迷奏フィロソフィー   作:葛城イロハ

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 痛みには気付かない。大事な『何か』を失ったとしても少年は止まらない。
 そうしなければ、また失ってしまうから。
 失うことを恐れ、忘れてしまったことに少年は気付けない。
 だって、怪物に成りつつあるのだから――。


獣本能

 ドクンと、心臓が高鳴る。

 行け、行けと身体が言っている。

 もう、俺を縛る鎖は無いのだと、決して振り向かず思うがままに動けばいい。そう言われているようだった。

 

「がぁあああああああああ!」

「なっ!」

 

 咄嗟に起き上がり、顎にアッパーを決めようとするが防がれるが、身体が上がる。

 俺のトンファーキックで引きはなし俺も体勢を整える。

 大丈夫、まだ動ける。

 

「兄さん、兄さん! ついに目覚めたんだね!」

「あ? 何言ってる」

「あぁ……もう、我慢できない! 思う存分、愛し合おうよ! 兄さん!」

「殺してでも止めてやるよ! 愚弟ぇええええ!」

 

 もうどうだっていい。

 ラッシュ内で避けることも防ぐこともしない。

 耐久力勝負だ。重く、速いほうが勝つ。上半身が傷だらけになり、血が周囲に散乱するが関係ない。もうこれは生殺の領域に入っている。

 

「ブチ殺す」

 

 身体が驚くほど軽い。

 里桜の動きが止まっているように見え、、こちらの攻撃が面白いほど入る。なら、とことんやるまでだ。

 

「らぁあ!」

「ぐっあぁあああ!」

 

 どちらかが死ぬまで続くはずだった拳の応酬は、意外にも早く終わることになる。

 

「そこまでだ。里桜」

「なっ!」

「チッ!」

 

 俺たちの間をかかと落しと共に誰かが乱入してくる。

 あまりの威力に地面に小さなクレーターができており俺でも受ければ骨にひびが入るかもしれない威力。

 俺は乱入者を見る。

 スーツ姿の金髪褐色肌のヤクザ。だが、身長は二メートル近くあり、豪鬼以上の体格がある。それに、重心が左に少し傾いており、右腕が無い。

 

「アンタは?」

「俺か? 里桜のお目付け役だ」

「そうか、俺は嘉村宜顎。アンタは?」

荊木(いばらぎ)だ」

「荊木! 何しに来た! 今良い所なんだよ!」

「ダメだ。これ以上の戦闘は規約違反だ」

「っ!」

「悪かったな。嘉村宜……こいつはこちらで回収させてもらう。勿論、あそこに転がっている奴らもだ」

「そうかよ」

 

 だからどうした。

 俺は構わず攻撃を再開する。

 

「ぬっう!」

「……退け!」

 

 里桜は、こいつはここで始末しなければならない。

 俺は大きく息を吐き、もう一度集中力を高める。心拍数と体温が上昇し血流が速まり、左手からは出血量が増える。

 

「もう、手遅れか」

「勝手に終わらせんじゃねぇよ」

「っ! お前、器か」

「だったらなんだ!」

 

 ぶっ壊す。

 ブチ殺す。

 ぐちゃぐちゃにしてやる。鬱陶しい。全てが鬱陶しい。

 ストレートで荊木を牽制し、縫い付ける。

 片腕では防ぐだけで精一杯だろう。気を付けるべきは足技。下手に拳で受ければ砕ける。なら対応できるのは肘打ちや掌底での受け流しや打ち落とし。

 単調すぎればそこを突かれる。

 相手は俺よりも体格が大きく、速い。

 

「デカいなら木偶の坊でいろよ」

「里桜の兄とは思えんほどの怪物だな。これは、骨が折れそうだ」

「勝った気になってんじゃねぇよ」

「いや、俺が勝つ」

 

 俺の攻撃が片腕で容易く受け流され、弾かれる。ストレート、ブロー、フック全て防がれるがそれでいい。攻め続けて活路をこじ開ける。

 

「ぐっ!」

 

 ローキックで攻撃に緩急をつけ、一撃が側頭部に入る。

 勝てる。

 そう思い、一歩踏み込んでしまった。

 ドオォンと大きな音共に腹に衝撃と熱が帯びる。

 

「チッ! 外したか」

 

 油断した。

 何だ。どこをやられた。腹だが、本能的にヤバいとこが傷ついている。腹、腸? 肝臓? どれかがぶっ壊れた。ヤバい。死ぬ。

 倒れそうになる身体をどうにか踏ん張り立つ。

 とりあえず、死んでも勝つ。それ以外は考えなくていい。

 

「拳銃とか持ってんの?」

「悪いか?」

「ズリィよ……まぁ、好きに使えよ」

「いや、もういい」

 

 そう言って荊木は弾倉と弾を抜いて銃を投げ捨てる。

 

「お前にはもう通用しないだろうしな」

「分かってんじゃん」

 

 ヤバいほど血が流れ出てくる。

 長い戦闘はもうできない。この撃ち合いで全てが決まる。

 

「……」

「……」

 

 軽く風が吹き、ゆったりと流れる風が止まった瞬間、動く。

 荊木の右ストレートを左手で弾き、俺も右を返すが膝蹴りで打ち上げられるが俺はそのまま手刀を肩へ落とす。

 手ごたえはあるが、大したダメージになっていない。

 左を握り殴る。

 

「っ!」

 

 荊木の蹴りを止める。

 脛を殴り手の血を付着で掴みにくいが、こちらへと引き寄せ肘打ちで地面に叩きつける。追撃で拳を落すが、荊木は横に転がり避ける。

 そこにトンファーキックをお見舞いするが足首を掴まれて持ち上げられる。

 叩きつけられる前にもう片方の足で顔面を蹴り飛ばして離脱する。

 

「しぶといな。さっさと死ねよ餓鬼が」

「悪いな。しぶとさが売りなんだ」

「そうか」

 

 俺は近づき、あえて、荊木の攻撃を受ける。頬が砕けそうな一撃だが、抵抗はせず流れるように受ける。このまま攻撃に移る。

 

「何っ!」

 

 俺は、両掌を荊木の胸に当て寸勁で内部を破壊し、顎を蹴り上げてそのままの勢いで腹に膝蹴りを叩き込み、手刀で両肩を砕き、両拳の突きで肋骨を砕き、右アッパーで身体を打ち上げ、左の縦拳で心臓部を打ち抜き、右手の手刀の突きで胴体を貫く。

 

「《白露扇舞(はくろせんぶ)》」

 

 荊木は盛大に血を出しながら吹っ飛び吐血しながら俺を睨む。

 

「普通、死ぬだろ?」

「生憎、頑丈に生まれた身なのでな。このくらいじゃ、死なんよ」

 

 胸に穴が開いているというのに普通に立ち上がる。クソ過ぎる。 

 鼻血が出て左目から血涙が出始める。

 

「時間切れだな」

「はっ! それは《神纏(かみまとい)》の持続だけだ。俺はまだ戦えるよ」

 

 あとは殺すだけ。

 俺は一歩、近づこうとする。だが――。

 

「遅いぞ。匡幸(まさゆき)

「チッ!」

 

 伏兵。

 荊木の前に唐突に表れた黒装束の男。顔も見えないそいつに何もさせないように速攻を仕掛けるが両腕を大きく羽ばたかせるように動かし、何かをひいた。

 

「糸か……!」

 

 俺の全身を細い糸が幾重にも巻き付き動きを止められて縛られてしまう。

 

「だから! どうしたぁ!」

「……っ!」

 

 糸が全身に食い込み、身体が刻まれようと関係ない。こいつらは潰す。血濡れになりながらも進む俺を見て黒装束も驚愕しており、糸も一本、一本と切れ始める。

 ぼたぼたと流れ落ちる血にも目もくれず、進む。

 こいつらは生きて居ちゃいけない。

 此処で仕留めなければならない。だから進む。

 もう少しで手が届く。そう思い、進むが、不意に誰かに抱き留められる。

 

「顎くん! もう、止めて……!」

 

 茶髪のボブカットの少女。

 お前は、誰だ……違う、この子は、知ってる。知っているはずなのに思い出せない。

 

「誰……だ」

「ぇ……」

「違う。俺は……ぐっぅ……あぁあああ!」

 

 痛い。

 頭が、痛い。

 何が、どうなっている。

 俺は、声にもならない絶叫を上げ、意識を失った。

 

 

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