だからこそ、今あるものを必死に守る。
例え、行きつく先が決まっているとしても――。
「結局、会ってみないと分からないか……」
「顎くん?」
「やることは変わらない」
俺だって血に塗れなかければならなかったから。殺さなきゃ殺される。そういう環境だ。
どのような変化が起きているか分からない。
今でこそ落ち着いているが俺の中にある凶暴性が出てくることがある。相手を力で徹底的に壊し、屈服させようとする性。
あの無法地帯での生活で《鬼》になった俺だからこそわかることだった。
俺は師匠によって制御する術を習った。だが、向こうは分からない。その凶暴性を育てたのか別方向にアプローチをかけたのか。会ってみるまでは分からない。
「もし、あいつが間違ったことをするなら、止めるさ。
「もう、大丈夫だね」
「ああ」
話しているうちに店員が俺達のテーブルに料理を運んできてくれた。
今回は鶏肉のフォーと生、蒸し、揚げの三種の春巻きの盛り合わせ。
「さて、いただこうかな」
「そうだね」
麺がモチっとしていて啜り心地がいい。スープが絡み、箸が止まらない。
澄んだ黄金のスープは鶏の出汁が効いており、レモングラスの爽やかな香りと酸味が癖になる。
口いっぱいに麺を食し、スープを飲む。素朴でありながら幾重にも重なった味が重厚感と満足感を与える。
「ん~」
次は、春巻きに箸をつける。
生春巻きは野菜がたっぷり入っており、ほのかに青紫蘇の風味が食欲をそそる。
胡麻とナッツの入ったソースに春巻きをつけ、頬張る。少し甘めでナッツの香ばしさが鼻を抜け、先ほどをはまた違った濃厚で塩味のきいた味に変わる。
全体的に薄めだが素の状態とソースをつけた状態の二つを楽しめるのはデカい。
味の緩急もありいくらでも食べられてしまいそうだ。
「美味い……」
思わずそんな言葉が出てしまうほどだ。
そんな俺を見て、燈は笑っていた。
「どうした?」
「美味しそうに、食べるね」
「そうか?」
「うん。見てるとほっこりする」
「な、何か恥ずかしいな」
「顎くんは、すごくきれいに食べるから、見てるだけで良いくらい」
そうなのか。
愛音さんにも言われたが、悪くないな。
綺麗に平らげてしまう。
燈も美味しそうに食べてくれて安心した。
しかし、今までこうやってゆっくりと話す機会と言えば、入院期間くらいでこんな風に話すことなんてなかった気がする。
学業がある彼女と違って俺は、闘技者の仕事がなければ暇なことがほとんどで、時間などは合わない。
だから、こういうのは大事にしていきたい。
じっと見ている俺に気づいたのか、彼女は小首をかしげて視線を左右に揺らしていた。
良くも悪くも《無垢》という言葉がしっくりくる反応。
独特な世界観を持っているのも相まって一種の神秘性があるが、人の変化に対するアンテナが敏感でメンタルに影響を受けやすい。
そんな危うさを持ち合わせている。
それが高松燈という少女の印象。
ハッキリ言って俺のような存在とは相性が圧倒的に悪い。
「顎くん?」
「ん?」
「そ、そんなにジッと見られると……恥ずかしい」
「あぁ……ゴメン」
見すぎた。
特に俺のような身に余る凶暴性と残虐性を持ち合わせたタイプは視線や雰囲気に漏れ出る。どんなに『一般人』を真似たとしても完全に隠しきることはできない。
闘技者という超特殊職業であるならその精神構造はより歪になる。
だから、古波蔵や化野のように比較的『まとも』な奴は幸せになれるだろう。
だが、俺のような生殺の領域に手を出している奴らは違う。
人として壊れているのだ。命の価値が軽く、壊すことに躊躇いがない。自由行動を許されている分、俺もまだマシなのだろうが、中には必要時以外は拘束されている闘技者がいるのも否定できない。
データ上では百人ほどがそうらしい。
いつか俺も――。
「顎くん!」
「え……何だい?」
「さっきから難しい顔してるけど、大丈夫?」
「大丈夫だよ」
「嘘……」
彼女に即答され、思わず固まる。
そんなに分かりやすいのか。
「何で、そう思う?」
「顎くんは……深く考えてると気持ちの起伏が
あぁ、この子は隠す方が難しいのか。
「よく、分かったな」
「うん。言葉は伝わるから……」
「あ~。なるほど……そういうことね」
この子、そういうタイプなのか。
「ふふっ。やっぱ、燈には敵いそうにないか」
「え……それって、どういう」
「隠し事はできそうにないなってこと。でも、これはまだ話すつもりはないよ」
「どうしても?」
「あぁ。だから、少しだけ俺に付き合ってくれないか?」
「いいよ」