「お兄ちゃん、急なんだけど明日紅音とうちでお泊まり会していい?」
「ぬあ?」
まてまてまて急に改まって珍しく話があると言ってきたと思ったらお泊り?紅音がうちに?
てっきり期間限定のブランドの服を買うためにお金を貸してほしいとかそこら辺だろうと予想していた俺は思わず間抜けな声を出していた。
「一応聞くけど…経緯は?」
「えっとねー、、」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「楽郎くんの場合はね、あれは鈍感極まりすぎてそんじょそこらのきっかけは無意味だろうからねぇ…かなり強めのイベントを用意していかないと気には留めても自覚はしないと思うよ。」
「なるほど…では無理矢理二人きりでデートをさせるとかがいいでしょうか…?」
「うーん、それもアリではあるんだけど、最初はもっとパンチのあるやつがいいかな。恋は勢い!っていうし、早めのうちに拍車をかけとかないとね。」
「なるほど!流石永遠様です!!今度何かお礼を…」
「あぁ、いいのいいの。頼まれごととはいえ私も自分から積極的に関わりにいってるんだし。それに…」
「それに?」
「いやぁなんでもないよ?」
(こんなサンラク君をいじるための特大のネタをタダで手に入れられることが何よりの報酬だからねぇ……まぁ、それ以前に単純に友人としてサンラクくんの恋を応援していっていうのもあるんだけど、さ。)
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
まさか裏でこんな策略が動いていると考えもしていない兄に対して、瑠美はそのことを悟られないようにして理由を説明をしなければならない。
「ん〜まぁ成り行きかな。ほら、私と紅音って趣味がぜんぜん違うでしょ?」
紅音の趣味はゲームで瑠美の趣味はファッション関連。部活も向こうがほぼ陸上部で確定なのに対してこっちは帰宅部。(服を買うためのバイト三昧)確かに共通している部分なんて皆無に等しいな。
「だからお互いの好きなものについて色々語り合ってたらさ、一晩中語り合いたいってなってさ。」
瑠美の説明した内容は真の目的ではないものの、紅音と約束した時の事実であり本音でもあった。そのためまずバレることはないだろう。
「それで今回につながったのか。まぁ、俺が止めるっていうのも変だしな。別にいいぞ。母さんも父さんも明々後日の土曜に帰ってくるらしいし。飯とかは俺がやっとくから存分に楽しめよ。」
「え、、うん。ありがとう。」
お泊りする旨を聞いて今の兄なら少しは動揺するだろうと思っていたが、思いの外あっさりとした対応で瑠美は唖然とした、、、、が
二階に戻っていく兄の拳が緊張を感じさせるように強く握られているのを目撃した瑠美は、安心したと同時に、意外と、明日と明後日で一気にゴールに近づくのではないのかと思うとにやけが止まらなかった。
「マジかよ…」
自室のベッドに体の前側から抵抗することなく倒れ込み、思わず呟く。
季節は夏。ギラギラと太陽が照る猛暑の中、蝉たちが短命でありながらも自らの存在を世界に主張するように鳴いている。しかしその叫びも、他のどんな音さえも今の楽郎の耳には届かない。自分の感情を理解することも、整理することもかなわない今の楽郎には…………
更に明日を控え、自分を抑えきれないのは楽郎だけではなく…
先日、いくらたっても本名で読んでくれないその人に、本名どころか名前を呼ばせてしまった。名前を直に言われた時、平静を装ってはいたが、頭の中は真っ白になっていた。しかしそれとは対極に、胸のあたりは暖かくて今にも爆発しそうな何かで埋め尽くされていた。
「〜〜〜っ」
思い出すだけでまた同じ気持ちで埋め尽くされてしまいそうになる。
紅音は衝動的に家を飛び出し、目的もなく、乾いた、見渡す限り雲一つない真っ青な空に向かって走り出した。