迷奏フィロソフィー   作:葛城イロハ

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 他者と関わり、少年は人を理解していく。
 まだ、話す必要がある。お互いに理解し、分かり合うために。


入店

 二人は一度、私服に着替えるため自宅に戻り、それから昼食を共にする予定だった。

 しかし、椎名さんは凄く呆れた顔をしながら俺を見てくる。

 

「どうした?」

「いや、どうしてそうなった」

「俺じゃなくて彼らに言ってくれよ」

 

 そう言いながら、足元に転がる男たちを見る。

 屈強でいかにも強そうな風貌でパンクな服装。髪を染めており、耳には趣味の悪いピアスをしてる。如何にも『僕、不良なんです』といった感じの男たちが十人程度、地面に転がっていた。

 その周囲には砕けた木片やバットだった金属片などが散らばっており凄惨とした現場になっていた。

 

「俺、悪く無くない?」

「いや、助けてくれたのは良いよ。でもこうなるとは思わないじゃん?」

 

 そう、最初は俺が楽奈ちゃんの家で今回の参観会の説明を婆ちゃんの変わりにすることになり、椎名さんが先に待ち合わせ場所に来ていて、そこで不良にナンパされていたのだ。

 

『お~い。椎名さん、ゴメンね。話をしてたら結構かかっちゃって』

『別に。じゃ、行こうか』

『ごはん……』

 

 などとやり取りをしてその場をそれとなく離れようとした。だが――。

 

『ちょっ! ちょっと待てやぁ!』

『あ? 何? お前誰だよ。椎名さんの知り合い?』

『知らない人』

『じゃあ、別に名乗る必要ないね? アンタ、振られたんでしょ? じゃ、そういうことだから』

『ざけんなぁ!』

 

 そう言って行こうとしたら相手がぶん殴ってきたので、殴られる瞬間に身体を硬直させて拳を受け止める。そうすると拳が砕けた音が聞こえ、相手の手が真っ青に腫れた。

 

『ぎゃあああああ!』

 

 デカい悲鳴と共に周囲で待機していた奴らがこっちに来た。まるで弱った獲物に群がるハイエナみたいに集まってきたのだ。

 

『うわっ……雑魚が集まってきた』

『嘉村宜……』

『事実だろ?』

『調子乗ってんじゃねぇぞ餓鬼が!』

『女の前だからっていい気になってんじゃねぇよ!』

 

 などと相手は俺を罵倒してきたので言ってしまった。

 

『群れねぇと強気にもなれない小心者のくせに絡んでくるなよ。どうせ俺に勝てないんだから尻尾巻いて逃げろよな。ほら、散れ散れ』

『やっちまえ!』

 

 煽った俺も悪いがまさかここまで考える頭がないなんて思わないじゃない。

 結局、俺からは攻撃せずにすべてを跳ね返してこうなっているわけだが、どうしたものか。

 

「いや~どうしましょうか」

「私に聞かないでよ」

「まぁ、連絡は入れたし処理はしてくれることを願って行こうか」

「えっ⁉ この状況で?」

「あぁ、もうできることはないからな」

「ごはん♪ ごはん♪」

「もう……好きにして」

 

 もう呆れられてしまったので古波蔵にメールを送り処理を頼み、二人を連れて目的の店に向かうことになった。

 そして、俺たちが来たのはRING近くにある店。

 店内はアメリカのクラッシクダイナーをモチーフにした内装で1980年代のアメリカ映画でよく登場するタイプのレストランで日本では珍しいと思える場所だった。

 

「おっ! 顎、着たか」

「よっす。今日は三人だからテーブルに行くから」

「おう。好きなとこに座りな!」

 

 そう言って出迎えてくれたのはムキムキマッチョマンの男。

 茶髪で愛嬌と爽やかさのある顔なのだが、身体がゴツイ。身長二メートルのゴリラなのだ。

 もう少し細く、百八十センチなら男性アイドルとしてテレビに出ていてもおかしくないくらいの美形。

 幼児の顔にボディビルダーの身体がくっついているくらいの違和感がある。

 

「嘉村宜」

「何?」

「何か……その、変わった人だね」

「悪い人じゃないんだ。ただ、顔と身体のバランスの差が激しいだけで」

 

 悪くはないんだけど違和感がすごい。

 顔がゴツイなら愉快なお兄さんで済むのだがそうはならなかったのだ。

 楽奈ちゃんはもう興味すら示さずにメニュー表を見てる。

 

「楽奈ちゃんは決まった?」

「抹茶ラテ」

「食べ物は?」

「ん~これ」

 

 そう言って彼女が指さしたのは抹茶パフェだった。

 

「楽奈ちゃん。ご飯を食べてからにしなさい」

「じゃぁこれ」

「ミニバーガーね。椎名さんはどれにする?」

「私は、これ」

「ステーキね。他は?」

「え、いいの?」

「奢るって言ったし、好きなだけ食べな」

「じゃあ、このケーキセットも」

「分かった。店長、注文いいですか?」

「おう」

 

 そうして注文を取ってもらい料理が来るのを待つだけになるのだが、椎名さんは俺の方をジッと見てくる。

 

「ねぇ、嘉村宜。腕とか大丈夫なの?」

「腕? あぁ、大丈夫だよ。それよりも椎名さんだよ」

「私?」

「うん。俺の事、怖くない?」

「大丈夫だけど……」

「あれ? 即答」

「嘉村宜でもそういうの気にするんだね」

「ああ、俺は、怖がりだかな。親しくなった相手に嫌われるのが怖い」

「何か、年相応って感じだね」

 

 そう言われ、頬が熱くなる。

 何だか、恥ずかしい。

 

「そうなんだな」

「でも、安心した」

「安心?」

「最初は怖い奴だから燈から引き離さない取って思った」

「まぁ、当然だな」

「でも、違った。アホ――愛音が行こうって後押ししなかったら、私は燈を無理にでも引き離そうと思ってたから」

 

 真剣な表情で俺をみて一拍。

 

「嘉村宜が、生きていいのかって言って思ったんだ。『この人は、子供のままここまできたんだ』ってそうなるしかない環境っていうのは私には想像できないけど、そうしなきゃいけないくらい追い詰められていたってのは分かった」

「そっか……確かに余裕なくてこんなことすることも想像できてなかった」

「だから、今の嘉村宜が素なんだって感じて安心してる」

「そう?」

「手のかかる弟みたい」

「そうですか……」

「ふふっ」

 

 椎名さんの笑った顔、初めて見たが顔がいいと何やっても映えるな。などと思っていると椎名さんの表情が獲物を射殺す狩人の目に変わる。

 

「それで、縁側で野良猫と燈に何をしてたの?」

「え……」

 

 それ、ここで聞きます?

 マジで。

 

「それはどういう」

「言い訳は良いから答えて」

「何も……?」

「嘘、私は見てたからね。燈の顔を引き寄せようとしたの」

 

 よりにもよってそこを見ていたのか。

 位置によってはキスしているように見られたっておかしくない。しかも、あのリップ音が思ったよりも響いていたのか椎名さんは確信を持って聞いていている。

 楽奈ちゃんに弁解の手伝いをしてもらいたいが、話がこじれそうなのでやめた。

 なので、俺は料理が届くまで状況を詳細に話すことになったのは言うまでもない。

 

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