迷奏フィロソフィー   作:葛城イロハ

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 少年はあり得たかもしれない可能性を見る。
 手に入れていたかもしれない未来に思いをはせながらも、今を懸命に生きる。


訪問

 あれから一週間半の時が過ぎていた。

 俺の生活は一変した訳ではないが彼女たちへ差し入れをしにRINGに行ったり、商店街のボランティア活動に出たりなどの生活をしていた。

 本職の闘技死者の活動は怪我を考慮してしばらくは休みだと言っていた。

 やることも多く俺は待機という名の休暇を楽しむことになった。

 

「あ~暇だ……」

 

 誰も居ない家の中でそう呟きながら寝転がって天井を見ている。

 特に今日は予定が入っておらず朝から暇だった。

 婆ちゃんは知り合いの店の相談役としてここ最近は駆り出されておりいないし、楽奈ちゃんは実家とここを行き来しているが来る頻度は疎ら。

 必然的に訪問者も多くないし学生だ。

 

「学校か……」

 

 古波蔵からそんな話も出ていたがあれから一切の音沙汰がないので忘れているのだろうか。いや、無い。

 あの真面目を絵にかいたような大人がそんなミスをするだろうか。案山子男が主導で動いているのならその可能性が高い。

 そんなことをしていると電話がかかってくる。

 

「もしもし……」

『やっと出たかい』

「婆ちゃん? どうしたの? 忘れ物でもした」

『アンタ、今日は暇だろう?』

「うん」

『じゃあ、アンタに仕事を与えよう』

 

 何か嫌な予感がする。

 

『台所に楽奈がおいていったモノがあるから届けてくれないかい』

「届けるくらいなら……」

『ついでに参観会に出ておくれ』

「はぁ⁉」

『じゃあ、頼んだよ』

「え……ちょっ! 切れたし……」

 

 台所を見るとギターケースがおいてあり頭を抱えた。

 携帯を開き予定表を確認すると楽奈ちゃんは今日の帰りはRINGでギターを弾く予定らしい。

 つまり、そのまま忘れて置いていったということだ。

 

「マジか……」

 

 むなしくも答えてくれる人はいない。

 ギターを背負い、地図アプリを開きながら花咲川女子学園へと向かうのだが改めて思う。

 俺が来て良いのだろうかと。

 

「女子高じゃん……婆ちゃんは何を考えて……」

 

 もう授業をしている時間帯であるが参観会であるため父兄が少なからず出入りしている。だが、俺だけが目立つ。他の父兄に比べ俺は圧倒的に若く、むしろ学校に行っている年齢だ。

 ここに来るまでに特に職質などもなかったが俺が女子高の参観会に向かうというのは問題ないのだろうか。

 

「あの~」

「はい?」

「えっと、中等部三年の要楽奈の親戚なんですけど……」

「あぁ、中等部の校舎はあっちですよ」

「ありがとうございます」

 

 特に何もなかった。

 普通は止められたり怪しいとか思わねぇのだろうか。

 そう思いながらも中に入っていく。

 

「思ったよりも広いのか?」

 

 中等部と高等部があるらしいから気を付けていたつもりだったのだが地図が欲しい。

 

「ここ何処?」

 

 迷っていた。

 見た感じ授業中だから廊下にいるのは移動中の父兄ぐらいで気軽に聞ける感じではない。

 それでも校内を移動するとふと思う。

 普通に学校に通っていればこんな感じなのかなと。そんな考えが頭をよぎるが気づけば前から大勢の父兄が来たので避けようとするが如何せん、スペースがなかった。

 なので1-Bの教室に入り通り過ぎるまで待とうとする。

 

「……」

 

 しかし、失敗した。

 中に入ると父兄や生徒から思いっきりみられていた。

 やらかした。

 冷や汗が吹き出そうで後ろの出入り口に向かって下がろうとするが、入ってきた父兄によって前に押し出されてしまう。

 最悪な状況だ。知り合いがこの教室にいるとは思えないしさっさと中等部に行けばよかったと後悔していると廊下側の席の真ん中らへんに見覚えのある人がいた。

 ラッキー!

 他の父兄も自分たちの子の所に行っているので俺もそれとなく近づく。

 

「椎名さん、寝不足なのかい?」

「んっ……あ、そうなんだよ。最近、徹夜続きで――はっ?」

「よっ、こんにちわ」

「え……何で嘉村宜が」

 

 困惑してる。

 マジでゴメン。

 だけどしょうがない。俺のミスなので。

 

「いや~。中等部に行こうとして迷いまして」

「馬鹿なの?」

「俺は中卒も怪しいよ?」

「何かごめん」

「いいよ。事実だし」

 

 実際、中学の勉強なんて独学で古波蔵にもらった受験用のテキストで勉強していた程度だし。

 

「しかし、見られてるね」

「それはそうでしょ?」

「どういうこと?」

「マジ……。嘉村宜って控えめに言っても面が良いからね」

「……はぁ」

 

 実感は無い。

 いや、たまに見知らぬ女性から声をかけられることがあるが、普通の学生とはガタイが違うので怖がられることが多かった記憶がある。

 

「そうなんだ」

「どうでもよさそうだね」

「いや、怖がられることが多いから」

「それって、あのマフィアみたいな服着てるからでしょ? 今はジャケットだし近寄りやすいよ」

「そういうモノなんだね」

 

 へぇ、普通の格好なら大丈夫なのか。

 面白半分で笑いながら手を振ってあげると黄色い歓声が響く。

 

「面白がってる?」

「意外と」

「それで、何の用?」

「ああ、中等部ってどこ?」

 

 そう言うとメモを渡される。

 

「地図、さっさと行って」

「ありがとう。あ、これもあげる」

 

 俺は小さな袋を渡す。

 

「何?」

「匂い袋。睡眠時に使うとよく眠れるから使ってくれ」

「ありがと」

「おう。じゃ、俺は行くよ」

 

 そう言って教室を出ると少し騒がしくなり椎名さんには申し訳ないことをしたと思いながらも、中等部の校舎へと向かって行った。

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