迷奏フィロソフィー   作:葛城イロハ

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 一度、どれだけ思われているのか身をもって知るべきである。
 故に、猫娘は少年に一発ブチかます。もう、一人ではないことを知ってもらうために。


激情

 目を覚ますと、そこは俺の知っている病院の天井。

 あれからどうなったのだろうか。

 思い出そうとしても、記憶が虫食い状態であり、荊木を倒したのは覚えているが白露を使ったことぐらいしか思い出せない。

 手を見てみると、肉が引きつる。

 

「燈……」

 

 大丈夫。覚えている。My GO!!!!!のみんなの名前も思い出せる。

 忘れていない。

 身体を起こし、周囲を見回す。誰もおらず、日の光が室内を照らしていた。

 点滴もされていないから自由に動ける。

 

「傷は……問題ないな。うん、動ける」

 

 軽く身体を動かすが特に痛みなどはなくそのまま窓辺まで行き、窓を開ける。

 まだ温かい風が身体を撫でる。

 一人にでいるのは久しぶりだ。何時も誰かが傍にいて特に何とも言えない幸せがあった。

 じっくり考えることなんていつぶりだろうか。

 

「んぁ~」

 

 変な声が出た。

 日に当たり、身体がポカポカする。里桜も生きており、戦うことになったが、あの感じだとあまり変わった様子はなかった。色々と聞きたいことがあるがやることは変わらない。

 最初から俺に執着し、両親すら嵌めたことに動揺したが、今はちゃんと自分の中で整理がついた。

 あれから何年か経っているし俺の方でも調べ、誰かに仕組まれた可能性があったのも分かっていた。だからあの状況で動揺こそしたが、精神的には特に問題はなかった。

 その後、《神纏》使用による一時的な記憶障害。

 出血による意識低下と強制的な心拍数と体温上昇が脳へのダメージに繋がっているはずだ。何時もなら問題なくても出血が多かったり、血が足りていない状態で使えばただじゃ済まない。

 俺は備え付けの紙とペンを使い情報を整理していく。

 

「……まぁ、こんなもんか……」

 

 里桜の所属。

 荊木や匡幸と呼ばれた男を見るからに義肢医療系か医術系統の会社だろう。化野もちょっかいをかけられているからランキングに乗っている奴や近日で試合をした闘技者を中心に狙っていると考えた方がいい。

 

「しかし……良く生きてたなぁ……うわぁ、傷が塞がってる」

 

 腹の傷は痕になっているが完治していた。糸で切れた肌もあと数日すれば綺麗になくなる感じで少しかゆいくらいだった。

 窓の外をみて、下の庭を眺めているが人は疎らで閑散としていた。

 でも、静かで心地よい。

 同時に、人として、逸脱し始めたということだけは分かる。この病院内だけで六十人ほどの気配を感じ、においで距離や性別が分かる。変に意識すると関係ないことで脳の処理が追い付かなくなるためどうにか制御するがどうにも上手くいかない。

 半径百メートル範囲まで絞れればいい。ここから少しずつ調整していくつもりでベッドへと戻ろうとすると病室の扉が平かられる。

 

「やぁ、兄さん」

「里桜……何しに来た」

「酷いなぁ。血を分けた兄弟じゃないか。お見舞いにきて当然でしょ?」

「そうか。なんもないからさっさと帰りな」

「つれないなぁ~」

 

 と言いつつ、さりげなくこちらに抱き着いてくるあたり、ちゃっかりしている。

 殺意も敵意もないから無理に引き離そうとしないが頭一つ分小さく身体の線も細いから何も知らない人が見たら男女の蜜月だと言われそうで心臓に悪い。

 

「ん~兄さんの匂いはいいねぇ」

「キッショ……」

「随分と逞しくなったね♪」

「離れろ」

「ぶ~。もう少し……」

 

 などとやり取りしていると、また扉が開かれてしまいその人物と目が合ってしまう。

 

「椎名さん。どうも……」

「お前、何してんの?」

「人が来ちゃったか……じゃあ、僕はこの辺でお暇するよ。じゃあね。お兄ちゃん」

 

 そう言って、逃げるように去っていく里桜。

 取り残された俺は大きくため息を吐いてベッドへと戻る。

 

「まぁ、座りなよ」

「嘉村宜、お前……これで続けるのは無理があるって」

「別にやましいことはないし……」

「ていうか。あの子誰?」

「生き別れた弟だよ。この前のご飯の時に店長が言ってた時の」

「へぇ……え? 弟?」

 

 分かるよ。

 あの美少女然としている里桜が男だってのは理解が追い付かないのは。元が良いからナチュラルメイクだけでかなり綺麗だから驚くのも無理はない。

 だが、俺と同じモノがついてるんだよな。

 

「まぁ、無事に再会したから……」

「それで大怪我したら世話無いよ」

「ごめんなさい」

「お前、燈にも謝れよ? かなりまいっちゃってるんだから」

「それは……そうだけど……」

 

 今は完治した状態で問題はないとはいえ、腹に穴が開いて全身を刻まれて血だらけになって出血多量となれば大事なのは分かりきっている。

 烈火のごとく怒りを燃やしている婆ちゃんや紫姐さん。そのほかの面々からのお叱りも受けるだろうが甘んじて受けるしかない。

 俺は、引けるときに引かず、危険を冒してまで仕留めることを優先した。そして、死にかけた。

 

「俺は、自分の事ばっかりだな……って思ってさ……」

「それって別に普通じゃない?」

「そんなもんか?」

「だって、燈と子供達を守るために必死だったんでしょ」

「何で知ってるんだよ」

「嘉村宜が運ばれたって聞いた時に聞いた」

「そうか。なぁ、椎名さん」

「何?」

「名前で呼んでよ」

「はっ?」

 

 急すぎたのは否めない。でも、もういいかもしれない。

 

「一緒に飯も行ったし、それなりに仲良くなったつもりだったんだけど……ダメかな?」

「別に、好きにすればいいじゃん」

「じゃ、改めてよろしくな。立希さん」

「何か、気恥ずかしいな……」

「そうか?」

 

 俺はそこまでだった。

 こういう、名前で呼び合える友人は数えるほどしかいないしこういうのが新鮮だった。

 

「二人でイチャイチャしないでくれるかな」

 

 そう言いながら部屋に入ってきたのは長崎さんだった。

 その顔は笑っているが言葉尻は怒っている人のそれだった。

 

「やぁ、そよさんもお見舞いに来てくれて嬉しいよ」

「何? 顎くん?」

「ごめんなさい。調子に乗りました!」

「別にいいよ。さっき、里桜ちゃんに会ったから」

「あいつに会ったんだ」

「うん、受付ロビーでね」

「そうなんだ」

 

 意外だ。

 里桜が進んで話しかけるとは。いや、俺の関係者だからだろうか。

 

「可愛い妹さんだね」

「……ん? あぁ……そよさん。あいつ、男だよ」

「…………え?」

「そよ……分かるよ。あの子、すごくきれいで可愛いから」

「男の子なんだね。肌も綺麗で仕草も可愛らしいから気づかなかった……」

「あ~あいつ。小さいころから肌がきれいで美容に気とか使ってたからな……」

 

 今は傷だらけだが俺も少しケアとか考えないとなと思いながらもそよさんが俺の顔をジッと見てくる。

 

「そよさん? 何かな?」

「顎くんって、思ったより肌が綺麗だよね」

「今は傷だらけだろうが」

「手だけでしょ?」

「そうなの?」

「はい、鏡見て」

 

 手渡された手鏡で顔を見ると顔の傷は無かった。あれだけ斬られたのに。

 

「本当だ……」

「あと、覚悟しといたほうがいいよ」

「覚悟?」

「そろそろ来ると思うから……」

 

 そよさんは何か途轍もなく恐ろしいことを言いながら扉の方を見た。

 

「あぎと……」

「あ、楽奈ちゃ……ん?」

「うそつき……絶対に許さない」

「え……」

 

 むすっとした顔なのだが、俺は思わず背筋を伸ばし、固唾をのむ。

 どうやら、激おこの様子でこちらへと近づき、思い切り腕を振り上げる。

 

「一回、ぶたれるべき」

「おぅ……」

 

 そして、病室に大きな音が響くのだった。

 

 

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