ゲーム開発部の部室の前にたむろするリオのARMSを蹴散らしたのは、“先生”と共に現れたタカツキだった。
「バンプさん……!」
「バンプくん!!」
「ユズ、ミドリ!無事だな!!」
「“一体、何が――”」
銃撃と格闘戦で、瞬時に部室入り口を制圧したタカツキと先生は、その側で固まっていたユズとミドリの無事を確認した後、開きっぱなしの扉から部室の中へと視線を向けた。
「あァ……?なんだ、この状況は……?」
そこでは、金髪のメイドに捕らえられたネルを挟み、黒髪のスーツの女と、アリスとミカが対峙している。
状況から見るに、金髪の少女と黒髪のスーツが、ミカやネルと敵対していると言うのは分かる。……だが、ならばこそ、“なぜ二人がやられるままになっているか”に理解が及ばなかった。
「“君は――”」
「……こんな形での出会いは不本意だったのだけれど。緊急時なら、それも仕方がないわね」
タカツキの後ろからその光景を覗き込んだ“先生”の表情を見て、黒髪でスーツの少女――リオが軽く会釈をした。
「はじめまして。シャーレの先生。私が、ミレニアム・サイエンススクール、セミナー会長の調月リオよ」
「“リオ……。コレは、何をしてるの?”」
「何を……と、言われれば。説得かしら」
「これの何処が説得だって言うんだよ!あぁ!?」
リオの言葉に、トキに拘束されたままのネルが言葉を荒げる。
「だ、そうだが?本当の所はどうなんだよ、かいちょーサマ」
ネルの言葉に、タカツキはリオへ銃口を向けたまま返答を促す。
少なくとも――、彼女の立場が何であれ、今のタカツキにとって、目の前の少女は敵にしか見えなかった。
「トリニティの吸血鬼……、あなたにも、色々と確認したい事があるのだけれど」
「あァ?初対面を“吸血鬼”呼ばわりする無礼者に話す事なんざねェよ」
タカツキは、彼女を睨みつける視線を険しくながら、彼女の言葉を一蹴した。
しばらくの沈黙が流れ……、リオが小さく、溜息を付いた。
「このまま話を続けても、何も事態は好転しないようね。出直す事にするわ。……トキ」
「承知いたしました」
リオの言葉に、トキは拘束していたネルを解放して、その場へと落とす。突然解かれた拘束に、ネルはその場で尻餅をつき、即座にトキを睨みつけた。
「……良く、考える事ね。賢明な判断を願うわ」
「………………」
リオが部室を後にしようとした時、アリスの側で、小さくそう残す。
――そうして、突然訪れた嵐は、自律兵器の残骸を残して、ゲーム開発部の部室から去っていった。
「……なんだったんだ、ありゃぁ。お前もずいぶんらしく――」
リオが部室を去っていくのを、その背中が見えなくなるまで銃口を向け続けていたタカツキは、拳銃をホルスターに仕舞いながら部室の中にいるミカへと近寄る。
「……バンプくん」
「あン?」
「…………今回は、助けてくれるんだね」
俯きがちの様子のまま、明らかに弱々しい声音で、“らしくない”事を言い出したミカに、タカツキは目を丸くした。
そうして、視線を右往左往とさせてから、頭をガシガシと掻き、一つ大きくため息をついた。
「なんの事だか」
彼なりの、最大限の思いやりだ。
そうして、調月リオの突然の来訪を何とかやり過ごしたアリス達は、後から現れた“先生”とタカツキに事の次第を説明した。
AL-1Sの事を聞いた先生は、そっとアリスを抱きしめて、“大丈夫だ”と、そう告げた。
そうして、アリスはひとしきり先生の腕のなかで泣いた後、泣きつかれてそのまま眠りについてしまった。
暗く沈んだ空気の中、眠りについたアリスをミレニアムの保健室に寝かせて、再び来るであろうリオの襲来に備え、見張りの番を立てることとなった。
そうして、その夜。
アリスは、保健室から忽然と姿を消した――。
アリスが消えた病室は、大きく窓が開け放たれ、彼女がそこから出ていったことを示す様な跡が見受けられた。
彼女が大切にしていた“光の剣”と呼ばれるレールガンは部屋に残され、荒らされた様な後もなく、ただ、忽然とアリスの姿だけが――消えていた。
「……結局、アリスちゃんは……会長のところに行ったのかな」
「状況証拠をみるなら、恐らく」
「……ねぇ。コレって結構ヤバいんじゃない?」
事情を聞いたヴェリタスの三人が、険しい表情を浮かべていた。
「ごめんね……、私が一緒にいたのに」
「ううん、ミカちゃんは悪くないよ!アリスちゃんを連れてって、リーダーをいじめた会長が悪いんだって!」
「アタシも、バンプが来なけりゃただ見ていることしか出来なかっただろうしな。……チッ」
俯いたまま、謝罪の言葉を述べるミカに、C&Cの一人、一之瀬アスナが背中を支えて励ましの言葉を掛け、ネルは苦い顔のままタカツキを見た。
「強制連行はされなかった上で、アリスが勝手に出ていったんだとすれば……。俺たちにハナから落ち度はねェよ」
「“……それ程までに、リオの言葉がアリスには辛かったのかもね”」
「…………かもな」
タカツキの視線が、落胆する少女へと向けられた。
いつもなら、真っ先に怒りと攻撃性を
「……どうして、どうしてアリスちゃんは、会長のところに行っちゃったんだろう。……だって、会長は、アリスちゃんの、ヘイローを……」
「私……、私には、なにも……」
リオが現れ、アリスへと伝えられた真実を知るミドリとユズ。……そして、ミカは皆、大きなショックを受けたまま、立ち直れずにいた。
アリスがなぜ会長の言葉に惑わされしまったのか。それは、彼女が事実としてモモイを傷つけ、……そして何より、アリスがこれ以上ない程に自分達を想ってくれているからである事が、ミドリとユズにとっては痛いほどに分かっていたから。
――そして、そんなアリスに、“聖園ミカ”は。己の過去を重ねてしまっていた。
「バンプくん」
「……」
俯いたままのミカが、ゆっくりとタカツキへと歩み寄る。
「私達……、さ」
よく見れば、僅かに肩が震えている。
「……私」
隠せぬ程に震えた声で、不安に揺れた瞳を浮かべてタカツキを見上げるミカは問いかけた。
「どう、すれば……いいのかな?」
「…………」
――その問いの答えを、タカツキは持ち得ない。
鬱屈とした空気がその場を支配していた。
答えの見えない、絶望という暗がりの中で、誰もが視線を落とし。言葉を失っていた。
その時。
「――モモイ…………降臨!!」
空気の読めない名乗りが、その場のすべての視線を集める。
見上げれば、無駄に高い階段の上から、才羽モモイが両腕を組んで彼らを見下ろしていた。
良くも悪くも破天荒なその姿に、タカツキはニヒルな笑みを浮かべて言った。
「煙とナントカは高いところが好きとはこの事だな」
「煙?……何の話?」
「コッチの話だ。首疲れるからさっさと降りてこいアホタレ」
「アホ!?今私の事アホって言わなかった!?」
「言ったから早く降りてこいバカモモイ」
「バカ!?!?!?」
突然の罵倒に、モモイは目を白黒させながら階段を駆け下りてタカツキの元へと突撃した。
「人のことバカっていう方がバカなんだよバーカ!!」
「はいはい、そーですかい」
「ムキーーッ!……で、皆はこんな所で何してるの?」
文字通りの“考え無し”だったモモイは、そこでようやく周囲の皆へ目を向けると――。
「――うわぁぁぁぁん!お姉ちゃぁぁん!?」
「わわわっ!?ミドリ!?」
涙と鼻水でぐちゃぐちゃのミドリに、抱きつかれるのだった。
そうして、モモイは一通りの話をミドリから聞くこととなる。モモイが気絶してからのアリスの事、突然現れたリオの事。……“魔王”と呼ばれた、アリスの事。
そんな、衝撃的な事実を聞いたモモイは――。
「この!おバカさん!!!!」
「えぇ!?」
――シンプルに、怒っていた。
「正直、アリスちゃんがどうとか、魔王だとか、難しい話は全然わかんないんだけどさ……、それでも、一つだけ私にもわかることがあるよ!」
「わかること??」
「それは……私たちは、これっぽっちも納得できてない!って事!!」
単純で、考え無しな発言で、そこにあるのはただの感情論でしか無い。
「だから私は……一人でも、アリスちゃんを連れ戻しに行くよ!」
だが、それでも。……モモイの言葉は、その場にいる全員の気持ちを代弁していた。
向こう見ずで、我武者羅で、無鉄砲なその立ち振る舞いを愚かと罵る者もいるだろう。だが、確かにこの場に足りていなかった物を、モモイがもたらしたのだ。
「オイチビ……、お前!中々いいこと言うな!」
「うん、モモイの言うとおりだね。……なら、やる事も一つだ」
「“そうと決まれば、まずはアリスの向かった先……、リオの居場所を探さないと、だね”」
モモイの勢いに乗せられ、にわかに少女たちの気力が戻る。考えている事は一つ。――“天童アリス奪還作戦”だ。
「…………」
そんな周囲の空気に一人、聖園ミカだけが取り残されていた。あれやこれやと話を進める彼女達から一歩離れた場所で、呆然と立ち尽くしている。
そんなミカの元へと、タカツキが一人、輪を離れて歩み寄る。
「だ。そうだが?お前はどーするつもりなんだ?」
「どうする……って」
「あのバカが言ってた通りだろ。……テメェは納得してんのかよ」
振り返らずにタカツキが親指で示した先には、モモイの姿があった。
――“天童アリス”の手によって傷つけられ。けれど、それでもアリスの事を“友達”と呼ぶ、そんな少女が。
「わた……し、は……」
「なぁ。クソウィッチ」
「…………」
「俺は“
タカツキは、産まれながらにして“他者を食い物にする”と言う罪をその身に宿した“
生きているだけでつきまとう“罪”や“後悔”と言うものから逃げることは出来ない。生きているだけで、“常に周りの誰かを傷つけ続ける”存在なのだから。
……だからこそ、“向き合い方”を、“付き合い方”を知っている。
だが、目の前の少女は――“聖園ミカ”は、そうではない。
自らを“悪い魔女”と嘯く彼女は、本来は“御伽噺のお姫様”に憧れ、なり損なっただけの、ただの少女だ。
“勇者”ではなく、“魔王”と呼ばれたアリスの気持ちが、誰よりわかるからこそ。その彼女の今の気持ちは“産まれながらの吸血鬼”には、想像が及ばない。
“だが”。
「だが――、“魔女”の考えてる事ならわかる」
「え……?」
目を丸くするミカに対して、“吸血鬼”は――悪辣で、悪趣味で、嫌味な笑みを浮かべて言った。
「あのスーツの女は……“本物”を、知らねェ」
「本、物?」
「“魔王”ってのは、“吸血鬼”や“魔女”と同じ……いいや、それ以上の“
「…………」
「そんで。あのスーツの女は、事もあろうに“世界の為”と
ミカの瞳を覗き込むようにして、タカツキは彼女の鼻先に顔を突き合わせる。
「答えろよ、“
――不安に揺れていた、少女の瞳が、濁りを見せていたはずの輝きが。鋭い強さを――取り戻す。
「――アハッ☆」
少女は、笑ってから、目の前の男の顔を右手で押し放す。
「やっぱ、バンプくんは悪い男だね。……女の子に、そんな乱暴しちゃうなんてさ」
「ケッ。誰のせいだか」
「はいはい。……申し訳ありませんでしたーっと」
眉間にしわを寄せる吸血鬼を見ながら、魔女は肩をすくめて首を振る。
「それじゃあ、私も行くことにするよ」
「ああ。……何をしに、だ?」
「決まってんじゃん」
ニヤリと、“悪い笑み”を浮かべた魔女は、拳を握って言い放つ。
「“
「上等」
――今再び、“魔女”と“吸血鬼”が、手を組んだ。