迷奏フィロソフィー   作:葛城イロハ

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 寄る辺を得た怪物は本物の天才に合う。
 何もかもが自分と正反対の彼女に対し、亡き家族を思い出す。


宿木

 あれ以来、案山子男からの接触も連絡もなく平和な日々を過ごしていた。

 高松さんも退院する日まで会いに来てくれた。だが、あいつらの顔がチラつき内心は穏やかではなかった。

 何も知らない彼女とその周囲に被害を出すかもしれないと考えるだけで殺意が湧く。

 

「顎、いつまで突っ立ってんだい」

「大叔母様。すいません。少し考え事を」

「アンタ。その大叔母様と呼ぶのはよしな]

「すいません」

「いいよ。それで、アンタ、学校はどうするんだい? 今年から高校だろう?」

「学校ですか? 行ってないですよ?」

「は?」

 

 途轍もない形相でガン詰めされ思わず後退してしまう。

 杖をついているのにだ。

 

「どういうことだい」

「えっと、受験もしていなかったので……」

「……今までどうやって生活してきたんだい」

「それは……まぁ、どうにか」

 

 嘘だ。

 中卒の子供がどうにかして生きていけるほど社会が甘くないことは身をもって体験した。

 特に言い訳を考えておらず、俺はそう答えるしかない。

 

「そうかい。で、この通帳は何だい?」

「俺のですけど」

「だから、何で私に渡してるんだい?」

「えっと、一応、立場上は保護者になってもらったので……」

「はぁ……。これはアンタが管理しな。遠縁の保護者と言ってもこれは預かれない」

 

 そう言われ通帳が返ってくる。

 

「分かりました。えっと……お婆様」

「まぁ、いいさ。ほら、ここがアンタの家だよ」

「おぉ……」

 

 二階建ての日本家屋で庭付き。

 綺麗な庭で手入れが大変そうだった。

 

「私の家でもあるからね。掃除や料理なんかの家事もやってもらうからね」

「あ、それなら大丈夫ですね。任せてください。舐められるくらい綺麗にしますから」

「……聞かなかったことにするよ」

 

 実際、できるまで飯を貰えなかったこともある。特に気にする必要はないと思っていたのだがそれを話した時はかなり怖い顔をしてどこかに電話していたのを覚えている。

 身内内ではかなり顔が広いのは便利だなという感想と共に下手なこともできないなと感じた。

 そして、家に近づくにつれ、人の気配がした。

 大叔父様はもう居ないはず。

 

「あの、家の中から人の気配がするんですが……」

「多分、楽奈(らーな)が来てるんだろうね」

「あぁ、前に言ってたお孫さんですね」

「そうだね。アンタよりも一つ下の中学生さ。変なことすんじゃないよ」

「俺を何だと思ってるんですか」

「遠縁の忘れ形見だね」

 

 そうですか。

 しかし、孫か。擦り切れるほど薄れた家族との記憶(思い出)はもう思い出せない。どんな声だったのか、顔だったのか。

 俺はどんな顔をしていたのかすら忘れてしまった。

 そう思うとここまで平和な日常らしさを送れるのは何年ぶりになるのだろうか。

 緊張しているのか身体が熱く感じ、冷や汗が滲み始めた。

 

「今帰ったよ」

 

 俺もお婆様についていき家の中へと入っていく。

 段差のある広めの玄関。俺は杖をついているお婆様を手伝うことはしない。つい数時間前、移動で手を貸そうとしたときに怒られたからだ。

 自分のことは自分でやる。そう言って俺を置いてさっさと歩いて行ってしまう程だった。

 あれだけ元気があるのだ。本当に必要ないのだろう。

 靴を脱ぎ、居間のほうへと行くと白髪の少女がいた。

 俺と同じ虹彩異色。彼女の白髪は俺のストレスで変色したような色ではなく純粋な白。

 彼女がお婆様の孫娘。

 

「誰?」

「初めまして。嘉村宜顎です。今日からこの家でお世話になる者です」

「そう」

 

 そう言って彼女は興味を失ったようで縁側の方へと行ってしまった。

 猫みたいな気分屋の子なのだろう。

 

「どうだい?」

「どうとは?」

「可愛いだろ?」

「そうですね」

「は?」

「は?」

 

 なんで切れるんですか?

 何もしてませんよ?などと口が裂けても言えない。怖すぎ。

 

「俺に何を求めてるんですか?」

「いや? 手ぇ出すんじゃないよ」

「俺が手を出したら捕まるんですが」

 

 彼女、中学生ですよね。

 それはダメだろ。捕まりたくねぇ。

 

「まぁ、そうだね」

「そうですよ。じゃあ、俺は夕飯の準備をしますね」

「そうかい? じゃあ頼むよ」

「ええ、任せてください」

 

 そう言って俺は台所へと向かった。

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