Bloody Arriver   作:Ziz555

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Ep.8 消えない残像

 

「“タカツキくん……”」

「指揮はいらねぇ。援護もいらねぇ。下がってろ」

「そんな……!私達は足手まといだって言うの!?」

 

 ミカから武器を受け取ったタカツキは、先生とゲーム開発部の横を通り過ぎながら言葉を交わす。

 視線を合わせることなく、少年は視線の先に敵を捉えていた。

 

「あァそうだよバカモモイ。この戦いにテメェらの出る幕はねェ」

「なっ……何もそこまで言わなくてもいいじゃん!」

「“加減が出来ねぇ”って言ってんだ。黙って下がってろ」

「そんなの――」

「“モモイ”」

 

 タカツキに食い下がろうとするモモイを、先生が手で制す。

 抗議の視線を先生へと向けたモモイに対して、先生はただ静かに首を横に振った。

 

「“タカツキくんに任せよう。私達は力を温存するんだ”」

「温存する……って」

「“私たちの目的は敵を倒すことじゃなくて……、アリスを連れ戻す事だからね”」

 

 先生の言葉に、モモイは「それは……」と言い淀んだ。確かに、目の前の脅威を排除したからといって必ずしもアリスに辿り着けるとは限らない。

 タカツキのぶっきらぼうな突き放しは、役割分担への意識の表れであることを先生だけが気づいていた。

 

 言葉は伝わらなければ意味は無い。そう教えてやらないといけないな。などと、戦いの後の事に思いを馳せながら、先生は格好つけた男の背中を黙って見送った。

 

 

 

「よォ。メイドの次はハイレグスーツたぁ。ずいぶんイカれたセンスしてるじゃねぇか」

「……トリニティの吸血鬼」

「タカツキだ」

 

 鉄の鎧を駆る少女と、生身の少年が対峙する。

 少年は、ミカから受け取ったSMGを肩に担いで不敵な笑みを浮かべていた。

 

「ソレ。大した玩具(オモチャ)みてぇだな」

「アビ・エシュフに死角はありません。投降を推奨します」

「そう焦るなよ……。化け物退治は初めてかァ?」

「少なくとも、あなた以上の脅威を退けた経験はあります」

「ハッ。言うねぇ。メイド長への下剋上、さぞかし気持ちよかったろうなァ」

 

 チンピラの様なタカツキの煽りに、トキは静かに「恐れながら」と首を振った。

 

「私は完璧なメイドです。任務の遂行は絶対。そこに快感などは覚えません」

「なんだ。案外分をわきまえてんだな」

「……どう言う」

 

 要領を得ないタカツキの発言に、トキはバイザーの奥で顔をしかめる。

 

「さァな。……ヤッてみりゃ――」

 

 

 

「わかるだろうよ!!!!」

 

 

 

 その声とともにタカツキは素早く左手で拳銃を抜き、トキへと銃撃を放った。

 刹那、アビ・エシュフは唸りを上げて駆動を開始する。

 

 タカツキの身の丈を超えるほどの巨大な鉄の塊が、一瞬にして視界から姿を消した。

 

「(――速い)」

 

 一瞬のうちにタカツキの側面へと回り込んだアビ・エシュフは、両腕部の機銃を彼へとめがけて掃射する。

 だが、スピード勝負ならタカツキとて負けはしない。

 即座にタカツキも反転し、回避行動を取りながら拳銃の引き金を引き、反撃を試みる。

 

 しかし。その攻撃は――掠りもしない。

 

「……チッ」

 

 最小限、最低限、最短ルートでタカツキの放った弾丸の射線を避け、アビ・エシュフはタカツキへと距離を詰める。

 当然、銃口が迫れば弾丸の回避も困難となる。

 

 だが。

 

「甘ェ」

 

 “至近距離戦(クロスレンジ)”は、タカツキの真骨頂。

 

 自らへ接近を行うアビ・エシュフに対し、タカツキはむしろ自ら飛び込んだ。

 

「フーーーー……ッ!!」

 

 深く、深く、深く。体の芯から息を吐き出す。

 彼のヘイローが、朧に揺れた。

 

「零地点」

「よォく、ご存知で」

 

 両手の銃器をホルダーへ仕舞い、アビ・エシュフの弾丸の雨の中をタカツキは強引にかける。たが、その被弾による影響は最小限だ。

 アビ・エシュフがパワードスーツと言っても、その銃火器に込められているのは搭乗者である飛鳥馬トキの神秘だ。たしかに、いくらか口径や火力が増していようと、それらの神秘性が薄れるのであればその威力はたかが知れたモノとなる。

 

 火線の中に活を見出す、タカツキの常套手段。

 

 両者の距離は、零となる。

 

「一曲どうだい、メイドさん?」

「ダンスの作法も問題ありません」

 

 右拳。蹴撃。裏拳。かかと落とし。肘打ち。回し蹴り。

 

 目まぐるしく程の打撃の乱打。ミカとの組み手で鍛え上げられたそれらの格闘は、その一発一発が一撃必殺級の威力を持っている。

 嵐のような乱舞攻撃。まるで格闘ゲームから飛び出してきた様な超人的なその動きに、戦いを見ていたモモイが驚きの声を上げた。

 

「す……っごい!あれがバンプくんの本気なの!?」

「でも――!!」

 

 モモイの感嘆に否定の声を上げたのは、彼女と共にその戦いを固唾を呑んで見守っていたユズだった。

 

「――全部、紙一重でいなされてる!!」

 

 ――タカツキの攻撃は、届いていない。

 

 いや、厳密には命中している。拳やケリのすべてを防がれている訳では無い。

 だが、それらのいずれもがアビ・エシュフの装甲の厚い部分による防御で受けられているばかりで、本命たる一撃はすべて避けるか防がれるかとなっていた。

 

「バンプさんの動きに、あとから追いついてる……!?あんなの、まるでオートガードチートみたいな……!」

 

 ユズの優れた動体視力がとらえた事象は、事の真実を見抜いていた。

 

 トキの纏うパワードスーツ、“アビ・エシュフ”には、擬似的な未来予測機能が備わっている。

 センサーから得た情報と、対象のデータを元に、そのシステムのバックアップを行うエリドゥの全計算機能を用いる事で発揮される戦況予測能力は、ほとんど“未来予知”と相違のない結果を叩き出していた。

 

 故に、タカツキの攻撃は――届かない。

 

「チッ!!コレなら――!」

 

 埒が明かないと踏んだタカツキは、強烈な蹴りを放つ。

 単純な一撃をアビ・エシュフで受けたトキ。そして、逆にそれを利用してタカツキは宙へと舞った。

 

「そォら!!」

 

 トキの視界が跳び上がったタカツキへと向いた瞬間、懐から取り出された閃光弾を彼は即座に拳銃で射抜いた。

 

 炸裂する閃光。轟音。

 

 目眩ましの中。零地点突破の中で残されたわずかな神秘を放出し――、タカツキは空中で加速した。

 

「どうだ!!」

 

 

 

「無駄です」

 

 

 

 閃光が晴れる。

 

 光の向こうでタカツキがその目にとらえたのは――両肩部ビームキャノンを展開したアビ・エシュフの姿。

 

「――ッ!?」

 

 咄嗟に両手を交差する。

 

 光が、吸血鬼を焼いた。

 

 爆発、轟音。吹き飛ばされるタカツキの身体は、さらに高く宙を舞った。

 

「“タカツキくん!!”」

 

 先生の声が響く。

 

 まるで布切れのように宙を舞っていたタカツキは――。

 

「ケッ」

 

 ――ビームキャノンから吸収した神秘を放出し、くるりと宙で回転してから着地した。

 

「思ってたよりやるじゃねェか」

「想定通りの戦況です。……再度通告します、投降を推奨します」

 

 ビームキャノンの砲撃を受け、衣服の端々を焦がし、頬に火傷を作ったタカツキが笑う。

 対するトキは――完全に、無傷。

 

「ま、まずいよお姉ちゃん……」

「バンプくん、満漢全席だ……」

「ま、満身創痍……かな……?」

「先生!やっぱり私たちも助けに……」

「“そうだね、やっぱり――”」

 

 絶体絶命、圧倒的で絶望的な劣勢にゲーム開発部の面々は不安げに武器を握りしめる。たしかに、この状況。間違いなく彼のピンチを疑わない――

 

 

 

「まァ、待てよ」

 

 

 

 ――不敵に笑うその男を除けば。

 

 

 

「……この状況。この戦果。あなたの敗北と私の勝利を疑うべくも無いと思いますが」

「オイオイオイオイ。早とちりは良くねェぜ、金髪メイド」

「飛鳥馬トキです」

 

 武器をしまったタカツキは、肩をすくめて首を振る。

 

「まァ。仕方ねェ。メイド様は化け物退治は専門外と見える。あー、そりゃまあ、まーったくもって。し、か、た、が、ねぇ」

「…………」

 

 安い煽り文句だ。負け惜しみと言っても差し支えがない。あからさまに人を小馬鹿にしたような愚劣な振る舞い。それが劣勢な姿の男からとなれば、それはもはや哀れな光景ともいえる。

 

 だが。

 

「(……なんですか。この、彼からあふれる自信は――?)」

 

 トキは静かに警戒を強める。

 

「一つ教えてやるよ、金髪メイド。化け物退治のマナーって奴だ」

「……」

「――“投降”なんて話のわかる化け物がいる訳ねェだろ」

 

 タカツキは懐から一丁のリボルバーを取り出した。

 

「リボルバー……?」

「切り札だよ。キ、リ、フ、ダ」

「……確かにかなりの口径。相当な火力のリボルバー拳銃のように見えますが、その程度で――」

 

 くるくると彼が弄ぶ拳銃は、確かに先日ほどまでタカツキが使っていた拳銃に比べてかなりの銃口をしている。たが、それでも所詮“拳銃”は“拳銃”だ。そこにさしたる違いは――。

 

「何勘違いしてんだ?」

「……?」

「誰がこいつをお前に向けるって言ったよ」

 

 安全装置を解除して撃鉄を上げた拳銃の引き金に指をかけ――彼は、()()()()()()銃口を突きつけた。

 

 

 

 ()()()()()()()()に。

 

 

 

「何を――!?」

 

 

 

「とっておきだ。瞬きすんなよ」

 

 

 

 銃声が響く。

 

 

 

 鮮血が舞い、赤い飛沫が飛び散った。

 

 

 

 少年のヘイローが砕け――――そして。

 

 

 

 ――――“新たな形”を成していく。

 

 

「――BloodBullet(ブラッドバレット)。コードOO(ダブルオー)

 

 黒かったはずの彼の髪の一房が、鮮やかな橙の色へと染まる。

 

 黒い円の中心に黄色い三角の文様が浮かび、その周囲を取り囲むような黒い曲線が三本。

 

 タカツキの纏っていた気配が、ガラリと変わる。

 

「データ照合……該当なし。……その、姿は」

「“BloodBurst(ブラッドバースト)”。……覚悟はいいな、コード04」

 

 タカツキはリボルバー拳銃を仕舞い――再び、拳銃とミカから預かったSMGを手に取った。

 

()()()()()を教えてやるよ」

 

 ――タカツキの姿が消えた。

 

「速いッ!?」

「遅ェよ」

 

 先程までとは比較にならない速度でアビ・エシュフの側面へと回り込んだタカツキは、拳銃とSMGの弾丸を掃射する。

 瞬間。アビ・エシュフのオートセンサーが反応し、自動的にその機体が回避行動を取る。

 人体への負荷を鑑みない急制動に、トキが苦悶の声を上げた。

 しかし、タカツキの攻撃の手は緩まない。

 

「オラオラオラァ!!」

 

 威勢の良い声とともに両手の銃のマガジンが尽きるまで弾丸を叩き込み、アビ・エシュフへと火力を向ける。

 トキはそれらの攻撃を、アビ・エシュフの予測線を用いて回避し、逆に両の手の機銃をタカツキへと放った。

 

「そんな寝ぼけた攻撃が――通用するかよ!!」

 

 放たれる弾丸を、そのままの超スピードでくぐり抜けていくタカツキ。――だが、それらの軌道はすべてアビ・エシュフの予測の範囲内だ。

 そうして、タカツキが飛び上がる方向への回避をするようにその動線を潰し。彼が身動きの取れない宙空へ飛び上がった時。

 

「ええ、ですから……この一撃でチェックメイトです」

 

 アビ・エシュフの肩部ビームキャノンが――。

 

 

 

 ――タカツキをすり抜けた。

 

 

 

「消えた……ッ!?」

 

 

 

 完全な直撃コース。宙に舞うタカツキの神秘放出による回避も読んだ、完全不可避のその射撃は確かに彼の姿へ向かい――その身体をすり抜けて遥か彼方へと飛んでゆく。

 

「――俺はここだぜ?」

「後……ッ!?」

 

 次の瞬間、背後で聞こえた声に、アビ・エシュフの腕部を大きく薙ぎ払う。だが、そこにいるはずのタカツキの姿も――先程までと同じ様にすり抜ける。

 

「まさか……これはッ!!」

 

 

 

「――“神秘を持った残像”!?」

 

 

 

 その戦闘を少し離れた地点から見ていたモモイたちの目には、その光景の真実が映っていた。

 

 トキのアビ・エシュフの攻撃は確かにタカツキを狙っている。たが、それは“数手前のタカツキの居場所”への攻撃だった。

 

 まるで、そこに残った影を撃ち抜くかのように。

 

 残像。それは、高速で動いた物体の輪郭を目が残してしまう一種の錯覚。

 だが、それはあくまで人の目が及ぼす錯覚にすぎず、そこに実体は存在し得ない。当然、超高性能センサーを備えるアビ・エシュフに“残像”などというただの目眩ましが通用するはずもない。アビ・エシュフが視覚的なデータに頼っていないことは、タカツキが放った閃光弾が意味を成していないことからも明白だった。

 飛鳥馬トキはバイザーをつけており、そのバイザー越しに戦場を捉えている。それは、アビ・エシュフが外部センサーから取り込んだ複合的なデータを、人間が視覚的に捉えられる範疇の情報へ変換して投影している映像を観ているだけに過ぎない。

 

 故に、目を焼くほどの閃光という無駄な要素を省き、正確にタカツキの像をトキへと示していた。

 

 ――その“高性能”が裏目に出た。

 

 タカツキのBloodBurst(ブラッドバースト)は、その神秘を爆発的に増加させる、BloodResonance(ブラッドレゾナンス)の擬似的な発露だ。

 それはつまり、彼の身体の中に一時的に凄まじい神秘を発生させる行動でもある。

 

 アビ・エシュフは敵の索敵に関して、“神秘”の反応を追ってしまう。

 

 そして、今のタカツキが帯びている神秘の力は高速戦闘に適性のある美甘ネルのもの。その神秘を帯び、発露しながらの彼の高速移動は、その肉体にまとう神秘の残滓をその場に残しながら行われる。

 

 それが。“神秘をもった残像”の正体。

 

「不味い――!!」

 

 正体が分かったとて、その機能を対応させているだけの余裕は、今のトキには存在しない。

 ましてや、アビ・エシュフのサポートを行うはずの調月リオは現在、聖園ミカと戦闘しているアバンギャルドくんの制御に手を取られている。

 

 間に合うはずもない。

 

「これで――!!」

 

 タカツキの輪郭が、ブレる。

 

「――ゲームオーバーだ!!クソメイド!!!!」

 

 上下左右、無数にその残像が姿を成す。

 そして、アビ・エシュフは――そのすべての残像を実体と誤認し、その予測攻撃線をすべてトキの視覚へ表示する。

 

 ――避けられない。

 

 一つ、二つと連続で襲い来る残像へ立て続けに弾丸を放ち、腕を振るい、取りつかれまいと振り払う。

 だが、そのすべてが宙をきる。トキの身体を通り抜けてゆく。

 

「グッ……!?」

「戦う相手を間違えたな!」

 

 無数の残像に紛れたタカツキの腕が、トキの首根を掴む。

 

 アビ・エシュフに、トキの全身を覆うほどの装甲はない。

 タカツキがその手で直に身体へ触れれば――、神秘の吸収は防げない。

 

「すみ……ま……せん……」

 

 薄れゆく意識の中、トキは最後に謝罪の言葉を残し――意識を手放した。

 

 脱力し、倒れ伏すトキの姿を確認したタカツキは、彼女の身体から離れ、BloodBurst(ブラッドバースト)を解除した。

 

 右手に握るミカのSMGを肩に担ぎ、彼はニヤリと不敵に笑う。

 

「ハッ。楽勝」





 タカツキくんの新戦闘スタイルのお披露目でした!
 少年マンガみたいな展開構成してるなぁなどと思いつつ、こういうの好きなんですよねー私。
 因みに、BloodBulletの略称は“BB弾”と言います。少年マンガのキーアイテム仕草ですね〜(?)
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