Bloody Arriver   作:Ziz555

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Ep.9 勇者の居場所

 

「……まさか、あなた達にすべて無力化されるとは思わなかったわ」

 

 先生とゲーム開発部の前に立ったリオは、淡々と状況を受け入れていた。

 撃破されたアバンギャルドくんと飛鳥馬トキをみやりながら、調月リオは静かにその目を閉じる。

 

「認めましょう。私の……負けよ」

「や……やった!やったよ!ラスボスを倒したよ!」

「ありがとうございます、ミカさん、バンプさん……!」

「ううん。ぜーんぜん。私達にはこれぐらいしか出来ないからさ♪」

 

 リオの敗北宣言に、モモイとミドリが両手を上げて喜びの声を上げる。その勝利の歓声に、ミカも頬を緩めて二人へ笑いかけていた。

 

 その一方で、タカツキは勝利者とは思えぬ難しげな表情のまま、両手を組んでリオへと視線を注ぐ。

 

「…………」

「“お疲れ様、タカツキくん”」

「……あァ。そうだな」

「“……?”」

 

 目的は達したと言うのに、なにやら浮かない顔をしたままのタカツキを見て、先生は静かに首を傾げる。

 戦いの功労者であるタカツキは、静かにリオを見つめたままだ。

 逆に、見つめられていたリオが静かに口を開く。

 

「全くの想定外だったわ。あなた達の“変身”は……。神秘をここまでコントロールする存在に前例はない。……いいえ、殆ど不可能な技術だと思っていたのだけれど」

「まあね。私もバンプくんが見せてくれなきゃそもそも“神秘を解放する”なんていう発想にも思い至らなかったもん」

 

 リオとて“神秘”という存在を無視していた訳ではない。たしかに、超常の現象を引き起こす理論不明のエネルギーとしてその存在を認知していた。

 アビ・エシュフの識別機能に神秘を観測するセンサーを搭載するように、その脅威と有用性は彼女も重々承知の上だった。

 だが。その能力を限界まで引き出した事による肉体的な変化――文字通りの“変身”を行える領域の存在がいる等という突拍子もない事は、想定の範疇を大きく超えていたのだ。

 

「ミレニアムのビッグシスターって言う割には、予想外の事もあるじゃんね?」

「……あなた達が常識外、いえ。超常的過ぎるというだけよ」

「ならさ、アリスちゃんだっておんなじなんじゃないの?」

「AL-1Sが……?」

 

 リオの呼び方に、ミカはムッと頬を膨らませてから、「アリスちゃん。ね?」と、訂正をかぶせた。

 

「アリスちゃんもさ、私達みたいな“超常的過ぎる”存在だったりするんじゃないの?」

「AL……天童アリスが?」

「そ。だってアリスちゃん、本当はアンドロイドなんでしょ?神秘を持ってる、さ」

 

 くるくると指を回しながらミカはリオに言葉を続ける。

 

「確かに、アリスちゃんが魔王になる事もあり得るかもしれない」

「ええ。実際彼女は――」

「でも、それと同じぐらい。魔王にならないかもしれなくない?だってさ――」

 

 ――こんな私が“魔王”に見える?

 

 そんなミカの言葉に、リオは瞳を丸くした。

 

「私はさ」

 

 少女は少し、その表情に影を浮かべた。

 

「こうなるしか無かったから、“魔女”で居ようと思ったから、“魔女”でいいやーってできるけど。それってケッコー大変なんだよ?」

「…………」

「アリスちゃんは、まだ戻れるし。……私と違って、みんながいるじゃん」

 

 ――“みんな”。それは、この場にいる全員だけではなく、彼らをここへ送り出してくれた多くの仲間たちの事だ。

 

「こんなにたくさんの仲間がいるアリスちゃんなら、きっと“勇者”の役を任せたって、大丈夫なんじゃないかな」

「けれど」

「だーいじょーぶだって。いざとなったら私たちもいるからさ!ね?バンプくん☆」

 

 戸惑いと不安に揺れるリオの瞳に、ミカは優しく笑いかけ、戦いの為に肩を並べた彼の名を呼ぶ。……最も、彼は何も返してはくれなかったが。

 少しだけその事実に唇を尖らせてから、ミカはリオへと――手を差し伸べた。

 

「だからさ。……一緒にアリスちゃんのこと、頑張ってよ」

「私が……?」

「守りたいんでしょ?“世界”。だったら、勇者パーティーに入っちゃうのが一番だよ!」

 

 ふざけた話だと思った。なぜならこの世界はお伽噺ではない。そんな単純で、象徴的な話で済むような問題ではない。もっと複雑で、困難で、不条理に満ちている。

 “勇者パーティーに入る”などという詭弁が、合理的な筈がない。

 

 けれど。

 

「少なくとも、一人で頑張るよりさ。ずっともっと、大きな力が味方になるよ」

 

 その言葉に、リオの瞳が揺れる。

 差し伸べられたその手に、意識が向いてしまう。

 もしかして、きっと。そんな根拠のない予想が柄にもなく浮かび、自然とその手は――

 

「待て」

 

 ――少年の声に、動きを止めた。

 

「バンプくん。邪魔するの?」

 

 リオへ伸ばした手を言葉で遮られたミカは、険しい顔と声で彼を批難する。だが、タカツキは静かに首を振った。

 

「違う。そうじゃねェ」

「何が」

「一つ確認する事がある。ソイツにだ」

「私に……?」

「……それって今、重要な事?」

 

 物語の結末がそこまで来ていると言うのに。そう暗に訴えるミカに対して、……タカツキの表情は、依然険しいままだ。

 

「重要どころか、大問題だ」

「問題なんてないよ。リオも私たちも、“みんなが無事でいること”を求めてるなら。そこに違いなんてない。ただ、ちょっとアリスちゃんが――」

「“ソレ”だ」

 

 “アリス”の名が出た時、タカツキがミカを指で指し示し、その言葉を中断させた。

 そうしてそのまま、その指をリオの方へと差し向けて――。

 

 

 

「――“天童アリス”の居場所を知ってるか?」

 

 

 

 その問いかけに、その場にいた全員が首を傾げた。

 

「……何言ってるのバンプくん。アリスちゃんは会長が」

「待ってちょうだい。……私は、()()()()()()()()()()()()()()わ」

「…………え?」

 

 タカツキ以外の全員がその言葉を聞いて、まるで時が止まったかのように動きを止める。

 

「“……どういう、意味?”」

「そのままの意味だろ。俺たちも、こいつも。誰一人として“()()()()()()()()()”を知らねェんだよ」

「ちょちょちょ!ちょっと待ってよ!だって!私達は消えたアリスちゃんを追いかけてここまで来たんだよ!?」

 

 タカツキの……いや、リオの話した真実に対して、モモイは目を白黒とさせて異を唱える。

 

「会長がアリスちゃんを迷わせるような事を言って、それで、一人で決着をつけるために会長の元に向かったんじゃないの!?」

「…………どういう根拠があってその予想になったのかしら」

「だ、だって!会長はアリスちゃんにこの状況を解決する方法があるって、その準備があるって――」

「あァ。らしいな。……んで、その方法とやらは?」

「それは、アリスちゃんを――」

 

 そこまでいいかけたモモイが青ざめる。

 

「……まって、だって。そんな」

「お姉ちゃん?」

「そんなシナリオ!推理ゲーでもサイテーのクソゲーじゃん!!!」

「も、モモイ……、それって、どういう……」

「どうもこうもないよ!だって!そんな!」

「……アリスが本当に“一人で”決着をつけようと考えるなら。調()()()()()()()()()事すら恐れるだろう、って話だ」

 

 タカツキの言葉に、その場の全員が答えへ辿り着く。

 

 それは、最低にして、最悪の悲劇の結末。

 

「“ま、まさか……!”」

 

 

「“アリス……自分の手で自分のヘイローを壊すつもりで――!”」

 

 

「それはありえないわ」

 

 その場の全員が最悪の想定をした時。そんな絶望の表情を浮かべる彼女たちに、リオの毅然とした否定の声が向けられた。

 

「彼女、天童アリスが“AL-1S”だというのなら、彼女は自らの手で終わることはできない筈よ」

「何故わかる」

「……“名も無き神々の女王”にも、おそらくその制御を行う為の補助的なプログラムがある筈よ。なにか致命的なエラーか起きた時に、それを解決して本来の目的へ戻る為の補佐としてね」

「じゃあ、アリスちゃんは……」

「おそらく、まだ生きているはずよ」

 

 リオの言葉に、緊張と絶望に染められていた少女たちの表情が和らぐ。だが、タカツキと先生、リオだけはその表情を緩ませない。

 

「“リオ。アリスは?”」

「……もし。もし、本当に彼女が自らを終わらせようとするなら、“天童アリス”の人格は凍結され、補助プログラムがその肉体の主導権を握るはずよ」

「つまりそれは。“あの時”と同じ様に、か?」

「ええ、天童アリスがDivi:Sionと初めて接触した時のように、ね。……それを防ぐための設備を用意していたのだけれど……」

「なら。どうして奴は出てこない。目覚めてすぐに俺たちに牙を剥いたような存在だろ?なんで騒動の一つも起きちゃいないんだ」

 

 タカツキの問いかけは至ってシンプルな物だ。疑う余地もなく、真っ当で、シンプルな論理。

 故に、現実と食い違う推理には――何か大きな、理由がある。

 

「……まさか!」

 

 瞬間。エリドゥ中の警報が鳴り響き――、モニターがピンク色の蛍光色一色に染まる。

 

「――チッ!!やられた!」

「“彼女の狙いは最初から……!”」

「私たちの同士討ちによる、消耗――ッ!?」

 

 モニターに表示される文字は――“Divi:Sion”。

 

 この物語に、助け出されるべき“勇者”など――最初から存在していない。

 

『愚かですね』

 

 声が響く。それは確かに、アリスと同じ音で、波長で。

 

『正しさと合理を掲げ、同調を侮り、己の器量を見誤った者も』

「っ……」

 

 けれど、そこにあるはずの優しさも、暖かさも、存在しない。

 

『幼き子を導かんと、その先にある物の姿を見誤った者も』

「“…………”」

 

 この場全てを見下したような。冷たく、無機質で、無感情な――。

 

『己を“悪”と知りながら、お伽噺の勇者を歌い、役回りを見誤った者も』

「チッ」

 

 

 

『全て等しく、無価値で、愚かです』

 

 

 

 モニターに少女の姿が映る。それは、見慣れた少女の、見慣れぬ姿。

 

「アリスちゃん!」

『アリス?それはあなた達が王女へつけた偽りの名。彼の者を惑わす忌み名です』

「“……じゃあ、君は?”」

 

 妖しく光る赤い瞳に、この場唯一のオトナの男は問いかけた。

 

『私は、王女を導くための……“(Key)”』

「キー、……って、もしかして!」

『あなたには感謝していますよ、才羽モモイ。あなたの持ち込んだデバイスがなければ、私も消え去っていたでしょう』

「やっぱり!私のゲームのデータを勝手に消したのはあなただったんだね!」

「お姉ちゃん!?今そこ!?本当にそこでいいの!?」

「……アリスちゃんを返して!!」

「モモイ……」

「誤魔化したな」

「“誤魔化したね”」

「ええ、誤魔化しね」

「ううう、うるさぁぁぁい!!」

 

 ともかく!!と、冷ややかな視線を振りはらい、モモイはビッと勢いよく人さし指を画面の“(Key)”へと突きつけた。

 

「貴方を倒せば!アリスちゃんは帰ってくる!つまりは、真のラスボスは……あなたって事でいいんだね!?」

『倒す?……あなたは……群を抜いて愚かなようですね』

「何言ってるかさっぱりわかんない!」

「バカにされてんだよ」

「また!?」

 

 タカツキの指摘にモモイは大きくショックを受けて、顎が外れてしまわないかと言うほどに口を開けるが、とりあえずそれを両手で押さえてもとに戻して“(Key)”を睨みつけた。

 

『本気で私を倒せると思っているのですか?』

「そんなの!やってみなくちゃわかんないじゃん!だって実際、私達だけで会長は倒せたもん!」

『そうですね。ですが、それは調月が持つ“エリドゥ”単独の話でしょう?』

 

 ――瞬間。ずらりとDivi:Sionのアンドロイド達が彼らを取り囲む。

 

「バンプくん、行ける?」

「雑魚が何匹来ようと問題ねぇ」

 

 それに相対するように、ミカとタカツキが武器を構え――。

 

 

 

『言ったでしょう』

 

 

 

『それは、“単独”での話だと』

 

 

 

 ――エリドゥの防衛システムが一斉に起動し、タカツキ達へと銃口を向ける。

 

「おいリオ!テメェ何やってる!」

「違う!“もう対策は試している”の!」

「“と、言うことは……!”」

 

 リオは手物のデバイスを必死に叩き、そんな彼女にすらエリドゥの銃口が向けられている。

 それが示す事は一つ。

 

『エリドゥのコントロールは、既に七割以上こちらにあります』

 

 ここはすでに、敵の手中。

 いや、或いは、最初から――。

 

「チッ……!」

「あわわわわ……」

「これは……ちょっと不味い、かな……!」

「も、もうダメです……」

「せ、先生ぇ……」

「“くっ……!”」

 

 絶体絶命。四面楚歌。万事休す。……あらゆる言葉で今の彼らの状況を表せる。絶望的な状況、圧倒的な劣勢、史上最大の大ピンチ。

 

 だが。

 

 

 ――まだ、“負け”が決まった訳じゃない。

 

 

 

「――オラオラオラァ!!!!邪魔なんだよォ!!」

 

 

 

 荒々しい声とともに、彼らを取り囲むDivi:Sionが蹴散らされる。

 その声と銃弾の嵐とともに現れた少女は――キズだらけの姿で、しかし不敵に笑っていた。

 

「コールサイン……OO(ダブルオー)!!」

 

 ――その名が示すは、“約束された勝利”。

 

「C&C、まずはその鉄くずどもをひと掃除だ!!」

 

 彼女の気の入った号令とともに、少女たちの「了解」の声が響く。

 爆撃、狙撃、奇跡。それらすべてが、この危機へ反逆する。

 

「“無事だったんだね!ネル!”」

「当たり前だろ!アタシがこんな事でくたばるかってんだ!」

 

 先生の声に、ネルはにやりと笑いを返した。

 その活躍で、みるみるDivi:Sionの数が減ってゆく。

 だが、それを黙って見ているほど、“(Key)”は甘くはない。

 当然、エリドゥの防衛システムを彼女達へ向け――。

 

『その程度。エリドゥのシステムは』

 

 

 

『お取り込み中のところ申し訳ありませんが、そろそろ回線は返していただきますね』

 

 

 

『なっ――』

 

 凛とした声が響き、突如として周囲の電源が落ちる。

 

 暗がりの中だろうと、C&Cの“掃除”に支障はない。彼女達が周囲のDivi:Sionを“掃除”した後……、一人の少女が彼らの前に現れた。

 彼女は、ピンク色の髪を持ち、まるでビキニのような服装で堂々と道を闊歩していた。

 

「はい、コレでおしまい。コントロール奪取したって言っても……別に電源落としちゃえば関係ないもんね」

「エイミ……、と言うことは、まさか」

「久しぶりだね、会長。いつも部長がお世話になってます」

『どちらかと言うと世話をしているのは私ですよ!エイミ!』

 

 エイミと呼ばれた少女の端末から先ほどの凛とした声に似た少女の声が響く。とはいえ、先ほどの落ち着いた様子とは程遠い声音だった為、その声に詳しくないタカツキ達には同じという確証は得られなかったのだが――。

 先生はその声に覚えがあった。

 

「“エイミ!ヒマリ!”」

『お久しぶりです、先生。本来であれば、この天才美少女ハッカーの私の姿とともに挨拶をする所なのですが』

「今は時間がないからね。とにかくコッチ」

 

 くい、とエイミが指を差した道。それは……地下へと続くマンホールだった。

 

『まずは、魔王を迎え撃つ……お城の支度を始めましょうか』

 

 

 

 お伽噺は、まだ終わらない。






 オリジナル展☆開

 ……と言うにはまあ、そこまで大きな改変でもない気もしますが。
 タカツキとミカという過剰戦力を投下するにあたり、諸々調整した結果こういうラスボス戦を配置することにしてみました。
 一体彼らがどの様にその苦難を乗り越えるのか、ぜひお楽しみいただければ幸いです!!
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