迷奏フィロソフィー   作:葛城イロハ

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 対面するのは無知な挑戦者。
 その姿に苛立ちは募り、怪物は自分の全てを踏襲させる。
 その拳から炸裂するのは鬼の一撃。


連戦

 陰鬱な気分で戻ろうと通路を進むと黒い着流しをきた初老の男性が立っていた。

 刃の様な冷たい双眸。巌のような頑丈で強靭な肉体。六十代とは思えない肉体を持つ最恐の闘技者の一角。

 《魔人》黒鉄元柳(くろがねげんりゅう)。俺が二度も負けた相手。

 

「顎、貴様……変わったな」

「因縁の再会なのに第一声がそれかよ」

「一度はその傲慢さを打ち砕き、二度目は実力差をみせたはずだが……それでも尚、戦いに身を投じるか」

「あぁ、俺にはコレしかないからな……」

 

 非公式戦故に、俺の記録にはあの敗北はカウントされていない。だからこそ、俺は憤りを隠せない。

 要は暇つぶしの戯れにしかならないということだ。それが心底ムカつくのだ。

 

「しかし、あの七連撃は実によかった。あれから良き出会いがあったのだろ?」

「なんでそう思う」

「余裕がある」

 

 そこの言葉に俺は目を見開く。

 

「何を言っているという顔だな」

「実際、そう思ってる」

「三か月前と今日の試合。見比べるまでもなく動きも良く、余裕があった。技のキレ、精度、練度。全てが雲泥の差ともいえるほど上達していた。それこそ、俺が相手をしたいほどだ」

「アンタにそう言ってもらえて光栄だよ。だが、今じゃない」

「そうだろうな。貴様はここからさらに成長するだろう。それまで楽しみに待っていよう」

 

 そう言って元柳は去っていく。

 面倒な人に目をつけてたんだと、改めて認識させられた。

 

「顎、もう一つ言っておこう」

「何ですか?」

「よく、頑張ったな」

「……」

 

 今、それを言うのか。

 

「絶対に、最強の座から引きずり降ろしてやる」

 

 VIP席へと戻り、そのことを案山子男に話すと意外そうな顔をされた。

 

「キミってそんなキャラだった?」

「黙れ、俺も冷静になって後悔してる」

「じゃ、いいか」

「そうだな。この話はこれで終わりだ。で、何で次の試合が控えてるんだ?」

 

 そう。俺が戻ってきてすぐに次の試合が組まれていた。

 このまま帰れるとウキウキな状態での連戦。思わず真顔になり案山子男を見てしまった。

 その時の俺の顔はどうだったのかは分からないが、古波蔵すら引いていたため途轍もなく酷い顔だったのだろう。

 

「次はあの乱入者だ」

「は? あれ?」

「興味なさそうだね」

「実際、あれは俺の知る闘技者の中では実力は下の中。ハッキリ言って化野以下って印象だから」

「そこまでか」

 

 古波蔵は奴のことをそれなりに評価しているようだった。

 だが、俺は違う。

 タブレットを貰い、気になった試合をピックアップさせてもらい。整理する。

 

「ハッキリ言って話にならない」

「どうしてだ? 奴は化野のような格上を下している」

「それが問題なんだ。土壇場での進化、相手の得意技をアレンジしてモノにする技術。バトル漫画の主人公みたいな奴」

「聞いているだけなら手強い相手に思えるが……そうだな。顎、お前にはそれ(・・)は無かったな」

 

 データ上では、俺はこいつの上位互換と言っていい。

 情報を閲覧できるから相手方も理解しているはずなのだ。なのに試合を当日に申し込んできた。消耗しているから勝負にでたというのなら舐められたものだ。

 

「もう出る。だから、相手方に伝えてくれないか?」

「分かった」

「死にたくなかったら全力で防げって」

 

 今度は案山子男が入場口までついてきたため俺は上着を渡して黒のインナーだけになる。分厚い筋肉があらわになり案山子男は驚いた顔をしていた。

 

「キミ、いつの間にそんな肉体になったんだい? 」

「あ? ここ一か月、精神と栄養のある食事を摂ってた」

「いや~じゃあ、アレを消して正解だね」

「お前って興味ない奴には相変わらず辛辣だな」

「当たり前だろ⁉ キミは僕の神なんだから」

「相変わらずキモイな。でも、まぁ……アンタは俺の雇い主としてどっしりと構えててくれよ」

「顎くん……」

 

 入場すると、相手方はすでにおり、待っていた。

 面白いくらい癪に障る顔だ。緊張しているが何処か負けるはずがないって顔が本当にムカつく。

 これは俺の自分勝手な感想だが、目の前のこいつは自分が負けるとは微塵も思っていないのだろう。

 

「よろしく」

「いいよ。そういうの……すぐに終わらせて帰るから」

「……失礼な奴だね」

「生憎、育ちは悪くてね」

「双方、準備は良いか」

「はい」

「ああ、いつでも」

 

 向こうは構えるが俺はしない。

 ただ、自然体で立つ。

 

「試合、開始ぃいい!」

 

 俺は縮地と身体能力をフルに生かした移動法。

 開始の合図と共に目の前に現れたような感覚だろう。拳が鳩尾に入り、相手の身体を打ち上げる。

 

「がっ」

「トロいんだよ鈍間」

 

 左手で服を掴みこちらへと引き寄せて胸のど真ん中に寸勁を放つ。

 吹っ飛ぶ直前に右足首を掴み地面に叩き落す。

 

「これで終わりだ」

「まだ……!」

 

 相手はバク転の要領で起き上がり、俺は顎に蹴りを貰う。

 

「はっ……どうした! かむ――」

 

 その言葉は最後まで続くことはなく、男は突然、重い一撃を受けて身体が曲がる。

 受けたのは蹴り。しかも鳩尾に入り思い切り蹴り飛ばされたのだ。

 

「言ったろ。これで終わりなんだよ」

 

 左手の掌底で顎を打ち上げ、右手で手首を掴んで引き寄せ肘内を胸に叩く。

 休む間もなく両脇にフックからブローを打ち込んで防御の手を完全に潰し、寸勁、正拳突き、手刀を掛け合わせた一撃を胸に叩き込む。

 

「《戒撃》」

 

 大砲を撃ったような音と共に相手の上半身の服は吹き飛び車に撥ねられたような勢いで壁へとめり込んでしまう。

 遅れて全身から出血し、誰の目から見ても試合続行は不可能なほどの状態になっていた。

 

「そこまで! 勝者、嘉村宜顎」

「相手が悪かったな、器用貧乏。精々、敗北を噛み締めろ」

 

 そう言って俺は、大歓声の中、出口へと向かって行く。

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