迷奏フィロソフィー   作:葛城イロハ

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 悪意は未だ本性を表さず、影に潜み機会をうかがう。
 少年は立ち塞がる。その悪意を打ち砕くために。
 


天星

 水族館の展示を見終わり、お土産売り場の方へ来ていた。

 家族連れやカップルが多く、その中で見知った顔を見つけてしまう。

 

「げっ……」

「何故、君が……」

 

 前の試合で戦った化野皇牙が見知らぬ女といた。

 向こうもスゲェ気まずい顔になっているため俺もすごい顔が引きつっているだろう。

 

「顎くん?」

「いや、何でもないよ」

 

 通りすぎてそれで終わり。

 そう思っていた。

 

「燈……」

天音(あまね)……」

「「少し時間をくれ」」

 

 俺たちは目線を合わせ、歩法によって一瞬で消える。

 そして何事もなく戻ってくるのと同時に少し離れた場所から人が倒れるような音が聞こえる。

 それと同時にお互いに面倒事を持ってきたのか。と言いたげな顔だった。

 

「化野、お前のか?」

「違う」

「俺は先週の内に黙らせてあるから違うからな」

「君、そんなことをしていたのか?」

 

 呆れたと言わんばかりに化野が肩をすくめるが正直、分からない。弟の件もあるが、性格が俺以上にひん曲がっていて、他者を一切信用しない利己主義の塊。

 こんな粗末なことはしない。

 

「まぁいい。戻ろう」

「そうだね。彼女を待たせているからね」

「あぁ、あの赤髪の子?」

「そうだ。愛らしいだろ?」

「あ~。なんか、ヤバそうな雰囲気があるんだが?」

「否定できないのが悲しいな」

 

 否定しろよ。

 こう、闘技者を好きになる人ってどこか変わっている人が多い傾向にあるがこいつもそうなのか。

 一般例として古波蔵の嫁さんがまともと聞いている。案山子男も時折その話をするくらいなのでまともなんだろうなと思う。

 そうであってほしい。

 

「ちなみに俺は大怪我でぶっ倒れてるときに助けてもらったんだ」

「あぁ、あのパーカーの子だろ? いい子そうじゃないか」

「実際、俺は彼女に救われてる」

「良いじゃないか。俺は天音の気概に惚れてしまったからね」

「意外だな」

「何がだい?」

「顔も良くて性格も良いから惚れさせたのかと思ったよ」

「ふっ、まだだまだね」

 

 何がだよ。

 

「いや、馬鹿にしたわけじゃないよ。ただ、生きて居ると惚れた腫れたは重要じゃない。俺は、彼女の生きざまに共感したうえで共に歩んでいきたいと思ったんだ」

「ふ~ん。いいね。それ」

「なら、嘉村宜君もがんばれ」

「は?」

「好きなんだろ? 彼女のことが」

 

 俺が? 燈を? 

 一瞬、こいつは何を言っているのか理解できなかった。

 俺が呆けていると化野は俺の背を強くたたいてくる。そして、無性に腹が立つにやけ面を見せてくる。

 

「色を知る歳か……」

「……」

 

 思わず拳が出そうになるが化野は彼女を回収してどこかに行ってしまう。

 

「じゃ、またな。嘉村宜くん」

 

 もう、あいつのことはどうだっていい。考えるだけ無駄だ。

 

「燈、ごめん。一人にして」

「ううん。大丈夫。天音ちゃんと仲良くなれた」

「ちゃっかりしてやがる……」

 

 油断も隙も無い。

 でも、楽しそうでよかった。

 それよりも、燈の手には小さな紙袋があった。

 

「それで、何か買ったのか?」

「えっと、これとこれ」

 

 燈が見せてきたのはコウテイペンギンと黄色い飾り羽が特徴的なイワトビペンギンのストラップ。

 デフォルメされている可愛らしいデザインだった。

 

「これ、あげる」

「え……お金は払うよ。いくらだった?」

「えっと、お金はいいよ。これを……顎くんに、持っておいてほしくて」

 

 そう言って、俺は二つのストラップを受け取る。

 

「これで、お揃いだから」

「なら、貰っておくよ」

「うん」

 

 お土産屋を後にして、俺たちは外に出ていた。

 太陽はもう真上に来ておりもうすぐお昼時になる。

 

「燈、お昼は何が食べたい?」

「えっと、何でも……いいよ?」

「う~ん。聞き方が悪かったな。苦手なモノってある?」

「生卵とか、いくらとか……かな」

「なら、今回は大丈夫そうだな……ちょっと歩くけどいいか?」

「うん」

 

 燈の手を取り、歩くこと十分。ビル群の裏手にあるテナントの一角。そこにあるベトナム料理屋。

 窓際のテーブル席に座り、ランチセットを二つ頼みゆっくりとしていた。

 

「今日は、ありがとう」

「え……」

「いや、師匠以外の人とこうやってプライベートで出かけるなんて数えるくらいしかなかったからとても新鮮だった。気分転換にもなったからな」

「良かった。顎くん、昨日は凄く……怖い顔……してた。何か、あったの?」

「弟が、俺に手紙を寄こしてきた」

「……!」

「呪いに別離。俺は、恨まれて同然のことをしてるのかもなって……思ってな」

 

 正直、怖い。

 どんな罵詈雑言も叱責も、暴力も受け入れるつもりだった。でもそれが他者に向くというのは感化できない。無意識に拳に力が入る。

 

「いや、恨まれてても良い。それを糧に生きるなら、俺はそれを受け止めるだけだから。でも……もし、あいつがお前らを傷つけるというのなら、俺はあいつを――」

 

 殺す。

 そう言おうとすると、燈はそっと俺の拳に手を添える。

 

「そんなこと、言わないで」

「……ごめん」

「血の繋がった家族、なんだよね。なら、話して……話さなきゃ伝わらないよ」

「そうだな……そうするよ」

 

 でも、それでも止まらなければ拳で語り合うしかないかもしれない。

 どちらに転んだとしても、俺のやるべきことは変わらないのだろう。そう思いながら窓から差す太陽を見上げた。

 

 

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