Ep.0 超絶限界バトル
「随分熱烈とした誘いをくれるじゃねぇか。暇なのかよ、テメェは」
「まあね。ほら私って今謹慎中だから、やること全然無くってさ☆」
2人の間を、乾いた風が吹きぬけた。
枯れた大地を満たす砂が、擦れる音をさせて宙を舞い、音を響かせ飛び去ってゆく。
――ここは、アビドス自治区の大半を占める、荒涼とした砂漠地帯だ。
見渡す周囲にあるものは、一面の砂と、多少の突き出た岩ばかり。極地と呼んで差し支えのないその環境に、当然彼ら以外の人影は見当たらない。
「それで、こんな人気のない所で一体何がお望みだ?」
「分かってるくせに、とぼけるのは良くないよ」
タカツキの問いに、ジャージを着ていたミカが銃を横に放って腰を落とした。
体を開いて、左手を前に、右手を後に。姿勢を整え――“構え”を作る。
「手合わせ。やろうよ」
「組手か」
「近接戦闘はバンプ君がサオリの次に得意だからさ、腕試しには丁度いいかなって」
「オイオイ。“丁度いい”?……お前、俺に一度負けてんの忘れたのかよ」
「過去の話にすがるの、ダサいよ?」
「上等」
ミカの見え透いた挑発に、敢えて銃を同じく放るタカツキは、半歩その身を引くだけの姿勢をとった。
キヴォトスでの戦闘は、大凡そのほとんどが銃器を用いた交戦であり、近接による戦闘は、それらを軸にしたアクセントとしての役割しか持たない。
しかし、そんな世界の常識も、彼らの間には――関係がない。
拳を交え、本気でぶつかり合った経験のある2人だからこそ――、“殴り合い”に、意味を見出す。
…………幾ばくかの静寂が訪れた。
互いの視線が交差し、互いの“間”を探る。
一瞬であり、永遠にも思える静寂が、
――風が、吹いた。
「「はぁッ!!」」
殆ど同時に踏み込んだミカとタカツキが、己の拳を突き出し、衝突する。
拳同士の速度と強度は互角。
次に動いたのはタカツキだった。繰り出した右手を引き込むように身体をねじり、右脚を蹴り込む。
即座に自由になった両手でタカツキの蹴りを受け止めるミカ。そのまま足を弾き上げ、懐に潜り込んだ。
がら空きの胴に、ミカの左拳が飛ぶ。
タカツキは体を捩って回避。
立て続けにミカの本命、右拳。
体勢を立て直したタカツキは左手を差し込み、軌道をそらして防御。
カウンターの右拳。
ミカはこれを受け止め、しかし攻撃を繰り出し続ける。
攻撃を当てたにも関わらず怯まないミカに、タカツキは防戦の流れを作る。
拳を繰り出すミカ、いなすタカツキ。
一瞬の隙を見て、タカツキがミカの拳を跳ね上げた。
拳で足りないのなら、筋力のある足を叩き込むまで。
――タカツキのキックが、ミカの胴をとらえた。
「――捕まえた☆」
「チッ……!?」
だが、それを尚真っ向から受け止め、ミカは両手でタカツキの足を掴んだ。
「せぇぇええぇっっのぉぉっ!!」
そのまま、全力で持ってタカツキを振り回す。
足を掴まれ、ジャイアントスイングを決められたタカツキは、抵抗できずにそのまま近くの岩壁へと放り投げられた。
だが、タカツキには奥の手がある。
放り投げられた際に足を開放されたタカツキは全身から神秘を放出し、強引に空中で姿勢を反転させると、岩壁に両足で着地した。
「お返しだ」
そのまま、神秘の放出とともに両足で岩壁を蹴り、加速した全体重を乗せてミカへ拳を繰り出す。
神秘による空中機動。
神秘を喰らい、神秘を放出するタカツキだからこそできる、キヴォトスの原則を覆してしまう
「……ッ!!」
そんなタカツキの一撃に、回避が間に合わないと判断したミカは、咄嗟に両手を交差し、タカツキの拳を正面から防御した。
強烈な一撃に、ミカが後方へと叩き込まれる。
しかし、ミカは吹き飛ばされまいと両足を地面へ突き立てる。
柔らかい砂の地面に突き刺さり、地面を引きずりながらも、――ミカは確かに踏みとどまった。
ビリビリと痺れる感覚のある両手を下ろしながら、ミカは顔を上げる。……その口元は、にやりと満足げに笑っていた。
「……やるじゃん」
「お前こそ。誰に習ったんだ?力任せの頃とは違うな」
「サオリに色々ね。……ほら、私ってさ、可愛さと力しか取り得ないじゃん?」
「ああ、そうだな」
間合いがある中で、タカツキとミカは再び構えを作りながら言葉を交わす。
この戦闘を見れば、サオリも静かに首を振るだろう。確かに、“武術”の心得という点では、サオリは両者に勝っている。
だが、それはあくまでも“対人戦における戦術的な手段”としての“武術”だ。
サオリから学んだ“武術”に、“神秘”による強引な軌道変化を組み込んだタカツキの戦術は、最早既存のあらゆる“武術”とは体系が異なる。
そして、それに相対するミカの戦闘も、確かに過去の彼女の様な“神秘と身体能力に物を言わせたゴリ押し”に比べれば、遥かに技術的な体捌きをするようになったと言えるだろう。
しかし、彼女の根本的なバトルスタイルは、神秘量に物を言わせた“受けて返すカウンタースタイル”となっていた。
彼らはこれを“組手”と言うが。もはやソレは“キヴォトスに置ける近距離格闘戦”とは全く異なる領域に達している。
そして。だからこそ、ミカはタカツキに“一手”及ばない。
“神秘”を防御にのみ使うミカに対し、タカツキは“放出”による直接的な出力の変換を行える。
その差は、確かに存在していた。
「――だから、考えたんだよね。これからの私が、どうすればいいか」
「…………」
「スズミちゃんみたいに心が強いわけでもないし、アツコちゃんみたいに強かにもなれない。ナギちゃんやセイアちゃんみたいな頭の良さもない私が、どーすればいいんだろうって」
突然、ミカが構えを解いた。
「……?」
「ずーっと。ずーっと考えてね、そして、ようやく一つ。ぱっと思い出したの」
目的の読めない行為に、タカツキは警戒は緩めず、しかし怪訝そうな表情を浮かべてミカを見た。
そんな彼女は、右手をゆっくりと持ち上げて――。
「いい手本があるじゃん。ってね」
――人差し指で、目の前の“少年”を指し示す。
「……何を言ってやがる」
「“とっておき”」
少女は、不敵な笑みを浮かべ――、全身に力を込めた。
「はぁぁぁぁぁぁ…………」
瞬間。ビリビリと空気が震える。
「あぁぁぁぁぁ…………ッ!!」
激震の中心にいるのは――“聖園ミカ”。
迸る“力”が、目視できるほどの輝きとなってハジケ始める。
同時に、彼女のヘイローがさらなる輝きを増し、彼女の髪が、淡い桜色から――深紅に染まってゆく。
「ハァァァッッッッ!!!!」
そして。
「……なんだ、そりゃ」
――全身から、激しい“オーラ”のようにも見える輝きを放ちながら、堂々とそこに建つ少女の姿に、少年は呆気にとられた。
全身に迸る“神秘”を纏ったミカは、少年の問いに笑みを返す。
「聖園ミカ、スーパーモード。……なんちゃって」
神秘の吸収と放出を使いこなすタカツキだからこそ、ミカの身に起きたことが理解できた。
それは、“聖園ミカ”の保有する、桁違いの神秘を、拳や銃弾に込めたり、全身に防護幕のようにして纏わせる、“
全身から激しく神秘を放出し続ける事で、全ての出力を桁違いに跳ね上げたのだ。
際限無く、全力で、全開の。文字通りの――全身全霊。
それは彼女の神秘量が、“
「君が“吸収”できるのは、神秘がないからでしょ?そして、持ってる神秘を“放出”できて。……でもさ。私達が弾丸に神秘を“込める”事ができるなら、同じ事ができたっておかしくないじゃん?」
「……バカもそこまで突き抜けりゃ、間違いなく一つの長所だな」
「アッハハッ!褒めてくれてありがと☆」
「ッたく……わざわざお前が組手に俺を選んだ理由もよーくわかったぜ」
タカツキも構えをとき、静かに呼吸を整える。
相手が“
自分の奥底にイメージをねり、深く、深く、深く、沈んでいく。
それと同時に、タカツキの存在が希薄になってゆき、神秘の気配が薄れてゆく。
――ミカが
ヘイローが掠れていくほどの、不安定で朧気な気配を纏ったタカツキが、静かに目を開く。
「――“神秘の零地点突破”」
聖園ミカを打倒した、タカツキの持ちうる限り、最低最強の戦法。
「――あっはは☆ そうこなくっちゃ」
「お前がやりたかったのは“コレ”だろ。……満足か?」
「うん、ありがとね。私って――」
全身から神秘を迸らせるミカと。
全身で神秘を霧散させるタカツキが、対峙する。
「――負けっぱなしは、主義じゃないから」
「ほざけ。……何度でも倒してやるよ」
言いたいことはわかります。正直やりたい放題してる自覚あります。
でもタカツキの戦闘スタイル見てたら天才のミカならこれぐらいやるかなって思っちゃったんですもん!!(ミカに対する厚すぎる信頼)
全国の聖園ミカファンの皆様本当にごめんなさい。この作品のミカはこんな感じになります。ちゃんとミカにも女の子らしい感性がある事は承知の上です。
それでもいいよ、って方はぜひ今後も拙作をお楽しみいただければと思います。
お付き合い頂き、ありがとうございました。また次回、お会いしましょう。
PS.零地点突破といいスーパーキヴォトス人といい、ジャンプスーパースターズじゃねぇんだぞ。と、我ながら思わないでもないです。