Bloody Arriver   作:Ziz555

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Ep.10 鮮紅の空、天衝く光柱。

 

「お待ちしておりました、先生。そして、勇者御一行の皆様」

「肝心の勇者が居ねェがな」

「バンプくん。怒るよ」

 

 エイミの案内の元、地下道を通った彼らが辿り着いた場所。そこは、エリドゥ中心に位置するコントロールタワーだった。

 外はすでに夜となっており、電源が落とされた事で明かりの消えたその部屋には、わずかな窓から差し込む月明かりと、愛用する車椅子へ腰掛けたヒマリの周辺に用意されたわずかなノートパソコンのみが光を放っていた。

 

「なんか……暗いね」

「電源を入れてしまうと、ネットワークからDivi:Sionに侵入されてしまう恐れがありますから。エイミに電力供給部を破壊してもらっています」

「一応、タワーにある予備電源装置を起動すれば起こせるけど……、それじゃ、電源を落とした意味もなくなっちゃうからね」

「なのでひとまず、今の私達に出来ることは――」

「……その、ヒマリ」

 

 ヒマリの状況説明を遮るようにして、リオが一歩前へ出る。

 

「貴女は……私と対立していたはずではないの?」

 

 ――調月リオと明星ヒマリは、“天童アリス”への対処について、対極の意見を持っていた。

 

 調月リオは、その危険性を看過できない故の徹底的な排除を。

 明星ヒマリは、あくまでも“天童アリス”という一人の少女という個性を受け入れを。

 

 故に、調月リオは明星ヒマリを拘束し、エリドゥへ監禁していたはずだった。

 どうやら、和泉元エイミの手によって解放されていた様だが……、それ以外にも、ヒマリは幾らかの布石をリオの行動への対策として打っていた。

 

「ええ。私の意見は変わってはいませんよ」

「なら」

「“私の意見は”。……と言ったのが聞こえなかったんですか?」

 

 ヒマリは車椅子を操作し、リオへと向き直る。

 

「状況は大きく変化しています。……そしておそらく、貴女の考えも」

「……私は」

「リオ」

 

 何かを言いかけたリオの名を呼び、ヒマリは静かに首を振る。

 

「……今は私たちの話をするべき時ではありません。……そうでしょう?」

 

 ヒマリの視線の向いた先を、リオの視線が追う。

 その先には、神妙な面持ちでその場に立ち尽くすモモイ達の姿があった。

 

「確かに。目指した結末はそれぞれ別のものだったかもしれません。……ですが、その先に見た目的はそう変わらないはずです」

 

 リオが天童アリスをAL-1Sとして排除しようとした事も。

 ヒマリが天童アリスをあくまで後輩として扱った事も。

 

 その先に望んでいたのは、どちらも“悲劇のない世界”の筈だから。

 

「こうなっては、天童アリスの身体を乗っ取った“(Key)”をどうにかする他ありません。……ならば、“合理的”な手段は一つでしょう?」

「…………でも」

「“リオ”」

 

 戸惑いを隠せずにいる少女へ――彼は声をかける。……その役割を果たす為に。

 

「“確かに。私達は君の選んだ道とは、違った道を歩いてきた”」

「そうよ。事実、AL-1Sは覚醒して、キヴォトスの危機が目の前に迫っている。……私が彼女をいたずらに追い詰めてしまったから……これは、私の間違いで」

「“うん。だからきっと、これはちゃんとリオの話を聞かなかった私たちの責任でもある”」

「それは!」

 

 慰めの言葉でしかない。そう言いかけたリオの視線の先で、一人の大人が眉尻を下げて、寂しげな笑みを浮かべていた。

 

「“ごめんね、リオはリオなりに頑張っていたのに。気づいてあげられなかった”」

「そんなの……だって、私が……」

「“それでも。私は……先生だからね”」

 

 生徒の事をちゃんと見守るのが。自分の一番の責任だから。

 

 彼はそう言って、リオへ労いの言葉をかけた。

 

「“一生懸命頑張ってくれてありがとう”」

 

 深く、深く頭を下げてから。頭を上げて――今度は「“それと”」と、申し訳なさそうに笑う。

 

「“……私達だけだと、ちょっと力が足りないんだ。……力を貸してほしい”」

 

 その言葉に、リオは一つの答えを得る。

 

 彼は、“先生”は。……彼女の“合理”に、理由をくれた。

 

 ならば。

 

「……ええ。分かったわ」

「“リオ……!”」

「みんなで一緒に……“(Key)”を止めましょう」

 

 そう言い放った彼女の表情は、再び落ち着きを取り戻す。氷のように冷たく、冷静な。……けれど。その瞳には力強さが宿っていた。

 

 

 


 

 

 

 コントロールタワー地上階。勇者を迎える為の戦士たちは、それぞれの武器の様子を整えていた。

 

 現在の彼らが置かれた状況は、文字通りの“最悪の一歩手前”といったところだった。

 現在、天童アリスの体をコントロールしている“(Key)”は、Divi:Sionの軍隊を駆使してエリドゥ中心部、現在先生たちが陣を敷くコントロールタワーを目指している。

 彼女ら――もっと正しく言うのであれば、敵陣の将である“(Key)”は、こちらの電子機器をハックして自らの支配下に置く能力を持っているらしく、進行とともにエリドゥのシステムを着実に支配下に置いていた。

 ヒマリとリオの推測によれば、このコントロールタワーを奪取されてしまえば最後、エリドゥそのもののすべてのリソースを彼女の思い通りに運用されてしまい、キヴォトスへと牙を向けるだろうとの事だった。 

 対する先生達の戦力は、ゲーム開発部とC&Cに加えて、エイミ、タカツキ、ミカ。そして、タカツキから神秘を分け与えて貰ったことで意識を取り戻したトキと、彼女の駆るアビ・エシュフだ。

 

 ゲーム開発部はもとより戦闘を得意としておらず、彼女たちは同じく前線に立つことができない“先生”の護衛を担うこととなる。

 トキのアビ・エシュフは、エリドゥによる支援を受けられなくなった事により、パワードスーツとしての火力と機動性は有れど、超常的な戦闘能力は失われているのが現状だ。

 C&Cは、トキとの戦闘による消耗を完全に回復しきってはいないものの、Divi:Sion程度であれば掃討に問題は無い。

 エイミは戦闘力こそあるものの、ヒマリと唯一密に連携を取れる存在であり、Divi:Sionのハックに対する物理的なカウンタープランとしての運用が主である以上、主戦力としては数えられない。

 ミカは、“スーパーモード”の使用による神秘の消耗が激しく、再度の変身は困難……できて一度きりという程度。

 

 各員がそれぞれの不安を抱える中。唯一、ほぼ万全の状態を保っている戦力。それは――

 

「結局。切り札はバンプ君になるんだね」

「らしいな」

 

 ――“吸血鬼(バンプ)”。と呼ばれる彼だけは、その肉体に傷一つなく、トキを打倒した際の回復も相まって、消耗を殆どしていなかった。

 

 それぞれがそれぞれの装備を確認する中、タカツキは“猟犬部隊(ハウンズ)”としての彼の装備である指抜きグローブの具合を確かめる。

 掌を覆う合皮のソレは、タカツキの神秘吸収コントロールをより高精度にするための装備であり、不意の接触でのチームの神秘吸収を避けるための物でもある。

 彼はグローブを確かめ終え、そのまま拳銃のブローバック機構が正常に作動するのを確認した後、その武器を懐へと仕舞い込んだ。

 

「“BB弾は?”」

「後二発。どっちもネルの神秘の弾丸だが……、最悪回復に切る択もある」

 

 爆発的に神秘を増幅させるBloodBurst(ブラッドバースト)は、戦闘力への転化を行わなければその全てを彼の回復に充てる事も可能。そして、彼は“神秘”さえあれば、四肢の欠損ですら瞬時に再生が可能な肉体を有している。

 

 誇張抜き。比喩でもない文字通りの“掟破り”。それは、Divi:Sionを率いる“(Key)”と同じ条件ともいえる。

 

「“頼りにしてるよ”」

「上等。“化け物”の恐怖を教えてやるぜ」

「……バンプさんが味方で本当に良かったと思う……」

 

 ケケケ、と笑うタカツキの姿を見て、ミドリが苦笑をこぼす。どこからどう見ても勇者に討伐される側の笑い方だった。

 

「“それじゃあ、みんな。準備は――”」

 

 それぞれが自らの装備を確かめ終え、いざ戦いへ赴かんとした時。先生のタブレットがけたたましく鳴り響いた。

 

『先生!非常事態よ!』

「“どうしたの、リオ!”」

『想定外の事態が……いえ、想定しておくべきだった危機が迫っています』

 

 コントロールタワー最上階、そこで情報を集めるべく独立したドローンを操作していたリオとヒマリは、一つの情報を掴んでいた。

 焦燥した様子の二人に、先生は異変を感じ取る。

 

『落ち着いて聞いてください。アバンギャルドくんが――』

「……あァ。ここからでも見えるぜ。馬鹿デケェ玩具を自慢しに来たクソガキの姿がな……!」

 

 ――ヒマリの言葉の先を読み、タカツキが示したのは……、巨大な鉄の機人とその肩に乗る一人の少女の姿。

 

『Divi:Sionの部隊の火力は計算可能よ。けれど、もしアレが本当にアバンギャルドくんなら――』

「ゴチャゴチャ言ってる場合じゃねェ!アレは俺がやる!」

「“っ!タカツキくん、待って!”」

「その為の“切り札”だろうが!切らずにどうする!」

 

 先生の制止も聞かず、タカツキが駆け出した。

 

「チッ。オイ、いくぞお前ら。デカブツはバンプに任せて、アタシらは取り巻きをやる」

「はーい」

「承知しました」

「異論はない」

「“みんな!”」

「心配すんな。どのみち全員ブチのめすのは変わらねぇ。……ミッションスタートだ」

 

 先に駆け出したタカツキを追い掛けるようにしてC&Cの面々もコントロールタワーから飛び出していく。

 作戦の確認もできないまま、しかし、一概に彼らの判断が間違っているとは言い切れない。時は、一刻を争うのだ。

 

「“……行くよ、みんな!”」

 

 覚悟を決めて、彼もインカムに手を添えた。

 どのみち一度に指揮できる人数は限られているのだ。……もう、彼らのことを信じるしかない。

 先生は、コントロールタワー最終防衛ラインであるゲーム開発部とミカ、トキに目配せをして、指揮の構えを取った。

 

 

 


 

 

 

「二度目だな、ヤドカリ野郎!」

「ヤドカリ……。私はあくまで、王女の代わりを果たしているだけの事」

「勇者のツラ被る奴が言えた口かよ!」

 

 戦場を駆け、巨大なロボットへと接近したタカツキは、その肩に乗る少女――“(Key)”へと挑発をする。

 近くで見れば、彼女のそのマシーンがアバンギャルドくんをベースにした何かである事ははっきりと理解できた。全身の装甲が白ではなく赤と黒に塗りつぶされ、愛嬌とも取れたはずの間抜けな頭部は禍々しいバイザーを搭載した流線型のヘルムを思わせる構造をしている。しかし、脚部が走破性を重視したキャタピラ構造をしており、特徴的な複数のアームの装備はまさにアバンギャルドくんのシルエットそのものだった。

 アバンギャルドくんは確かに聖園ミカの一撃で完全に粉砕された筈であり、その機体が何故こうして動いているのか、彼女に操られているのか。その理由は見当もつかない。

 

 ただ、一つ言えることは――“機械の相手”は、タカツキにとって最悪の相手ということだ。

 

「出し惜しみは……ナシだ!」

 

 即座にリボルバー拳銃を引き抜き、自らのコメカミから脳天をブチ抜く。

 

 ――BloodBurst(ブラッドバースト)!!

 

 ヘイローは姿を変え、髪のふさが橙色に染まる。

 

BloodBurst(ブラッドバースト)……。奇妙な力です」

奇術(マジック)とは訳が違うぜ、コイツは!」

 

 漲る力を速度に変えて、タカツキは路面を蹴った。

 エリドゥに張り巡らされる高層ビルや通路の柱を縦横無尽に蹴り、機人の周囲を撹乱するようにして跳び回る。

 彼の身体にほとばしる神秘がその動きから乖離して、周囲へ無数の残像を作る。……トキのアビ・エシュフを惑わせた、“神秘を持った残像”だ。

 

「ええ。……ただの手品です」

 

 しかし。……それは、鉄の機人へ通用しない。

 

 “(Key)”の合図と共に、機人から無数のマイクロミサイルが放出される。

 それらは、残像に惑わされること無く――タカツキ本人へと追従を開始した。

 

「チッ……!」

 

 攻撃に気づいたタカツキは、即座に拳銃を引き抜き、神秘を込めてその弾丸を放った。

 駆け抜けている限り、ミサイルがタカツキに追いつくことはなく、タカツキの放った弾丸により起爆したマイクロミサイルは誘爆を引き起こす。

 

「なら――!」

 

 撹乱が無意味であると判断した彼は、拳銃へ己の神秘を集中させていく。

 機動力よりも、火力への比重を高める。美甘ネルの神秘は……何も“速さ”だけの物ではない。

 

「そ、コォッ!!!!」

 

 全身へ漲らせた神秘をマガジンの弾丸へと練り込み、引き金を引く。

 放たれた弾丸は光の尾を引きながら、まるで光線のように機人へと襲いかかる。

 

「無駄です」

 

 ――だが。そのすべては……、防がれることすら無く、その漆黒の装甲に弾かれる。

 

「クソっ……!」

「消えなさい」

 

 攻撃のために隙のできたタカツキへ、機人がロケットランチャーを放った。

 

「しまっ――!」

 

 一瞬の戸惑い、攻撃が通じない事の動揺。その判断が、攻撃を受ける隙となった。

 

 巨大な爆発が、彼の全身を襲った。

 

 

 

「バンプくんッッ!!!!」

 

 コントロールタワー最終防衛ライン。その前線でDivi:Sionと戦っていたミカは、大きな爆発音に視線を向け、その攻撃で吹き飛ばされる人影を見た。

 

「……ッ!ごめん!先生!」

「“ミカ!?」

 

 瞬間、ミカは全身の力を振り絞り、その輝きを解放する。ヘイローが激しく輝き、髪が深紅へ染まる。

 強化された肉体により、強く地面を蹴って、タカツキが吹き飛ばされたほうへと駆け出した。

 

「ハァァァァァッ!!!!」

 

 Divi:Sionの軍勢をものともせず、強化された肉体の力でそれらを蹴散らしながらミカは機人へ迫る。

 

「聖園ミカ。……確かそれは、“スーパーモード”と言いましたか」

「よくもバンプ君をッ!!」

 

 元よりタカツキの戦闘スタイルは機械を相手にした時、あまり効果の出ない物であり、それによる敗北はミカの脳裏によぎる一つの懸念だった。

 だが、それが現実になったことを、ミカは半ば受け入れられずにいた。自分を撒かせたあの男が、こんな奴に負けるはずはないと、そう本能が叫んでいた。

 

 叫ぶ心のままに、ミカは拳を振り上げ、地面を蹴って機人へ飛びかかる。迸る神秘を破壊力へと変えて、身体を捩る。

 

「だァっ!!」

 

 全身全霊の一撃。全力を込めた拳は――

 

「惰弱」

 

 ――漆黒の盾に、完全に受け止められる。

 

「っ!?」

 

 貫けたはずの盾はびくともせず、まるで大地を撃ち付けているかのように手応えが無い。

 

「それ、ならっ!!」

 

 拳が通じないと判断したミカは、盾を蹴って宙を舞い、再び身体を大きく捩る。

 両手を半身の後ろで合わせ、神秘を溜める点を作る。

 

「これでどう!?」

 

 集められた神秘は星を成し、流星を描き放たれる。

 

「オプロ!メテオーラ!!」

 

 彼女の手から放たれた流星は、光を迸らせながら漆黒の機人へ降りそそぎ――。

 

 

 

「無駄です」

 

 

 

 ――その盾の前に、儚く散った。

 

「……う、そ」

 

 タカツキのBloodBurst(ブラッドバースト)も。

 ミカのスーパーモードも。

 

「名も無き神々の力の前には――」

 

 

 

「――無力なんですよ」

 

 

 

 機人からマイクロミサイルが放たれる。

 

 全身の力を込めたオプロ・メテオーラを放った事で、スーパーモードを維持できなくなっていたミカは、その身体にまとっていた神秘の鎧を失っていた。

 

 ――やられる。

 

 自分めがけて殺到するミサイルを前に、ミカは初めて死の恐怖を覚え。

 

「ミカ!!!!」

 

 

 


 

 

 

「……逃がしましたか」

 

 マイクロミサイルの爆発の後。そこに敵影を見つけられなかった“(Key)”はボソリと呟いた。

 だが、それ以上彼らを探すことはない。

 

「最大の脅威は……排除しました。後は“先生”を排除するのみ」

 

 最早、機人に敵う敵は無く、Divi:Sionで倒せない兵であろうと、彼女の前には……敵ではない。

 

「そろそろ終わりにしましょう。このくだらないお伽噺を」

 

 圧倒的な力の前には、彼らはあまりに矮小で、無力で、脆い。

 所詮、物語は……、物語でしか無いのだ。

 

 

 

 

 

「はぁっ……はぁっ……はぁっ……!」

「ごめん……バンプくん、助かった」

「言ってる場合かよ……クソッ!」

 

 倒壊したビルの裏側。瓦礫に隠れてタカツキとミカは腰を下ろしていた。

 タカツキは大きく呼吸を乱しており、そのヘイローや髪の色は元の姿に戻っている。

 全身に傷はないが、激しい疲労を漂わせているのは、最後のBB弾を肉体損傷の回復へと使った反動だった。

 

「チッ……!ふざけやがってあのデカブツ野郎……!デカい顔しやがる!」

 

 瓦礫越しに機人と“(Key)”の様子を伺うタカツキは、苛立ちを隠そうともせず悪態を吐き捨てた。

 持てる限りの全てを試した。それどころか、ミカの切り札でさえ届かなかった。

 持ちうる手札は、すべて切り尽くした筈だった。それでもなお、欠片も勝負になっていない。

 

「考えろ考えろ考えろ考えろ…………」

 

 煮え立つ頭と腸を理性で抑え込み、ブツブツとつぶやきながらタカツキは人さし指で頭をたたく。

 彼の頭は、“どうにかしてあの理不尽を叩き潰す”ことで一杯だった。

 

 

 

「ねぇ」

 

 

 

 そんな時、隣で考え込んでいた少年へ、少女が声をかける。

 

「なんだ」

 

 イライラした様子で、少女の顔も見ずに問い返す。

 

「アレ。やろうよ」

「アレ?」

 

 “アレ”。少女の示した言葉が何か、少年の思考がきり替わり、その答えを手繰り……それは案外簡単に見つかった。

 

「まさか……“BloodResonance(ブラッドレゾナンス)”か?」

 

 少年の言葉に、少女は静かに頷いた。

 

「馬鹿言うな!アレはBloodBurst(ブラッドバースト)なんかとはワケが違うんだよ!血と神秘がありゃ良いってもんじゃない!」

 

 “BloodResonance(ブラッドレゾナンス)”。それは、ベアトリーチェを打倒した時に、タカツキとスズミの間で発生した奇跡の共鳴現象。

 観測された事例は、その一度きりであり、その発生条件はひどく曖昧だった。

 

「アレはな、俺とスズミの心と神秘が完全に同調して共鳴して初めて起きた奇跡だ!テメェと俺のこのフザけた相性でできるわけが――」

 

 

 

「あーあ!」

 

 

 少年のまくし立てる声に対して、少女がわざとらしく声を上げて遮った。

 

 

 

「バンプくんなら、私の考えてる事、わかると思ってたんだけど、なぁ」

「はァ!?」

 

 煽るような言い方に、少年の視線が少女へと向けられた。

 

「テメェのメンヘラに付き合ってるヒマじゃねェんだよ!大体――」

「ねぇ。私の考えてる事、当ててみてよ」

「だから!」

 

 話を聞かず、わがままな口ぶりを繰り返す少女に、少年は言葉を荒げ、大きく詰め寄り――

 

「バンプくん」

 

 ――少女は。

 

「いいから」

 

 有無を言わさぬ様子で、少年の瞳を――見つめ返した。

 

「……ッ!」

 

 その様子に気圧されて、少年は半ばヤケに答えを返す。自分の頭のなかを覆っている、その鬱憤じみた感情を。

 

「ンなもん!一つに決まってる!どうにかしてあのデカブツをブッ飛ばして、スカした顔のあの女を――…………!」

 

 そうして、“自分の考え”を言葉に変えて、口に出して。音と形に変える中で――、一つの答えに辿り着く。

 

 言葉を失い、目を丸くして固まった少年の姿に――少女はニヤリと、笑みを浮かべた。

 

「なぁんだ」

 

 挑発的に、扇情的に、蠱惑的に。魔女は――笑う。

 

「わかってんじゃん。ね?」

 

 その表情に、言葉に、考えに。

 

「〜〜〜〜ッ!!!!」

 

 吸血鬼は、悶えるように頭を掻きむしってから。

 

「今回!限りだッ!!!!」

「冗談!私の方から――願い下げだよッ!!!!」

 

 少女は唇を強く噛み。優しく、甘く、火傷するほどの熱さを持って。

 

 

 

 彼と口付けを交わした。

 

 

 

 

 

 ――初めてのキスは、血の味がした。

 

 

 


 

 

 

「クソっ……!このままじゃあ!」

「“ネル!トキ!……皆!!”」

「さあ、これで最後です」

 

 タカツキとミカという抑えを失った機人の侵攻は止まることがなく、すでに戦線はコントロールタワー最終防衛ラインまで後退していた。

 すべての戦力を用いて尚、止まること無い常識外れの力に、彼らは無力だった。

 

「“(クソっ……!こうなったら――!)”」

 

 そうして、“先生”が最後の“切り札”へと自然と手を伸ばした時――。

 

 

 

 大地が揺れる。

 

 

 

「何!?何!?世界の終わり!?」

 

 

 

 光が溢れる。

 

 

 

『これは……!この反応は、一体!?』

「みんな……アレ!」

 

 

 

 真紅の光が柱を成して。

 

 

 

「何ですか……その力は!」

 

 

 

 夜天を紅く、染め上げる。

 

 

 

 鮮やかな紅の光を放つその影は、全身から圧倒的な神秘を放ち、世界すら揺るがす迫力を持って宙へ立つ。

 

 天()く光の柱の中央に、一人の男が立っていた。

 

 真紅に染まった頭髪は、迸る力に煽られ僅かに逆立ち。怒髪天付くその上には、星の海を思わせる雲の様なヘイローを備え。鬼の様な形相は、しかし目を離せぬ魔力があった。

 

 

 

「オマエは……何だ!!」

 

 

 

 “(Key)”は言葉を荒げて問いかける。

 

 男は静かに――ニヤリと笑った。






 フュー……ジョン!ハッ!!!
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