迷奏フィロソフィー   作:葛城イロハ

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 これは意思のぶつかり合い、意見の押し付け合い。
 話し合いでは解決しないからこそ、力を示さなければならない。
 二度と、後悔しないために。


前奏

 俺は頬に大きな紅葉を作り、ベッドに寝かされていた。

 俺を叩いた楽奈ちゃんは泣き疲れて寝てしまっている。あの後、見たことがないほど泣かれてしまい俺はタジタジになりながらもあやして今に至る。

 立希さんやそよさんも驚いててんやわんやとなり立希さんに抱き着く形で寝ている。

 

「なんか、悪いね」

「そう思うんだったら貸し一つだからな」

「いいよぉ。決まったら教えて。そよさんも遠慮なく言ってね」

「いいの?」

「うん」

 

 今まで、ここまで心配されることがなかったからこそ、これからの身の振り方を考えなければならないといけなくなるとは思わなかった。

 今まで、いつ死ぬかも分からず、明日が来ないかもしれない命。死んで当たり前の考え方で身体を労わってこなかったし大怪我はデフォルトの日常。

 故に、配慮が足りていなかった。

 彼女たちは『一般人』なのだということを忘れていた。俺はこの許される環境に甘えているのだろう。

 拒否されない、受け入れてくれる彼女たちに俺は依存し、寄りかかっている。

 だからこそ、当たり前のように無茶をしたし、死にかけた。

 これは言い訳で、こんな事態を引き起こしたの俺の実力不足と考えが甘すぎたということだ。この状況は全部俺が招いた。俺が悪い。

 

「……! 来たか」

 

 俺の知覚範囲に強い気配が入ってくる。

 俺は起き上がり少しだけ身体を伸ばす。

 

「顎くん?」

「顎?」

「ん? 気にしないで、俺の方の問題がまだ残ってるだけ。今から清算するからちょっと離れてて」

 

 ベッド脇に移動してもらい、俺は窓辺で待つ。

 それから五分後、病室の扉が開かれて凄まじいほどの殺気を纏った豪鬼が入ってくる。

 

「よう。豪鬼、どうしたんだ――」

 

 すべて言い切る前に俺は胸倉を掴まれてしまう。

 

「お前、自分が何をしたのか分かっているのか?」

 

 恐ろしいほど低い声。

 感情の起伏が一切ない執行人の空気。だが、その目は熱を持っていた。

 

「ああ」

「お前……」

「分かってる」

「いや、分かっていない。お前は『今』どれほど覚えている?」

「全部。今回は運が良かったよ」

 

 そう言うと、豪鬼は有無を言わさず俺を壁に叩きつける。

 壁が陥没してしまうほど強く叩きつけられるが俺は痛みすらない。

 

「おいおい、痛いじゃないか」

「……そこまで進んだのか」

「それが俺の選んだことだからな」

「お前、それが何を意味するのか分かってるのか!」

「大きな声出すなって。迷惑だろ?」

 

 それが俺の選んだ道だから。

 

「死ぬつもりか?」

「そんな訳ないだろ?」

「何故、そう言い切れる」

「自分も他人も、一切合切を尊ぶのをやめるのをやめた」

「……後悔しないのか?」

「やって後悔するよりもやって後悔しないことの方が大事だろ? 俺はやって後悔してきた。だから、やって後悔しないやり方を見つけるしかないんだよ」

 

 豪鬼の腕を掴み引き離す。

 そして窓辺に立って振り返る。

 

「ついてこい」

「分かった」

 

 窓から飛び降りてパイプや壁の突起を上手く使って降りる。

 

「ちょ……」

「顎くん⁉」

 

 何も伝えずに降りたので二人を驚かせてしまったがあまり時間がない。

 俺たち二人は、中庭の芝生に降り立って少し離れる。

 

「いつ以来だ?」

「んー最初に会って以来じゃない?」

「そうか、あの時の餓鬼がこんなにも大きくなったのだな」

「何? 感傷に浸ってるの? あんた、親じゃねぇだろ?」

「長く仕事を続けていけば情もうつるだろう? 俺は顎、お前を自分の子のように思っていた」

「へぇ、アンタがそう思っているのは意外かな。でも、俺はちょっと気難しいオジサンくらいに思ってたよ」

「オジサンか」

「そう言う歳だろ?」

「違いない」

 

 豪鬼は腰を低くし、拳を握ってボクシングの構えに近い体勢を取る。俺は両足を肩幅まで広げ、膝を少し曲げて左腕を前に、右腕を少し斜め後ろに配置して前傾姿勢の構え。俺は少し息を吐いて気を落ち着ける。

 

「顎、これが落ちたら開始だ」

 

 豪鬼は懐から録音機を取り出し音楽が鳴り始める。

 

「行くぞ」

「あぁ」

 

 そう言って、豪鬼は録音機を投げる。

 ボルテージは最高潮。高まる闘気は留まることを知らず、溢れるような感覚に一種の全能感に陥りそうになるが、俺はそれを理性で押さえつけこれから始まる戦闘に全神経を集中させる。

 

「見せてみろ、お前の力を……!」

「じゃあ、存分に見せてやるよ……!」

 

 戦いの火蓋が今、開かれる。

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