迷奏フィロソフィー   作:葛城イロハ

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 戦いを終え、一時の休みを得る。
 昨夜の炎は燻ぶり怪物は少女と再会する。


再会

 翌日――。

 一通のメールが届いていた。内容は昨日のこと。

 男は無数の違反を犯し、殺処分となったそうだ。きっとどこかの労働施設で死ぬまで重労働を課せられるのだろう。

 大型企業の闘技者ならともかく、中小は負ければ後がない。

 昔の俺も似たようなことをしろと言われたが、全て結果という事実で捻じ伏せてきた。

 俺のような弱者は強くなるしかない。全部を黙らせるくらいに。誰も守ってくれる人など居ないのだから。そして弱ければ全てを失う。昨日の男のように。

 

「馬鹿な奴……」

 

 朝から最悪の気分だった。

 それでも俺は止まることは許さない。それしか、生き方を知らないから。

 

「あ、おはよう」

「楽奈ちゃん。おはよう」

 

 ジッとこちらを見てくる楽奈。

 

「怒ってる?」

「なんでそう思うのかな?」

「何となく」

「何となくか~」

 

 思ったより勘が鋭い。だが話すつもりはない。

 そんな俺をよそに楽奈は俺の頭を触ってくる。

 

「よしよし」

「……」

 

 何故、撫でられているんだ。

 あの会話の内容で何でこんなことになっているのだろうか。気分屋の彼女のやることに一々反応していたら身が持たないかもしれない。

 

「何を……」

「こわがらないで」

 

 その一言に思わずドキッとしてしまう。

 まるで心の内を見透かされているようだった。不快ではない。むしろここまでよくしてくれる人がいなかったからこそ、どう対応していいのか分からなかった。

 戸惑い。

 

「ら、楽奈ちゃん。朝食にしよう」

「ん」

 

 ひとしきり彼女に撫でられた後、俺達は朝食を摂り縁側に座って日光浴をしていた。

 婆ちゃんは用事があり朝食後、すぐに家を出てしまった。

 おまけに楽奈ちゃんは俺の膝の上で寝てしまった。重くはないが動けないというのはキツイ。そして、この家に訪れる三匹の猫だ。

 この猫たち、人馴れした飼い猫なのか動けない俺をアトラクションかなにかと勘違いしているのか頭の上や肩などに引っ付いてくる。

 

「重い……」

「ぅゆ……」

「気持ちよさそうに眠ってる」

 

 それから三十分は拘束された。

 

「じゃ、あぎと……行ってきます」

「はい、行ってらっしゃい」

 

 楽奈と分かれ、俺は商店街へと向かう。

 人で賑わっている。こういう商店街はシャッター街であることが多いため意外だった。周囲を見回しながらどんな店があるのかを見る。

 山吹ベーカリー、羽沢珈琲店、北沢精肉店。色々とある。買い物をするときはここら辺を使おうと思いながら回っていく。こういうフィールドワークじみた散歩は新しい発見があるからやめられない。

 商店街を散策を終え、河川敷の方へと向かっていると河原の方で見知った人を見かけた。

 

「お~い。高松さ~ん」

「へっ⁉ あ、あの……えっと……あ、嘉村宜さん」

「こんにちは」

「あ、こんにちは」

「何してるの?」

 

 そう聞くと、高松さんはピカピカの石を見せてくる。

 

「えっと、石とかを集めるのが好き、なので……」

「俺も子供の頃よくやってたよ。どんなのを集めてるの?」

「はい、こういう珍しい形のモノとかを集めてます」

「おぉ、いいねぇ~。じゃあ、こんなのは?」

 

 そう言って俺は三角錐の角ばった石を見せると、目を輝かせながら興味深そうにこちらに近づいてきた。

 甘い匂いが鼻腔をくすぐり、少女の綺麗な柔肌が近くまで来て俺は思わず魅入ってしまう。ガン見するのはよくないのだがあまりにも近い。近すぎる。

 

「良い形だね。じゃあこんなのとかはどう?」

「おお、羽みたいな石だね」

「ふふっ。そうだね……あ」

 

 高松さんは何かに気づいたかのように急に勢いを失い縮こまってしまう。

 

「ん。どうしたの?」

「あ、えっと、すいません。私……その、好きなことで、いっぱい喋っちゃって……」

「迷惑じゃないよ。俺はむしろ高松さんのことを知れて嬉しいよ」

「そ、そうですか?」

「ああ、だからもっと聞かせてほしい」

 

 何言ってるのだろうか。

 あれ? 俺は何故、ここまで積極的に人と関わろうとしているか。普段ならサクッと世間話ぐらいで帰るはずなのに……。

 もっと居たいとそう思わされる。

 やっぱり彼女には得も言われぬ魅力がある。愛され体質なのかこう、庇護欲も刺激される。

 

「いいんですか」

「ああ。いいよ」

 

 そこから少しだけ石を見ていると高松さんの方から『くぅ~』という音が聞こえた。俺が彼女の方を見ていると、みるみる顔が赤くなっていく。

 俺は少し身体を伸ばし、携帯で時間を確認する。正午を少し回っており太陽も一番上まで昇っていた。

 

「もうお昼時か……」

「あ、す、すいません」

「いいよ。もし、この後、予定がないなら一緒に食事なんてどうですか?」

 

 自分で言っていてかなり攻めてると感じる。まだ出会って一週間程度で食事に誘うなんてどうかしてる。異性を誘ってる時点でもう終わってる。

 絶対に引かれてる。

 最悪だ。俺はいつもこうだ。余計なことをして人が離れていく。

 勝手に消沈していると服の袖を引かれる。

 

「あの、じゃあ、一緒に食べましょう」

「え、あ……はい。じゃあ、ウチでいいですか」

「はい」

 

 了承を得られてしまった。

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