い。
何度も何度も顔や身体を殴られる。
俺が何をしたというのだ。ただ、意味もない暴力に怯え、縮こまるしかなかった。
「両親が死んで身寄りのねぇテメェを引き取ってやったってのにアイツらは遺産をこっちに寄こさず全部分取りやがって!」
痛い、痛い、痛い。
「食い扶持だけ増やす無能が! さっさと死ね!」
何で殴るんだ。
俺は、何も……何もしてないじゃないか。
何故、殴られなきゃならない。何故、誰も助けてくれない。何故、両親は死ななきゃいけなかった。
「何で……」
「あ?」
「何で、こんな事を……」
俺がそう言うと、叔父は醜い笑みを浮かべた。
「テメェの両親の遺産目当てに決まってんだろ? 引き取ってみればみーんな持っていかれた後。ならいらねぇよお前なんて」
「は……?」
「そうだろう? 左目は金色で髪も半分真っ白。気持ち悪くて仕方がねぇ」
分かっていた。
叔父が身寄りのない子供を引き取るような高尚な人間ではないことは。
それでも、俺は人の善意はあると信じたかった。儚い願いだったとしてもそう信じていたかった。
「じゃ、ここでお別れだな」
そう言って叔父は俺の首を絞めてくる。
「がっ……!」
苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい。
「ほら、すぐに楽になる。だからこのまま……」
気持ち悪い。
そう思い、俺の『何か』がプツンと切れた。
俺は叔父の脇腹に拳を叩きつけるとボンッ! という音と共に叔父の身体が吹っ飛び新鮮な空気を吸い込む。
「ゲホゲホ……痛い……」
どうにか俺は立ち上がり、叔父の方を見ると脇腹を押さえ蹲っていた。
そんなに強くは叩いていないはずだが様子がおかしかった。
「がぁああああ! 痛ぇ! クソ! クソ!」
「叔父さん。もう終わりにしよう」
「あぁ! ふざけんなよ! テメェ!」
憤怒に駆られた叔父はすぐに立ち上がりこちらへ向かってくる。
俺は痛む身体を動かしジャブを二発、顔に打ち込む。
「ヘブッ!」
すかさずボディブローを叩き込む。
拳に肉を潰し、骨の砕ける感触がとても不快だった。手刀を左肩に振り下ろし、右肘を顔面に叩き込んで押し倒す。
盛大に血を噴出させながら倒れる叔父。
顔面は真っ赤に染まり、鼻は折れ曲がり血がドバドバと出ている。
その隙に俺はいざという時のためにまとめた荷物を持ち、家を出ていく。
「ゴホっ!」
軽く血を吐いてしまうが、さっさと離れることを優先し、傷ついた身体を引きずりながら夜の街へと向かって行く。
重い。
緊張の糸が切れたのか、身体が鉛のように重く身体が言うことを聞かない。
意識は朦朧とし、前後不覚。
口の中は鉄の味がし、口や身体のいたるところから血が流れ出ているのかもしれない。だが、その歩みを止めることはできなかった。
逃げきゃならない。
何処へ?
そんなのは分からない。だが、もう帰る場所はないのは分かっていた。
行けるとこまで行こう。どうせ死ぬかもしれないのだ。
「やっぱ、死にたくないなぁ」
誰にも聞こえないような声が漏れる。
やっぱり死ぬのは怖い。
何のために生きてきたのか分からなくなる。
幸せだった日々を思い出し、自然の涙が溢れる。こんな苦しくて辛い思いをするために生まれてきたのか。そう思えてしまうほど心にきていた。
折れる。
俺はその場に崩れるように倒れた。
「クソ……クソォ!」
ただ、悔しかった。
奪われ、踏みにじられ、捨てられた。
その事実だけが残った今に。
もういい。このまま死のう。そう思い瞳を閉じた。
「あ、あの……大丈夫ですか」
澄んだ声。
誰だ。
「助けて……」
俺は、そう言って意識を失った。