迷奏フィロソフィー   作:葛城イロハ

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 迷い続けた少年は一つの終着点へとたどり着く。
 そこは始りの終わり。
 そこから先は、地図のない航路。だからこそ、彼は進む。
 


蒼天

 バイクを走らせすぐに家につき、戻ると玄関前で燈と楽奈ちゃんが待っていた。

 その後ろには笑顔だが目の笑っていない紫姐さんが立っており視線がかち合うと『逃げんなよ?』と訴えかけてきて背筋が凍ってしまった。

 

「あぎと……!」

「ぐべぇ!」

 

 勢いよく楽奈ちゃんにタックルされ頭が顎にクリーンヒットする。

 そのまま後ろに倒されてしまう。

 胃の中身が出てきてしまいそうになった。

 手のかかる妹みたいで頭を撫でるが、あることに気づく。

 楽奈ちゃんが泣いていた。その光景を見て俺はぎょっとしてしまう。

 

「うぅ……」

「……顎ちゃん」

「えぇ! 俺のせい⁉」

「どう見たってそうでしょ? 貴方、まだ傷が完治してないでしょ?」

 

 そう言われ、肩が少し上がる。

 

「楽奈ちゃんから聞いたわよ。睡眠もまともに取れてないし血だって吐いてるって」

「見られてたのか」

「貴方、このままじゃ死ぬわよ」

「死ぬつもりは……もう、無いよ」

「……前はそう思っていたってことね」

 

 揚げ足取りしないでくださいよ。

 楽奈ちゃんや燈が悲しそうな顔で俺を見てくる。やめて、そんな目で見ないで。

 自分も他人も尊ぶことをしない生き方を選んだはずだったんだ。だけど――。

 

「今は、俺の為に泣いてくれる人のために生きると決めたんだ」

 

 両親と師匠の墓参りに近状報告。

 弟との約束だって守らなければならない。

 今思えば、やらなきゃならないことがたくさんあることを思い出す。

 

「だからさ、姐さんにお願いがあるんだ」

「何?」

「俺の戸籍を辿って弟の生死を調べてほしいんだ」

「え……それって」

 

 燈は驚愕したような顔をしていた。

 そうだった。俺は、彼女に弟は居るが死んでいるかもしれないと言っていない。

 

「燈には話してたけど、そうだな。身の上話続きを話すけど、俺は弟の死体だけは見つけられなかった。だから、見つけてやらないといけないと思ってね」

「でも、何で顎ちゃんの戸籍を?」

「師匠がそこから弄って新しい戸籍を作ったんだけど、その前に改竄された形跡があったって」

「そう……分かったわ」

 

 そう言って紫姐さんは奥へと消える前に何かを思い出したかのように俺の方を向いて言う。

 

「そうそう、愛音ちゃんにお礼を言っておきなさいね」

「愛音さんに?」

「あの子が貴方に会いに行こうって後押ししてくれなきゃ、今頃どうなってたか……」

「分かったよ。まだ、いるなら今のうちにお礼を言っておくよ」

「ええ、そうしなさい」

 

 俺は楽奈ちゃんを抱きかかえる。

 

「燈、行こうか」

「う、うん」

 

 居間に行くと三人が楽しそうに談笑しており楽奈ちゃんに抱き着かれた状態で来た俺をみて固まっていた。それに対して引きつった笑いで耐えるしかなかった。

 真面目な話をするため楽奈ちゃんには離れてもらい、俺は正座をする。

 

「この度は、誠にありがとうございました」

 

 深々と頭を下げ、土下座する。

 これが今俺にできる最大の御礼。

 

「ちょっ! 嘉村宜……」

「俺は、もう一度、生きてみるよ。ちゃんと苦しんで考えて生きる」

 

 顔を上げ、俺はみんなの顔を一度見て、意を決する。

 

「こんな俺でも……良ければ、友達になってくれませんか?」

「も~。あっきーのキャラ変わりすぎ。でも、前よりも接しやすくなったかも」

「そうね。年相応の男の子ってかんじがするね」

「そうだね。じゃ、これからよろしくね」

 

 随分とあっさりしている。

 思わず呆気にとられてしまったがそんなものなのかなと思った。

 

「あ、そうだ。愛音さん」

「ん? なぁに?」

「えっと、その……俺に会いに行こうって姐さんから聞いていたので。改めて、ありがとうございます」

 

 そう言うと、愛音さんは唇を尖らせながら不満そうに言う。

 

「何か他人行儀な感じ、友達なら『ありがとう』だけでいいよ」

「そうだな。ありがとう」

「どういたしまして」

 

 俺は初めて、心の底から友達と呼べる人たちと出会えた。

 迷いに迷い、俺はようやく一つの宝物を手に入れた。

 そう思いながら、青い空を眺めていた。

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