葦名の白兎、ミレニアムに忍ぶ。   作:ラストおはぎ症候群

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某匿名掲示板でコラ画像の一発ネタでスレを立てる
→なんか予想外のシナジーが起きて盛り上がる
→SSとして書いてみたくなる
→しかしハーメルンには『フロムゲー帰りのブルアカ生徒』というネタにおいてあまりに偉大な先駆者様がいる
→「まあいいかあ!よろしくなあ!」

という安直な思考で始まりました。楽しんでいただければ幸いです。





FORGOTTEN GOD HIDDEN TWICE
第一話:兎の帰郷


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────耳を澄まさなくとも、遠方から人々の怒号、悲鳴、断末魔、そして銃声や砲音が響いて来る。

 

 ふと目線を上げれば、火に巻かれ、焼かれ、燃え広がり続ける城が見える。

 

 絵に描いたような戦の様相、血で血を洗う地獄絵図。

 

 それに反して。

 戦場から少し外れたこのすすき野原は、さながら穴が空いたように静まり返っていた。

 

 先程までは、戦の音などまるで気にもならない程の豪雷が鳴り響き、それすらかき消せないほどの、激しい剣戟の音に満ちていたことが、とても信じられないほどに。

 

「…………不死斬りを返せ、白兎(しらさぎ)

 

 静寂を破ったのは男の声。

 褪せた柿色の忍び装束、腰に提げた無骨な刀、そして絡繰が施された奇妙な義手を左腕に備えた壮年の男。地に横たわる幼いながら精悍な貌立ちをした少年の元に跪きながら、その眼は真っ直ぐ前へと向けられている。

 

「…………いや、です」

 

 忍びの視線の先から返したのは少女の声。

 こちらは絡繰の義手こそないものの装いは同じ。揃いの色の忍び装束と刀。見れば二人が何か近しい関係であることがわかるであろう姿。されど、男とは決定的に違うものがひとつ。

 

 

 その少女の頭上に、光り輝く輪が、浮いている。

 

 

 淡い桃色に染まり切った少女の髪と比べれば、幾分か暗いその奇妙な輪。煌々と光る訳でもなく、雲に隠れた月明かりのように、朧げに優しく光る輪。

 ますますもって不可解。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そんな少女は、一振りの大太刀を抱き抱えていた。赤い鞘に収められた、桜の花を模したような鍔を持つ古めかしい刀。言って仕舞えばそれで言い表せてしまうような、特に何の変哲もない見てくれの太刀。しかしそれは、言葉で言い表すことのできない、持った者にしかわからない重々しい存在感を放っている。

 

「いやです。……ぜったいに、わたしませんよ。狼さん」

 

 男から白兎と呼ばれた少女は、『不死斬り』なる刀を一層強く握りながら、もう一度言い切った。

 その声は、弱々しく震えていた。声色に含まれているのは怯えや恐怖ではなく、もっと別の────怒り、あるいはそれを上回る大きな悲しみに心を千々に乱され、それをどうにか押さえつけながら話している────そんな様相であった。

 

「……万一、お主が持ったままその刀が抜かれれば……お主は死ぬ。早く、渡せ」

()()()()()()()()()()()()に言われたくないです」

「…………………」

 

 対する男の声は硬く、ともすればぶっきらぼうにも聞こえる。だがこの男を良く知る者であれば、その声音がこれ以上なく柔らかく、そして相手を慮っていることがわかるだろう。それは、数年来の仲である少女も同じことだった。

 されど、少女はそれを冷たく切り捨てる。乱れた心が映ったように揺れる瞳であっても、確と男を睨みつけながら。

 

「そっちこそ、九郎様と竜の涙を渡して下さい。言いましたよね。二人とも死ななくていい道があるって。そのために必要なものも、揃ってるって」

「…………………………」

 

 否、その眼差しは、何かを乞うものでもあったのかもしれない。だから、と訴えかける少女に対し、男は数秒黙り込んだ後。

 

「………出来ぬ」

 

 短く、答えた。

 

「────ッッ!なんで!!!」

「………明かせぬ」

「だから!!なんで!!なんでなんですか!?」

 

 静かに唱えられた否の言葉に、少女は感情を爆発させたように胸の内を喚き散らした。

 

「九郎様も!!狼さんも!!なんで自分から死のうとするんですか!?」

「白兎……」

「暇になったら茶屋でも開こうって!!その時はみんな一緒だって!!言ったじゃないですか!!あの時!!頷いてくれたじゃないですか!!」

「…………………」

「もう……もう嫌なんですよ!!知ってる誰かが死ぬのも!!大好きだった人が死ななきゃいけないのも!もう、もう……うんざりなんですよぉっ!!」

 

 気付けば。少女の目には涙が浮かんでいた。ここまで鍔際で抑えていたものが溢れて出したような。抱え込み続けた悲痛が堰を切ったように、雫となってこぼれ落ちていく。

 

「…………為すべきことを、為す」

「………………っ」

 

 それに対し、男はただ短い言葉で言った。

 

「死んでもやらなきゃいけないことって、なんですか。生きることよりも大事なことってなんですか。そんなの、あるわけないじゃないですか」

「…………己が、己に定めた掟。自ら決めた道。それを果たさねばならぬ。例え、己が命を賭すことになったとしても」

 

 

「────わかんないよっ!!!」

 

 

 諭すような。語り聞かせるような。そんな言葉を叫び声で遮った少女は、瞼に溜まる雫を乱雑に拭い、抱えていた大太刀を背中に提げた。

 

「……狼さんのっ、言うことなんてっ……知りません。わかりたくありません。そんなの認めません。何があっても、二人揃って、生きてもらうんです。そのため、なら────!」

 

 言って。少女は、腰の刀を抜いて見せた。

 

「狼さんとだって……戦います」

 

 顔の右に刀の柄を、切先を眼前の『敵』へ向ける。これ以上無いほど良く見知ったその構えを見た男は、数瞬、目を伏せ。

 同じように、刀を抜いて見せた。

 

「────────来い」

「…………参り、ます!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ああ。

 

 また、あの時の夢。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ぱちり、と目を開く。

 一瞬、ここがどこだったかわからなくなって──すぐに、ミレニアムにある反省室だったと思い直す。

 

「はあ……」

 

 正直、あまりいい目覚めではなかった。それでも今日も学校が──今の私には学校に行く必要が──あるから。

 昨夜のうちに準備しておいた制服に着替え、上着を着ようとクローゼットを開けて……隣にかけてあった、忍び装束を見て、腕が止まる。

 

「……………………」

 

 ふと、部屋の端を見る。視線の先にあるのは、最新の機械ばかりのミレニアムには不釣り合いで、私にとっては、見慣れたもの。

 肩から伸びる3対の腕を頭の上、胸の前、腹の下のそれぞれで組み、正座で座る人の僧。そして、鬼を思わせる様な険しい顔つき。

 『鬼仏』と呼ばれるそれを前に、私は静かに腰掛けた。

 

「仏渡り、荒れ寺」

 

 小さく呟く。

 鬼仏は、何の反応も返さない。

 

「……仏渡り、奥の院」

 

 また、小さく呟く。

 鬼仏は、何の反応も返さない。

 

「…………仏渡り、抜け穴前」

 

 もう一度、小さく呟く。

 鬼仏は、それでも、何も起こさない。

 

 別の言葉をつぶやいても変わらない。葦名城、落ち谷、捨て牢、水生村、平田屋敷、源の宮。

 そのどれにも、鬼仏は、何も。

 

「…………やめよ」

 

 ここのところ毎日の様に繰り返している行為。いつも通りの結果を見て、そっと息を吐いて立ち上がった。

 制服のジャケットに袖を通し直し、鞄を持って出入り口へ。

 

 ピーッ、と軽い音を立ててロックが外れる。この電子錠の鍵を開く感覚も、着心地や肌触りのいいミレニアムの制服も、前までは久しいとすら思っていたくらいなのに、もういくらか身に馴染んできたように思う。

 

(……それだけ遠い過去になりつつある、ってことなのかな)

 

 なんとはなしに、そんなことを思いつつ反省部屋を出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

 ミレニアムサイエンススクールの生徒会……『セミナー』は、今日も変わらず忙しない。

 廊下を歩いて生徒会室に近づくにつれ聞こえてくる声と気配でわかる。するりと扉を開ければ案の定、平積みにされた書類の山が築かれている机が目に入った。

 

「ユウカちゃん、これを」

「ああ、ありがとうノア」

 

 声のした方に目をやれば、視界に入る対照的な白と黒、わかりやすい2人1組。ユウカ先輩と、ノア先輩。一緒にプリントを覗き込みながら何かを話している二人は、こっちには気付いてない。

 

「………………」

 

 …………無意識のうちに、ユウカ先輩にそっと背後から近寄っていた。一歩詰めればぶつかりそうなくらいの距離。それでもこちらに気付いた様子はない。

 

 

 ────今。

 

 

 こっちの気配すら感じていないこの人に、刀を突き立てれば、それで殺せる。

 

 

 それを指し示すような、赤黒い、致死の証が、先輩の身体に見えたような気がして────

 

 

「────────ユウカ先輩」

「うひゃあっ!?!?」

「ひっ────!?」

 

 脳裏によぎった思考を切り捨てて声をかける。完全に意識外だったのか、甲高い悲鳴と共に、二人が文字通り飛び跳ねそうなくらい驚いた。

 

「こ、コユキ……びっくりした……いつ入って来たのよ……」

「今さっきですけど……?」

「全然気付きませんでした……」

 

 …………またやってしまった。

 足音を出さず、息も潜め、気配を殺して近付く術。すっかり染みついたそれが相変わらず出てしまったらしい。音を殺して動くのが癖になってる、なんて名言はどの漫画のセリフだったっけ。そんなどうでもいい思考が頭の端を掠めた。

 

「とりあえず、おはようございます」

「あ、うん。おはよう」

「はい。おはようございます、コユキちゃん」

「…………今日の仕事は?」

「あ、えっとね」

 

 手渡された書類を見ながら話を聞く。今日もいつも通り、データ整理や申請書のまとめ、あとは私のパスワード解析を使った機材の処理やセキュリティ関連の整備。

 

「お願いね、コユキ」

「わかりました」

 

 セミナーはとっくの昔にクビになった私だけれど、今は特別に復帰させてもらっている。昔の私だったら多分、考えられない様なことだった。こうやって仕事を任されることも、回された仕事を真面目にこなそうとしてることも。

 そう思っているのは、私だけじゃない。

 

「……なんですか?」

「ぁっ……いえ」

「な、なんでもないの。ごめんね」

 

 席に向かおうとする私に、何やら複雑そうな顔を向けている二人。声をかけても、誤魔化すように首を振るだけで。

 

「…………そうですか」

 

 なんでもないわけはない、それくらい私にもわかったけれど、それ以上追求したりはしなかった。

 

 踏み込まれたくないのは、私も同じだったから。

 

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

「…………もう夕方」

 

 今日の分の仕事があらかた片付いた頃。窓の外を見ると、ちょうど夕陽が差し掛かって空色が橙に変わっていた。どうにも仕事量を調節されたらしい。こういう所の手腕も的確なのは、流石ユウカ先輩と言ったところか。

 

 教室の中にユウカ先輩はいない。先程ノア先輩を連れて廊下から出て行った。帰りの挨拶をしたかったなと思ったものの、いないのなら、と思い直して教室を出る。

 

「………………」

 

 窓の外をぼんやり眺めながら思う。青かった空が柿色や黄金色や枯葉色に移り変わるのは綺麗だけど、やっぱり夕方と夜は、あまり好きじゃない。逢魔が時は亡霊が出るから──なんて。誰かに知られたら笑われそうだけど、実際に化けて出てこられた身としては苦い思い出の方が色濃いのだから仕方ない。

 

『────、──』

『──、──。────』

「おっ、と?」

 

 そんなことを考えながら歩いていると、不意に聞き慣れた声が耳を掠めた気がした。音を探ると、ちょうど今差し掛かろうとしていた階段の上の階から響いているらしい。

 

「ん…………」

 

 ここからじゃ普通の耳では聞き取れない。でも『忍びの耳』なら聞き取れる。そう思ってふと耳を澄ませて……すぐに後悔した。

 

『本当に、あの子のこと、このままでいいのかなって────』

『コユキちゃんは私たちと関わろうとしてくれています。何もしないわけにはいかないとしても、焦らないことの方が肝要だと────』

『でもノア。私、怖いの』

 

『またあの子が、どこか遠くに行ってしまうんじゃないかって』

 

「………………」

 

 聞き耳なんて、立てるんじゃなかった。

 

 心の底からそう思いながら、足早にその場を立ち去った。

 

 

 

「…………はぁ」

 

 反省部屋に戻ってきた私は、小さくため息を吐いた。

 学生寮に自室はあるし、もうそっちに戻ってもいいと、先輩には言われているけれど。無理を言って、この部屋をそのまま使わせて貰っている。静かで、基本的に誰もこないこの部屋が、何かと都合が良かったから。

 

 部屋の中には、誰もいない。昔の私がちまちま持ち込んでいた私物と、今の私が運び込んだ品がいくつかあるだけ。

 

「はは……よくわかってますよね、ほんと」

 

 ユウカ先輩の予感は半ば真実だ。私は遠くへ行きたいと思っている。

 

 否、もっと正確に言うなら。()()()()と、そう思っている。

 

 あの場所に。

 

 雪深い峠を抜けた先にある、戦国の世にて一代で興された北国。

 

 

 『葦名』に。

 

 

「────────ねえ、狼さん」

 

 

 鬼仏に語りかける。返答なんてあるわけがない、それをわかっていながら──それでも、言葉を投げつける。

 

 

「為すべきことって、なんですか」

 

 

 あの兄弟子が、幾度となく呟いていた言葉が。

 

 

「私にはもう、わかりません」

 

 

 今もまだ、呪いのように残っている。

 

 

 

 

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