Bloody Arriver   作:Ziz555

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Ep.26 Vigilant

 

 

「私は、どちらでも構いませんよ。『先生』?……あーッはっはっはっはっはっ!!」

「“くっ……!”」

 

 ベアトリーチェが嗤う。勝ちを確信し、その力の優越感に浸る。

『先生』は、苦悶の表情を浮かべて、決断を迫られる。……眼の前の“大人”を倒さなくてはならない。だが、その為に生徒を見捨てる事は、出来ない。

 

 コレ以上の犠牲は、もう――。

 

 

 

 

 

「――アレは俺に任せろ」

 

 

 

 

 声が響いた。

 

 その声にベアトリーチェは耳を疑い、『先生』は驚きの表情のまま振り返る。

 

 

 

 ――一人の少年が。白銀の少女を抱きかかえて、そこに立っていた。

 

 

 

「――――バカな!?“No.(ナンバー)16”!?なぜオマエが!!」

「“…………”」

 

 そこに立つ彼の姿に、ベアトリーチェは驚愕と動揺を隠せず、声を荒げ。『先生』は、僅かに目を細めて彼を見た。

 

「“君は……本当に、タカツキくんかい?”」

 

 『先生』がそう問いかけるのも無理はない。……黒かった筈の彼の髪は、一房が白銀に染まり、その眼も黒から赤へと変わっていた。

 それに、何よりも――。

 

「“その、ヘイローは”」

「アンタにはわかるのか」

 

 無色透明な、朧げであやふやだった筈のタカツキのヘイローは。砕け散ってしまった筈のソレは、明確な存在感を持ってそこに浮かんでいた。

 そこに――“守月スズミ”の気配を感じさせる様相となって。

 

「俺が“タカツキ”かなんて、今はどうだって良い。俺はただ、スズミと俺の成すべきことを成すだけだ」

「“……成すべきこと?”」

「ああ」

 

 少年は、『先生』へと静かに歩み寄る。

 

「スズミの身体を頼む。……“神秘”を使い果たして、今は眠ってるんだ。守っておいて欲しい」

「“君は、どうするの?”」

「決まってる」

 

 横抱きにしていたスズミの身体を、『先生』へと預けた少年は、懐にしまっていた一丁の拳銃をその手に取った。

 

「あの“バケモノ”を倒す。アンタは生徒を護ってやってくれ」

 

 決意と、覚悟に満ち溢れたその背中に、『先生』は一瞬だけ呆けたような顔をしてから――笑みを浮かべる。

 

「“わかった。任せるよ”」

 

 その言葉に、少年は振り返って小さく笑みを返してから、標的を見上げる。

 

「これも、自警団任務の延長だ。……行くぞ」

 

 呟くようにその言葉を残して、彼はベアトリーチェへと駆け出した。

 

「“……よし、私達も行こう。アロナ”」

 

 そんな彼の背中を見送った『先生』は、腰に指していたタブレットへとそう声を掛ける。

 

「“うん。『大人のカード』は使わないよ。サオリ達の支援に行くんだ。……フォロー、任せるね”」

 

 ここにいない誰かと会話するようにしながら、『先生』はスズミを抱きかかえたままサオリ達が戦っている場へと足を進めるのだった。

 

 

 

 

 

「その姿。……そんな力は、貴方に与えた記憶はない。一体どこでそんな力を手にしたというのですか」

「さあな。少なくとも、オマエにゃ一生わからねぇよ」

 

 異形の肉体のまま、ベアトリーチェは眼前に立つ少年を見下ろす。彼の纏う気配は、確かにこれまでとは一線を画す輝きを秘めていた。

 

「神秘を吸収し、蓄積する……その身体に何かしらの変異が起きた。と言うことでしょうか。……死の淵より蘇るほどの再生機能も、その変容に起因するとするなら――」

「ゴチャゴチャうるせぇな。考えた所で無駄なんだよ。オマエはここで、俺に負ける」

「……随分な自信ですね。そんなちっぽけな、たった一人の力で何ができるというのでしょうか?」

「一人?……違うな」

 

 少年は、拳銃を握ったまま、静かに脚に力を溜めた。

 

「これは、俺達の力だ」

 

 ダンッ!……一際大きな衝突音が響き、少年の姿が消える。ベアトリーチェは、突如として姿を消した光景に、己の目を疑った。

 

 いや、違う。

 

 駆け出したのだ。ただ、一歩。全力で。

 

「そォらァッ!!」

「ギャンッ……!?」

 

 閃光が走る。

 

 瞬く間もなく、ベアトリーチェの眼前へと現れた少年の蹴撃が、ベアトリーチェの頭部を襲う。

 強烈な一撃に、ベアトリーチェはくぐもった悲鳴を上げて、大きくその身体をよろけさせた。

 その隙を少年は見逃さず、即座に拳銃に“神秘(チカラ)”を込めて連射した。

 込められた“神秘(チカラ)”の純度の高さから、眩い光を放つそれらの弾丸は、強烈な貫通力で持ってベアトリーチェの眼へと――突き刺さる。

 

「グァァァァァッッッ!?目……目が、ッ!!私の……目がぁぁぁぁ!?!?」

「騒ぐなよ。目なんて二つあれば十分だろ?」

 

 無数に備わっていた異形の眼の大半を失ったベアトリーチェは、赤黒い血のようなものを流しながら悶え苦しむ。

 

「こンの……ッ!!クソガキがぁぁぁぁぁぁッッッッ!!!!」

「下らない因縁に決着をつけようぜ、クソババア」

 

 怒り狂い、狂気の視線を残りの眼から向けられながら、少年は不敵に笑って武器を構えた。

 

 

 

 

 

「先行するから、当てないでよね……サオリ!!」

 

 “複製(ミメシス)”の軍勢と対峙しているサオリ達とミカは、武器を持たぬミカが最前線を貼り、その支援をサオリを始めとしたスクワッドの面々が行う陣形を取っていた。

 戦闘開始直後は、指揮を取るものがおらず、ミカとスクワッドの連携が不十分な状態となっていたが――その問題は、合流した『先生』によって解決していた。

 

 戦場全体を俯瞰するような、的確な指示と、狙うべき標的の指定。そして、それによる誤射の危険性の排除は、眼を見張るほどの効果が存在していた。

 

 ミカの身体を掠めるほどの弾丸が飛び込んできたとしても、それがミカに直撃することは無い。

 その安心感と、的確な指示に、ミカは心のなかで舌を巻いていた。

 

 前線を走り、拳を振るい、“複製(ミメシス)”の軍勢を蹴散らしてゆく。

 

「“――ミカ!前ッ!”」

 

 そんな『先生』の声が響き、ミカが前へと視線を向ける。

 その先では、バルバラがその両手のガトリングガンを空転させ始めていた。

 

「やっば……!」

 

 危機を察知したミカは、咄嗟にその場を飛び退くような仕草を見せる。だが、バルバラの視線はそんなミカを追いかけていた。

 

「“ミサキ!!”」

「わかってる」

 

 指示より早く、ランチャーの装填を済ませていたミサキが、そのトリガーを引く。

 一際大きなその弾頭が発射され、バルバラへと襲いかかった。

 危機を察知したバルバラは、ガトリングガンによる弾幕を弾頭へと向けて放ち、己に着弾するより先にその弾頭を破壊する。

 

 爆炎が散らかり、周囲を煙と炎が覆い隠した。

 

「“ヒヨリ!!”」

「は、はいぃ!!」

 

 立て続けに、ヒヨリのスナイパーライフルが火を吹いた。通常のスナイパーより一回り大きく作られたそのライフルから放たれた弾丸は、強烈な威力を持って爆炎の煙幕を貫き、バルバラへと突き刺さる。

 

 強烈な一撃を受けたバルバラは、その姿勢を大きく崩す。

 そして、その隙があれば――彼女には、十分だ。

 

「今――ッッッ!!」

 

 回避のためにその場を離れていたはずのミカが、即座に踵を返してバルバラへと飛びかかった。

 真正面から、その身体に全身の体重を載せて付き掛かり、地面へと押し倒す。

 

 マウントを取ったミカが、バルバラを抑え込んだ。

 

「聖園ミカ!!」

 

 そんな彼女の名を、サオリが叫ぶ。

 

 名前を呼ばれたミカは、そんな彼女の方へと振り返る。すると、その視線の先で、サオリが大きく己の銃を振りかぶっていた。

 

「コイツを――受け取れぇっ!!」

 

 全身の力で持って、サオリは自らの相棒であるアサルトライフルをミカへと向けて放り投げた。

 

 そして、その武器を――確かにミカは、受け取った。

 

「――サンキュ☆」

 

 短い感謝の言葉を一つ。

 

 そのまま流れるようにしてそのアサルトライフルを手に持って、自分の抑えるバルバラへと銃口を押し付けた。

 

「ありったけの“神秘(ダンガン)”を、叩き込む――ッッッ!!!!」

 

 全身に残る神秘のほぼすべてを、サオリから受け取った銃へと込めて、その引き金を引く。

 

 バルバラがそれに対して抗うよりも早く、銃声が響き渡る。

 マズルフラッシュが辺りを照らし、激しい破裂音が一際長く鳴り響く。

 

 一つのマガジンを打ち切るほどのその時間が、永遠にも感じられ始めた頃。銃の弾薬と、ミカの神秘が、ほぼ同時に底をついた。

 

 収まる銃声。一瞬の静寂。

 

 ダンガンを叩き込まれる度に痙攣していたバルバラは――ゆっくりと、その体の末端から、その存在を消滅させてゆく。

 

「うん。一丁上り……って感じだね☆」

 

 弾丸が空っぽになったアサルトライフルを肩に担ぎながら、ミカは満足げに笑う。

 

「……終わったのか?」

「うん、終わったよ。……私達の勝利、だねっ☆」

 

 ゆっくりと自分の方へと歩み寄るサオリに対し、冗談めかした様子でピースサインを作りながらミカは笑いかける。

 そんなミカに対し、サオリは少し複雑そうに目を伏せて、キャップを深くかぶり直した。

 

「……聖園、ミカ。私は――」

「ねぇ。サオリ」

 

 ミカは、そんな彼女に。いつもと変わらない、明るい調子でその名を呼んだ。

 不意に名前を呼ばれたサオリが視線を上げる。すると、そこにはミカの笑顔があった。

 

「本気になれば案外。アリウスとトリニティだって……仲良くできるでしょ?」

 

 そんな言葉とともに、ミカはサオリへと預かっていた銃を投げ返し。そんな言葉を受けたサオリは、投げられた銃を両手で受け取りながら、呆けた顔を見せた。

 

 そして。

 

「――フッ。そうかも知れないな」

 

 笑顔でミカへと、応えを返すのだった。

 

 

 

 

 

「この……失ッ敗作!如きがぁぁぁぁッッッ!!!!」

 

 猛り狂った様な唸り声を上げながら、ベアトリーチェは赤黒い光線を放射する。

 彼女の頭部の目前に形成されたエネルギー体から放たれる無数のソレは無差別に周囲を破壊していく。

 

 だが、その攻撃が彼に当たることはない。

 

 攻撃の隙間を縫うようにして、閃光が走る。目にも止まらぬスピードで移動し続けるその存在に、ベアトリーチェは現在、一撃たりとも当てることができずにいた。

 

「何故だ……!?何故ッ!!貴様のその“力”も!私と同じ――他人から奪ったものでしか無い筈!!それなのに、何故ッ!!」

 

 理解の及ばない光景に、現象に、ベアトリーチェの余裕はすでに底を尽きている。兎に角、少しでも早く眼の前の不確定要素を消す為に必死になっていた。

 

 “他者の神秘を奪い、我が物とする”。

 

 それが、今の自分の形の根源であり、眼の前で動く“不確定要素(イレギュラー)”の大原則である。のだから――

 

「違うな」

 

 だが、少年は静かにベアトリーチェの言葉を否定する。

 

「この力は、俺の体に流れるこの想いは、お前のソレ何かとは違うものだ」

 

 心臓が、熱く滾る。体の中心から生まれる熱が、身体全身を包みこんでいるような感覚が、彼にそう確信させていた。

 

「何度でも言う」

 

 ここに居るのは――タカツキ一人ではないのだから。

 

「これは、俺達の力だ」

 

 その言葉とともに、彼はバシリカに残されていた木造の椅子の内、最も大きい物を全力で蹴飛ばした。

 しかし、当然そんな物が攻撃として通用するはずもない。ベアトリーチェの眼前のエネルギー体に接触すると同時に、それは無数の破片へとハジケ飛ぶ。

 

「目眩ましのつもりですか――ッ!」

「そいつはどうかな?……コイツは、痛いぜ?」

 

 ソレに紛れるようにして、少年が何かを投擲する様を、ベアトリーチェは確かに視認していた。

 誤魔化しにしても粗雑なそれは、どれが本命かなど素人でも分かるカモフラージュたった。

 大小さまざまな木片が宙に舞う中に、こぶし大のサイズの人工物があれば、不自然な目立ち方をする。そんな主張をされてしまえばわざわざ探そうとしなくても自然と“目”でその動きを追って――――

 

 

 

 パァンッ!!キィィィィィンッ!!

 

 

 

 甲高い破裂音と、耳をつんざく残響。視界を白く焼き尽くす閃光が、薄暗いバシリカを一瞬、昼間のように明るく照らした。

 

「せ、……閃光弾!?!?」

 

 その根源を直視してしまっていたベアトリーチェの目が光に焼かれ、その思考と動きが一瞬、完全に停止する。

 少年が一歩、大きく地面を蹴った。

 

「ちか……寄るなぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 目も見えぬまま、ベアトリーチェは接近に気づき、迎撃のために手を突き出した。

 少年は、全身に残された力を一気に放出して姿勢をよじり、その腕の一撃を回避する。

 

「アツコの神秘――返して、貰うぞッッッ!!!!」

 

 

 

 “吸血鬼(タカツキ)”の牙が、ベアトリーチェへと突き刺さる。

 

 

 

「うぎゃぁぁぁぁッッッ!!やめっ!やめろぉ!離しなさい!離せ……!離れろォ!!」

 

 巨躯を全力でよじりながら、ベアトリーチェは己の肉体に食らいつくタカツキを振り落とさんとするが、四肢の全力で持って彼女に喰らいつくタカツキを振り払う事は叶わない。

 

「ば、馬鹿な……!力が……私の力が……!うば、われて……」

 

 ベアトリーチェは、タカツキによって自らの身体に満ちる力が奪われて行く事を感じ、その勢いを急速に失ってゆく。

 

「じゃあ……なッ!!」

 

 必要な“神秘”を回収しきったことを確信したタカツキは、即座にその口をベアトリーチェから離すと、彼女の身体を強く蹴り飛ばし、その場を離れる。

 力のほぼすべてを失ったベアトリーチェは、その巨躯を支える事もままならず、蹴られるがままにその場へと倒れ込んだ。

 

 タカツキは、そんな彼女へ一度唾を吐き捨ててから、囚われていたアツコの元へと走る。

 

「アツコ!!」

 

 祭壇に供えられたアツコの、その身体を縛るオブジェを両手で無雑作に破壊すると、タカツキは彼女を両手で受け止めた。

 

「アツコ!アツコ!!目を覚ませ、アツコ!!」

 

 外された仮面のその下は、血と神秘を極限まで抜かれ、瀕死といった顔色だった。

 そんな彼女に声をかけながら、タカツキは静かにその手を握りしめる。

 

 ――今ならば、できる。

 

 他者から神秘を吸収するこの力を、逆流させれば。ベアトリーチェに奪われた神秘を、自らの身体を介してアツコに返すことが出来ると、タカツキは確信していた。

 

 ぼんやりと、彼の右手が暖かな輝きを放ち、その光は静かにアツコの中へと流れ込むようにして、消えてゆく。

 

 そうして、一分も立たないうちに、変化は起きた。

 

「……ヒロ、くん?」

「アツコ……!」

 

 僅かに血色を取り戻したアツコが、ゆっくりとその瞳を開き――確かに、彼の名を呼んだ。

 

「……約束、ちゃんと守ってくれたんだね」

「知るかよ、そんなの……!テメェが勝手に押し付けた――」

「ありがとう、“私のヒーロー”」

 

 

 

 タカツキが文句を言い切ることは無く、その口が塞がれる。

 

 その光景に、丁度同じ頃戦いを終えていたスクワッドと聖園ミカの面々は、それぞれのリアクションで衝撃を示す。

 首を振るなり、顔を真赤にするなり、目を覆うなり、笑うなり。

 

 一瞬のその行為をタカツキが理解するのは、眼前にあったアツコの瞳が、ゆっくりと自分から離れて行ったその時だった。

 

「初めてのキスって、少しだけ……血の味がするんだね?」

「…………は?」

 

 

 

 いたずらっぽく、頬を染めながら幸せそうに笑うアツコに、タカツキはただ頬を引き攣らせるしか無かった。






次回、エピローグ
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