迷奏フィロソフィー   作:葛城イロハ

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 来るべき時に備え、少年は慣らし運転を終え、ついに邂逅する。
 先の未来を掴み取るために。


最凶

 俺は全力で丘を駆けおりる。

 歩法《陽炎》を使い左右に大きく動きながらではあるが相手には俺が分裂しているように見えているはずだ。

 その証拠にそのほとんどが俺の姿を捉え切れず別の方を向いている。だからこそ、今、俺がすべきことは捕捉している奴を先に叩き潰すこと。

 

「まず、一人」

「がっ……!」

「次……」

 

 俺は左腕を前にし軽く左右に揺らす。

 一秒間に放てるのは十発。フリッカーで近くの三人を潰すが、これでは駄目。無駄が多すぎる上に集団戦向きじゃない。

 師匠ならどうする。師匠なら、師匠なら……だから、なんだ。

 それは、俺じゃないだろう。

 

「死ねぇ!」

「邪魔」

 

 俺は相手の手首を掴み、そのまま流しながら足を払い服を掴んで地面に叩きつける。

 後ろにいた数名を巻き込んで倒れ、動かなくなる。かなりの勢いで叩きつけたため死んだかもしれない。

 だが、俺には関係ない。

 雁首揃えて、関係ない人を巻き込もうとして、命を奪おうとして『俺は死なない』は通らない。

 殺す、殺す、殺す。

 思考が攻撃性に飲まれる。

 

「がぁああああああああ!」

 

 空気を震わせるほどの咆哮。

 誰にも邪魔させない。内に眠る鬼にも渡さない。これは俺の戦いだから。

 

「《碧天》」

 

 そう発し、十人ほどの間を抜けると、遅れて倒れる。

 それを見た奴らは目を見開き後退る。

 

「テメェ! 何しやがった!」

「言うわけないだろう?」

 

 走って接近する。

 一番近いのは左前と左の二人。手刀を首に当て、落とし加速する。

 拳を当てるだけで骨が砕け、肉が潰れる感触が伝わる。殆ど一撃で倒れ、動かなくなる。

 速度が上がり、脳がスパークする。時たま、視界が明滅するが、支障はない。ただ、ひたすらに拳を振るえばいい。

 気づけば、残りは一人になっていた。

 この時点で、俺は高まった心拍数を落ち着かせ、フラットな状態へと移行させる。

 慣らしに関しては上々。

 俺は軽く関節を解して目の前の男に対して少し、話をしたくなった。

 

「なぁ、一ついいか?」

「な、何だよ」

「何で、アンタたちは闘技者の資格が欲しいんだ?」

「はっ?」

 

 何言ってるんだこいつ。

 そう言っている顔。

 でも俺には疑問でしかなかった。

 

「奪うだけなら、殺せばいいだろ?」

「何を……」

「俺は、そう思ってる」

「狂ってやがる……!」

 

 そう思うよ。

 でも、そうだろ?

 

「お前らは、それが欲しい。なら無関係の人間を何十、何百、何千と犠牲にして奪い取ればいい」

「だから! 何で……!」

「アンタには関係ないだろ?」

「はっ……?」

「人殺しは、罪にはなるだろう。でも、無関係の人間を巻き込んでも資格を奪い取れば、『上』は喜んで庇ってくれるだろ?」

「……」

 

 俺の発現に目の前の男は血の気が引いた顔をしている。

 分かってる。

 歪んでる。この業界は力を示せばある程度は隠蔽してくれる。割りを喰うのは弱い奴。

 力がない弱者に選択権は無い。ただ、奴隷のように消費されて使い潰されて捨てられるのがオチだ。だから、今回もこいつらみたいな奴らが狙ってきたのだろう。

 

「俺たちは《駒》ってこと、理解してる?」

「それは……」

「してないんだろ? この資格の意味も重さも……滑稽だな」

「黙れ! 俺は資格を得て……!」

「得て、どうするんだ?」

「それ……は……」

「何も、無いんだろ? 大方、資格を奪えば大金が手に入るとか都合のいいことを言われたんだろ?」

「……っ!」

「図星か……本当に救えないな。お前ら」

 

 確かに、資格を得るために有資格者を正式な試合(・・・・・)で勝てればの話だ。

 その話も知らずにただ倒せば手に入ると思っているということは完全な捨て石。もしくはデータ収集が目的なのだろう。

 いいように使われている。

 あまりにも哀れで滑稽で惨めだった。

 

「アンタじゃ、闘技者は務まらないよ」

「黙れ! お前みたいな餓鬼に何が……」

「知らねぇよ。お前がどんな人生を送って、どんな気持ちで転落したかなんて……だからどうした?」

「お前みたいな餓鬼ができるんだ! 俺だって……!」

「無理だよ」

「何で……」

「だって、俺たちの事、知らないでしょ?」

 

 俺も闘技者になる前はそうだった。俺は知らずに下位の闘技者を狩り過ぎて当時の闘技者上位に入り込んでいた師匠と出くわしたことがある。

 みっちり絞られ、叱られた後、師匠の提案で資格を得た。

 だが、所属する企業がなければ活動はできない。

 彼らはそれすらも教えてもらえてないのだろう。

 

「だからさ、もう終わりにしようか」

 

 俺は、こいつの心を折る。

 俺はゆっくりと歩きながら、少しずつ速度を上げていく。

 相手もそれを理解し、走ってくる。

 

「餓鬼ぃいいい!」

 

 振りぬいてきた左手首を掴んで俺の左肘を胸に当て、裏拳を顔面に当てる。

 身体が真上に浮き、そこに拳のラッシュを叩き込む。かなりの力で殴っているが骨が砕ける感触は無い。

 ラッシュ終わりに左フックを叩き込んでその勢いで蹴りを側頭部に叩き込む。だが、蹴りだけは防がれて腕が折れる感触と共に数メートルほどの距離ができる。

 

「へぇ、思ったよりも強いね」

「舐めるな……」

「でも、もう終わりだ」

 

 一足で近づいてきた俺に一撃でもかまそうとして左フックを出すが俺は姿勢を下げ、回避。そのまま両掌を相手の胴体にくっつけて内部を破壊する。

 

「《壊爪(かいそう)》」

 

 この技は威力を抑えるほどドデカい音が響くのであまり使いたくないのだが威力調整でき、楽なのがこれくらいしかないからだが、思ったよりデカい音が出た。

 爆弾が爆発したみたいな音が出てしまい相手も想定よりも吹っ飛んでしまった。

 

「悪いな。アンタの相手はちょっと楽しかったよ」

 

 聞いてないと思えるが、本当に悪くはなかった。

 軽く息を吐き、みんなの所へと戻ろうと振り返ると、みんなの背後にゴシックドレスをきた女がいた。

 濡れ羽色の長髪に俺と同じ虹彩異色の瞳、小さな卵型の顔だちに添えられた桜色の唇は三日月型に歪み恍惚な表情をしていた。

 

「流石だね、兄さん♪」

「ようやく姿を現したのか? 里桜(りお)

「あはっ♪」

 

 

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