今日も健やかに……元気に過ごしてくれ……
スズミ……
姫と、魔女と、吸血鬼と、
「お疲れ様です、タカツキ」
ある日の仕事終わりのタカツキを出迎えたのは、シャーレに当番として足を運んでいたスズミだった。
「ぁン?なんでお前が――」
今日の当番がスズミであると言うことを聞かされていなかったタカツキが目を丸くしていると、そんな彼を追い越す様にしてパタパタと一人の少女がスズミへと駆け寄った。
「スズミもお疲れ様。久しぶりだね」
「ここ数日は自警団活動に専念していましたので……。すみません、顔を出すのが遅れてしまいました」
「ううん。大丈夫、また会えて嬉しいよ」
スズミの右手を両手で包みながら楽しげにそう話すのは、タカツキと同じ任に付いていたアツコだった。
そんな二人の姿を少し離れた所から見ていたタカツキは、行場の失った自分の言葉を飲み込んで、代わりに一つ大きくため息をついた。
連邦捜査部S.C.H.A.L.Eに新たに設立された部隊。『
スクワッドは、彼女たちの成した罪を償う為に。タカツキは、己の無害を証明するために、その身元保証人ときてシャーレの先生が責任を負ってくれているのだ。
彼らは、先生の指導の元、各校の生徒たちの困り事を解決したり、時折現れる“悪い大人”の陰謀を打ち砕くために奔走している。
そして、そんなアツコと楽しげに会話をしているスズミは、一連の出来事の後、アツコと良い友人関係を築いていた。
今では、お互いのスマホで連絡を取り合い、たまにこうして遊ぶ約束を交わしている程である。
あれやこれやの話を楽しげに交わす二人を見て、タカツキは軽く後頭部を掻き、踵を返そうとした。
友達との会話に花を咲かせているスズミは、タカツキにとっても珍しい光景で、スズミが楽しげにしている事に水を差すのは気が引けるからだ。
取り敢えず、冷蔵庫に水でも取りに行こうか。なんて、そんな事を考えていると――。
「あれあれ〜?仲間外れにされて、ちょっとヘコんでる?バンプ君にも可愛ところ、あるじゃーん」
振り返った視線の先に、甘い桃色の髪をなびかせた、純白の制服の少女が、からかうような視線を彼へと向けていた。
「――なんでテメェまでいるんだ。クソウィッチ」
「あ、ひどーい。女の子に“クソ”なんて言ったらダメだよ?」
頬をぷくーっと膨らませて不満を示す少女――聖園ミカの登場に、タカツキはその表情をさらに引きつらせた。
「黙れ。そもそもテメェが俺を“
「なんで?バンプ君はバンプ君でしょ?」
「俺にもちゃんと名前が――」
「どうかしましたか?タカツキ」
「誰か来たの、ヒロ君?」
「――…………」
不思議そうに首をかしげるミカに対し、苦言を呈そうとするタカツキだったが、そんな彼ら言い合いに気づいたらしいスズミとアツコが、彼の“名前”を呼んだ。
「あ!スズミちゃん、アツコちゃん、久しぶり〜♪」
「ミカさん。お久しぶりです」
「ミカも来てたんだ」
コチラの様子に気づいた二人に対し、ミカはにこやかな笑みとともに手を振って挨拶を交わす。
スズミとアツコの様に、ミカもあの一件以降、二人と親睦を深めていた仲なのである。
「それで。バンプ君」
「……なンだ」
「君の名前は?」
「…………………………」
ミカのニヤケ顔に、彼が思わず視線をそらす。
スズミと目が合った。
「タカツキ?」
そのまま静かに、逆に視線をそらす。
「ヒロ君♪」
引きつった顔のまま、彼は目の前の少女に向き直る。
「なら、バンプ君でもいいよね?」
いたずらっぽく笑う少女に、己の不利を悟った少年は、右手で顔を覆い隠して天を仰いだ。
「…………好きにしろ」
「お買い物、楽しかったねー☆」
D.U.内に建てられた大型複合商業施設。その中のファミレスで、ミカは満足げに頷いた。
「うん、そうだね。いろんな物があって迷っちゃった」
「わかる〜!!私も知らない間にいろんなアクセサリーとか増えててさ!見てるだけでワクワクしちゃった!」
「ふふっ。ミカが案内してくれたから、すごく分かりやすかったよ。1人だと迷子になってたかも」
「私もみんなとお出かけするの、すぅっごく楽しみだったから、ホントによかった!」
「その……本当にお二人はそれでよかったのですか……?」
隣り合わせの席に座り、感想に花を咲かせるアツコとミカに対し、おずおずといった様子でスズミが声を掛ける。
「なにが?」
「どうしたの?」
突然の言葉に、二人の少女は対面の席に座るスズミに首を傾げた。
「いえ……買い物をしたと言っていますが……買ったのは殆ど私の物というか……、私の物をお二人に選んで頂いたというか」
そう言いながら、スズミは隣の席へと視線を向ける。
そこには、山盛りの買い物袋がこれでもかと積まれており、衣服やアクセサリー等がギッシリと詰まっていた。
そしてそれらは殆どスズミが購入した……というより、アツコとミカに勧められるままに買ってしまった物であり、今日の買い物の大半はスズミの私物になる事を示していた。
「いいのいいの!私は今はあんまり物を持ってる余裕無いし」
「私はあくまでも更生目的だから、あまりたくさん買い物はできなくて。むしろ、スズミに色々買わせちゃって、ごめんね?」
「いえ!そんな……!私も専らパトロールばかりで、あまりお金を使う機会もありませんでしたし……」
「いや、お前はなんも悪くねェよ」
くぐもった、不機嫌そうな声が、少女達の会話に割って入った。まるで、地に伏し息を潜めるカイブツのうめき声の様なその声の主は――。
「……すみません、苦しいですよね」
「何度でもいうが、スズミは悪くねぇよ。悪いのは
そんな声とともに、ゴソゴソと蠢いた荷物の山から、スポンとタカツキが頭だけを突き出した。
首から下は完全に荷物の山に埋もれており、まるでダルマのような姿の彼は、当然ながらどうやらその扱いに不満を持っているようだった。
「俺の事を便利な荷物持ち扱いしやがって……ただじゃ置かねぇぞクソウィッチ」
荷物を支えるため、四肢を動かせずにいるタカツキは、ジロリとミカへと怨嗟の視線を向ける。そんな彼の視線に、ニヤニヤと悪辣な笑みを浮かべながら彼女は視線を返す。
「女の子のわがままに付き合うのも、男の子としての甲斐性なんじゃないかなー?」
「男以前に俺を“
「でも私、君が言うように“
「……ケッ」
ミカの飄々とした態度に、タカツキは不服そうに視線を逸らす。
本当にズルい女だと、諦めと苛立ちの混じる思いを抱えつつも、それがタカツキの知る“聖園ミカ”であるのだから仕方が無い、なんて事を考えて口を閉ざしたのだ。
しかし、そんな彼に、ミカは追撃をかける。
「それに、荷物持ちっていうならアツコちゃんもバンプくんにお願いしてたよね」
「私?」
急に自分へと向けられた矛先に、アツコが目を丸くして、ミカとタカツキの様子をうかがった。
それに対しタカツキは。
「アツコはいいんだよ」
即答だった。
「即答!?」
「当たり前だろ。アツコはいいんだよ」
「流石ヒロ君。頼りになるなぁ」
「ズルい!扱いが違う!贔屓だ!!」
ギャアギャアと甲高い声で抗議の声を上げるミカに、タカツキは左目を細めて耳を遠ざけようとするような仕草をした。もっとも、その程度で収まる喧しさでは無かったのだが。
「お前が魔女ならアツコは正真正銘“姫”だ。丁寧にもてなして然るべきだろうが」
「うわっ……シラフでそんな事言うの……ヤバ……」
「
「ねえ、アツコちゃん、アイツちょっとやばいよ。女の子を急にお姫様扱いとか普通にどうかと思うな私」
「……えへへ」
「あーダメだこっちもヤバいかもしれない」
“姫”呼びにご満悦と言った様子のアツコは、ほんのりと赤く頬を染めながら、緩んだ笑みを浮かべていた。
ミカは目の前の粗雑な男のどこが良いのかと疑問の視線をアツコへと向ける。目付きは悪いし、口調も粗野で、デリカシーも無い。男としては最低の部類だろう。まあ、“悪人”なのだから仕方ないと言えるのかもしれないが。
「ヒロ君ヒロ君」
「なんだ」
浮かれた様子のアツコが、楽しそうに笑いながら彼の名前を呼んだ。
「ヒロ君は、ずっと私のヒーローだからね」
「…………昔の俺と、今の俺は違うぞ」
「おんなじだよ。ヒロ君は、ヒロ君だから」
純粋な少女の視線に、少年は居心地が悪そうに再び視線をそらす。
憧れが混じるようなその視線は、どこか熱に浮かされているようにも見えて、それが彼にとってはむず痒かった。
好意を向けられると言うのは、あまり慣れたものではない。それならむしろ、まだ敵意や悪意を向けられている方が慣れている。けれど、だからといって彼は、そんな視線を自分へと向ける彼女を、邪険に扱おうとは思わなかった。
「良かったですね、タカツキ」
「……この状況のナニをどー見てそう思ったんだよテメェは」
そんな少女たちとタカツキのやりとりを眺めていたスズミが、満足げな笑みを浮かべて彼を見た。
「タカツキにも親しい人が出来て、私は安心しているんです。貴方は放っておくと、すぐに独りになる癖がありますから」
「それは俺の体質の都合で」
「でも、月見水はいつも1人でしょう?」
「……………………」
「ほら、やっぱり」
反論を失い、眉間にシワを寄せて己の不服を訴え掛けるタカツキを見て、スズミはくすくすと笑みをこぼす。
彼の、普段は見せない、そんなワガママな子供のような一面が見える事が、なんとなく嬉しかった。
「そーいえばさ。スズミちゃんは何なの?」
ミカが唐突に、そんな事を口にした。
突然の発言に、その場の視線がミカへと集まる。
当のミカは、殆ど氷だけになった彼女のコップから、ずぞぞぞぞ。と、音を立ててストローを吸っていた。
コップにわずかに残ったジュースを吸い尽くしたミカは、ようやくストローから口を離す。
「バンプ君にとって、私は“
「私は別に……お二人のように強い個性があるわけでもないですし……」
「あ、それ私も気になる、どうなの、ヒロ君?」
「アツコさん……!?」
スズミの意見は誰も聞いていない様子で、ミカとアツコの興味はタカツキのほうへと向けられる。
なんだか見世物にでもなったような気分のスズミは、目を白黒とさせながら2人を見るが、彼女たちの意識は完全にタカツキの発言へと向けられていた。
そして、当のタカツキはというと、少し考える素振りをした後、その問いに答えを返す。
「相棒」
それは、とてもシンプルな表現だった。
「相棒?」
「相棒、パートナーでもいいな」
「それって自警団の、って事?……でも、バンプ君って今はシャーレの
「別にチームや活動としてだけの話じゃねぇよ」
ちらり、とタカツキはスズミへと目配せをする。
彼の視線の先で、スズミは少し大きく目を見開いてから、優しく微笑みを見せた。
そんな彼女の姿に、タカツキも笑みを返してから、タカツキは2人の方へと視線を返す。
「そういう約束なんだ」
「えーーーーーー!!ナニナニナニナニ!?2人ってどういう関係なの〜〜!?」
意味深な二人のやりとりを見たミカは、興奮した様子でテーブルに身を乗り上げてスズミの顔をのぞき込んだ。
そんなミカに、スズミは少し苦笑を零す。
「……タカツキの言う様に、“相棒”で、私もいいと思います」
「へぇー。……いいなぁ、ちょっと私も憧れるかも」
アツコは、そう言いながら右手の人さし指を立て、唇に当てながらタカツキを見る。上目遣い気味に、少し瞳を潤ませるようにして。
「お前にはサオリ達が居るだろ」
「……ヒロ君のイジワル」
「へいへい。そーですね」
タカツキはそのまま、アツコの言葉を適当にいなす。まともに取り合うとろくな事にならないと、彼の感が言っていたからだ。
そんな二人のやり取りを、スズミは苦笑を浮かべながら眺めていると――。
突如、銃声と爆音が響く。
「け、警備ロボットが暴走したーーーー!!」
ファミレスの外から、そんな悲鳴が聞こえ、一気にショッピングモール全体が騒がしくなる。
「タカツキ」
「あいよ」
スズミの言葉に、タカツキは抱えていた荷物を退かし、適当に床とテーブルの上に除けた。
「もー、空気読まないよねぇ」
「まあまあ、起きたことは仕方ないんじゃないかな」
ミカとアツコも、それぞれの武器を手に取りながら席を立つ。
「会計は私が。皆さんは先に現場へ向かっていてください」
「荷物番は――、まァ。盗られたら取り返しゃいいか」
「状況が状況だし、仕方ないよね☆」
「うん。私たちは悪くないかな」
少年少女は、それぞれの思いを胸に現場へ足を向ける。
「“魔女”の茶会を邪魔した罰は、ちゃーんと受けてもらわないと」
1人は、己の怒りの赴くままに。
「“
1人は、責任ある自由を噛み締めて。
「“
そして。
「そうですね、久しぶりに行きましょう。タカツキ」
2人は――
「「自警団の任を果たす為に」」
――ともに掲げる、正義の為に。
スズミの誕生日記念に、スズミがメインヒロインである本作の幕間を書いたわけですが。
……思ったよりミカとアツコの主張が強くて、スズミがそれに合わせて出てくるみたいな話になっちゃいましたね……。いや、俺としてはスズミには今回の話みたいに友達と楽しくお買い物とかしてて欲しいので、そういう意味では本懐なんですが……。
何気ない平穏な日常のなかで、楽しげに笑うスズミの姿が見れたら良いですね……、強いけど、儚い美しさの似合うスズミ……イイヨネ……。
原作の方での供給も、なんかこう、平和な話が来てくれたらいいなーなどと思いつつ。私は気長に供給を待っています。来るといいね、2着目。
さて、長々とお付き合い頂きありがとうございました!
本作はまだ話のネタ自体はありますので、またいつか、更新の時にお会いしましょう!