迷奏フィロソフィー   作:葛城イロハ

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 その記憶は誰のものなのか。
 失っていたのか、ただ、忘れていたかったものなのか。
 それは、怪物にも分からない。


血懐

 テーブル席であったのが幸いし、燈が俺の横に座る形で茶会が始まった。

 重かった空気は燈が乱入したことによって少しは軽くなっていると感じた。

 

「それで……貴女は?」

「えっと……はじめ、まして。高松燈、です」

「私は天王寺紫。改めてよろしくね」

「はい」

 

 互いに握手しているがここまで積極的な子だったのかと思いながら彼女の仲間の方を見る。

 椎名さんの顔がマジで常軌を逸した顔をしており、女の子がしていい顔ではない。怖すぎる。

 

「それで、何故こっちへ?」

「えっと、昨日はあまり話せなかったから……」

「あぁ……そう」

 

 姐さんの方を見ると『何したの』という顔をしており俺は首を横に振る。

 

「ふふっ、良い人の縁に恵まれたのね」

「そうですね」

 

 珈琲を啜りながら燈の方を見ると視線がかち合い逸らされてしまう。

 笑ってる紫姐さんをよそに二人は楽しそうに話をしており暇を持て余してしまう。

 ちらっと楽奈ちゃんの方を見ると抹茶パフェを頬張りながら、椎名さんに絡んでいるが普段からあんな感じなんだろう。

 凄く微笑ましく、ずっとこんな時間が続けばよかったと思えた。

 

『本当にそう思ってるのか?』

「はっ……」

 

 顔面を殴られる感触と共に数歩、後ろへと下がる。

 記憶が飛んだ?

 ここは何処だ。

 そんな思考に飲まれ対応が遅れる。

 

「くっ!」

 

 左腕の関節を外され、掌底で顎から打ち上げられる。

 勢いは殺さずバク転して体勢を整えようとするが、鳩尾に蹴りを入れられ傷が開く。

 

「ぐっ!」

 

 右腕のみでラッシュを防ぐが手数に差が出てくる。だから外れた腕を繋ぐ必要がある。

 腕を掴み、足を引っかけ転倒させる。

 左腕を振り上げ殴りつける。骨が砕けたような変な音と共に繋がる。

 追撃をかけるが、起き上がられて避けられてしまう。

 

「お前、誰だよ」

『……』

「話す気はない……か」

 

 間合いを詰めよとするが黒い靄がかかった相手は後ろへと飛び、瞬きの間に消える。

 

「……っ!」

 

 上体を下げ、後ろからの攻撃を避ける。

 そしてまた消える。

 違う。

 

「歩法か……」

 

 だが、それが思い出せなかった。

 闘技者のデータをより深く理解するために多くの知識を得てきたがこれは分からない。否、『思い出せない』のだ。

 まるで、思い出すことを拒んでいるかのような。

 

「クッソ……容赦なしか⁉」

 

 目が慣れ、対応できるようになってきた。

 だが、俺も捕らえることができず、攻撃が当たらない泥沼化していた。

 なら俺も『そうする』しかない。

 そして、相手はここぞとばかりに技を『見せて』くる。

 

「もう、それは利かない」

 

 その歩法、俺も『使える』ぞ。

 歩法《陽炎》。高速移動で相手を惑わす歩法。だが、より脱力し力の流れを制御できれば相手よりも速く動ける。それこそ、化野以上の速度まで行ける。

 俺は一瞬で背後に回り拳を叩き込む。

 

「《閃撃・廻》」

 

 陽炎に正拳突きと寸勁を組み合わせ、回転力を拳に乗せて内部を破壊する技。

 まだ、もっと深く。深くまで理解すれば俺は―――

 

『……くん』

 

 声が聞こえた気がしたが、関係ない。

 俺は目の前の靄へと拳を振り下ろし続ける。何度も殴りつけ技の精度を上げていく。これをより理解すれば、技を盗めば俺はもっと強くなる。

 

『ぎとくん!』

 

 黙れ、俺はまだ……まだ―――。

 

「顎くん!」

「……ぁ。燈?」

「大丈夫? 寝てたけど……ぁ、顎くん、血が!」

「あぁ……あれ、何だ……これ」

 

 顔を触ると鼻から血が流れているのは分かった。だが、視界が真っ赤に染まってる。

 紫姐さんや楽奈ちゃん、燈のバンド仲間の人達も俺を見て驚いている。

 息が荒くなり、苦しい。

 何が、起きた。

 そうだ。俺は変な場所で黒い靄と戦闘になってそこから――覚えてない。

 

「ぐっぁ……あぁ!」

「っ! 顎ちゃん、やめなさい!」

 

 身体が勝手に動く。

 拳を振り上げ、燈を狙っていた。

 駄目だ――止まれない。身体が言うことを聞かない。

 殺してしまう。そう思った。

 

「顎くん。大丈夫……」

「ぁ……」

「落ち着いて」

 

 だが、そうならなかった。俺の動きに合わせ、前に進み身体を密着させたのだ。

 おかげで攻撃は当たらずに済んだ。

 身体が動かない。

 脳にダメージを負ってるのか身体が鉛になったように重く、動かない。

 

「俺は……何を……」

「大丈夫、今は……ゆっくりして」

「悪い。少し、寝る」

「うん……おやすみなさい」

 

 そう言われ、俺は瞳を閉じて意識を失った。

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