第2部ラスボス『逆行した藤丸立香』   作:プレイヤー名:⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎

11 / 14


———実は、今回と次回あたりのイメージから始まったのがこのssだったりします。

やっと、第一・第二話に戻ってきたって感じですね。




第十一話:———ここからが、最終決戦だ。

 

 

 

 

 Aチーム率いるカルデアの新居地、虚数戦闘大艦イマジナリ・ボーダーの中に、緊急のアラートが鳴り響いた。

 赤いランプがゆっくりと点滅し、各電子機器のモニターには『緊急事態発生!』の文字がともる。

 

 そんなアラートを受けて管制室に集合したAチームのマスターたちの背後から『シュン』という、スライドドアの音がした。

 管制室後ろのスライドドアからやってきたサーヴァント、ジェームズ・モリアーティは大袈裟(おおげさ)に、両手を広げて宣言したのだ。

 

「さて、諸君。———犯罪計画の始まりだヨ」

 

 その言葉に真っ先に反応したのは、レオナルド・ダ・ヴィンチと共に管制室正面のモニターを見ていた、ロード・エルメロイ二世だった。

 彼はモニターから振り返り、首に真っ赤なスカーフを巻いた老紳士に問いかける。

 

「ミスター・モリアーティ、貴方(あなた)は藤丸立香とは繋がっていない……というのが私の見立てだったのですが、出し抜かれてしまいましたか」

「いやいや、君は全くもって正しいとも。私は断じて藤丸くんとは繋がっていない。

 ビーストの一部であったバアルと霊基を共有しているおかげで、『藤丸くんに召喚された時の記録を保有したままでの現界である』という推理も大当たりだとも」

「『繋がっていない』という見立てが正しいのでしたら、ミスター。()の異聞帯のマスター藤丸立香は、“やり直し”が発生する前からこの状況を計画していたと?」

「それこそ真逆(まさか)だ。彼は“やり直し”が発生した後、空想樹を育てるという役割を与えられた後に、今回の犯罪を計画した(はず)だよ。

 だって私は、こんな犯罪計画なんてまるで知らなかったのだからネ!」

 

 ジェームズ・モリアーティは実に楽しそうにモニター前まで歩みよる。そして、ダ・ヴィンチとエルメロイ二世を見た。

 

「私が君たちより先にこの回答に辿(たど)り着けたのは、(ひとえ)に彼の人柄(ひとがら)を知っていたからに過ぎない。

 さらに言えば、『君たちカルデアの諸君の予想は全て正しかった』と言っても良いだろうね」

 

 彼は振り返り、カルデアのマスターたち全体を見て、その中からカドック、キリシュタリア、デイビットを見定(みさだ)めた。

 

「カドックくんがロード・エルメロイ二世と共に辿り着いた結論『事件はまだ始まっていない』というのも正しく、またキリシュタリアくんがデイビットくんと共に辿り着いた結論『藤丸くんはマシュを気にかけていて、現カルデア勢力に殺してみせろと宣言している』というものも、全て正しい」

 

 キリシュタリアが、一歩前に踏み出した。

 

「———同意しよう、ジェームズ・モリアーティ。さらに付け足すならば、未来視を持つサーヴァントたちが、私たちの行動に一切(いっさい)の修正を求めなかった事から『異聞帯のマスター藤丸立香を殺す事が汎人類史にとって最善である』ということもまた、推測できる」

「流石はキリシュタリア・ヴォーダイムだ、それもまた正しい。

 ()()()()()、君たちカルデアは何としても藤丸くんを殺さざるを()ない立場になった。

 当たり前だネ。君たちの知り得る全ての情報・状況から導き出されるあらゆる結論は、全てが『藤丸立香を殺すために全力を尽くすべきだ』と出てくるのだから。

 ———だからこそ君たちは、それこそが彼の狙いであると気づいて(なお)、彼への攻撃の手を緩めることなど出来なくなった」

 

 モリアーティは(わざ)とらしく肩をすくめ、ため息をついた。

「心中お察しするヨ」と(つぶや)きながら、管制室にいる全ての人を順番に見渡した。

 

「実に()()れするような犯罪理念だヨ。

『自らの犯行を止められたくなければ、それを知り得る全ての者たちにとってその犯行が最善であるように見せれば()い』

 コレを達成するために、藤丸くんは自らの犯罪が汎人類史にとって(えき)となるように組み立てたのだろう。

 ———何も知らない者は全力で藤丸くんを滅ぼしにかかり、世界のやり直しに思い至った者はカルデアの強さを示すために彼を全力で倒そうとし、彼の真意に気づいた者はそのために彼を殺そうとし、この現状が彼の思惑の内だと()(はか)った者はそれでも彼と戦う以外の選択肢を見出(みいだ)せず、未来視を持つ者はそれが最善であるが(ゆえ)指摘(してき)出来ない」

 

 モリアーティは両手を広げる。

 

「そうとも! この戦争は(すで)に『汎人類史 対 異聞帯』などという対立構造ではなくなっていたのだヨ。

 よって君たちカルデアは藤丸くんにとって敵ではなかったのだ、最初からね」

 

 人差し指を立てて、(ささや)くように問いかけた。

 

「———では、この戦争において(しん)に藤丸くんと対立していたグループとは?」

 

 モリアーティはマスターたちの(あいだ)をすり抜けて管制室の後ろのスライドドアのところまで歩き、(うやうや)しく手を上げて、最後の登場人物たちを(まね)き入れる。

 

「どうしても()()()()()()()藤丸くんを殺したがっていたが(ゆえ)にカルデアに寝返った勢力。“反異聞連合”の皆様だヨ」

 

『シュ』というエアーの音と共に、ドアがスライドする。

 その奥から入ってきた異聞帯の民たちを見て、オフェリアが声をもらした。

 

「アデーレ、マカリオス……」

 

 アデーレが「オフェリア……」と(つぶや)いて、「こういう事態にはならない方が良いと思っていたのだけれど」と続けた。

 

「でもごめんなさい。これは、私たちがあのお方に反旗(はんき)(ひるがえ)すとお伝えした時に約束したことなの」

 

 マカリオスが一歩前に出て、アデーレの言葉を引き継いだ。

 

立香王(りつかおう)は、俺たちにあらゆる自由を許したんだ。叛逆(はんぎゃく)する自由、異聞連合と敵対して戦争する自由、カルデアに味方する自由、カルデアの一員になる自由。でも、その代わりに一つだけ———約束することがあった。

 それが、『もしも俺たち“反異聞連合”が目的を達成できなかった時には、立香王の代わりにカルデアへの伝言を預かること』

 ———だから、今日、ここへ来たんだ」

 

 ダ・ヴィンチはモニターの下で腕を組んで口を開いて、その状態で一瞬だけ躊躇(ちゅうちょ)して。そして彼に問いかけた。

 

「マカリオス、君が我々に伝言を届けることになる条件。つまり君たちの目的というのは、一体何だったんだい?」

 

 マカリオスは少し黙って(つば)をのみ、言葉を放つために息を吸う。

 

「カルデアの人たちよりも先に『立香王を異聞帯の者の手で殺すこと』だ」

 

 その言葉を聞いたダ・ヴィンチはすぐにモリアーティを振り返った。

 

「“犯罪計画”とは、異聞帯からの概念的な攻撃なのか!?」

「おっと……。当たらずとも遠からず、と言ったところかナ? 

 何にせよ、私にはそれを口にする時間が無いのだヨ。私はもうじき消滅する身だ。バアルが完全に破壊されたらしいからね、霊基を同じくするこの肉体も崩壊を始めている。

 だがッ! 心配めされるなダ・ヴィンチ女史。それは彼らにこそ与えられた役割なのだから」

 

 キラキラと霊基を崩壊させながらモリアーティは、スッと反異聞連合の(わき)に下がって、説明の場を彼らに(ゆず)った。結果的に、マカリオスに注目が集まった。

 そんなマカリオスは自らの姉に視線を飛ばし、姉が(うなず)いたのを見て、カルデアの面々と向き直った。

 

「オレたちの歴史———つまり7つある異聞帯は、本来なら存在しない(はず)の歴史だって事を、もうみんな知っている。

 剪定(せんてい)事象。西暦2017年を迎える前に並行世界論から切り捨てられて、“初めから無かった事”になったもの。もしもの歴史をカルデアスが演算して、空想樹というプロジェクターで白紙化した地球表面に投影しているだけの(まが)い物。

 そんな……空想樹を伐採されただけで消滅するような空虚な歴史を存続させたいと、本気で願ってくれた人がいたんだ」

 

 ダ・ヴィンチはゆっくりと目を(つぶ)った。

 

「それが藤丸立香という少年だった……と」

「そういう事。立香王は2017年の異聞帯ブリテンに降臨して、異聞王妃を召喚した。王妃は立香王の記憶から6000年前の妖精國に、立香王と共にレイシフトした。そうして7つの異聞帯において、6000年間のやり直しが始まったんだ。

 妖精國は王妃によって、それ以外の異聞帯は召喚された王によって」

 

 マカリオスは言葉を切り、カルデアの面々を見る。押し黙った彼らの視線に返答するよう、声を出す。

 

「だから今オレたちがいる“2周目の歴史”は、立香王と結びついている歴史なんだ。7つの異聞帯の歴史が全て、立香王と繋がっている。

 でも“存在しない歴史”である事に変わりはないから、7つの異聞帯はいずれ等しく消滅する運命にある。

 ———汎人類史と概念的に繋がらなければ、だけどな」

 

 マカリオスの最後の言い回しを聞いた瞬間、ロード・エルメロイ二世が小さな声で「Shit(シット)!!」と叫んだ。

 

「そういう……まさかそういう事なのか? だとしたら辻褄(つじつま)は合う……だがッ」

 

 二世は顔を上げて「マカリオス」と呼びかける。

 

「マカリオス。お前たち“反異聞連合”は、藤丸立香にそうなって欲しくなくて、彼を()()()()()()()殺そうとしていたんだな。

 ———藤丸立香が異聞帯の者の手によって殺されたならば、その因果は7つの異聞帯の中だけで完結する。そうなれば異聞帯の消滅と共に、藤丸立香もまた消えることができる」

 

 二世はマカリオスに「お前たちはそう考えたんだな」と確認した。

 

「そうなんだ。ここで———汎人類史の者によって殺されてしまったら、“2周目を経験した王”という概念は、汎人類史と縁ができてしまう。

 ———何が悪いかって? 

 悪いに決まってるだろ。立香王は7つの異聞帯の全てにおいて圧倒的な知名度を誇るんだ。それがサーヴァントとして召喚できない(はず)がないからな」

 

 話を聞いていたカドックが自分の(あご)に指を()えた。

 

「それはつまり、お前らは藤丸立香を汎人類史で召喚されたくないからというだけの理由で、藤丸立香を殺そうとしてたってことか?」

 

「いや」と(つぶや)いたダ・ヴィンチは、次の瞬間ハッと顔を上げて目を見開いた。

 

「違うッ逆だ! 汎人類史で藤丸立香を———異聞帯のマスターを召喚する事が唯一の打開策なんだ!」

 

 ダ・ヴィンチの声に二世も「その手が残されていたかッ」と反応し、メインモニター入力用の空間投影型タッチパネルに打ち込みはじめた。

 ダ・ヴィンチは連絡用の職員を向き、急いで管制スタッフに指示を出す。

 

「総員! (ただ)ちに藤丸立香の召喚に取り掛かるんだ!! 

 何としてでもカルデア式召喚を確定させて———」

 

 アデーレがゆっくりを首を振る。

 

「いいえ。もう遅いわ」

 

 彼女は一瞬振り返ることでマカリオスとアイコンタクト。タイミングを合わせる。

 

 ———そこに、ちょっと確認したい事があるからとミクトランを調査していたロマニからの通信が入った。

 

「ダメだった! レオナルドごめんッ、もう———何もかも手遅れだったんだッ!」

 

 アデーレがマカリオスの(ひじ)のあたりの服をつまむ。それを合図に2人は同時に、全く同じ口上(こうじょう)を発した。

 

 

「「藤丸立香は異聞帯全ての王であり、また唯一のマスターである。その経験から数多(あまた)の英霊に対して造詣(ぞうけい)が深く、あらゆるサーヴァントとのコミュニケーションを可能とした。

 6つの異聞帯を踏破して、7つの異聞帯全ての王となった者。

 カルデアスの人理修復シミュレーションにて、七度も世界を救った者。

 そして何よりも、人類最後のマスターとして“やり直し前の汎人類史”を二度救った、“カルデアのマスター”だった者」」

 

 

 管制室が(にわ)かに騒がしくなる。

 各職員が高速で端末モニターにたくさんの情報を表示させて、あるいはトリスメギストスに演算させ、弾き出された結果をそれぞれに共有するのに必死になっている。

 

 ダ・ヴィンチとロード・エルメロイ二世もまた、共有された情報を管制室中央の空間投影モニターに表示させ、その結論に顔を(しか)めた。

 

 何故(なぜ)ならその情報は、ミクトラン内部で生じた高密度の魔力反応に対するトリメギストスの演算による予測結果と、近未来観測レンズ・シバの観測結果が、全く同じ結論に達した、というものだったから。

 

 2人が今まさに(にら)みつけている空間投影モニターのトップウィンドウには、こう記されていた。

 

『ミクトランに出現した未確認存在。

 魔力規模(スケール)———4等衛星級』

 

 一瞬、管制室が静かになった。

 その一瞬の静寂によって、マカリオスとアデーレの声は室内の職員たち全ての耳に、飛び込んできたのだった。

 

 

「「以上の功績をもって彼のクラスは決定された。

 異聞帯のマスターなぞ偽りの称号()

 ()は汎人類史が生み出した、人類史を最も我武者羅(がむしゃら)に救う大災害。

 その名をビーストⅦ。

『あらゆる英霊・人間への共感』と『自らの生存欲求』を(もっ)て人類を滅ぼす、『救世』の理を持つ獣である」」

 

 

 オリュンポス異聞帯からやって来た2人の姉弟(してい)はサラリと深く一礼し、顔を上げ、その役割を全うする。

 

「「『汎人類史の者の手によって藤丸立香が殺される』という条件が達成されたことにより、オリュンポス異聞帯からカルデアへと出向しているこのアデーレとマカリオスが臨時大使として、カルデアへの言伝(ことづて)をここに()り返すものとする。

 

 ———『カルデアのみんな。貴方(あなた)たちにはたくさん、とてもたくさん助けられて、オレはここまでやって来ました。貴方(あなた)方の(すご)さ、その底力(そこぢから)を、オレは身をもって知っているから。だから貴方(あなた)たちと戦うと決めた時、自分の全てを出し切って、人理からのバックアップとして使えるものも全部使って、最強の盤面を整えた上で戦うんだと決めたんです。

 そうして全てを計画して……そしてまた沢山(たくさん)の人たちに支えられて、オレは今、こうやって貴方(あなた)方と対峙(たいじ)している。

 異聞帯の人たちと過ごした時間、ビーストたちの手助け。今のオレには、カルデアのマスターとして立っていた頃には無かった、全く違う人たちとの大切で、とても美しい思い出があります。

 そういうモノを負けられない理由にして、オレは全力でカルデアを打ち負かす。

 ———ここからが、最終決戦だ』」」

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 ———同刻、オリュンポス機神回廊奥。大祭壇。

 

 その中心には木製の薄い円形テーブル“円卓”が置かれ、異聞連合の会議の時には各異聞帯間の“円卓”と同期できるように調整されている。

 そんな円卓の外側を囲むように、機神たちの席がある。その中の一つでディオスクロイ・カストロは、何度目かの後悔を口にしていた。

 

「せめて……あの男に加護を与えていれば……」

 

 カストロが後悔を口にする(たび)に、妹や他の機神、ヘラと同期している汎人類史のエウロペなどにその心情を聞いてもらっていたのだが、今回はゼウスが、彼の言葉に反応した。

 

「心にもない事を言うものではない、カストロ。あの男に加護を(さず)ける事などできぬ事は、我ら機神の共通認識事項である」

 

 父親に(たしな)められられたカストロは、自身の感情とは裏腹(うらはら)に語気を強めて言い返す。

 

「父上! あの男が加護を望まない事は承知しております。俺が言いたいのは、無理矢理にでも加護を押し付けていればあのような死に方などせず、今もまだ生きていたのではないかとッ———」

 

 だが、ゼウスはそれを(さえぎ)った。

 ゼウスの人型躯体(くたい)の、その白い彫刻のような体から発せられたとは思えないほど、彼の言葉はゆっくりと———静かだった。

 

「何の力も持たず、ただ『人間である事』以上の性能の一切を保有せぬままに———あの男は運命に(あらが)い、これを()し。さらに(あらが)い、これを達成せしめられた。そして今なお、(さら)なる運命に(あら)い、その先の希望へと手を伸ばそうと足掻(あが)いている。

 気づかなかったというのか、カストロ。彼奴(やつ)———藤丸立香という人間の存在に、我ら機神一同、初めて憧憬(どうけい)の念を(いだ)いたのだ。

 (うやま)い、(あこが)れ、自らもああなりたいと願う存在に対して、どうして加護など(さず)けることができようか。

 加護とは、自らよりも脆弱(ぜいじゃく)なモノへの手助けに対する“名”である。そんなモノをあの男へ与えるなど、我ら機神が獲得した、“心”が決して許さない。(ゆえ)に我らは、彼奴(あやつ)には加護を与えられぬのだ。

 これは一片(いっぺん)たりとて()やむものではなく、イフの可能性を考える必要など、無用(むよう)なのだ」

「それは……」

「そうだ、今のままで良いのだ。ディオスクロイ・カストロよ、これでよい。我らは何一つ間違えてはいないのだ。

 我らは進み、あの男の望んだ景色を、共に拝見(はいけん)しようではないか」

 

 ———その時、ゼウスの座る円卓の中央から『ピッ』という電子音のような音と共に、ダ・ヴィンチのカタチを取っているムネーモシュネーから通信が入った。円卓中央に投影された彼女は何も言わず、ただ(うなず)いた。

 白い、大理石が如く白いゼウスの人型躯体(くたい)が立ち上がる。今もなお残り、大祭壇に(つど)った機神たちを一望し、低く声を張り上げた。

 

()こうか。これより全面戦争、“最終決戦”の始まりである。我らが盟友(めいゆう)手繰(たぐ)()せた世界のカタチを共に見る。———そのついでに、盟友(めいゆう)に会いに()こう」

 

 

 こうして、異聞帯とカルデアにおける戦争は最終段階に入ったのだ。

 今までの異聞連合にとってカルデアとは“敵”ではなかった、作戦目標が同じであったが(ゆえ)に。だがこれよりはそうではない。それぞれの歴史の存続をかけた、並行世界の戦争である。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 藤丸立香がビーストとして(あらわ)れ、目を覚ました時、真っ先に目に飛び込んで来たのはあちらこちらで溶岩が流れる、石造りの祭壇だった。

 一瞬、ここはどこだと考えて……すぐに思い当たる。『ああ、確かここはミクトランの最深部、シバルバーにある“チコナワロヤン”とか言う遺跡だったかな』と。

 それはつまりORT(オルト)が封印されていた場所で———

 

「……良かった。これで役目を終えられますね」

 

 立香のすぐ目の前から、女性の声が聞こえた。少し視線を下げると、石階段を何段が下ったところにククルカンがいた。その服装は濃紺の着物。(みどり)の髪に合うんじゃないかと、いつだったか立香がプレゼントした藍染(あいぞめ)の一点物だ。

 彼女は少し高くなっているこちらを見上げ、(まぶ)しそうに声を出した。

 

「気に病まないでくださいね、マスター。

 大丈夫。これはちゃんと、みんなで話し合って決めたんです」

 

 立香は、やっとの思いで(うなず)いた。

 

ORT(オルト)に取り込まれたお三方、カーマさんとキアラさんとドラコーさんは、(すで)に霊基が解放されています。ミクトランの空想樹を使って、じきに(あらわ)れることでしょう。

 ———この6000年間、本当にありがとうございました。私とはここでお別れです。貴方(あなた)の終わりも、ディノスたちの始まりも見届ける事ができないのは残念だけれど……それ以上に大切な、輝かしく美しいものをたくさん———た〜くさん(もら)いましたから、未練はないのです」

 

 ククルカンは石段をトントンと駆け上り、立香の後ろから背中をそっと押し出した。思わず一歩を踏み出す立香に、ククルカンは後ろからエールを送る。

 

ORT(オルト)は私が、完全に消滅させました。空想樹を使って、貴方(あなた)(しん)顕現(けんげん)しました。

 空想樹が無くなれば異聞帯は存続できないけれど、今のミクトランだけは例外です。だって、ミクトランの中に一本でも空想樹がある限り、この異聞帯はあり続けるのだから」

 

 もう一度彼女は、立香の背中をトンと押して別れを告げた。

 

「行ってください、振り返らずに。———大丈夫。

 貴方(あなた)はちゃんと、歩いて行ける人だから」

 

 立香の背後で、『シャラン』と霊基の解ける音。同時に、『キーン』という、澄んだ金属を打ちつけたような音———単独顕現の音だ。

 立香は少し上を見上るのと、彼女たちが(あらわ)れるのは同時だった。

 

「———あらっ、泣いてるんですか? マスターさん。

 いけないですねぇ。でも、泣き虫マスターさんに朗報です」

「そんなお顔をされてしまっては、(わたくし)など(たぎ)ってしまうではないですか」

「……どうでも良いが、サッサと()こうぞ。———待ち()びた、戦争の時間よな」

 

「…………みんな、帰って来てくれたんだ」

 

 童女の姿のドラコーが、立香の前に着地しながら口を開いた。

 

「……まぁ。()はあらゆる人類の終焉(しゅうえん)を味わい、これを()み干す(ケモノ)(ゆえ)な。我が騎手の行先(ゆくすえ)も見届けぬまま終われまい。

 其方(そなた)終焉(しゅうえん)()(しょく)すのだ」

 

 ドラコーは振り返り、立香に背を向けて歩き出す。さらに2体のビーストも追従(ついじゅう)し、石段を下りきった。

 神殿の出口を目指して歩く3体の内、カーマが目線だけを立香によこした。

 

「行きますよマスターさん。

 マスターさんの“異聞帯を全部守る戦い”ステップ2、『全異聞帯の特異点化』は、これで達成できましたね。

 これからはステップ3、『カルデアとの最終決戦』が待ってますけど  ———大丈夫。ダメだった時は、私も一緒に死んであげます」

 

 こうして、“異聞帯全ての王”が帰還する。

 ディノスたちに(むか)えられ、万雷(ばんらい)喝采(かっさい)の中ビーストたちが魔力を高める。ミクトランにある小型空想樹を2本ほど枯渇(こかつ)させながら、単独顕現によるアンサモンを敢行(かんこう)した。

 

 その行き先は———虚数戦闘大艦イマジナリ・ボーダー。

 

 先の戦闘の(さい)、妖精國から脱出するためにカイニスの大海嘯(だいかいしょう)によって光の壁を突き抜けて以来、未だに地中海付近の白紙化地球に停泊(ていはく)していたその(ふね)の、前方に降り立った。

 

 

「やってくれたわね」

 

 ほどなく、戦艦の甲板の上に現れたカルデアのマスターたちとそのサーヴァント。そして彼ら全員のさらに前に仁王立ちするオルガマリーが、忌々(いまいま)しげに立香に言った。

 

「たった今、シバが汎人類史の危機を観測、トリスメギストスがその原因を特定しました。それは『7つの異聞帯の歴史を丸ごと特異点にする事による汎人類史への大規模攻撃』

 ———間違いありませんね」

「うん、間違いないよ」

 

 立香はオルガマリーに笑いかける。

 

「並行世界論にすら切り捨てられたイフの歴史である異聞帯をキチンと存続させるには、汎人類史と因果(いんが)()けてしまうのが最も簡単だった。

 ———オレがビーストになった以上、“オレというビーストが羽化するために使用した(まゆ)”が存在していなくてはいけない。オレは汎人類史のビーストである以上、それは汎人類史のどこかになくてはならない。

 だからこそ———この瞬間に“オレというビーストを形作った7つの異聞帯”は、汎人類史の特異点として人理に認定されたんだ」

「それが問題だと言っているのです」

 

 オルガマリーは甲板の上から、腕を組んで言い返す。

 

「そんな事をされては、汎人類史は立ちいかなくなる。ロシア、北欧、中国、インド、大西洋、イギリス、南米。こんなにも膨大(ぼうだい)な土地が6000年にもわたって切り抜かれてしまったら、人理など容易(たやす)く崩壊してしまいます」

「そうだね」

「我々、人理継続保証機関は、これを容認できません」

「オレたち異聞帯は、これを押し通す用意がある」

「……どうしても引けないのですね」

「どうしても引けないんだ」

「なら———」

「だから———」

 

 

「「オレたち(私たち)異聞連合が(カルデアは)、その強さでもって歴史の正当性を証明する!」」

 

 

 オルガマリーは右手で、藤丸立香を指し示す。

 

「カルデアの皆さん! 人類史を(むしば)む悪しきビーストを打倒して、人類史を取り戻すのですッ!」

 

 藤丸立香は右手首を左手で(つか)み、3画の令呪を輝かせながら一歩踏み出す。

 

「行くよみんな。第三ステップ、『カルデアとの戦い』だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。