迷奏フィロソフィー   作:葛城イロハ

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 怪物はようやく休む宿り木を得た。
 そして、自分自身を変えてくれた人たちを思い出し、改めて謝罪とお礼の為に変わっていく。


猛省

 始めての連戦を終え、肉体よりも精神的疲労が大きかった。

 俺が編み出した《戒撃》を公式で初めて見せてしまった。

 よりにもよってあの下位互換の男にだ。別段、弱くても構わない。問題はそこではなかった。

 あの技は、成功率四割以下で特に手刀による精度補正をしているせいで二割にまで下がる。だが、あの瞬間、俺には失敗するという考えは無かった。

 ただ、負けたくなかった。

 その思いだけで、技を放った。

 

「そうか……俺、勝ちたかったんだな……」

 

 燈に救われるまでその日を生き延びることしか考えていなかった。いつ死ぬのかも分からない日々に怯え、見栄を張ってでも強くあるしかなった。試合がある日が陰鬱で何のために生きているのかすらどうでもよかった。

 元柳に言われた余裕。その意味を改めて理解できた気がした。

 勝利への渇望。

 その思いだけでいつも以上のポテンシャルで動けたのだ。だからあの名も知らぬ男に感謝しなければならない。

 

「楽しそうだね」

「あぁ、楽しいよ」

「そうか。じゃあ、今回はもう試合もないし帰ろうか」

「なぁ、飯食って帰ろうぜ」

 

 そう言うと、案山子男はすごい笑顔でこちらに振り返ってくる。

 

「良いのかい⁉」

「うるさ……まぁ、アンタの奢りな」

「ああ! いいとも!」

「じゃあ、古波蔵も回収して行くか」

 

 そして、俺たちは都心にある高級鉄板焼きの店に来ていた。

 

「なぁ、何でこんな高そうな店なんだよ」

「記念すべき日だからね」

「顎、こいつはこういう人間だ。気にするだけ無駄だ」

「分かってるよ。言ってみただけ。にしても滑り込みなのによく入れたな」

「それは僕の手腕があってこそだからね!」

 

 そう声高らかにしていう案山子男だが目の前のシュフは笑ってる。

 どうせ、所有権とかスポンサーとしての力を使っているのだろう。しかし、俺ら以外の客がいない。

 見た目で言えば中華マフィア、極道、インテリヤクザの反社の詰め合わせともいえる見た目だからな。実際、店に行く途中で俺と古波蔵の姿を見た人たちは俺たちを避けていた。

 ヤバそうな奴らには関わらないことがいい、という見本例とでも言われそうな状況だった。

 

「しかし、顎くんは思ったよりもマナーがしっかりできてるんだね」

「そうか? ちゃんと親に習ったからな」

「お前の経歴を知っている身からしたら意外だ」

「けどさ、それって経歴しか見てないからだろ? こういう細かい所って、飯を食うほど仲良くないと分からないもんだろ?」

「違いない」

 

 肉に舌鼓をうち、楽しい時間を過ごした。

 

「いや~美味かった」

「満足してくれたようで何よりだよ」

「次があるならもう少し騒げるジャンキーな場所にしようぜ」

「そうだな……流石にこの歳になると油がな」

「オッサンじゃん」

「ははっ、豪鬼はこういうのを食べる機会には中々なかったからね」

「……そうですね」

 

 俺は店を出てから少しばかり寄り道をお願いし、家の近くのコンビニで降ろしてもらい、夜空の下を歩いていた。

 今日は教えられてばかりだった。

 それに、彼女たちには迷惑もかけてしまったしお詫びとお礼をしなければならない。

 

「ただいま戻りました」

「待っていたよ」

「……」

 

 家に帰ると詩船婆ちゃんが仁王立ちして待っていた。

 

「あ、えっと……」

「あの子は泣いていたよ」

「すいません……それは俺の責任です」

「まぁ、仕事関連と聞いたからそこまで怒っちゃいない。こっちに来な」

「あ、はい」

 

 近くまで行くと俺の顔の傷に触れてくる。

 

「こんな傷だらけなって……無事に帰ってきてよかったよ」

「心配かけてすいません。俺は、これからも心配をかけるかもしれない。だけど、ちゃんと生きて帰ってきますよ」

「アンタって子は……」

 

 嘘だ。

 俺のやっている試合は死ぬ確率は非常に高い。

 下手をすれば死ぬ。あそこの闘技者は俺を含めて『訳アリ』だ。

 だからこそ、俺達闘技者は指定された場所以外での戦闘は控えるように言われている。後処理が面倒ということもあるが命の保証ができないからだ。

 婆ちゃんも察しがついているからこそ、それ以上は踏み込んでこない。

 沈黙が続く中、玄関の戸が勢いよく開く。

 

「あぎと!」

「ら、楽奈ちゃ――」

「あぎとぉ!」

 

 こちらへと飛び込んでくる楽奈ちゃんを抱き留めて背中から倒れる。

 

「嘘つき……すぐに帰るって言った」

「ご、ごめん……ちょっとトラブルがあってね」

「怪我もひどい」

「別にみためほどじゃ――」

 

 無いよ。

 そう言おうとすると、楽奈ちゃんは俺の右脇腹をつついてくる。ピキッと鈍痛が走り苦悶に顔が歪む。

 

「う……っ!」

「ここも怪我してる」

「ちょ、ちょっと……楽奈ちゃんそこは勘弁して」

「じゃあ、いっしょにいて」

「分かった。分かったよ……」

「うん」

 

 俺は、楽奈ちゃんに一生敵わないなと感じながら黙って己の愚行を猛省するのだった。

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