迷奏フィロソフィー   作:葛城イロハ

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 幻影を振り払い、少年は羽ばたく。
 放した手に残るのは未来を掴むための手。
 あとは追い越すだけ。


対決

 互いの拳が顔面に入り、身体がのけぞる。

 

「やるな」

「だろ?」

 

 復帰は俺が早い。

 再度、顔面パンチをお見舞いし、豪鬼の巨体を吹っ飛ばして膝蹴りをお見舞いする。

 だが、防がれる。顔面は血だらけな分、迫力があるが怖くはない。

 

「そんなに急ぐなよ」

「流石に長引かせる気はないよ」

 

 踏みつけて潰そうとするが容易に避けられる。

 

「次は俺だ」

 

 俺は豪鬼のタックルを真正面から受け足が地面から離れ、投げ飛ばされる。

 視界が回るが地面に叩きつけられる前に回転数を上げ衝撃を分散し、立ち上がろうとすると、眼前には蹴りが待っておりもろに受ける。

 バァアンと人が出してはいけないような音を響かせながら背から倒れる。

 

「ぶっ!」

 

 鼻から血を押し出し起き上がろうとするが豪鬼にマウントポジションを取られ、滅多打ちにされる。

 腕には重い衝撃を受け、亀のように固まる。

 衝撃がガード上から抜ける。痛いな。でも、これでいい。

 俺は、身体を左右に揺らして拘束から抜け首を絞める。このまま意識を落したいが無理だろう。

 

「ぬううん!」

「クソゴリラが!」

 

 腕を掴まれてへし折られそうになったため右肩にハンマーパンチを振り下ろして逃げる。

 

「黙って絞め落されろよ」

「そんなものか?」

「……」

「だんまりか」

 

 何だろう。

 集中できない。

 何故だろうか。身体は戦闘に向けてボルテージが上がり切らない。先ほどまでは最高潮に達していたはずなのにだ。

 

『それじゃあ駄目だ。顎……』

「ウザい……」

「顎?」

『回転を加えろ。お前は、私より頑丈なんだから……アタシより無理できるだろ?』

「黙ってろよ! もう、アンタは死んだだろ!」

『だからだろ……』

「じゃあ! 黙って見てろよ! 今日、俺はアンタを超える!」

『ああ……』

 

 イラつく。

 師匠の幻影を見るくらいには追い詰められているのか? 腹が立つ。こんなものを見ている俺自身に。

 俺にはあるだろ。師匠と共に過ごし、得たモノが。

 

「顎……おまえ!」

 

 豪鬼は驚いたような声を上げる。

 俺は一切構えをせず、自然体で立っているだけ。師匠が得意とする構え。そうだ、俺のこれはその進化系。手足の位置を微妙に動かし何十ものフェイントを折り交ぜて相手の先読みを殺す。

 格上及び上位闘技者を殺すためだけの技。

 強ければ強いほど術中にはまるこれは、剣士殺しの技と言われていた。構えとは一種の読み合い。

 フェイントなのか、正道なのか。王道でいくのか邪道で攻めるのか。そういう気配の読み合いと情報戦。これができない闘技者は決して上位三桁に入ることができないと言われるほど必須と言われるできて当たり前の技術。

 故にハマる。

 

「来いよ。執行者。俺にアンタの強さを見せてくれよ」

「っ!」

 

 そうだよな。

 先読みも構えによる情報戦も無駄になると仕掛けるしかない。

 莫大なフェイント量を処理できないからこそ、そうなる。俺もそうだった。だが、これは師匠よりも数と質を上げてる。一瞬でも読もうとしたアンタの脳は多大な負担を負っているはずだ。

 

「ハッ!」

 

 そのまま迫ってくるストレートを左手で逸らし、勢いを貰う。

 俺は一回転して右肘を脇腹に当て、その勢いで裏拳を背中に当てる。

 そして、俺は背に掌底を当て足から、腰、腕へと回転力を伝える。

 

「弾けろ!」

 

 瞬間、豪鬼の巨体が十メートルほど飛ばされる。

 魔弾(まだん)。これは俺が最初に師匠から教わった基礎技(・・・)

 全ての技を一段階引き上がる。懐かしい感覚が全身を駆け巡る。押さえつけられていた全てが外れるような解放感と高揚感。

 俺は今、解放される。

 

「シャァ!」

 

 二撃、三撃と豪鬼に当て、四撃目を当てようとする。

 

「ハァッ!」

 

 攻撃を流され、俺の拳がいなされて柱に当たり、粉々に砕け散る。

 三発。

 これが豪鬼に与えた数。内外共に凄まじいダメージを与えたはずだが、ブランクと奴の巨体で威力が軽減されている。だからどうした――。

 

「まだ、へばって無いよな?」

「当たり前だ」

「じゃあ……第二ラウンドだ!」

 

 接近と同時に拳同士がぶつかる。

 互いに弾かれ、後ろに少し移動する。だが、俺は止まらない。技を出すたびに思い出すんだ。

 師匠を殺したあの日を。師匠に拾ってもらって、過ごした日々を。

 

「っ……!」

 

 この一秒、一秒が俺と師匠と紡いできた全てをここで今、出し切る。

 

「はぁああああ!」

 

 

 両掌を豪鬼の胸に当て寸勁で内部を破壊し、腹に膝蹴りを叩き込み顎を蹴り上げる。そして蹴り上げた足を降ろし、頭蓋に踵落しを当てる。

 前のめりになったところで手刀で両肩を切り裂き、両拳の突きで肋骨を砕き上体を上げる。

 右アッパーを胴体に打ち込み身体を打ち上げ、左の縦拳で心臓部を打ち抜き、最後に右手の手刀の突きで胴体を貫く。

 だが、最後の一撃は豪鬼が両手で俺の手刀を挟み止める。

 

「止めたぞ! 顎ぉおおおお!」

「まだだぁああああああ!」

「何⁉」

 

 俺は逃がさないように右手で豪鬼の左手首を掴み、魔弾を叩き込む。

 

「《白露扇舞・廻》」

 

 今まで以上に洗練された魔弾が弾け、豪鬼を吹っ飛ばし病院の壁を抜いて中へと向かってしまう。

 そして、許容限界を超えた一撃を放った左手から出血と共に、俺は曇りなき空を見て倒れる。

 

「俺の……勝ちだ」

 

 

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