一分で支度を済ませ、家を出る。
楽奈ちゃんの抱きかかえ、荷物を背負い走っていた。
走ってどうにかできるというわけではないがあまり待たせるわけにもいかずに全力疾走中だった。
バイクを追い抜くほどの速度で走り道行く人などが振り返ってみてくるが全て無視して走る。
「……きっつ」
「大丈夫?」
正直、もう怠い。
RING近くまで来たところで体力が尽きかけていた。
荷物に人一人を抱えて走ってくればこうなることは目に見えていたが、額に滲み出た汗を拭いながら歩く。
「楽奈ちゃん」
「なに?」
「次から予定があるならできる限り教えてくれると嬉しいかな」
「わかった」
これほど信用できない分かったは初めてだった。俺のような嘘つきが言えることではないが、約束事にはできるだけ守るように言っておかなければならないと思った。
そんなことを思いながらも手を放してくれない。
俺に対してそれだけ信用されていないのか逃げられないように荷物も俺持ちになっている。
もう甘んじて受け入れていると前の方から黒スーツ集団が歩いてきており、周囲の通行人は彼らを避けるように歩いていた。
「楽奈ちゃん、こっち」
「ん……」
荷物を降ろし、楽奈ちゃんを後ろへと移動させてる。
目視で十五人。こっち側の人間だ。
思わずため息が出てしまう。外に出て同業者に合わないことがない。
すでに間合いに入ってしまったので今更避けるなどという選択肢はないし向こうは俺が目的の様でちょくちょく殺気を放ってくるので鬱陶しい。
「姐さん?」
「あら? 顎ちゃんじゃな~い! 久しぶり~」
黒スーツ集団をかき分けて出てきたのは高身長イケメン。
青紫色のウルフカットで狼のような鋭く、アメジストをはめたような双眸。黒の革ジャケットにジーンズ。もうモデルすら素足で逃げ出しそうなほどの美貌の青年だった。
「や~ん。顎ちゃん、この子は?」
「あ~……遠縁の親戚」
「そうなの? 初めまして私は
「んー」
俺の後ろに隠れてしまう楽奈ちゃん。唸り声を出して紫姐さんを睨んでいた。
「あら、警戒されちゃってるわね。まぁ、こんなに人を連れてるものね。仕方ないわ」
「すいません。気分屋の子なので……ってすいません! ちょっとこの子を送らないといけないのでちょっと待っててもらえますか?」
「良いわよ。よかったら送るけど?」
「もうそこなので……」
「そうなの? なら少しお茶でもどう?」
「わかりました。じゃあ行きましょう」
RINGに入っていくと燈達が待っていた。
「ごめん。時間かかった!」
「嘉村宜……お前……」
「ん?」
みんなの表情が固く、後ろを見るとニコニコ顔の紫姐さんと強面スーツの集団が俺の後ろについていた。
おまけに俺の服装は昨日の中華服だった。
反社だ。
「ちょっと! 貴方たちは外に出てなさい! ただでさえ大きくて威圧的なんだから!」
紫姐さんの一括でスーツたちは蜘蛛の子を散らすように外で待機することになった。
「ごめんなさいね」
「あ……いえ」
「椎名さん、楽奈ちゃんを連れてきたから。後これ、昨日は最後に迷惑をかけちゃったからみんなで分けて」
「え……これ、滅多に手に入らないやつじゃ」
「まぁ、伝手があったので……」
案山子男はこういうのでパイプが広いためよく使わせてもらっている。
そのまま、楽奈ちゃんを預け、紫姐さんと奥のテーブル席の方へと行く。
「それで、何で姐さんが来てるんです?」
「古波蔵ちゃんと仕事内容のすり合わせ」
「仕事……そうですか」
「でも、変わったわね」
「それ、いろんな人に言われます」
と言いつつ、俺は店員さんを呼んでティーセットを二つ頼む。
「顎ちゃん、明るくなったと思うわ。ふふっ、あの子たちのおかげかしら」
「そうですね。あそこの茶髪の子に助けられたんですよ」
「あら、意外ね。あの感じだと異性とか苦手そうだけど」
「俺が、最後に吐いた弱音を聞かれてたんですよ」
「そう……」
悲痛そうな顔をして俺の頭を撫でてくる。
「こんなになるまで戦ってるのだから報われるべきなのにね。ごめんなさい。私たちに力がないばっかりに……」
「紫姐さん……選んだのは俺なんだ」
「分かってる。こんなになるまで気づいてあげられなかった私自身に怒っているの。気にしないで」
湿っぽい話になり、ティーセットが届く。
日替わりのデザートと珈琲を眺めていた。
紫姐さんはああ言ってくれているが、俺のせいなんだ。ただ、俺だけが心を殺せば誰も傷つかないなんて勘違いしていただけなんだ。
暗い思考に落ち、珈琲を流し込む。
ほのかな苦みに香ばしい匂いが抜け、ほんのりと甘さが残るさっぱりとした味。
「でも、こうして姐さんはとまたお茶ができるのはうれしいよ」
「顎ちゃん……」
「昨日、案山子男たちと飯にもいったけど、時間があったら姐さんとも食事をしたいよ」
「そうね。時間が……って、あの人たちとご飯に行ったの?」
「ええ。夕飯を奢ってもらいました」
「意外ね。貴方、案山子ちゃんのこと嫌ってると思ってた」
嫌いというよりも苦手ってだけ。
あの距離の近いマニアっぽさが気色悪いだけで。
などと思っていると、裾をひかれる感覚があった。
楽奈ちゃんだろうか、俺が後ろを向くとどこか緊張した様子の燈の顔があった。
「燈?」
「あの……私も、混ざって、いい?」