Bloody Arriver   作:Ziz555

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Ep.11 終焉の星光

 

「オマエは……何だ!!」

 

 煌々たる真紅の光を放つその人影に、“(Key)”は警戒心を一層強める。彼の放つ威圧感は空間すら震わせ、禍々しさと神々しさを兼ね備えたその存在感が場の空気を支配していた。

 彼の纏うオーラは鮮やかな紅の輝きを持ち、迸る神秘が彼の周囲でバチバチと音を立てて弾けている。それは、タカツキのBloodBurst(ブラッドバースト)よりも、ミカのスーパーモードよりも、圧倒的な神秘の高まりを感じさせる。

 そんな彼の身体は、重力の鎖から解き放たれているかの様に宙へと浮かんでおり、大地へ落ちる様子もない。ただ、大地に立つ機人とその肩に乗る“(Key)”を高みから見下ろしていた。

 

「…………」

「答える気はない、ですか」

 

 男は、“(Key)”の問いに対して不敵に笑うのみで、言葉を返す気配はない。

 両手を組んだまま、悠然と世界を見下ろしていた彼は組んでいた左腕を解き、人さし指を彼女へと差し向け――クイクイと手前へ折り曲げる。

 

 “かかってこい”

 

 そう、言っているようだった。

 

「舐めた真似を……!後悔させて上げましょう!」

 

 挑発を受け、“(Key)”は機人へ攻撃指示を出す。それを受けた機人は全身の発射口を解放し、全身からマイクロミサイルを噴射する。

 空を覆い尽くさんとするほどの無数の弾頭は、白煙の尾を引きながら男へ襲いかかった。

 しかし、男はその攻撃に対して表情一つ変えず、組んでいた両手をほどいて、右腕をミサイルの群へ向けて突きだした。

 

 ドン。と、音が響いた。

 

 瞬間、男へと向かっていたミサイルが全てひしゃげ、砕け、爆散する。

 

「なっ――!?」

 

 見えなかった。男が何をしたのか、ミサイルに何が起きたのか。

 右の掌より何かを放ったような様子だけは見えていた。だが、その光景が示すのはそれ以上の情報はなく。男はミサイルに触れることすらなく、何らかの手段を持って自らを害するそれらを一瞬の内に全て撃ち落とした事だけが“(Key)”に観測できた。

 驚愕の表情を浮かべる彼女に対して、男は呆れたように頭を振って肩をすくめる。完全に自らを侮り、舐めきった様子の男に対して“(Key)”はその表情を怒りに染めた。

 

「全力で……叩き潰します!!」

 

 その号令とともに、Divi:Sionの兵隊たちが男へ向けて突撃を開始した。

 周辺の至る場所から無数に現れる機兵の軍隊は、その数二百を超えている。エリドゥ中のリソースを手中に収めた“(Key)”の手により無数に生産される機兵団。それがDivi:Sionだ。本来であればエリドゥを制圧した後、外部へ向けて侵攻するために残していた戦力をここに来て一度に解放する。

 キヴォトスという世界すら容易に蹂躙し尽くせるだけの物量。圧倒的という言葉すら生ぬるい無尽蔵の兵力。その戦力のすべてが――たった一人の男に向けられた。

 

 当然、一機一機の戦闘力は男へ遠く及ばない。無数に襲い来るDivi:Sionはすべて男の手によって軽くいなされ、粉砕される。だが、覆りようの無い程の物量は男の周囲を埋め尽くし、その逃げ場を無くす。

 

「エネルギーホイール臨界、出力制限解放。全ジェネレーター接続、照準指定。距離、方角、角度。計測終了」

 

 そして、それら全てはただの布石。

 

 機人の胴体部に形成された一際大きな砲門がゆっくりとその姿を現し、弾けんばかりのエネルギーを集約させる。

 

「コレで……消し飛びなさい!!」

 

 機人のエネルギーの全てを集約、圧縮し、一つの大きな球体が砲門へ形成され――放たれる。

 

 凄まじい熱量を持ったエネルギーの塊は、Divi:Sionの方位によって逃げ場を失った男へと襲いかかる。

 当然、その攻撃に巻き込まれてDivi:Sionも粉砕されてゆくが、無尽蔵である以上些細な問題だ。

 直撃すればエリドゥすら一瞬で消し飛ばす程のエネルギー量。戦略級爆発兵器すら遥かに凌ぐ、超常の一撃が男へ迫り――

 

 

 

 ――蹴撃でもって宙へと蹴り飛ばされた。

 

 

 

「――は?」

 

 遥か上空。成層圏の彼方へと蹴り飛ばされた光球はその場で爆散し。一瞬、空を明るく染めた。

 

 理解が及ばなかった。認識と情報が合致しない。その光景の意味が分からない。

 

 今、あの男は、何をした――?

 

 

 


 

 

 

「すっごーーい!!空飛んでるよ!バンプくん!!」

「た、確かに、どうやって飛んでるんだろう……」

「というか、そもそもあれは本当にバンプくんなの……?」

 

 真紅の鬼が戦闘――というより、“(Key)”を軽くあしらう姿を見あげていたゲーム開発部の面々は、思い思いの感想を口にしていた。

 

「“……あの姿は”」

 

 その光景に。その姿に。“先生”だけは覚えがあった。

 

 タカツキの面影を持つ少年は、しかしそのヘイローの形を彼自身のものではなく、ミカによく似た物を浮かべている。加えて、頭髪色の変化も、迸るほどの神秘の増幅も、()()()と同じだった。

 

 ――“BloodResonance(ブラッドレゾナンス)”。

 

 タカツキとスズミの引き起こした奇跡が、今度は彼とミカの手で引き起こされていた。

 しかも、あの時と比べて数段とエネルギーに溢れ、力に満ち満ちた姿で。

 最早、彼らに出来ることはただその超常の戦いを観ていることだけだった。“先生”の持つ、“大人のカード”の力をもってしても、あれ程の奇跡を実現できるのか。

 それほどの力を持つ彼の存在が、一体いかなる意味と運命を持ち合わせているのか。そんな疑問が頭をよぎる。

 

 けれど。“先生”のすべき事は、いつだって一つだ。

 

「“……今は、君のことを信じるよ”」

 

 生徒の事を、ただ信じ抜く。それが、彼の戦いだ。

 

 

 


 

 

 

「クッ……!私が……“名も無き神々の力”が……押されている……!?」

 

 光球を蹴り飛ばした後、両手を組んだまま機人へと迫った男に対し、“(Key)”は近接迎撃武装による攻撃を開始した。

 盾や近接用のブレードを展開し、対空ミサイルとともに男へそれらを差し向けるが、男は両腕を組んだままそれらを足の攻撃だけで華麗にさばいてゆく。

 男の表情は不敵な笑みを浮かべたままであり、対する“(Key)”の額には冷や汗が滲んでいた。

 

 剣による一撃は脛で受け止められ、盾による殴打は踵落としで弾かれ、ミサイルによる弾幕は潜り抜けられる。

 そして、近接攻撃を弾かれ隙を晒せば、鋭い蹴りが機人へと突き刺さる。

 

「くうぅ……っ!?」

 

 男と機人の大きさには十倍近い差があり、当然その質量差にも大きな開きがある。

 だが――男の一撃は機人の全身を大きく揺らし、確実にダメージを与えていた。

 

「馬鹿な……ありえない!こんな、こんなはずは!!」

 

 機人の肩に乗る“(Key)”の表情が青ざめていく。想定外の事態に、状況が飲み込めずにいた。非常識で、あり得ない。今の忘れられし神々にこれほどの力が、あるはずが無いのだから。

 

「こちらの攻撃を直撃さえさせられれば――!!」

 

 負け惜しみだとわかりながらそんな言葉が彼女の口をついて出た。最悪の気分を味わいながら、しかし彼女は勝利の術を模索し――。

 

 ピタリと、男の攻撃の手が緩んだ。

 

「……は?」

 

 男は宙に浮かんだまま、余裕の笑みを浮かべて“(Key)”を見下ろしている。そして、組んでいた両手を解き無防備をさらし――フン、と鼻を鳴らす。

 

 “当ててみろよ”。

 

 見え透いた挑発だった。

 

 “(Key)”はカッと頭が熱くなる感覚を覚えながら、しかし冷静に事態を判断する。

 

「その余裕が……命取りだ!!!!」

 

 機人の全砲門が開き、一斉にミサイルと弾丸が放出される。

 点火された全ての爆薬が男へと襲いかかり、無数の爆発その影をつつみ込んだ。

 

「エネルギーホイール臨界!出力制限解放!!全ジェネレーター接続!Divi:Sionエネルギーリンク接続!!」

 

 周囲のDivi:Sion達から伸びたケーブルが次々に機人へと突き刺さり、それらのエネルギーさえも機人へと集結していく。

 

「照準指定。距離、方角、角度。計測……終了!!!!」

 

 先程はなった一撃を、さらに超越した超高密度のエネルギーボールが機人の砲門へと形成される。

 空間すら歪め、抑えきれないエネルギーが雷となって周囲を焦がし、機人の砲身にヒビ割れを作る。

 

 

 

「死ねぇぇぇぇぇぇっっっっ!!!!!!!!」

 

 

 

 星すら揺るがす破壊の光が、男へ向けて放たれた。

 

 エネルギーの球体は男を飲み込むと、その球体を一瞬のもとに縮小し――極大の爆発を引き起こす。

 

 あまりの衝撃に、周囲のビルは消し飛び、砲撃を放った機人さえも押し退けられてゆく。

 

 その影響は、戦場から離れたコントロールタワー周辺にも暴風が吹き込んだ。

 

「あわわわ!!飛ばされちゃう〜!!」

「お姉ちゃん!ユズ!しっかりつかまって!!」

「せ、先生は……!」

 

 近くの柱などにしがみつき、吹き飛ばされまいとモモイ達が踏ん張る中、片手でシッテムの箱を持っていた先生の体が風に押し上げられる。

 

「“マズっ――”」

「先生!!」

 

 壁に叩きつけられる(すんで)の所で、そんな彼の身体をトキが受け止める。

 爆風とともに襲い来る瓦礫の破片をアビ・エシュフで防ぎながら、トキは懸命にアビ・エシュフの体勢を整えて先生を庇っていた。

 

「“ありがとう、トキ!”」

「もう少し、耐えていてください、先生……!」

 

 普段であれば余裕な表情を浮かべているはずのトキでさえ、焦りをにじませた表情で先生の感謝に言葉を返していた。

 

 そうしてようやく、その爆風が収まる。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

 機人とDivi:Sion。“(Key)”の持ちうる戦力のほぼすべてのエネルギーを火力へと変換した一撃は、彼女にも相応の消耗を強いていた。

 しかし、そんな彼女であっても、エリドゥのコントロール権さえ得てしまえば、再び戦力の回復を行うこともそう難しくはない。地形すら変えかねない一撃を真っ向から受けたのだ。いくら力があろうと、その肉体の組成が物理的に持つはずがない――

 

「これ、で……――ッ!?!?」

 

 

 

 ――筈だった。

 

 

 

「バカ……な……!」

 

 

 

 視線の先。爆発の中心に、一つの影があった。……いや、一人の姿が、悠然と浮かんでいた。

 

 “彼”は左手を右肩に置き、ぐるぐると右肩を回す。

 

 全身に煤をつけながらも、その体表には目立った傷一つない。……余裕の笑みを浮かべて、男はぐいと伸びをしていた。

 

「う……」

 

 攻撃が、効いていない。

 

「うあぁぁぁぁぁぁッ!!!!!」

 

 “(Key)”は取り乱し、機人を男へ向けて走らせる。奴は、倒さなければ。倒されなければ。ならない。

 

 男は小さくため息をついて――その姿を消した。

 

「消えッ――」

 

 瞬間。彼の姿は機人の後へ回り込んでいた。

 

 残像すら残らない、超高速移動――。

 

「くうっ!?」

 

 凄まじい衝撃が機人を襲い、“(Key)”の全身を浮遊感が包む。

 男の蹴りが、彼女を機人ごと上空へ蹴り飛ばしたのだ。

 

 

 

「コレで終わりにしてやるぜ」

 

 

 

 男が言葉とともに両手を体の前で突き合わせ。そのまま大きく胸の前で腕を開く。

 彼の全身に溢れるエネルギーは、その動作とともに両手の間に集約され、雷のような発光を伴いながらその中央へ球体を形成してゆく。

 そうして、エネルギーの球体が出来た後――、男は再びその両手を突き出して、体の前で突き合わせた。

 両掌の前には、高密の神秘の輝きが集う。

 

 それは、星の光が終焉に放つ、奇跡の輝き。終結の一撃。

 

 

 

Ω(オメガ)!!メテオーラッッ!!!!」

 

 

 

 鮮紅の輝きが放たれる。

 

 光の奔流は、(Key)と機人の全身を飲み込み――それらを突き抜け、夜の宇宙を貫いた。

 

 星すら照らす極光が、その戦いの終わりを告げる。

 

「ああぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

 機人は奔流にのまれ、塵と化し――“(Key)”はその全身を焼かれて宙へと放り出された。

 

 意識を失い、落下していくその少女の体を抱きとめたタカツキは、身体に残された力を使って地面へ着地すると、ゆっくりと彼女を寝かせる。

 

 意識を失い、力を失った少女を残し、タカツキはゆっくりと立ち上がる。

 

 

 

 戦いの勝者は、ここに決まった。

 

 

 

「“タカツキくん!大丈夫!?”」

 

 そんな彼に先生は駆け寄っていき、それに気づいたタカツキは少し疲れた表情のまま親指を立てて――。

 

 

 

「……うプッ」

 

 急にその場にうずくまり。

 

「オロロロロロロ……!」

 

 口から激しく汚物をぶちまけるのだった。

 

 

 

「“……だ、大丈夫……?”」

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