しかし、飼い主の首輪は未だに繋がれたまま。
いつかその枷から自由になるために牙を研ぎ続ける。
あれから一週間。
高松さんは毎日のようにお見舞いへと来てくれた。
意外だった。
赤の他人の為に何故。と思っていたから。
「あの、嘉村宜さん。いますか?」
「はーい。大丈夫ですよ」
そう言うと、ガラガラと扉をひいて高松さんが中へと入ってくる。
備え付けの椅子を持ってベッド近くまで来て座る。
「体調はどうですか?」
「回復が速くて医者に驚かれましたね。もうじき退院できそうです」
「本当に良かったです」
身体を軽く伸ばすとバキバキと関節が鳴り身体がかなり鈍っているのが分かる。身体の痛みはなくあと数日で完治できるだろう。
問題は彼女だ。
「あの、聞きたいことがあるんですが……良いですか」
「あ、はい」
「何で、俺を助けたんですか?」
「え……」
何言ってるんだ。こいつ……。と言いたげな表情をしているが俺にとっては重要なことだ。
叔父を殴り飛ばし、逃げてきた。こちらとしてはかなりヤバい橋を渡ってきているため巻き込みたくないのもあるが一番の懸念は叔父と手を組んでいるかもしれないこと。
目の前の彼女はそんなことはしないだろうというのは大叔母様がいるから保障されているようなものだがどうしても知りたかった。
「頼むよ」
そう言うと高松さんは意を決したような顔をした。
「貴方が助けを求めてたから……」
「……」
「本当は怖くて、逃げようって思った。でも、泣いてたから。あの日の私に、似てたから」
この子は、俺と似たような経験があるのか。
それを知れただけで、心が軽くなった。
今まで出会って来た誰よりも気を許せるような思いと共に乗り越えた目をしていた。
「そうか……似てたからか」
「あ、その……ごめんなさい」
「いや、謝らなくていいよ。俺は、あのまま死ぬと思ってた。だから、高松さんは命の恩人だ」
「恩人なんて、そんな」
「いいや。恩人だよ。だから、高松さんがどうしようもない事態になったら今度は俺が助けるよ」
そう言いながら、俺は荷物の中から携帯を取り出し、コミュニケーションアプリを開く。
「良かったら、連絡先を交換してくれないか?」
「いいですよ」
そうして連絡先を交換し、高松さんは帰っていった。
「……不思議な子だ」
感慨深い思いにふけりながら携帯をしまう。
そして、ベッドから降り、点滴を引き抜いて腕の包帯をほどいて止血する。
「おい、コソコソせずに出て来い」
怒気を飛ばしながら扉を見ているとガラガラと開き、スーツ姿の男性と熊みたいなドデカい体格の男が入ってくる。
スーツ姿の男は
「いや~顎くん。あのクソゴミはダメだったから消しといたよ~」
「そうかよ」
「おや? 私たちには何もないのかい? こういっちゃなんだけど君をアレの元に返したのはこちらなんだけど……」
「いえ、保護者が底辺から底辺に変わる程度なら変わりはないので」
「言うね~。キミのそういうとこが好きだよ」
キッショ。
言葉には出さないがスケアクロウという偽名男のことを好きにはなれないが、腕は確か。
懐から通帳とカードを取り出し、俺に向けて差し出してくる。
「これは?」
「いや~回収するのに手間取ってキミのお見舞いに遅れてしまったからね。これは今までの迷惑料と慰謝料、見舞金だね」
通帳を受け取り、中身を確認すると俺の奪われた通帳だった。見事に新しい暗証番号。だが、問題だったのはその中身だった。
「は⁉」
「どうだい? 驚いただろう?」
「馬鹿も休み休みにしろよ! あり得ねぇ」
「いいや。それはキミが勝ち取ってきた対価だよ。これでも僕と上はキミを高く評価している」
「だとしてもこの金額は……!」
「言ったろ? 迷惑料と慰謝料だって」
慰謝料――そう聞いて俺は背筋が凍るような感覚に襲われながらも恐怖よりも怒りが優った。
「お前……」
「口を慎め餓鬼が」
「おっと、待て待て。いいよ。僕は気にしてない」
「ですが……」
「彼はこれくらいじゃないと。上がそう望んでる」
「御意に」
「顎くん、悪いね。ああ、紹介するよ。彼は
執行人。そう聞いて確信に変わる。
「消したな。全員」
「ああ。そうしなきゃキミを失い。我が企業は大損失を被る。だから
「アンタ、それを証明できないだろ」
「必要はない。そうだろ?」
「っ!」
そうだ。決定権は俺にはない。ただ、これだけは言える。
「分かった。必要に応じて連絡をくれ。仕事はする。だから約束を違えたら覚悟しろ。俺は俺の全てを駆使してお前らを地獄に送ってやるよ」
「ああ。それでいい。僕のお気に入りはそうでなくちゃ」