異世界で、凡夫と決別して最強を目指す!   作:六畳仙人(ハーメルン)

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邂逅

 

 

———夢を見ていた。

 

 それは、とあるひとりの平凡な高校生の青年が死を迎えた時の夢。

 

 僕の前世の最期——平凡な高校生だった僕が死を迎えたときの記憶だった。

 

 夢の中で、当時の自分を俯瞰して見ているような感覚に包まれる。

 

 あの頃の僕は、何一つ取り柄のない、ごく平均的な存在だった。

 

 容姿も普通、成績も普通、運動神経も凡庸。どこをどう切り取っても「普通」の範疇を超えない——そんな人間だった。

 

———勇気なんて、どこかに置き忘れてしまった。

 

 子供の頃は、どこか純粋で、自分がヒーローにでもなれるような気がしていた。

 

 小さな体でクラスのいじめっ子に立ち向かっていた無邪気に正義感を振りかざしていたあの頃。

 

 だが、現実を知るにつれ、それはあっという間に消えてしまった。

 

 普通の人間は、たったひとりでいじめをどうにかすることなんてできない。

 

 できることといえば、綺麗ごとを語るが深くは関わってこない教師に告げ口をするか……いじめられていた子に代わって、いじめの対象を引き受けることぐらいだ。

 

———僕は勇気ある特別な人間にはなれなかった。

 

 だから、進学してからは、クラスでイジメが起きても巻き込まれないように愛想笑いを浮かべて見て見ぬふりをするようになった。

 

 助けを求めるような目を向けられても、関わりたくない一心で、愛想笑いを浮かべるだけだった。

 

 帰り道で名も知らぬ誰かが不良に囲まれているのを目にしても、どうせ何もできず、ロクな目にあわないからと、関わらないように無視をした。

 

 怖かったのか、面倒だったのか。とにかく、僕は何もしなかった。

 

———何もしない、誰も助けない。

 

 それが僕だった。

 ただ生きているだけの、どうしようもない()()。その言葉に尽きる。

 

 けれど、あの瞬間——最期だけは、なぜか違った。

 

 記憶の底から唐突に蘇る、前世の最期の光景。

 

 僕は、咄嗟に誰かを庇おうとしていた。

 

 庇っていたのは、小柄な少女だった。

 

 制服を着たその子が誰なのか、なぜ僕が彼女を庇おうとしたのかは思い出せない。

 

 友達だったのか、それともただ通りすがりの他人だったのか、あるいはそれ以上の関係だったのか——そんなことさえ分からない。

 

 だが、確かに僕は彼女のことを庇おうとしていた。体を動かしていた。

 

 刃物を持った不審者が彼女に襲いかかる瞬間、反射的に僕は彼女の前に飛び出していた。

 

 一生に一度あるかないかの特別なことを——最期の刻だけは勇気ある行動をしていたのは確かだった。

 

———けど、それも無駄だった。

 

 僕の体に突き刺さった凶刃。それは簡単に僕を刺し貫き、鮮血と共に引き抜かれたその刃は、そのまま僕が守ろうとした少女の胸にも容赦なく突き刺さった。

 

 彼女を守ることはできなかった。

 僕の最期の勇気なんて、ただカッコつけただけの無駄死にだった。

 結局、僕の人生は、何もできない凡夫のまま終わったのだ。

 

———ほんの一握りの勇気じゃ足りない。

 

 弱かった。力がなかった。ただそれだけのことだ。身体を鍛えていたわけでもない。武術を鍛えていたわけでもない。生まれながらの天賦の才もない。

 

 凡夫である僕には、彼女を守る力なんて何もなかった。

 

———ああ、そういうことか……。

 

 夢の中で、前世の自分の最期を改めて思い出した僕は、何かが腑に落ちたような気がした。

 

 僕がなぜこの世界で己を鍛えようと思ったのか。

 なぜ、ここまで凡夫を嫌悪し、強く、特別な存在になろうとしてきたのか——。

 

———あの時、僕は特別な力が欲しかったんだ。

 

 僕が心の底から望んだのは、誰もが羨むような地位や名声なんかじゃない。あの瞬間、目の前の少女を救えるだけの、特別な力が欲しかった。それだけだった。

 

 だから、死ぬ間際に思ったんだ。

 

———今度こそ……誰かを助けられる存在になりたい。

 

 もしも生まれ変わるなら……どんな困難からも、どんな悲劇からも。僕が手を伸ばせば救える存在に。

 

 前世の自分のように何もできない凡夫ではなく、誰かの命を救える——そんな力を持つ特別な存在になりたかった。

 

———凡夫な存在が嫌いだったのは、あの時の僕自身を思い出すからだ。

 

 僕が決別したかった「凡夫」な存在とは何だったのか——それもようやく分かった。

 

 それは最後まで何もできなかった前世の僕自身だ。最後に見せた勇気すら、何の意味も生み出せなかった、あの弱く、醜く、どうしようもない自分。

 

 だからこそ、僕は変わりたかった。

 

 凡夫と決別し、最強の存在へと辿り着きたかった。

 

 あの時なかった力を、今度こそ手に入れるために。

 

 あの時何もできなかった贖罪を果たすために。

 

 そして、夢はそこで途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

◼️◼️◼️

 

 目を覚ますと、そこは見たこともない不思議な空間だった。

 

「ここは……?」

 

 身体を起こしたアメジアの口から自然と言葉が漏れる。

 

 そのまま立ち上がり、改めて周囲を見渡すと、そこには目を奪われるような光景が広がっていた。

 

 頭上には無数の星々がきらめき、まるで宇宙空間に浮かんでいるのかと思わず錯覚させられる。

 

 さらに驚いたのは、足元だった。地面と思われる場所もまた星空のように輝き、鏡のように天で煌めく星々とアメジアの姿を映し出していた。

 

(本当にどこだ……?)

 

 現実感がまるでない。目覚めたばかりのアメジアには、この場所がどこなのか、何のためにここにいるのか、まるで検討がつかなかった。ただ、この幻想的な星空に包まれる感覚は、妙に心地良いと感じた。

 

「お、目が覚めたようだな」

 

 不意に背後から声がした。その声は、アメジアが意識を失う直前に聞いた声と同じだった。驚いて振り向くと、そこには一人の青年が立っていた。

 

 青年は、ぼろきれのようなマントを羽織り、薄汚れた制服のような服を身にまとっていた。

 

 その姿はどこかやつれているように見えるが、背筋はまっすぐに伸び、鋭く感じる目に宿る光には揺るぎない力強さが感じられた。

 

 そして金髪に紅い瞳——どこか見覚えがある顔立ちだった。

 

「君が……」

 

「そう、俺がジアだ」

 

 青年——ジアが静かに名乗った。その声は穏やかでありながら、どこか底知れぬ力を感じさせる響きを持っていた。

 

「ここは精神世界だ」

 

 ジアはアメジアの視線を受け止めながら説明を続けた。

 

「ここなら、肉体を失った俺でも、お前と直接対話ができる」

 

 精神世界。聞き慣れない言葉だが、確かにこの空間が現実とは異なるものだというのは、直感的に分かった。

 

「安心しろ」

 

 さらにジアは微笑みながら、さらりと信じられないことを告げる。

 

「今回の出来事はすべて魔法でなかったことにしておいた。それに、襲撃してきた魔人族もぶち殺しておいたから安心していいぞ」

 

 その言葉に、アメジアは思わず息を呑む。村を襲った魔人族(グリゴリアス)を、あの圧倒的な強さを持つ存在を、簡単に「ぶち殺した」と言ったのだ。しかも、それだけではなかった。

 

 記憶が流れ込む。

 

 突然、ジアが身体を使って戦っていた間の出来事が、次々とアメジアの頭の中に流れ込んできた。

 

 魔法によって時が巻き戻される世界。ジアの圧倒的な力の前に一方的に叩きのめされる魔人族。そして魔法で生み出されたブラックホールが全てを飲み込む光景———

 

(これが……ジアの力……?)

 

 圧倒的な力だった。その記憶を目の当たりにするたびに、アメジアの中で彼に対する恐れとその力への憧れが激しく交錯していくのを感じた。

 

「さて、では改めて自己紹介といこうか」

 

 ジアが咳払いをしながら言った。その仕草はとても洗練されていて、どこか儀式めいた雰囲気さえ感じさせた。

 

「俺の名前はジア——いや、お前にはこう名乗るべきだろう」

 

 一瞬の間を置いて、彼は続けた。そして次の瞬間、彼は驚くべき言葉を口にした。

 

「俺の本来の名前はアメジア——そう、未来のお前だ」

 

 その言葉を耳にした瞬間、アメジアの脳内は一瞬にして混乱に陥った。

 

 

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