だが、トラブルは尽きない。
暖かな陽光がカーテンの隙間から入り、顔を照らす。
眩しさで俺は目を覚ます。
ここ数週間で見慣れた天井。まだ、前の感覚が残っており時折夜中に目を覚ますのだが、今回は快眠できた。
色々と余裕ができたからなのか、安心できる場所を手に入れたからなのか。それとも両方なのかは分からないがいい方向に向かっていることを切に願いたかった。
「ん」
「はっ?」
頭を右側に傾けると右肩を枕にして寝ている楽奈ちゃんがいた。
「え……はっ……? え?」
理解が、追いついていない。
昨夜、どうにか説得して風呂の乱入を防ぎ、床についたはずだ。いつ入ってきた。
あまり言いたくないが、人が入ってくれば気配で分かるはずなのだが、寝ぼけてこっちに潜り込んできたのか、真偽は不明だが抜け出せない。
服をがっしり掴んで離れないようにしているため強引に離せば起こしてしまうだろう。
まだ、幼さが残る顔立ちだが、驚くほど肌がきれいでモチモチしてる。
「気持ちよさそうに寝やがって……はぁ~」
これも俺の招いたことなのだろうかと思うとため息が出る。どこでこんなに懐かれることになったのだろうか。
俺の右腕を掴んで動かせないようにしている辺り用意周到に逃げ場を塞いで来ている。
もう、空いている手で優しく白髪を撫でるしかなかった。
「ん~」
もぞもぞと動いて頭が俺の顎らへんまで来て抱き枕状態になる。
お日様のような匂い。温かく安心するにおい。妹がいたらこんな感じなのだろうか。
いや、無いな。
知り合いの闘技者の兄妹関係を見聞きした程度だがこんなことをしないと聞いている。だから、違うのだろう。
「目元がはれてるじゃん……」
昨日の風呂上りに化野に削り切られた脇腹と腕の痣を見られ泣かれたのは記憶に新しい。ただでさえ、傷が完治せずに新しい傷を作っており、普通に生活していればできないような傷を彼女に見せてしまった。
あまりにもショッキングなモノを見せて本当に申し訳ないとも思っている。
そんなことを考えていると、誰かが部屋へと入ってきた。
「顎、楽奈。起きな」
「婆ちゃん……」
「アンタが心配かけさせたんだから黙って受け入れな」
「はい……分かりました」
「じゃあ、起きて朝ごはんを食べな」
そう言って婆ちゃんは行ってしまった。
せめて楽奈ちゃんを起こしてから行ってほしかった。
どうにか起こそうと奮闘するも起きる気配は一切なく、どうにか拘束を抜け出したところで起きたのだった。
優に二十分もかかった。
「……じ~」
「……」
「……じ~」
「何やってるんだい?」
「俺が聞きたいですよ……!」
起きてから俺は楽奈ちゃんにずっと見られている。
「あ、あの……楽奈ちゃん?」
「なに?」
「何処にもいかないから大丈――」
「休んで」
「はい……」
有無すら言わせない圧を感じ、素直に休むことにした。
これで彼女の目を盗んでどこかに行けば婆ちゃんブチ殺されるだろう。想像するだけで恐ろしいことこの上ないため黙って受け入れる。
しかし、やることがないと言えば噓になる。
古波蔵からは高校の話も上がっていたため勉強もしておかなければならない。
なので参考書や振り返りの為に問題集などを解いていた。
その間、俺の膝は楽奈ちゃんが占有し、じゃれつかれていた。そこから四時間ほどが経った頃に事件が起きた。
「ん?」
俺の携帯が鳴っていた。
相手は燈で通話ボタンを押す。
『あ、繋がった……』
「どうした?」
『楽奈ちゃんが来てなくて……一緒にいるかなって』
「ん? 何か約束でもしてたの?」
『えっと……今日はみんなで集まる約束で……』
「……時間は」
『三十分過ぎてる……』
「分かった。すぐに送るから場所を教えてくれ」
『RINGで待ってるから……』
「分かった」
電話を切り、楽奈ちゃんを見るが『何?』とでも言いたげな顔でこちらを見ていた。
「楽奈ちゃん。約束はちゃんと守らないと」
「あぎとが、休まないから……」
「分かった。今回は俺が悪かったから行くぞ」
「ごめんなさい……」
「怒ってないから準備していこう。俺も謝るからさ」
「うん」
そうして俺達は慌てて外に出るのだった。