Bloody Arriver   作:Ziz555

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 のんびり書いてたらだいぶ遅くなってしまいました……申し訳ない。


外伝:魔法少女ヘヴィ・キャリバー編2

 

「おー。案外様になってるな」

 

 ステージの上でそれらしいセリフを言いながら立ち回るスズミとレイサの姿を見て、タカツキは関心した素振りで頷いた。

 

「ふふっ。魔法少女衣装、2人にピッタリだね。子供達もみんな盛り上がってるし」

「特にレイサの演技はキチッとしてんな。演劇の心得でもあるのか?」

 

 観客席後方、ショーを楽しみにしている子どもたちの邪魔にならないよう、立って見物をしているタカツキとアツコは、静かに事の成り行きを見守っていた。

 

 なぜ突然そんな状態になっているのか。というと、簡単に言ってしまえば、“スズミとレイサの衣装の出来が良過ぎた”のだ。

 園内で合流を果たした後、今後のパトロール方針を決める為のミーティングを始めようとしたその時、彼らの元にボーダライン遊園地のスタッフが現れた。

 彼はスズミとレイサを見るなり、“ヒーローショーのキャストである”と判断し、2人を連れ去ってしまったのだ。

 無論、断ることもできただろうが、今の彼らの使命はあくまでも“潜入任務”であり、事を荒立てるのは望ましいことではない。むしろ、“キャストである”という箔が付いてしまえば、その後の活動のしやすさが確保できるとの判断になり――、急遽、偽りのキャストとして、スズミとレイサはこの魔法少女ヒーローショーに登壇する事となったのだ。

 

「スズミ。こう言うのは苦手だと思ってたんだけど、案外しっかり喋れてるね」

 

 現在行われているのは、今日の園内全体で行われるショーのイントロにあたる部分だ。

 散発的に、園内のいたるところで行われるヒーローショー。それが今日、ボーダライン遊園地で行われるイベントの内容であり、スズミとレイサはそのイベントの布石となる説明を行っていた。

 とは言え、それは事務的なやりとりではなく、あくまでも“魔法少女(ヒーロー)”としての物。人前に立って、何かを演じるような素振りは、スズミというより――。

 

「惜しいなぁ。もう少し早くこの話が来てたら、私も挑戦してみたかったのに」

「…………ま、お前はノリノリでやるだろうな」

「うん、すっごく残念」

 

 満面の笑みで自らを見上げるアツコの表情に、タカツキは思わず視線をそらす。

 

「ヒロくんからのマンツーマンの“演技指導”も受けたかったなー」

「おまっ……なんでそれを」

「あ、やっぱりあの日帰らなかったのって“そういう事”なんだ」

「ッ!?」

 

 含みのある言葉に、タカツキは思わず喉元を締め上げられるような圧迫感を覚えた。

 

 アツコの表情(かお)は、見えていない。

 

「スズミだけは、不公平じゃない?」

「……公平もクソもねェだろ。別に」

「えー。ヒロくんのいじわる」

 

 不貞腐れたような、それも、とてもわざとらしく、分かりやすい声で不満をこぼすアツコに、タカツキはキリキリと胃が痛くなるような感覚を覚えた。恐ろしい、と言うよりは、“プレッシャー”がそこにはあった。

 

「仕方ないから、コレで許してあげる」

 

 そんな声とともに、するりとタカツキの腕に何かが絡みつく。彼の手を這い、なぞる様にして、その先のポケットへツッコまれていた掌にソレがたどり着く。

 軽く握られていた彼の指を解いて、少し冷たく、柔らかい感触が滑り込んだ。

 

「おい」

「遊園地に男女が居るんだよ。こっちのほうが自然でしょ?」

 

 思わず向けたタカツキの視線の先には、アツコの柔らかな笑顔があった。

 ただし、普段とは違い。ほんの少しだけ、頬に朱のさした、そんな笑顔。

 

 思わずつられて、タカツキも頬が熱くなるのを感じてしまった。

 

 ――瞬間。通信が入る。

 

『ステージから観客席を基準に2時の方向、見えますか?』

 

 それは、状況を監視するマシロの声だ。

 

『河駒風ラブを始め、ジャブジャブヘルメット団と推定される3人組を発見しました』

 

 観客席後方でタカツキ達が、ステージ上でスズミ達がその方向を確認する。

 

『身元の特定と、脅威の有無について確認をお願いします。現在は――』

 

 

 

「…………うそ、だろ」

 

 

 

 ポツリと、タカツキが言葉を漏らす。

 

「ヒロくん、そんなにじっと見てたら――……ヒロくん?」

 

 アツコが彼の異変に気づく。――1つの方向を向いたまま、彼の視線は動かない。

 

「ヒロくん、どうしたの?何か――」

 

 次の瞬間、タカツキは握られていたアツコの手を振りほどき、全速力で視線の先へと駆け出していった――。

 

 

 


 

 

 

「隊長、これで全部ですか?」

「そんなわけないじゃない。やるからには徹底的にやるわよ」

「流石隊長!これで大儲けですね!」

 

 3人組少女たちが、たくさんの荷物を載せた台車を引きながら、そんな会話をしていた。

 3人は“ヘルメットをかぶっている”という共通点があり、それは周囲の人間とは異なり、彼女達が同じグループに属している事を示している。

 そんな中、“隊長”と呼ばれた少女。ヘルメットに収まらない、赤く、長い髪を持つその少女は、目的の為に周囲を見回していた。

 

 急に密度の上がった人混みに顔をしかめ、文句の一つがこぼれ落ちそうになった瞬間。1つの人影が目に留まる。

 

「……なんか、こっちに走ってきてない?」

「え?」

 

 人混みの中をすり抜ける――いや、飛び越えるようにして、一人の男が全速力でこちらへ近づいてくる。目的は――明らかだった。

 

「ちょっ、何で!?何で私達を!?」

「ど、どうしましょう、隊長!」

「とりあえず逃げるわよ!急いで!」

 

 追われたら逃げる。それはある種当然の行為だ。故に、ヘルメットの少女達はその基本の合意に基づいて逃走を開始する。

 

 重い台車を3人で押し、引きながらその場から踵を返して逃げ去ってゆく。

 

「待て……待ってくれ!」

 

 そんな少女達を、少年は懸命に追いかける。

 

 その声に一瞬。赤毛の少女の足が止まる。

 

 引っかかって、後ろ髪を引かれるような、そんな気持ちに引きずられ、彼女は思わず――振り向いた。

 

 掴まれる腕、見上げるそばに、彼の顔がある。

 

「何で……お前が……ッ!!」

 

 大きく息を乱しながら、額に汗を浮かべるその顔を――

 

「お、お前……」

 

 ――少女は確かに、覚えている。

 

 

 

 どうして、こんな所に。

 

 

 

 2人の声が、重なった。

 

 

 


 

 

 

 ――わずかに時間はさかのぼり、ラブを見つけたタカツキが駆け出した、ちょうどその瞬間。

 

「……ッ!追いかけます!」

「えっ!?スズ……ホワイト!?」

 

 突如として駆け出したタカツキの異変を察知したスズミは、立場も、人の目も気にせずステージから飛び降りた。

 突然のアクションに、観客達はもちろん、隣にいたレイサにも混乱が走る。

 

「ホワイト!こっちだよ!」

 

 唯一その場の変化に対応できていた――正しくは、突然隣で起こった出来事に対応せざるを得なかった――アツコが、駆け出したスズミに声をかける。

 “ホワイト”、現在のスズミの役柄を読んだアツコの姿により、ソレがショーの一環、演出なのかという憶測が観客に広がる。

 それを好機と見たレイサが、大きく声を出した。

 

「た、大変です!ホワイトが早速悪い人を見つけたみたい!こうしてはいられません!私もすぐさま追いかけないと!……皆さんは、危ないですから、走らないでくださいね!!」

 

 レイサの声は非常に大きく、通りが良い。混乱による喧騒の中でもはっきりと聞こえたその声は、観客達に安心感をもたらした。

 “大きすぎる”と、レイサ自身もコンプレックスに思うこともあるその個性は、今は確かに長所として働いていた。

 

 そうして、観客の安全を確保したレイサも、先に走り去っていったスズミとアツコの後を追うのだった。

 

 

 

 一方、先行したタカツキを追いかけるスズミとアツコは、遊園地の人混みの中を縫うようにして走り続けていた。

 だが、高い身体能力に物を言わせ、跳躍するようにして空間を駆けるタカツキを追いかけるのは、至難の業だった。

 

 だが、それは“2人で”の話だ。

 

「行って、スズミ!」

「アツコさん……!?」

「私も後から行くから、気にしないで全速力でいいから、早く!」

 

 自分がいては追いつかないと判断したとしてアツコが、スズミに先行するように声をかける。

 

 スズミの機動力は、スクワッドの誰と比べても速く、走る場を地上に限定するのであれば、その速度は全力を出すタカツキすら圧倒する。

 そんなスズミにとって、自分は足手まといである。それが、アツコの下した決断だった。

 

「――すみません!」

 

 スズミがその指示を受けたのは、彼女の判断が正しいと思ったからではない。ただ、アツコの事を信じていたからだ。

 彼女の言葉の意味するところがわからずとも、彼女が自分達にとって不利になることを言うとは思えないと。ソレが、2人にとって最善になることだと思ったからこそ。スズミは己の足に力を込めた。

 

 今のスズミの服装は、魔法少女らしい飾り付けの多い、お世辞にも走行に適した服装とはいい難いものであった。

 

 ――だが、“その程度”だ。

 

 ぐんと、スズミの脚が伸びる。

 

 群衆をくぐり抜ける速度が上がる。だが、身体がそれらにぶつかることは無い。

 わずかな隙間を見つけ、その隙間が閉じるより速く、まるで光の如く雑踏を駆け抜けた。

 

 

 

 ゲヘナとトリニティの境界付近で、人混みが晴れた。

 

 

 

「見つけました!」

 

 視界の先に、4つの人影をとらえた。

 

 少女を捕らえる少年と、そんな2人の様子を見て戸惑う姿の取り巻きが2人。

 

 だが、そんな光景の中で。誰よりも動揺をしていたのは――。

 

「タカ……ツキ……?」

 

 見たこともない表情で、彼は腕をつかんだまま、少女の顔を見つめていた。横顔からでは、すべてをうかがい知ることはできない。……だが、そのわずかな表情からでさえ、壮絶な困惑と緊迫が見て取れた。

 

 まるで、何かを悔やんでいるような、恐れているような。そんな、表情。

 

「いた!テルミット・ホワイトだ!」

 

 無邪気な子供の声が響き、タカツキとラブは、スズミの存在に気がついた。

 

「女の子が襲われてる!アイツが悪いやつなんだ!」

 

 少女の腕を掴んでいたタカツキの姿を見た子供の一人が、そんな声を上げた。……たしかに、タカツキの見てくれはとてもではないが“善人”とはいい難い。

 その光景が、少女が悪人に襲われている様に見えるかと言われれば、それにしか見れない光景だろう。

 

 だが、事実を、“タカツキ”を知るスズミにとって、その言葉は矛盾を孕んだものであり。事実、様子がおかしかったとは言え、取り押さえねばならない対象を確保して――。

 

「チッ……!」

 

 一際強く舌打ちをしたタカツキは、少女を力ずくで抱き寄せると、そのまま右手で抱え込んだ。

 

 

 

「一手遅かったな、テルミット・ホワイト!この少女は――頂いていく!!」

 

 

 

「はぁっ!?」

 

 

 

 彼のその発言に、複数の困惑の声が上がるのも、仕方がない話だった。





 タカツキとラブの因縁に関して気になる方は、拙作の第一部Ep12を読み返してみるとわかるかもしれません。
 良ければ是非読み直してみてくださいね
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