「“それじゃあ、作戦を確認するよ”」
貨物運搬用の無人列車、その車両の中で、“エリドゥ攻略チーム”が顔を合わせていた。
要塞都市エリドゥ。それが、リオが潜んでいると思われる場所だ。
セミナーとエンジニア部の協力により、調月リオの建設していた拠点――“要塞都市エリドゥ”の詳細な座標と、その侵入経路を確保したゲーム開発部のメンバー達は、そこにいるであろうアリスを奪還するためのチームを結成し、潜入を開始していた。
現在は、エリドゥ建築の際の資材運搬に用いられていた貨物列車をヴェリタスによるハッキングを用いて運行し、エリドゥへと向かっている最中だ。
攻略チームは……、ゲーム開発部を中心として、彼女たちをアリスの元へ届ける為のメンバーが集まっていた。
指揮官、および引率の“先生”。
“飛鳥馬トキ”という戦力を引き受けるためのC&C。
そして。ゲーム開発部の直接的護衛として、聖園ミカとタカツキ。
作戦はシンプルな陽動作戦だ。
ゲーム開発部がリオとアリスがいるであろうエリドゥ最深部へと向かう際、エリドゥの戦力を彼女達へ向けさせない為の“陽動部隊”である、C&Cが正面から突撃をかける。
そして、戦力がC&Cに集中している状況で、ヴェリタスのナビゲートを受けながらエリドゥ最深部へとゲーム開発部が急ぎ、道中の些細な障害はミカとタカツキが対処する。
それが今回の“天童アリス救出作戦”の概要だった。
「“大変な役割を任せちゃうけど……大丈夫?”」
「ぜーんぜん!大丈夫だよ、ご主人様!」
「ええ、正面切って派手に暴れるのは……C&Cの得意分野ですから」
「今回はリーダーだけじゃなく、私達全員がいるんだ。問題ない」
「……だとよ先生。陽動はあたしらにまかせておけって」
「“うん。信じてるよ”」
C&Cのフルメンバーが揃っての作戦。それはつまり、“ミレニアムの最高戦力”の投入ということでもある。
いくら相手が“ミレニアムの頂点”だとしても、いや、だからこそ、その脅威は理解している筈だ。
「あたしとしては……そっちの方が心配だけどな」
「あン?」
「バンプ。お前、機械相手は不得意なんだろ?」
腕を組んで、壁に背を預けて両眼を閉じていたタカツキは、ネルの指摘に顔を上げた。
「全部ミカに任せるつもりじゃねぇよな?」
「当然だ。それに、
そう言いながらタカツキは、左脇の下に装備したホルダーを軽く叩く。
それは、出発の直前、白石ウタハより預かった――“完成品”。
彼がこれを受け取ったのは、エリドゥへ向かう直前だった。
――運が良かったね。突入までにギリギリ間に合わせられたよ。
そう言いながらウタハがタカツキへ差し出したのは、三発の弾丸と、それを撃ち出すための大口径のリボルバー拳銃。
――精製時間の都合、作れたのは三発限りだ。それに、今回使用したベースはサンプルの物ではなく、ネルの力を借りた。……ぶっつけ本番になるだろうが、効果は保証する。
タカツキの“切り札”を作成する為に全力を挙げたエンジニア部は、その成果と共に“気持ち”をタカツキへと預けている。
この場に彼女達は居なくとも――その意思は、共にある。
「あたしが力貸してんだ。……負けんじゃねぇぞ」
「言われるまでもねェ」
ネルが、タカツキへと握り拳を突きだし、それに対してタカツキは
ネルがタカツキの前を去り、ゲーム開発部と先生、C&Cがそれぞれの集団の中で、戦いへの士気を高めている時だった。
「やっほ。相変わらず孤高気取り?」
「俺は元々部外者だ」
「なら、私はバンプくんと一緒にいるべきかな」
「一応。ミレニアムに体験入学中だろ」
「“今は”ね」
そのままミカは、タカツキの横に並んで壁へ背を預ける。どちらも顔は前へ向けたまま、互いの視線が交わることはない。
「バンプに言われて。私、考えたんだよね。……今の私が、何をしたいのかなって」
左脚と背中に体重を預けたミカは、自由になった右足を前後に揺らしながら言葉を続ける。
「アリスちゃんがさ、もし……本当に私と同じ苦しみをしているんなら。……もう、私みたいな悲しい結末は、もう繰り返すべきじゃないんじゃないかなって。だって、まだ、アリスちゃんには……帰りを待ってくれてる友達が、こんなにいるんだから」
「…………」
「だからね。……“悪者”になる事を選ぶなんて結末だけは、絶対にさせない。……御伽噺の悪者は、私一人で十分だから……。アリスちゃんには、悪者をとめる勇者になってもらわなくちゃ」
淡々と、けれど、覚悟をにじませたミカの声音の裏に、タカツキはわずかな寂しさのような物を感じていた。
縋る当てを失った、孤独を認めた、強がり。……その裏側に、彼女の“弱さ”は、確かに隠されている。
「バンプくん」
「……なんだ」
「必ず、勝つよ。……私達で」
「何度も言わせんな。……“言われるまでもねェ”」
魔女と吸血鬼は、静かに互いの拳を合わせた。
「――正面から突入をかけてくるとは、さすがにもう少し賢いと思っていましたが」
「なんだよ。要塞都市に勝手口と玄関口でもあるってのか?」
――貨物列車を降り、エリドゥへ突入した美甘ネルは、そのまま真正面から、最短ルートを辿るようにしてその中心部へと進行を始めた。
稼働する自動防衛システムを片っ端から粉砕していく暴虐の嵐に、当然リオも対抗策として、“飛鳥馬トキ”を差し向けた。
「“真正面から”って言うんなら。それこそテメェもそうだろうが。良いのかよ、この前みたいに不意をつこうとしなくて」
ネルの進行を阻むようにして現れたトキは、ネルが粉砕しようとしていた隔壁の上に立っている。
そこは他に隠れる場所もなく、そこから別の場所へと移動しようにも、その姿は丸見えとなっており、視線を切る事が困難な位置関係でもあった。
「問題ありません。私の全力であれば、単独での制圧が可能です」
「はっ。一度勝ったぐらいでよく言うぜ。それによ――」
瞬間。トキのいた場所へ銃弾が放たれた。
カリンの放った狙撃を、銃声により察知したトキは、すぐさまその場を飛んで離れる。
――だが、その飛んだ先には、既にアカネの仕込んだ無数の爆薬が配置されていた。
爆発に巻き込まれたトキは、防御姿勢をとり、“装備”で持ってその衝撃を緩和する。
しかし、彼女の華奢な身体は爆発で吹き飛ばされ――、その落下先には、まるで先回りをしていたかのようにアスナが待ち受けていた。
放たれた無数の弾丸は、トキのメイド服へと突き刺さった。
防弾スーツとしての役割を持っている、リオ特注のメイド服ではあるが、アカネの爆発により消耗していた事が重なり、アスナの銃弾を防ぎ切るには不十分となっていた。
どうにか弾丸の雨を抜け出したトキは、再びネルの前へと……今度は見下ろす形ではなく、彼女と同じ地面の上に、躍り出た。
「…………なるほど。コレが、先輩方の連携ですか」
「そうだ。……まさか、この期に及んで“卑怯だ”なんて……言わねぇよな?」
C&Cのフルメンバーによる連携。その完成された戦術を前に、飛鳥馬トキは――。
「――会長の予想通り、ですね」
「……あ?」
「いえ。あなた方の戦力を計上する以上、もしエリドゥへ攻撃を仕掛けてくるなら……、C&C全員を小隊として運用し、陽動を仕掛けてくるというのが、リオ様のお考えでしたので」
「……そんで?だけどお前は時間稼ぎをするってのが、リオの作戦だって言うのか?」
「まさか」
ビリビリと、トキがボロ切れのようになったメイド服を破り捨てるようにして脱いでいく。袖も、上着も、スカートでさえ。彼女がつけていた“装備”共々。
すべての衣類をはぎ取ったトキのインナー姿は、その体にピッタリと張り付いた、滑らかな表面のスーツだった。
「降参するってのか?」
「そうですね。……降参を推奨します」
「……話がまるで見えてこねぇ。まるでお前が有利みたいな言い草じゃねぇか」
「みたい。ではありません」
瞬間。空から“何か”が飛来した。
激しい風圧に、ネルは思わずその目を右腕で覆う。
凄まじい振動と、地面に硬い何かが激突した轟音が響いた。
「一体、何が――」
そうして、ネルがその腕を退かした時。
「……なんだ、そりゃ」
「コレが。私……飛鳥馬トキがリオ様より頂いた、“力”です」
飛鳥馬トキの身体を覆うような、一際大きな鋼鉄の体躯は、このエリドゥに存在する他すべての兵器とは一線を画す存在感を放つ。
そんな“兵器”に乗り込んだトキは、その操縦桿を握りしめた。
『パワードスーツシステム“アビ・エシュフ”機動』
「戦闘を開始します」
『諦めなさい。万に一つもアナタ達に勝ち目はないわ』
「“くっ……皆、大丈夫!?”」
ネル達が陽動として正面からの突撃作戦を行い、トキと戦闘を行っていた頃。
迂回ルートからエリドゥ中心地のコントロールタワーを目指していた“先生”とゲーム開発部、タカツキ、ミカのチームの前には、巨大な敵が立ちふさがっていた。
エリドゥの監視網は、その内部の情報の全てをコントロールタワー……リオの元へ集めており、迂回ルートを辿っていた“先生”達の姿も最初から彼女に筒抜けだった。
ヴェリタスからの遠隔通信も遮断され、支援を受けられなくなった彼らの前に立ちはだかったのは、一体の大きなロボット。
その名を――“アバンギャルドくん”。
……名前の文句ならリオのネーミングセンスに言うべきだろう。
ともかく、奇っ怪でマヌケと評せるような面妖な頭部と、飾り気のない筒のような胴体に、四本のアームを持ち、走破性の高いキャタピラでそれらを運ぶ戦闘ロボット、“アバンギャルドくん”は、マヌケな見た目に反して凄まじい戦闘力でもって“先生”達に襲い掛かった。
「は、速すぎるし硬すぎるよ〜!」
「こ、こんなのどうすれば……!」
「見た目と強さのギャップが……すごい、違和感……!」
巨大な体躯を俊敏に動かし、放たれる弾丸はいずれも十分な破壊力を持っていた。
戦闘を得意としないゲーム開発部では、まるで歯が立たない相手に、しかしそれでも彼女たちが交戦の体を成せていたのは、ミカとタカツキの加勢が大きかった。
「チッ……オイ!クソウィッチ!破壊はお前の十八番だろうが!なんとかしろ!」
「やってるでしょ!もう、文句が多いんだから……!」
攻撃においても、防御においても神秘を持たない機械に過ぎないアバンギャルドくんに対して有効打を持たないタカツキがゲーム開発部のサポートへと回り、そんな彼女達を後方に下げさせながら、ミカが単独で前線を張る。
ミカ放つプレッシャーが無ければ、アバンギャルドくんはゲーム開発部へとその火力を押し付け、その戦線が壊滅していた事は予想に
だが一方で、ミカも致命の一撃を叩き込む為の隙を見出せずにいる為、少しずつ、体力の消耗というリミットが迫ってきていた。
『アナタ達がAL-1S……アリスを大切に想っている事は理解しているわ。けれど、それは間違った感情よ』
「感情に間違いも正しいも無いよ!私達は、アリスちゃんを取り戻すんだ!」
『その選択の果てに、アナタ達は“天童アリス”という存在だけではなく……アナタ達自身。いいえ、この世界すら失うのよ』
「そんなの、やってみなくちゃわかんないでしょ!だから……アリスちゃんを返して!」
『それはできないわ。……“AL-1S”は、私が確保する』
戦闘の最中、リオの言葉にモモイが断固として拒絶と反抗を示す。
どれだけ厳しい戦いであろうと、友の為に彼女達が諦めることはない。
――それに、戦っているのは、この場にいる彼女達だけでは。無いのだから。
『……!?』
突如。リオの通信にノイズが混ざる。
ザリザリとした異音が、エリドゥの周囲のモニターから鳴り響き――その画面が点灯した。
『ふう……なんとか間に合ったかな。……みんな、大丈夫?』
「“――チヒロ!!”」
モニターに映し出されたのは、ヴェリタスの副部長。各務チヒロ。
彼女がモニターに映し出されると同時に、ヴェリタスとの通信が復旧する。
『うわぁぁん!副部長〜!』
『流石です、待っていました』
『でも、どうやって……?』
エリドゥの通信網は、全てリオの管理下にあり、そのネットワークセキュリティはヴェリタスの部員達でも容易に突破できるものではない。
それ故に、打ち切られていた筈の外部通信は、しかし、チヒロの手によってこうして蘇っている。
『こういう時のためにヒマリが“秘密兵器”を用意してくれていたみたいでね』
「……!あ、そうか!お姉ちゃん!アレだよアレ!」
「あ、アレって何!?」
「前にG.Bibleを解析しようとした時に見つけたやつ!」
――それは、ゲーム開発部が“天童アリス”と出会う際に合った一悶着。
G.Bibleというゲームの指南書を求めた、ゲーム開発部がセミナーから強引に奪取した、特殊な装置。
あらゆるプログラムを写し取り、解析することが可能なハッキングツール。
「“鏡……!!”」
『ご明察。そう、“鏡”を使ってエリドゥのネットワークをハッキングしたの。ついでに、会長にもご退場頂いたし、コレで――』
「勝てる。とでも思っていたのかしら」
その場に響いた声に、その場の空気が凍りついた。
アバンギャルドくんとゲーム開発部が戦う高架路の上、さらにそれらを見下ろせるビル群の上から響いた声に、その場の視線のすべてが集まった。
「“――リオ!?”」
「お久しぶりね、先生。……見下ろすような形になってしまった事、謝罪するわ」
――エリドゥ中心地、コントロールタワーに居ると予想されていた調月リオが、この場に現れた。
『なんで……ここに!』
「勿論、アナタ達をエリドゥから退ける為。……流石、ヒマリが目をかけているだけの事はあるわね。“鏡”を使っているとは言え、エリドゥのネットワークへ干渉したことは評価に値するわ」
『まさか……!貴女は――!』
「ええ」
驚愕に染まるチヒロに対し、リオは静かにうなずきを返した。
「――想定通りよ。すべて」
その言葉とともに、エリドゥのすべての電力機能と、電算機能がダウンする。
当然――、モニターに映っていたチヒロの姿も消失する。
「何、何、停電!?」
『ハッキングに対して……電源を落として対抗してるって言うの!?』
『無茶苦茶だぁ!?』
「いいえ。これは、“アビ・エシュフ”の全力を出す為の副次的な措置よ。――そして、当然」
エリドゥの機能が、半ば停止状態になりながらも。しかし、“調月リオ”の優勢は――揺るがない。
「“アバンギャルドくん”は、元より……エリドゥのネットワークからは独立している」
『なっ……!?』
――各務チヒロの行ったハッキングにより、エリドゥの通信機能と、それらによって管理される複合的な防衛機構はすべて干渉を受けていた。
だが、“それらから独立している”アバンギャルドくんには……なんの影響もない。
『まさか、最初から……ここまでを読んで――!?』
「“……これが。ミレニアムの……ビッグシスター……!!”」
「ええ。……さあ。始めましょうか」
唸りを上げるアバンギャルドくんに、先生とゲーム開発部の面々がツバを飲み――。
『――せん、せい……』
「“アカネ!?”」
『早、く……逃げて、下さい……。私達は、失……敗、しま、した……』
「“大丈夫!?”」
突如として、先生のタブレットへと、室笠アカネからの通信がはいる。彼女は苦悶の声を漏らしながら、懸命に先生へと逃走を促していた。
「“一体何が――”」
『“アレ”は……。普通じゃ、ありません……!早く、そこから離れ――』
「戦闘領域へ到達。降下、開始します」
上空より、声が響いた。
一機のドローンが、運搬していた“ナニか”のロックを解除し、それは“先生”たちの後方へと落下した。
落下の衝撃により高架路のコンクリートに蜘蛛の巣状の亀裂が走り、周囲の空気が一気に熱を帯びる。
舞い上がった土煙が晴れるとともに現れたのは――、“アビ・エシュフ”をまとった飛鳥馬トキの姿だった。
「“トキ……!?”」
「対象を確認。……これより、ミッションのサードフェイズに移行します」
「ええ。任せたわ、トキ」
アバンギャルドくんと、アビ・エシュフ。
「あ、あわわわわ……」
「ど、どうしよう……これって……」
「私達……“詰んでる”んじゃぁ……」
本来、C&Cが相手をしているはずのトキがここにいる。……それはつまり、このパワードスーツを纏うトキが、どんなカタチであれC&Cを撃退してここまで来ていると言うことだ。
つまりそれは、ゲーム開発部とは比較にならない程の戦力をもっことの証明であり。――それは、文字通りの“絶望”の姿となって彼女達の目に映る。
だが。
「……チッ。オイ、クソウィッチ」
「はいはい。……まー、コレならいっか」
“たかが絶望”程度。“最悪”の彼らにとっては――些細な問題でしかない。
“
「やるぞ」
「オッケ」
互いの拳を、コツンとぶつけた。
うーんやりたい放題。
そろそろ皆さんお待ちかね(?)の二人の戦闘シーンです。魔改造されたミカの全力戦闘が見られます。作者はとっても見たい。
え?ミカが魔改造されすぎじゃないかって?
……オラワクワクすっぞ!!