迷奏フィロソフィー   作:葛城イロハ

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 迷い子達と出会った少年は彼女たちの歌を聞く。
 忘れていた。心の底から流す涙はこんなにも尊いのだと。


落涙

 不味い。

 非常に不味い事態になった。

 まさか、燈と楽奈ちゃんが同じバンドで活動しているなど知らなかった。

 もういっその事、開き直るか。

 

「久しぶりだね」

「あ、顎くん。なんでここに?」

「いや~。楽奈ちゃんに間違えられちゃってね」

「似てないのに?」

「悪かったな! パッと見で似てたから連れてきちゃったんだよ!」

 

 いつまでも床に寝てるわけにもいかないので立ち上がり服を軽く払う。

 一対五と、ものの見事に女の子ばかりだ。

 世間の話題をかっさらっているガールズバンドという奴だろうか。案山子男も『推し活』と言って騒がしかったのを覚えている。

 あの時ほど鬱陶しかったことはない。

 

「初めまして。俺は嘉村宜顎と言います」

「あ、どうも。椎名立希(しいなたき)です。先ほどは、すいませんでした」

「別に気にしなくていいよ。椎名さんも苦労してそうだね」

「全くですよ。のら……楽奈は練習になかなか来ないので……」

「あぁ」

 

 何となくわかる。

 楽奈ちゃんは、神出鬼没の気分屋で猫みたいにふらふらしていることが多い。おまけに機械音痴で携帯が意味をなしていないということもここ二週間で分かった。彼女と交友関係を持つのならどっしりと構えながら気長に待てる人間じゃなきゃノイローゼ一直線だろう。椎名さんのような人は特に。

 そんな共感をしていると今度は桃色のロングヘア―の少女がこちらに来た。

 

「初めまして。千早愛音(ちはやあのん)です。よろしくね、あっきー」

「あ、あっきー⁉」

「愛音。お前っていつもそうだよな」

「な、何⁉ 仲良くなろうとしてるだけでしょ⁉」

 

 人懐っこい犬ような印象を受ける。

 時折見える八重歯がそう思わせるのか本人の気質なのか、加虐心を刺激されているようだった。

 思わず手が出そうになる。

 

「えっと……愛音、さん……よろしくね」

「ほら、引いてるじゃん」

「えぇ!」

 

 一々オーバーリアクション気味でちょっと愉快な人だなと思った。

 

「次は私だね~。長崎(ながさき)そよです。よろしくね嘉村宜くん」

「……どうも」

「……?」

 

 長崎さんはお嬢様系だ。所作がきれいで育ちがいいという印象を受ける反面、危うさがあった。上手く隠しているようだが寝たふりをしていた時よりも声のトーンが少し上がっている。

 確実に猫は被っているだろう。

 しかし、つつかなくてもいい藪は放置するに限る。

 二年前に俺は要らん事を言ってガチメンヘラのヤベー奴にロックオンされて散々な目に合っている。

 なので相手からさらけ出してくるまで不干渉を貫く。

 

「じゃあ、俺はお暇させてもらいますね」

「あ……顎くん、少し、練習、見てかない?」

「と、燈⁉」

 

 流石に他のメンバーは乗り気では……。

 

「あぎと、ここ」

 

 拒否権は無いらしく楽奈ちゃんに引っ張られ椅子に座らされてしまう。

 

「じゃあ、一通り練習してあっきーに感想を聞こうよ!」

「いいんじゃない?」

「は⁉ 愛音にそよまで……」

「立希ちゃん……だめ?」

「良いよ。嘉村宜もそれでいいよね」

「あ、うん。それでいいよ」

 

 椎名さんは燈に激アマだということは分かった。多分、乗り気じゃなくても燈の鶴の一声で掌を返すだろう。そう思えるほどテンションの差があった。

 客観的にみてもガチ勢と呼ばれるであろう雰囲気がヒシヒシと伝わる。しかも全肯定型であるため一番割をくう羽目になるやつだ。

 

 しかし、空気が変わる。

 和気藹々とした雰囲気から一変、張りつめたような空気になり燈は大きく息を吐いてこちらを見て言う。

 

「じゃあ、いくよ。迷星叫(まよいうた)

「……!」

 

 おどおどした少女から一変、何もかもを引き込む音楽家(アーティスト)の顔に変わる。

 彼女の口から出力される歌声は心に響くような透き通ったもので、歌詞から想いを伝えようとしているのが分かる。

 迷って、悩んで、決めたのだろう。

 こんなにも心を刺激する歌に俺は心を掴まれ、魅了するのだ。

 そんな彼女たちを見ながら、俺は静かに涙を流した。

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