Bloody Arriver   作:Ziz555

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Ep.1 プロローグ

 

「やあ。よく来てくれたね。ささ、遠慮せずに、そこの椅子に座ってくれたまえ」

「椅子……?」

「れっきとした椅子があるだろう?」

「…………あぁ。そうだな」

 

 ミレニアムサイエンススクール、エンジニア部部室。日夜熱心に様々な“作品”の制作が進む、そのとっ散らかった一室にタカツキは訪れていた。

 そんな彼を出迎えたのは、エンジニア部部長である少女、白石ウタハだ。物静かで、落ち着いた雰囲気を漂わせる風貌の彼女だが、彼女はタカツキという来客に対し、明らかに高揚を感じていた。

 どこかソワソワと浮き足立つ彼女に促され、椅子――と言うには何やら余計なものがアレコレ付いているような気もするが――にタカツキは腰をかける。

 

「それで。どうだい、“試作品”の使い心地は」

「悪くない。……概ねはな。使うと激烈に痛ェのはこの際構いやしないが、効果時間が安定しない」

「ふむ。君の戦闘資料は先生から受け取ってはいるが……、なるほど。たしかに成果がマチマチだね」

 

 彼女は、タカツキの言葉を聞きながら手元のPCをカチカチと操作し、表示されたデータを閲覧しながら首をひねる。

 

「出力や、負担の違いは?何かわかりやすい差異があれば言ってほしい」

「つってもなァ……。強いて言えば、パターンAが一番使い心地が良くて、Cが最悪だ」

「具体的には?」

「Aはバランスがいい。持続時間も十分長いし、出力に過不足もねぇ。逆にCは持続時間は短ぇわ身体が痛くなるほど出力上がるわでどうしようもねぇ。使えなくはねェが」

「となると、もう少し精製の精度を上げるべきかな。さすがに専門外の分野は骨が折れる」

「精度?」

「ああ。品質の均一化とでも言うべきかな。端的に言うと……君の使った“パターンA”は、守月スズミがベースで、“パターンC”は、聖園――」

 

 

 

「見つけました!“吸血鬼”です!」

 

 

 

 部室の扉が開くとともに、一人の少女の元気な声が響き渡る。

 アレやコレやとウタハと話していたタカツキは、その声を聞き、眉間にシワを寄せながら振り返った。

 視線の先にいるのは、地面に着くほどに長い髪をした、幼い見た目の小柄な少女……天童アリスだ。

 

「あのなぁ、アリス。俺の名前は“吸血鬼”じゃ――」

「でも、バンプ君は“吸血鬼(バンプ)君”だもんね?」

「…………………」

 

 続けて、そんなアリスの後から聞こえてきたもう一人の声に、タカツキの目が死んだ。

 

「ふざけんなクソウィッチ。テメェが呼ぶからアリスがそう呼び始めたんだろうが」

「えー。だって、バンプ君が“いかにも”な雰囲気漂わせてるから、そっちのほうが似合ってるんだもん。ねー?アリスちゃん」

「はい!吸血鬼は吸血鬼です!!」

「だとさ、バンプ君?」

「ウタハ……テメェまで……」

「あははははっ!」

 

 “吸血鬼(バンプ)”と呼ばれて、頭を抱えてうなだれるタカツキをみて、本来ここにいるはずのない少女が楽しげに笑う。

 

 桃色の髪を持つ、天真爛漫の“様な”笑みを浮かべる少女――聖園ミカは現在、ミレニアムサイエンススクールに滞在していた。

 

 彼女は持ち前の明るさで、すぐにミレニアムの生徒達に溶け込むことが出来、現在はその多くの時間をゲーム開発部と共に過ごしている。

 ゲーム開発部としては、ミカのお嬢様としての生活の話が聞けるのがゲーム開発の良い刺激になるという事もあり、ミカの存在を歓迎していた。そしてなにより、その一員である天童アリスは聖園ミカの事を“お姫様”と呼び、非常に慕っている。そんな彼女達が仲良く連れ立って良くミレニアム中を歩き回っている姿は、最近のミレニアムの日常風景だ。

 

 そんな中、“とある事情”によりミレニアムへと足繁く通っているタカツキをミカがやすやすと見逃すはずも無く……。

 

「ほらほら、勇者さま。吸血鬼を懲らしめてやってくださいな?あんなに悪い顔をしてますよ。きっと何かを企んでる筈!」

「この顔は生まれつきだ」

「勇者アリスにお任せください!」

「だから……はぁ」

 

 こうして、“魔女(ミカ)”が“吸血鬼(タカツキ)”に、“勇者(アリス)”をけしかけるのが、タカツキとミカがミレニアムに揃った時のお約束になっていた。

 構図としてはまんまと魔女に騙される勇者という所なのだが……、アリスはミカの事を“悪い魔女”だなんて欠片も思っていないし、タカツキも自分が勇者か悪かと言われれば“悪”に属する自覚はある。結果、ノリノリのアリスに水を差す事が出来ず、なあなあのままこの光景が繰り返されていた。

 

「しゃーねぇか。ウタハ、続きは……」

「うん、かまわないよ。こちらで進めておこう。粗方の用件は済んだしね」

「頼んだ」

 

 タカツキの言葉に、ウタハは軽く頷いてからPCの画面へと向き直り、タカツキは椅子(?)から立ち上がって振り返る。

 

「それで。ユーシャサマは吸血鬼をどーやって懲らしめるおつもりで?」

 

 タカツキの目の前の小さな勇者――アリスは、純粋だ。

 

 何も知らない無垢な子供のように、タカツキを“吸血鬼”と言う彼女に悪意はない。そして同時に、本気でタカツキが“悪人である”などとは思ってはいない。

 アリスの“勇者”も、タカツキの“吸血鬼”も、彼女にとっては“RP(ロールプレイング)”の一環だ。そんな事はタカツキにだってわかっている。

 だからタカツキはアリスのその“遊びたがり”を邪険には扱わないし、だからミカはタカツキにアリスをけしかける。

 

 

 

 屈折している。面倒な女だ。

 

 

 

 タカツキは彼女(聖園ミカ)をそう評する。

 

 要するに、コレはアリスがタカツキにちょっかいをかけている構図では無く。“聖園ミカ”という少女が、“天童アリス”という少女の無邪気を利用して、“タカツキ”へとちょっかいを出しているという話だ。

 狡く、賢く、嫌らしい。彼女の性格の悪さ、“魔女しぐさ”とでも言うべきだろうか?そんな狡猾さがそこにはあった。

 

 とは言え、それを咎めるほどのことはない。というのも、アリスがタカツキにじゃれつくのは彼女自身の意思でもあるし、ミカもアリスが楽しげにしているのを理解した上で悪ノリしているだけだからだ。

 

 だからこうして、タカツキはおどけたように役を演じる。求められる割に、案外それは気が楽だった。

 

「カシオペアの拳で!……と言いたいのですが、部室では今モモイとミドリが決闘中ですので、アーケード版シティバトラーズ6で勝負です!!」

「ほーん。また俺のKPの錆になりたいと見える」

「アリスは負けません!勇者は最後に必ず勝ちます!」

「そうだよ!私も力になるからね!」

「テメェまた対戦中に脇腹(つつ)いてきたりしたら絞るぞ」

「きゃー、襲われちゃうー」

「襲ってんのはテメェだクソウィッチ」

 

 エンジニア部の部室を後にし、アリスを中心に並んで歩く三人の姿は、誰がみてもほほえましい光景だった。

 

 

 

 アリスに導かれるまま、勇者とその一行はミレニアム自治区の内、学園から少しだけ離れた立地のゲームセンターへと辿り着く。

 

 すると、そこには珍しい人影があった。

 

「お。誰かと思えば、吸血鬼ヤローじゃねぇか」

「いい加減その呼び方やめろギャルメイド」

 

 またもや“吸血鬼”と呼ばれたタカツキは眉間にシワを寄せて件の少女を睨みつけ、対する少女はケラケラと笑っていた。

 アリスとそう変わらぬ小柄な見た目ながら、バチバチにキメたメイクと、ヤンキーのようなジャンパー。そして何より……メイド服が特徴的なその少女の名前は、美甘ネル。ミレニアム・サイエンススクールの“掃除屋”である、C&Cというメイド(?)集団のリーダーだ。

 

「元を正せば。誰かさんがあたしの事を“チビ”だとかのたまったのが発端なんだぜ?」

「謝っただろうが。別にその後繰り返しちゃいない」

「んー?アタシは“許した”なんてひと言も言ってないぜ?」

「コイツ……」

 

 タカツキが初めてネルに遭遇した時、彼は思わず彼女の事を“チビスケ”と呼んでしまった事がある。当然それは、ネルの逆鱗に触れる単語であり、それは両者のケンカの開幕の狼煙でもあった。

 激戦の末、けちょんけちょんにやられた……という程では無いが、ネルに負けたタカツキは、己の非を詫びたという経緯がある。

 

 ちなみに、その光景を間近で見ながら止めようともしなかった魔性の少女は、その思い出をこう語る。

 

 ――こう言うのは男の子が悪いものじゃん。ね?

 

 勿論ご満悦だった。

 

「ネル先輩です!」

「おー、何だ。チビも一緒だったのか」

「はい!アリス、この吸血鬼をゲームでけちょんけちょんにしにきました!」

「ネルちゃん、ヤッホー」

「おう。……“相変わらず”だな、ミカ」

「まあね」

 

 タカツキとアリスについて歩くようにしていたミカを見て、ネルはニヤリと彼女を見やり、ミカはそれをサラリと流す。

 この三人がそろっている理由は、ネルにも簡単に想像がついた。

 

「吸血鬼退治なら、アタシも混ぜろよ。これでもケッコー練習したんだぜ?」

「本当ですか!ネル先輩はゲームだと全く役に立ちそうにありませんが、心強いです!」

「んだとぉ!?」

「ケケケ。せいぜいオレに手ぐらい出させられるようになったんだろうな」

「男のくせに下がって飛び道具飛ばす卑怯な戦い方してんのはオマエだろ!」

「勝ちゃ良いんだよ勝ちゃ」

「リアルで負けた相手にゲームでイキるの最高に無様で笑っちゃうね!」

 

 互いに憎まれ口をたたき合いながら、けれど、険悪とは無縁そうな彼女らは、それぞれのゲームの筐体へと座った。

 “吸血鬼退治”の名目があったはずのそのゲーム大会は、いつの間にかその目的から離れ、ただ純粋に対戦を楽しむ時間が始まる。

 

 それは、とても平和で。穏やかな日常の一幕。

 

 そこには、“勇者”も、“魔女”も、“吸血鬼”も。存在していなかった。

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