迷奏フィロソフィー   作:葛城イロハ

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 心の底から出た本音。
 怪物は少年へと変わり、凍り付いていた心は溶ける。


呪祝

 「それで、貴方はどうしたいの?」

 

 最初に口を開いたのは長崎さん。

 凛としたお嬢様の目は笑ってはいない。むしろ苛立ちさえあるように見えた。

 

「どうしたいか……俺は、どうしたいんだろうな」

「……っ! 嘉村宜、お前!」

 

 どうでもいい態度をとる俺に対して、椎名さんは楽奈ちゃんを押しのけて胸倉を掴んでくる。

 本気で怒っている顔だ。

 

「マジで何がしたいんだよ! どうしたい! 身の上話をして、何を叶えたかったんだよ!」

「俺は……俺は……」

 

 これは、俺の弱さだ。

 生きるのが精一杯で、目標も、大切な人も、全部……全部失って。死にたいと願いながらも俺は誰かと繋がりたいという思いだけは断ち切れなかった。

 燈に救われ、変われると思った。でも、俺の本質は変わらなかった。

 本当のことを話せばみんな離れていったから。親戚も叔父も皆、最後は俺を殺そうとした。

 

『お前は化物だ』

『生きていちゃいけない生き物だ』

『お前、死ねよ』

『何でお前だけ生き残ってるんだよ害獣が』

 

 脳裏に焼き付いているのは怨嗟の声。

 俺は師匠が死んだあの日(三年前)から止まったまま。救いようのない子供のままなんだ。

 何で、父さんと母さんが、師匠が……どうして、どうして俺はこんなにも弱い。どうして救う機会を与えてくれなかった。どうしてみんな死ぬまで攻撃をしてくるのか。

 どんなに強い自分を取り繕っても、ずっと乗り越えられずにその場にうずく待ったまま。

 二度と傷つきたくないと思いながらも、人の繋がりを断つことはできなくて、闘技者として戦うことでどうにか師匠との記憶を繋ぎ止めていた。

 

「俺は、生きてて良いのかな……」

 

 明日が来るのが不安で、熟睡なんてできなくて、戦いの後、吐いた血を洗う手が痛みで動かないことなんてしょっちゅうで、寝たら二度と目覚めないんじゃないかって……。

 明日なんて来ないんじゃないかって怯えていた。

 両親や師匠を失って。生きる意味なんて失って。

 それでも死ぬことが怖くて生にしがみついてでも生きねぇとって思って。

 

「誰かに必要とされたい。このまま、一人で死ぬのは嫌だ。だから、俺の命を燈たちの為に使わせてくれ……!」

「嘉村宜……」

「顎くん」

「燈……」

「立希ちゃん、大丈夫……だから」

 

 椎名さんは服を掴んでいた手を放し、燈と入れ替わる。

 全部、さらけ出してこんなにもみっともない姿を見せて失望されてもいいと思えるほど、心の底から出た本音だった。

 こんな、惨めで醜く、どうしようもない俺を、燈はそっと両腕を首に回しギュッと抱きしめてくれた。

 

「貴方の心の叫び()はちゃんと届いたよ。だから、一緒に歩いて行こ」

「あぁ……」

 

 ガチガチに固まった疑心の心。

 それが彼女の想い()に溶かされていくようだった。暗闇の中で迷っていた俺に手を差し伸べてくれるのか。

 目じりに涙が溜まり、頬を伝って流れ落ちる。

 師匠まで失って枯れたと思っていた涙。ずっと凝り固まっていたモノが溶け、溢れ出てきていた。

 

「俺、生きていいのかな?」

「うん」

「ありがとう……燈、みんな……」

 

 そう言って俺は声を出して泣いた。

 その涙が枯れ果てるまで俺は声を上げて泣いていた。

 師匠、俺はまだ生きるよ。

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