迷奏フィロソフィー   作:葛城イロハ

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 新たな居場所を手に入れた少年は誓いを確かなものにし、歩き出す。
 もう二度と、失わないために。


初陣

 存分に泣いた俺はみんなと離れた縁側で一人、ポツンと座って顔を手で覆い隠していた。

 恥ずかしい。

 恥死ぬ。

 冷静になって考え直すとスゲェこと言ってたな。

 今までの不安が溢れ出たのか本当に感情に抑えが効かなくなっていた。それ以上に誰かに抱きしめられることがこんなにも心地よいものなんだと気づかされるなど思いもしなかった。

 

「なぁ~」

「ん……?」

 

 いつ、三毛猫が敷地内に入り込んだのだろうか。そう思っていると首輪があり、確認すると知っている住所が記載されていた。

 

「なんだ。お前、ばあさんの所からまた来たのか」

「んぁ~」

「ふふっ……お前は呑気だねぇ」

 

 三毛猫は胡坐をかいてる俺の足の中で丸くなり眠ってしまう。

 こっちの気も知らずにこんなことをできるのはペットの特権なのだろうか。そんなことをしていると背後から視線を感じた。

 射殺すとまではいかなくとも、ちょっと怒りが混ざった視線が刺さっている。

 振り返らない。

 振り返ったら、もっと面倒くさいことになりそうだから。

 そんなことをしていると本人の方から近づいてくる。

 

「あぎと……」

「ら、楽奈ちゃん……」

「……」

「え、どうしたの?」

「楽しそうだね」

 

 何か、冷たい言い方。

 心なしか、近――。いや、近づいてきてる。

 しかも、さっきまで寝ていた猫は危機を察知したのか、そそくさと俺を見捨ててどっかへと走っていってしまう。薄情すぎる。

 そして、入れ替わるように俺の膝の上に座ってくる。

 身体を横に入ってきたため、右手で俺の服を掴んで離れないようにしてくるあたり大分ご立腹の様だ。

 

「どういう……ごめんごめん。そんな顔しないで」

 

 あぁ、この子もどう接したらいいのか分からないのか。

 俺だけじゃないんだ。

 ああなってしまった故に、距離感が分からなくなっている。ちゃんとしないといけないが浮足立っている状態ではせっかくの関係も悪くなってしまう。落ち着く時間が必要ではある。

 だが、膝の上を占領しているこの子が効いているれるかは話が別だ。

 

「ねぇ、楽奈ちゃん。ちょっと――」

「やだ」

「話を」

「いや」

「分かったよ」

「じゃあ、ぎゅってして」

 

 我儘なお姫様だ。

 左腕で抱き寄せるが、難しいだろ。離れる気がないゆえに体勢が変えられない。楽奈ちゃんはそんなことはお構いなしに身体を寄せて頬ずりしてくる。

 真っ白な髪が俺の顎下に当たり良い匂いが俺の鼻腔を刺激してくる。

 

「あ、ともり」

「あ、顎くん。少し、良い?」

「ああ」

 

 そう言って、燈は俺の横に腰かけてくる。

 改めて見ると、本当に綺麗な顔をしてる。

 俺の視線に気づいたのか、小首をかしげる。だが、椎名さんとか楽奈ちゃんのような子が魅かれるのが分かる気がする。彼女には不思議な魅力がある。それを繋いでいるのが愛音さん。制御を長崎さんと絶妙なバランス関係でできているのだろう。

 まだ、練習でしか彼女の歌を聞いたことがないが歌っている姿が本当に凛々しくあり、紡がれる言葉のフレーズが心に刺さる。

 彼女の真骨頂はそこなんだろう。

 固く閉ざした心に響く歌。それを聞いた時点で離れようとした俺の心を掴んでくれたのではないのかとも思えた。

 

「燈、ありがとう」

「え……どう、したの?」

「いや、言っておかないとって思ってな。俺は、キミに救われたあの日から生きようって思っていたんだって気づかされたんだ」

 

 ちゃんと笑えているだろうか。

 そんな俺をみて、燈は嬉しそうに微笑む。

 

「じゃあ、もっと伝えるね」

「楽しみにしてるよ」

 

 そんな話をしながら、俺は、ふと疑問に思ったことを聞く。

 

「なぁ、俺、バンド名、聞いてないんだけど……」

「あ、私たちは、《My GO!!!!!》って名前、なんだ」

「迷子? へぇ……」

 

 変わった名前のバンドが多いのかな?

 よく知らないから今度、案山子男にでも聞くか。そう思っていると燈はどこからともなく取り出したノートを見せてくる。

 

「これが、名前」

「あぁ、My GO!!!!!ね。へぇ、そういう合わせ方があるのか……」

 

 よく出来ていると感じてしまう。

 そうだよな。闘技者にもコンセプトがあるように名前にも関連がなきゃ話題性とかも取れないか。

 

「本当に、お前らは……」

 

 右手で燈の頬に触れる。

 細く、柔らかで、少し力を込めれば壊れてしまうのではないかと恐る恐る触れるが、彼女は俺の手を取り、指を唇に近づけていく。

 チュッとリップ音が聞こえ、指にその柔らかさと熱が伝わる。

 

「はっ……! な、あ……」

「ふふっ。ドキドキした?」

「っ!」

 

 誘っているのか? 

 距離感が急激に近くなったと思いながらも俺は顔が熱くなるのが分かった。

 脳味噌がドロドロに蕩けてしまうような感覚で一度冷静になりたい。

 間違いを起こしそうだったから。

 そう思っていると、ポケットに入れた携帯が鳴り、俺はそれを確認する。

 

「……古波蔵」

 

 端末を開き、メールを確認し、俺は目を見開く。

 

「ちっ……」

「顎くん、どうしたの?」

「楽奈ちゃん悪い。ちょっと退いてくれ」

「うん」

 

 俺はすぐに部屋に戻り、動きやすい黒のジャケットを羽織り玄関へと向かう。

 

「顎ちゃん! どこ行くの!」

「悪い、姐さん。俺ちょっと出るからみんなを頼むよ」

「そう……どのくらいで戻れそう?」

「どのくらい? すぐに帰ってくるよ」

 

 届いたのは緊急のメール。その内容は――。

 

『至急、応援求む』

「舐めやがって……」

 

 俺は敷地内に隠していたバイクに跨りエンジンをかける。

 

「ゼファーよろしく頼むぜ」

 

 師匠が良く乗っていた愛車。

 俺も使えるようになったよ。

 そう思いながらエンジンを吹かして出ていった。

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