Bloody Arriver   作:Ziz555

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Ep20. ウラギリモノ

 

「いたぞ!“スクワッド”だ!!」

 

 誰のものともわからぬ声が響き、その声に続くようにして銃声が響く。

 

「こちらの動きは読んでいる、と言うことか」

「まあ、最後の一つだから。……とはいえ」

 

 先頭を走るサオリは、狙いの甘い銃撃の合間を縫って走りながら目の前の敵を見据え、そんな彼女の数歩後に追従するミサキは、ランチャーを放つ為に足を止めた。

 

 そんな彼女達の後から、一人の影が飛びだした。

 

「――“私”の事までは、読んでいないでしょう」

 

 暗闇の中、その白銀の髪が、僅かな光を反射して煌めいた。

 

「閃光弾、投擲」

 

 懐に備えていた閃光弾のピンを引き抜き、標的へ向けて投擲する。

 

「アレは……トリニティ!?」

 

 敵対するアリウス生が、スズミの存在を認識した瞬間、閃光弾が爆ぜた。

 ガスマスクを装着しており、ベアトリーチェの教育により戦闘訓練を積んでいる彼女たちにとって、閃光弾の対応など、手慣れたものである。

 昏倒するほどの事は起こり得ないし、その光も音も、冷静に対処ができる。

 

 だが、その“一瞬”。後手に回るその一瞬さえあれば、十分だ。

 

 ミサキがランチャーの引き金を引く。それは、閃光弾の炸裂とほぼ同時だった。

 

 音と閃光に紛れ、多量の炸薬を載せた弾頭が飛来し、アリウス生達の陣形の中心で炸裂する。

 

 爆音と衝撃、閃光から立て続け2連撃。

 

「うわぁぁぁぁっ!?」

 

 当然、閃光弾への姿勢は取っていても、衝撃への体勢を取れていない彼女たちはその一撃を受けて吹き飛んだ。

 

「進路、クリア。行くぞ」

 

 今の彼女達の目標は、敵部隊の制圧ではない。行く手を阻む者さえいなくなれば、それで十分だった。

 サオリの先導に従い、彼女たちは地下道を奥へ奥へと駆け抜けてゆく。

 

 

 

 現在、サオリ達スクワッドに、『先生』とスズミを加えたメンバーは、アリウス自治区へ侵入するために地下道を駆け抜けていた。

 

 アリウス自治区は秘匿された土地に存在しており、通常のルートではまず立ち入ることすら叶わない。

 トリニティ自治区と行き来するための方法として存在しているのが、地下のカタコンベを通る経路のみであるが、このカタコンベには奇妙な仕掛けが存在していた。

 一定時間事にその内部構造を複雑に変化させ続ける、人知を超えた特殊な現象が起こる。その為、カタコンベに置いては地図が意味を持たず、その複雑に変化し続ける特性でもってアリウス自治区はその存在を隠匿し続けることが出来ていたのだ。

 

 アリウスを裏切った身であるサオリ達は、現在のカタコンベの構造がどうなっているのか、どの様な経路を辿ればアリウス自治区へと辿り着けるのかを知るすべを持たない。

 

 ――たった一つを除いて。

 

「“日付変更まで時間がない……みんな、もう少し頑張って!”」

 

 一つ。たった一つだけ残されたそのルートは、今日の日付の変わるその瞬間までしか使うことが出来ない。故に、そのカタコンベの入口へとつながる地下道を、彼女達は全速力で駆け抜けていた。

 

「こ、このペースならなんとか間に合いそうですね……!」

「油断はできない。……とはいえ、思っていたより楽なのは間違いないけど」

「そうだな。アツコが欠けた戦力分、立ち回りを変えなければならないかと思っていたが――」

 

 そう言いながら、サオリは自分達のそばを走る“助っ人”へと目を向ける。

 

「……私、ですか?」

「ああ、正義実現委員会でもない、素人の自警団と言う割によく動く。本当に所属では無いのか?」

「違いますよ。私はただ、眼の前の争いを見過ごせないだけですから」

 

 サオリの問いかけに、スズミは苦笑いを返した。

 

 サオリ達のチームは“スクワッド”、つまり四人組で動くチームとして長い間活動を行っていた。それは、“姫”として扱われていたアツコも例外ではない。

 故に、アツコが欠けたことでそのチームとしての戦力には頭数以上の欠損と低下が予測されていたのだが、サオリにとって良きせぬ援軍であるスズミの存在は、大きなモノとなっていた。

 スズミの戦闘スタイルは、閃光弾を駆使した速攻制圧を主としており、奇襲性と電撃作戦向きのゲリラ屋である。それはともすれば、スクワッド……アリウスの基本戦法にも通ずるところがあった。

 その戦法を取る目的は違えど、チームを率いるサオリにとって、戦い方が近しいスズミと連携を取るのは容易く、又、彼女たちの総合的な指揮を取る『先生』の存在も相まって、彼女達の進撃を止めることは、アリウス生にはほぼ不可能な程になっていた。

 

 アリウス生徒の中でも選りすぐりのエリート兵。それらを蹴散らしながら地下道を進んでいく彼女達。

 

 このまま行けば、そんな事を考えている最中、突如として目の前に立ちはだかっていたアリウス生が、脇からの弾丸により一蹴された。

 

 

 

「――ふふっ、やっぱりここに来ると思ってたよ。大当たり!」

 

 

 

 弾丸をはなった張本人。その少女が、サオリの前へと立ちはだかった。

 

 

 

「聖園、ミカ……」

「悪役登場☆ってところかな!……まだ覚えていてくれたんだね?」

 

 トリニティのティーパーティー、その一角を担いながら、アリウスの甘言に惑わされ――“裏切り者”の汚名を被った少女。

 

「会えて嬉しい……って顔じゃなさそうだけど、どうしたの?」

 

 親友である少女の命を狙い、トリニティの安寧を見出したその少女は、生徒達の恨みを買い。結果、こう呼ばれることとなる――

 

 

 

「そんな、“魔女”でも見たみたいな顔しちゃって」

 

 

 

 ――裏切り者の、“魔女”。

 

 

 

「……檻の中にいると聞いていたが」

「出てきちゃった☆早く、あなた達に会いたくってさ」

 

 貼り付けたような、不気味な笑みを浮かべる魔女は、サオリと、その仲間であるスクワッドの面々の表情を見回す。

 

「だってほら。……私達、まだお話しなくちゃならない事があるんじゃないか――うん?」

 

 そうして、その中に混じる、見慣れた装いの少女の姿が目に留まる。

 

「……あれ?あなた、トリニティの生徒だよね?なんでこんな所にいるの?」

 

 ミカのその問いに対し、スズミはちらりとサオリへと目配せをしてから、一歩前へと出る。

 

「はい。私はトリニティ総合学園2年。自警団所属、守月スズミと申します。こうしてお目にかかるのは初めてですね、聖園ミカさん」

「自警団……?ああ、あの非認可の。それで?そんな自警団がトリニティの敵であるアリウスと、何をしてるの?」

 

 不思議そうにしていた、ミカの表情に、再び歪んだ笑顔が戻る。

 

「――もしかして、あなたも“裏切り者”?」

 

 その言葉に、どれほどの意味が込められているのか。“裏切り者の魔女”と呼ばれたその少女が問うその言葉には、憐憫と、嘲笑と、そして。僅かばかりの、縋るような、そんな。

 

「いいえ。私はただ、自警団としての任を果たしているだけです」

 

 しかし、スズミははっきりとその言葉を切り捨てた。

 

「アリウスに与することが、自警団のすべき事なの?」

 

 怪訝そうにスズミを見るミカ。

 

「助けを求めている人に手を差し伸べる事です。……勝手に先走った、仲間を助ける為でもありますが」

「仲間?……ああ。もしかして、“吸血鬼”くんの事?」

 

 “吸血鬼”。そう呼ばれる存在を、スズミは一人しか知らない。

 ピクリと眉を動かしたスズミの様子に、ミカは己の当てずっぽうの勘が当たっていたことを理解する。

 

「タカツキは吸血鬼ではありません」

「でも、私達とは何から何まで違う“バケモノ”なんでしょう?私も、話だけは聞いて知ってるんだ。自警団を自称するバケモノが、戦場を引っ掻き回してたって。……それをかばう、一人の健気な女のコの話も、ね?」

 

 クスクスと笑いながらミカはスズミの様子を窺う。

 

「やめておいたほうが良いよ。きっと、あなたも“裏切られる”からさ」

「タカツキは、裏切りません」

「するよ。だって、ほら」

 

 濁った瞳に、口の両端を釣り上げて嗤いながら。ミカは両手を広げて己を示す。

 

 

 

「“魔女”も“吸血鬼”も。おんなじ“ワルモノ”でしょ?」

 

 

 

「ワルモノに騙されちゃって……可愛そうだね。だからせめて、その悪い夢から、覚ましてあげるよ」

「……」

 

 

 スズミは、そんな事を語るミカの“瞳”を見ていた。

 

 深く、暗く、淀み、濁りきったその瞳を。

 

 絶望に染まった、正しくモノを見ることができなくなった人の、そんな瞳。

 

「――スズミ」

「決まりましたか?」

「今の消耗具合で聖園ミカと正面からやり合うのは分が悪すぎる。……後方で待つ先生の指揮が必要だ。ヒヨリに呼んできてもらう」

「では、最も余力がある私が前線を。皆さんは支援をお願いします。目的は強行突破であって、打倒では無い。それで良いですね」

「……話が早いな」

 

 スズミの目配せを受けて、後方でミサキ、ヒヨリとともに作戦会議を済ませてきたサオリの言葉を聞きながら、スズミがセーフティのマガジンをリロードする。

 

「わーお。やる気なんだ。……私、結構強いんだよ?」

「そうですね。おそらく、勝つことは難しいでしょう。ですが、今はあなたの事は“後回し”とさせて頂きます」

「――ふぅん。本当にアリウスと手を組んでるんだ。良いの?その人達、あなたの護りたかったモノを壊したんだよ?……あっ。それは私もおんなじか」

 

 一歩。ミカが前へ出る。

 

「例え誰であっても。私は助けを必要とするのであれば手を貸します」

 

 一歩。スズミが踏み出す。

 

「あはっ☆それが敵でも“バケモノ”でも?だから、手を貸すんだ。……たとえ、裏切られるとしても」

「ご心配には及びませんよ」

 

 二歩。互いの視線が、交差する。

 

「私は。“タカツキ”の事を……信じていますから」

「……私。そういう馬鹿みたいな根拠のない自信、キライなんだよね」

 

 三歩。両者の銃が、火を吹いた。

 

 銃撃と共に、両者は地面を蹴って移動を開始した。

 

「……っ。速い……!」

「結構速いんだね、あなたも」

 

 速度は互角か、僅かにミカが早い程度。互いに銃撃を交わしながら、両者は出方を伺っていた。

 隙があれば距離を詰めようと伺うミカに対し、その足運びに、気づいているスズミがそれをさせまいと距離を保つ。

 

「この速度……私の武器じゃ誤射は避けられない」

「ただ走っている様に見えて、私達の射線との間に必ずスズミを挟むように移動をしている。……力ばかりの戦闘ではない、コレが……聖園ミカか」

 

 そんなスズミとミカの交戦に、サオリとミサキは手をこまねく。スズミの戦術を知らない彼女達にとって、不用意な射撃の流れ弾が彼女の背後に刺さる事は、敗北に直結することを理解していた。

 

 だが、日付が変わるまで、残り30分とない。

 

 戦況も、五分と呼ぶには余りにも無理があった。

 

「ほらほら、もっとちゃんと走らないと。距離、詰められたくないんでしょ☆」

「くっ……!」

 

 速度はほぼ互角と評した両者の戦いであったが、そのパワーには大きな開きがあった。

 弾丸に込められた“神秘”の量には大きな開きがあり、スズミの弾丸のそれに比べて、ミカの放つ銃弾には一発一発に致命的な程の神秘が込められている。

 同じ弾丸であれど、被弾した際のリスクにはあまりに開きがあり、そしてそれは、ミカの放つプレッシャーとなってスズミの神経をすり減らす。

 

 今のところスズミに被弾はない。だが、それが、それだけが首の皮一枚である事は、その場の全員にとって明白な事実であった。

 

 膠着。それも、余裕のないその戦況に、スズミ達は冷や汗を流す。このままでは、いずれ――。

 

「――ねぇ。スズミちゃん」

 

 戦闘の最中、ミカが口を開く。

 

「アナタはさ、私が何をやったか、知ってる?アナタが助けようとしてる、後の子たちが何をしたのか、知ってる?」

「いきなり何を……」

「セイアちゃんはね、人を怒らせる天才なんだ。何回グーパンが出そうになったか、分かんないぐらい」

 

 スズミは、会話に耳を傾けながら、しかし相手の隙を伺う。

 あくまでこの戦闘の目的は、勝利ではなく、突破。であるならば、不意の閃光弾。その一発で事足りる。

 どれだけ不利であろうと、その隙を見つけ出すことさえ出来れば目的は達せられると分かっているからこそ、スズミは敢えて彼女の会話に乗った。

 

「……セイアさん。ティーパーティーの、被害者」

「うん。……最初はね、“死んだ”んじゃないかって。そう思われてたんだ。そう聞いたときは、私も凄く心配だった。胸が締まるような思いがして、苦しくて、息が出来なくなりそうだった」

 

 

 

「――手引をしたのは、私なのにね?」

 

 

 

「……!?」

「アリウスに騙された。なんて言い方は、ズルかな。私だって少なからずその思惑に乗っかろうとしてたのは確かだし、その後の大暴れは私の独断だから……私がトリニティを裏切った事実は変わらないし」

 

 ――エデン条約の少し前。ティーパーティーの内部でいざこざがあったと言う話は、スズミも自警団の情報網で掴んでいた。

 だが、その事の真相に、驚愕と動揺を隠せない。

 

「でもねでもね?私はちゃーんと、“痛めつける”ぐらいで止めるように言ったんだよ?結局、本気で殺そうとして、その後、アリウスの思惑通りに何もかもが進むことになっちゃったけど。私もさ、最初はただ、アリウスの皆と仲良く出来れば良いなって。そう思ってたんだけどね?」

 

 陰湿な、濁った瞳のまま、道化のように……“魔女”は嗤う。

 

「その結果が――“今の私(裏切り者の魔女)”」

 

 ケタケタと、狂ったように嗤いながらミカはスズミの様子を窺う。

 

「……何が言いたいんですか」

「んー?さあ、なんでしょう。でもさ、なんだかちょっと、にてると思わない?」

 

 ミカは静かに自分を指さして。「私と」。次に、スズミを示す。「貴女」。互いの事を示す様にそう口にしてから。

 

「――どっちも、相手の立場を顧みず、手を差し伸べただけじゃん、ね?」

「……ッ!?」

「あっはははは!そんなにショック受けないでよ!――事実を言っただけでしょ?」

 

 自然と、ミカとスズミの足が止まる。

 

「やめときなって。あなたがどんなに信じても。貴女がどれだけ尽くしても。あなたはきっと、裏切られる。……そうしたらさ、私みたいに、なっちゃうよ?」

「……」

「“トリニティの吸血鬼”を助けに、アリウスに行くんだろうけど。その彼は本当に助けを求めていたのかな?もともとアリウスの戦力で、目的があって帰っただけかも?」

「…………」

「信じるなんて、やめときなって。……人はいざとなったら。幼馴染でさえ……裏切れちゃうんだからさ」

 

 卑屈な笑みを浮かべながら、ミカはスズミを諭すようにそう告げて。

 スズミは――

 

 

 

「そうかも知れませんね」

 

 

 

「ですが」

 

 

 

 再び静かに、銃を構える。

 

「それでも、私はタカツキを信じます。それは、私自身が決めたこと。私が彼を信じたいと思うから、信じるんです」

「……………………」

「共にいるから信じるのではありません。…………信じているから、共にいるのです。だから私は――迷わない」

 

 赤い瞳の、揺らぎのない強い視線で、ミカの濁った眼を貫いた。

 

「……なに、それ」

 

 呆然と、ミカは呟く。

 

「だって、相手は“バケモノ”なんでしょ?共存できない、相容れない、もう、私達とは違うってはっきり分かってる相手なんでしょ?」

 

 手を震わせて。声を震わせ。俯きながら言葉を続ける。

 

「どうして、わっかんないかなぁ。私が、せっかく親切に教えてあげたのに。危険だって言ってあげてるのに、私の言葉は信じないくせに――」

 

 

 

「――誰も私を、信じてくれないのに!!」

 

 

 

 再びミカは、銃口を向ける。

 

「口で言ってもわからないなら、本気であなた達を叩き潰して、ここで終わりにしてあげるよ!だって私は、悪い子で、悪役で、悪魔の使いの――“裏切り者の魔女”なんだから、さぁっ!!!!」

 

 

 

 

 

「“ちょっと待った!!”」

 

 

 

 

 突如として、一人の大人の声が響いた。

 

 視線がその方へ集まる。

 

「――せ、せ、先生……!?」

「先生……」

 

 ヒヨリの案内のもと、この場へと駆け込んできた『先生』は、周囲を見回してその状況を把握すると、静かにミカの様子を見る。

 

「“ミカ……一体ここで何をしてるの?”」

「わ、私は……えっと、その」

 

 銃口を向けていたミカは、しどろもどろになりながら、先生の言葉に答えを探す。

 

 唯一、自分の事も守るべき生徒だと、そう言い、励まして。――信じてくれた、『先生』に、なんと言い訳をすればいいか、分からなかった。

 

「そ、それより……どうして。どうして先生までもがスクワッドと一緒にいるの……?」

 

 そしてそれは、混乱につながる。スズミだけではなく、『先生』までもが“スクワッド(自分を騙した敵)”に加担していると言う現実が、ミカには受け入れられなかった。だって、コレではまるで――。

 

「なんで……?なんで、どうして……?ど、うして、こんな事になっちゃうの……?よりによって、こんな姿を、先生に……」

「“……ミカ?”」

 

 今にも泣き出しそうな顔で、慄くように怯えるミカに、先生が歩みより――。

 

 

 

 

「いたぞ!スクワッドだ!」

「聖園ミカもいるぞ、撃て!!」

 

 

 

 乱入者の怒声に、その場の意識が全て集まった。

 

 一人を除いて。

 

 

 

「――今ッ!!」

 

 

 

 スズミは、追手の銃撃が始まるより先。即座に閃光弾のピンを抜き、声を上げた。

 

 閃光と爆音が響く。

 

「先生!皆さん!」

「……ここを抜ける!!全員、走れ!!」

 

 混乱に紛れ、スズミを先頭に先生とスクワッドはカタコンベの奥へと走り出す。

 

「先生……!」

「“ミカは、トリニティに戻ってるんだ!必ず戻るから!!”」

 

 閃光の中で、見失った『先生』を求めるミカの声に、『先生』は諌めるように言葉を告げて走り去ってゆく。

 

 眩んでいた視界が戻る頃には、彼とスクワッド、スズミの姿は、そこにはなかった。

 

「……先生、どう、して」

 

 自分を置いて何処かへと走り去った『先生』の事を思い、ミカは呆然と呟く。

 そんな彼女の背中に、冷たく、硬いものが押し付けられた。

 

「――聖園ミカ。貴様、なぜここに居る」

 

 アリウスの生徒の一人が、警戒を緩めること無く、そう問いかけた。

 

「何のつもり?」

「貴様は一時的、我々アリウスの手助けをしてくれていた恩がある。この場からすぐに立ち去るのであれば、我々も手荒な真似はしない」

「……この程度の人数で私の相手をするつもり?ちゃんと脳みそ入ってる?」

 

 ミカは、へらりと笑顔を浮かべて、顔だけを振り返って、背後の生徒の顔を見た。

 

「もしかして、私一人だから勝てると思ってる?あっははは、おっかしー……。それ、日常生活大変じゃない?」

「……」

「だんまり?……もしかして、“スクワッド”を庇うつもりだったり、する?」

「……?」

 

 ミカの言葉に、アリウスの生徒は怪訝そうな反応を返す。予想とは異なる反応が見えたミカは、うっすらと目を細めた。そんなミカに対し、アリウスの生徒は淡々と答えを返す。

 

「いや……私たちが追っているのは“スクワッド”だ」

「えっ?」

「“スクワッド”はアリウスを裏切って逃げた。彼女たちを処分するのが我々の任務だ」

「なにそれ。どういうこと?……つまり、味方に捨てられちゃったんだ、あいつら」

「何をぶつぶつと」

「人を騙した人の結末がこれ?……だから先生は、身を挺して、危機に陥っている子の為に……スズミって子は……またちょっと違うかもだけど」

「おい、聞いているのか」

 

 ぐい。と、ミカの背中に押し付けられた銃口を強く押し込む、返事も返さず、一人何かを考えこむ様子のミカに対し、その立場を分からせるために。

 

「本当に、もう――」

「これが最後の警告だ、ここで退かねばお前も……」

 

 

 

 「――救えないな」

 

 

 

 振り向きざまの一撃。ミカの左拳の甲が、背後のアリウス生徒に突き刺さった。

 

 一撃でガスマスクが粉砕され、顔面を打ち据えられた少女はそのまま通路の壁へと叩きつけられた。

 

「っ!?全員、撃てぇーッ!!」

 

 突如行われた攻撃に、残った面々の銃口から反撃の鉛玉が飛び出し、ミカへと降り注いだ。

 

 

 

 だが。

 

 

 

「本当に、救えないよね。……もちろん、あなた達も」

「な……なぜだ!?なぜ、攻撃が……!!」

 

 銃弾の雨の中、微動だにしないミカは、ゆっくりと彼女たちへの距離を詰める。

 

「そんなことも分からないの?……ねえねえ、私達ってさ、攻撃を強くするために、銃弾に“神秘”を込めるよね?」

「う、撃て!ひるむな!無意味ではないはずだ!!」

「ううん。無駄だよ。だって、ほら」

 

 ぶわり。

 

 その場にいた誰もが一瞬、彼女から放たれる“圧力”に、息をのむ。

 気迫に気おされたのか?恐怖に身がすくんだのか?

 

 いいや、違う。

 

「――“神秘”で強化できるなら、“神秘”で威力を防ぐことだってできて当然、でしょ?」

 

 それは、“聖園ミカ”から放たれる圧倒的な――“神秘”のオーラ。

 

「な、ん、なんだ……お前」

「だから言ったじゃーん。“一人だから勝てるとでも思ってるの?”って」

 

 少女が、ゆっくりと銃を構える。

 

「全員束になったって。私には届かないよ」

 

 この場の他のすべての神秘をかき集めても、彼女(聖園ミカ)には――届かない。

 

 「じゃ、私は“スクワッド”を追うけど……あなた達、面倒だから――」

 

 

 

 「――潰すね☆」

 

 

 

 「ば……」

 

 

 

 「バケ……モノ……」

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