「やあ。よく来てくれたね。ささ、遠慮せずに、そこの椅子に座ってくれたまえ」
「一言言わせて貰うがな、ウタハ。コレは椅子じゃねェ」
ミレニアムサイエンススクール、エンジニア部部室。日夜熱心に様々な“作品”の制作が進む、そのとっ散らかった一室にタカツキは訪れていた。
そんな彼を出迎えたのは、エンジニア部部長である少女、白石ウタハだ。物静かで、落ち着いた雰囲気を漂わせる風貌の彼女だが、彼女はタカツキという来客に対し、明らかに高揚を感じていた。
どこかソワソワと浮き足立つ彼女に促され、椅子……では無いとタカツキが否定した小型の多機能ドローン――掃除、洗濯、食事の配膳から音楽の再生まで可能な白い円筒状の物体だ――へは座らず、その横のガラクタの山から引っ張り出した適当な鉄くずへと腰を下ろした。
「君もずいぶんと慣れたね」
「そりゃな」
タカツキが小突くと、ドローンは役目を理解したのかそそくさとその場を離れてエンジニア部の掃除を再開した。そんな彼の様子を見たウタハは、「身体測定機能の確認もしたかったのだが……」と溢しながら、何処か残念そうに去りゆくドローンを見送った。要するにタカツキがそれに座らなかったのはそういう訳だ。
「それで。どうだったかな?“BB弾”の使い心地は」
――“BB弾”。正式名称、“
タカツキが新たに獲得した切り札であり、エリドゥでの戦いでアビ・エシュフを纏ったトキを退ける際にタカツキが用いた特殊な弾丸の事だ。
「良く纏ってる。Burstも問題なくコントロールできるし……構造上、どうしたって死ぬほど痛ェのも使ってりゃ慣れるだろ」
「脳天に弾丸を撃ち込む事に“慣れる”という方が私達には理解しかねる感覚だけれどね」
「テメェは一々カッターで指切った時に騒ぐのか?」
「指に頭は付いていないよ」
適当な軽口を叩き合いながらもタカツキとウタハは薬莢と弾丸のやり取りを交わす。“BB弾”の精製機材は現在エンジニア部が所有しており、彼がその武器を供給する為には此処へ訪れるしか無い。
神秘を持つ生徒の血液から精製される“
吸収効率の都合でこめかみから脳天へ撃ち込まなければならないのが最大の難点であり、当然それはタカツキの肉体の損傷を伴うが、その際の損傷は
タカツキは先生から預かっていた“
そうしてしばらく、淡々と彼らがやりとりをしていると――。
「見つけました!“吸血鬼”です!」
部室の扉が開くと共に一人の少女の元気な声が部屋中へ響き渡る。
ウタハと仕事の話をしていたタカツキはその声を聞き、小さくため息をついてから苦笑を浮かべて振り返る。
振り返った彼の視線の先にいるのは、地面に着くほどに長い髪をした幼い見た目の小柄な少女……天童アリスだ。
「どうしたんだよ“勇者様”?」
「助けて下さい!“大魔王”が目覚めてしまったんです……、アリス一人では敵いそうにありません……。だから!“吸血鬼”さんの力をお借りしたいです!」
「“大魔王”ねぇ」
タカツキはしたがないと呟きながら椅子から立ち上がる。
「分かったよゆーしゃさま。それで、大魔王ってのは――」
「あーっはっはっはっはー!!!!」
再び、エンジニア部の部室に声が響いた。
それは、明るく溌剌としたいかにも世間知らずそうで我儘さをかけらも隠そうとはしない少女の声で。当然というかなんというか、タカツキはその声を聞いて途端にやる気が削がれるのを感じた。
なるほど。確かにコレは……“大魔王”だ。
「勇者が吸血鬼と手を組んだところで、この私――大魔王ミカエールの相手ではないよーッ!」
そうして高笑いをする真紅の髪の……。
「スーパーモード使ってんじゃねぇよ!!!!」
「えー、だってこのほうが雰囲気出るじゃん」
…………全身からバチバチと神秘を迸らせる真紅の髪を持つ少女は、タカツキの指摘に口を尖らせた。
圧倒的なオーラと存在感を放つ“大魔王”……聖園ミカは、白いシャツと青いネクタイ――“ミレニアムサイエンススクールの制服”をそのオーラで靡かせながらそこに立っていた。
結局。聖園ミカはトリニティ総合学園を退学した。
厳密には両校合意での上でミレニアムサイエンススクールへの転入の処理がなされた。という方が正しいか。
エリドゥでの一件を終え、ミカと直接的な面識を持ったリオと、トリニティのナギサが直接の会談をした後に決定した判断であり、彼女の転校にあたっての大きな一悶着等は一切ない。
エリドゥでの決着の後。ミカはナギサとセイアの本を訪れ、その胸のうちを全て曝け出した。
後悔と懺悔、心配と親愛、そして、疑念と信頼。
正と負の感情の入り交じった“聖園ミカ”そのままの感情のすべてをむき出しにしたその慟哭は、しかしナギサとセイアにとって最も聞きたい言葉でもあった。
少女達の絆と信頼のやり取りの全ては、タカツキの知るところではない。それを盗み聞きするような趣味は彼には無いし、当然それを根掘り葉掘りするつもりも無い。ただ、“仲直り”したと言うことだけは“頼み事”をされていたナギサからに聞き及んでいる。
しかし、それならばなぜミカがトリニティを辞め、ミレニアムへとその身を移したのか。
それはひとえに聖園ミカ本人たっての願いだったからだ。
聖園ミカという少女はトリニティを形成する三大分派である“パテル派”の首長であった少女であり、それは過去から続く彼女の背景でもあった。
それ故に彼女は常に周囲に敬われ、畏れられ、疎まれた。
そんな世界でずっと育ってきていた聖園ミカは、望むか望まざるかに問わず“求められる聖園ミカ”を自分に重ねてしまい、それ故に“ありのままの聖園ミカ”という物を聖園ミカ自身が見失っていた。
それが自らの過ちの一端であると悟ったからこそ、“パテル派”であり“魔女”であり“裏切り者”であるという“聖園ミカ”を知らぬミレニアムにその身を置くことで、“聖園ミカ”と今一度向き合いたいと、その為にミレニアムサイエンススクールへ行きたいと。
“そこで学びたい”と。そう言った。
……当然それには大小様々な問題はあったが、“学びたいと願う生徒”の障害を取り除くにはうってつけの大人が彼女達にはついているのだ。その望みが叶わないことは無かった。
故に今、ここにいる“聖園ミカ”は。
“ティーパーティー”でも“パテル派首長”でも“裏切り者の魔女”でもない。
「私は――大魔王ミカ様だよ!」
……“大魔王”の、聖園ミカだ。
弾けるオーラと全てを圧倒する存在感を確かに放ちながら、彼女は満面の笑みを浮かべて高らかにそう宣言した。
「大魔王の思い通りにはさせません!行きましょう、吸血鬼さん!」
「……ハァ」
対するアリスも“光の剣”をその手に構え、一歩も譲らぬ様子でミカに相対し。タカツキは額に手を当てため息をついた。
「元気なのはいいが、ここは色々あって危ないから。続きは他所でやることをオススメするよ」
そんな彼女たちへとウタハがやんわりと部室からの退出を促すと、アリスとミカは声を合わせて「はーい」と返事を返す。随分無邪気な勇者と大魔王だ。
「それじゃあ、アリスは先に外に出ています!校庭で待っていますよ!」
「気をつけてねー」
光の剣を背負い直したアリスはパタパタと小走りで部室を去ってゆき、彼女が部屋から出たのを確認するとミカはスーパーモードを解除した。
「じゃ、行こっか“
「あのなぁ」
「いーでしょ。バンプくんは“
少女は笑い、二歩三歩と少年に近づいてからその顔を覗き込むようにして視線を下ろし。上目遣いで彼を見た。
「私がこーなっちゃったのは。ぜーんぶ君のせいなんだから」
ひどく無責任で。ひどく自分勝手で。ひどく我儘な。
そんな口ぶりで、自由気ままに朗らかに。ひどく楽しげに笑いながら――少女は彼の耳へと口を寄せた。
「ちゃんと責任、取ってよね♪」
少女の言葉に、少年は疲労で一気に身体が重くなるような感覚がした。
余計なものを背負うものではないと、過去の自分の選択を激しく後悔するしかなかった。
うーん、ヒロイン。
以上。Bloody Arriver版「友情と勇気と光のロマン」でした。
私なりの“聖園ミカ”の再解釈と救済の物語として“アリス”の勇者か魔王かという問いかけを選択したことは割としっくりきてるのかなーと思っています。
“なりたいものになっていいんだよ”というアンサーの待つ「友情と(以下略)」は、BlAr作中で“魔女であることしかできなかった”ミカにとってのアンチテーゼとして強く働くと思い、“魔女”に堕ちたミカをアリスの前に立たせてみました。
結果としてはかなり綺麗にミカの持つ全ての咎を清算することの出来たストーリーとなっているのかと思います。
ミカの頭の良さや頑固さ、けれど物分かりが良すぎる故の落とし穴や、それでも絶望から立ち直れる芯の強さ。けれどやっぱり寂しがりで依存しがちな女の子らしさなど。非常に複雑で描きにくい部分を自分なりに余すことなく書けたので、作者としては非常に満足です。
それはそれとしてスーパーキヴォトス人や死ぬ気弾などやりたい放題はしましたが。それはそれ。これはこれ。
私はちょこちょこ敢えて具体的に心情を書かずにシーンを飛ばす仕草をしてしまいますから、読者の方としては読みにくい部分もあるかと思いますが……その点はある程度目を瞑っていただけると助かります。努力はしていますがアマなので……()
さて。と言うわけで。スズミ編とミカ編が終わりましたら残すところはアツコ編のみ。と言うことなのですが。
アツコ編のプロット制作が難航しておりますので、またしばらくお時間をいただくことになるかと思います。
この作品は基本13話1クール構成なので、まあアニメの第何期作成決定告知ぐらいの気持ちで待っていてください。
それでは、またの機会にお会いしましょう。