第2部ラスボス『逆行した藤丸立香』 作:プレイヤー名:⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎
オフェリア・ファムルソローネは、また魔眼を発動した。
藤丸立香が“何か”を行おうとした。だからオフェリアは
それにより一瞬、藤丸立香が動きを止める。
その一瞬を狙い撃ったシグルドが、自らの宝具、魔剣
……だが、射線に割り込む者があった。
金髪をなびかせて
「うむっ。我らの
ビースト
「そして! 無闇な追撃は
ドラコーの足元から出現した
「——————ッツ!」
そして、オフェリアが気づいた時。
———瞬間、その
「
「———ビースト、僕たちを忘れちゃいないかい?」
金属の打ち合う音がして、衝撃波がオフェリアを後ろに
ドラコーの大剣を弾き、オフェリアと共に距離を取ったサーヴァントが、彼女の前に立ち上がる。
白金色の長髪、白い衣装、朱色の直剣。首元にはゾハールの石のネックレス。
「ふむ」とドラコー。「我が騎手より聞いてはいたが……やはり貴様か」
「そうだね。僕たちはビーストを打ち滅ぼすために顕現したサーヴァントだ。“バビロンの大淫婦”。その特性はなりを
「……
我らが騎手、ビースト
グランドですらないサーヴァントでは、そも土俵にすら上がれまい」
やっと立ち上がったオフェリアの目の前で、ノアは「ふふっ」と
「だから僕たちがここにいる。
カルデアの人たちと共に歩んで分かった事がいくつもある。彼らとサーヴァントたちとの
グランドでないからと油断していると、
「そうか。———だが、少々騎手から目を離しすぎだな。油断したか? カルデアのマスターよ」
『マズい!』と気づいたオフェリアが戦線の向こう、藤丸立香がいた
「———令呪をもって、命ずる。
カルデアに所属する全てのサーヴァントよ、退去せよ」
彼の令呪から発せられた赤い光が、一瞬で四方に広がっていく。
急いで周りを見渡したオフェリアの目に飛び込んできたのは、金色の光の粒子を散りばめながら消滅していくサーヴァントたちの姿だった。
オフェリアの視線が正面を向く。彼女のファーストサーヴァント、シグルドが見える。彼もまた、その霊基を崩壊させていた。
「シグル———」
「マスター、当方は必ずもど
『ドンッ!』という衝撃音を聞いて、放心していたオフェリアがドラコーの方を見ると、彼女は大きく跳び上がり藤丸立香の元に舞い戻っていた。
同じく集結したカーマ、キアラ。そしてどこからともなく現れていたモルガン。
白紙化地球の白い大地に立つ5体の存在は、イマジナリ・ボーダーの前に
それらと
いつの間にかオフェリアの右手にいた、キリシュタリアの
「……まさか、これ程の力を持っているとはね」
聞かれた藤丸は一瞬キョトンと目を丸くした後、「ああっ」と表情を明るくした。
「そうか。
そうして一つ
「———“ネガマスター”。
オレはかつて人類最後のマスターとして、人類史のあらゆる英霊と
だからかな? ビーストになったオレは“あらゆる英霊のマスター”としての立ち位置を得たんだ。『あらゆるサーヴァントのマスター権を持っている』と言ってもいいかもしれない。
———それが何であれ、サーヴァントとして召喚されているというのなら、それがオレを傷つけることはできないよ」
シンと、静まり返る戦場。
ややあって、アルトリア・ペンドラゴンが一歩前に出た。
「……だが。その“マスター権”とやらは、我々グランドサーヴァントに影響を及ぼすものではないようだ」
「そうだね。グランドサーヴァントとは本来、マスターや召喚陣を必要とせずに顕現するサーヴァント。
“マスターを必要としない存在”に対して、オレにできる事は何もないかな」
◇ ◇ ◇
イマジナリ・ボーダーの管制室では、急ピッチでの弱点解析が行われていた。
「ビーストが4体、
「ビースト
戦場にいるサーヴァントたちに加えて、イマジナリ・ボーダー内にマイルームを保有している全てのサーヴァントの皆さんの霊基、一切確認できません。
文字通り、完全に退去させられている
「弱点、およびネガスキルの突破口、
ロマニ・アーキマンは、右隣の席に目をやった。
半分だけ引かれたデスクチェアと、付けっ放しのモニター。パネル式キーボードの隣には飲みかけのコーヒーが置かれたままになっている。
ついさっき、ほんの一瞬前までレオナルド・ダ・ヴィンチが座っていたその席からは、もはや何の気配も感じられなくなっていた。
ロマニは両手でバシッと
「いいかい、落ち着いて再召喚を試みるんだ。
解析班はそのまま弱点を探って! 並行して召喚陣を起動。
こちらにはまだ霊基グラフがある! ビースト
モニターに表示されている各班の進行状況を確認しながら待っていると、召喚班からの結果が送信されてきた。同時に、音声でも伝達される。
「ダメです! 再召喚できません!
どうやらアレは見かけ
『退去せよ』という命令は未だ継続中と見られます」
「トリスメギストスによる勝利条件の演算結果出ました!
———以上の3工程を踏むことにより、勝利を手にできるそうです」
ロマニは両手の指を
今回の大災害、その厄介なところは“6000年も続いた特異点”が同時に7つも誕生してしまったところだ。これを解消するには、その起点となった時間軸にレイシフトして聖杯を回収するしかない。
だが同時に、今カルデアが敵対している存在がビーストである、という事もまた、障壁として立ち塞がっている。
ビーストは“単独顕現”というスキルをデフォルトで所持している。このスキルの
たとえ今、紀元前4000年のブリテンにレイシフトして、“1周目の過去からやって来る藤丸立香”を殺害したとしても、目の前にいる藤丸立香には一切の影響がない。『
———だからこそ、ここでビースト4体を倒し切らなければ、汎人類史に未来はない。
ロマニは、管制室中央にある巨大なモニターに視線を飛ばした。
グランドサーヴァントたちが頑張ってくれているが、押されている。
……無理もない。ビースト
仮にパスを繋いで、カルデアのマスター経由で魔力の
『自害せよ』あるいは『この時空間から永久に退去せよ』などと命じられてしまったならば、その時点でカルデアは詰みだ。
現在、戦場ではマスターたちが機転を利かせて、戦線から一時離脱したグランドサーヴァントに聖晶石を渡すことで魔力枯渇の問題を先送りにしているが、コレもそう長く
よってこの瞬間、ロマニ・アーキマンに
———深く息を吸い、思考の海に
……疑問なのは、『
ビーストⅠ:人王ゲーティア
ビーストⅡ:ティアマト
ビーストⅣ:キャスパリーグ
ビースト▗▜:エレシュキガル
———これらのビーストは、戦闘開始から
「現在駆けつけているビーストとの違い、という点で真っ先に思いつくのは……やはり、『カルデアに敗れているかどうか』だろうね」
ビーストⅠとⅡは言わずもがなだが……フォウ、つまりキャスパリーグの討伐はマシュだけが記憶していた(フォウにそう言われたらしい)し、エレシュキガルの討伐はカドックだけが記憶していた。
そして現在敵対しているビーストⅢのLとR、そしてビーストⅥ。カーマとキアラとドラコーは、討伐できずに逃げられている。当時は『成体になってもいないビーストがどうやって?』と思ったものだが、今なら
彼女たちは一度、ビーストとして藤丸立香に
「つまり———ここで目の前のビーストを討伐する事ができたなら、その
ロマニは独り、
「ただ問題は、そのビーストを倒せない事だ」
もう一度、管制室中央のモニターを見る。
スペックだけで
Aチームのみんなは頑張ってくれている。グランドサーヴァントたちも、その性能を存分に発揮してくれている。……だけど、足りない。
グランドサーヴァント7騎とマシュに、カルデアのマスターが7人。この計15人が、5体の敵に押されている。
理由など、
『マスターの有無』
敵3体のビーストと1騎のサーヴァントにはマスターがいて、こちらのグランドサーヴァントにはマスターがいない。ロマニの目から見ても、ただそれだけの違いで数の利を
モニターの向こう、戦場を見る。
何か……何かある
確かに、人理焼却事件とは違って藤丸立香という犯人は始めから、カルデアという組織を計画に組み込んでいた。だからこそ、カルデアという組織は今回、イレギュラーとして働かない。
『どれだけ絶望的であろうともカルデアであるというだけでイレギュラーであり、
……でも。
でも、今回の犯人である藤丸立香は、カルデアという組織をかなりの濃度でリスペクトしてくれている。ロマニもそれは、ひしひしと感じている。
———尊敬、あるいは尊重している相手からは影響を受けるもの。
それは意識的な働きではなく、本能や無意識の働きだ。ならばカルデアの、藤丸立香が
◇ ◇ ◇
キリシュタリア・ヴォーダイムは、何もできないことに
実際さっきも、アルクェイドが両腕を噛みちぎられながら吹き飛ばされてきた。
回復を終えたアルクェイドと、
「ヴォーダイム、何か見つけたかしら」
「いや。こちらとしても手詰まりだよ、
ビーストたちに打ち勝つためには、
……だがそうしてしまうと、“ネガマスター”に太刀打ちできない」
「そうね。今戦ってくれているグランドサーヴァントたちは、言うなれば現実から浮遊しているようなものだもの。
フワリフワリと浮いたまま、ズレた世界で戦っている。
それで『勝て』とは
ペペロンチーノは口元に指を当てて、大きくため息をついた。だがキリシュタリアが目の
キリシュタリアの一瞬の視線に気づいたのだろう。彼女は「あら、コレでも本当に
ここ最近は髪を
2200年の時の果てで、最愛の男と再会した女。
精霊種であるが
地面を殴りつけながら、血涙を流しながら
「
魔力の暴走によって彼女の肩が弾け、胸が裂け、腰が潰れる。そして
ペペロンチーノは戦場から目を離さないまま、
「彼女、どうにかならないかしら。
キリシュタリアは考える。方法がない
———そういう、キリシュタリア自身の心の
「いや、しかしリスクにたい———」
「ヴォーダイム。キリシュタリア・ヴォーダイム。
私たちは
———でもね、結末を共にすることだけはできるのよ。
失敗したら手伝ってあげる。取り返しがつかないなら、一緒に地獄を歩いてあげる。死ぬしかないなら、手を
絶対に勝てない問題に立ち向かう時、一緒に死んでくれる人がいるというのは———
黙って、黙って。
それからキリシュタリアは、一度鋭く息を吐き切り、少しだけ声を
「
「さっきの今だもの、
左隣から聞こえてきた返答に、
「その時の、
「そうねぇ、確か……『お前
『でもコレが、ビーストに与えられたスキルなんです』だったかしら」
———そう、
藤丸立香は、ビーストたちにその攻撃を
「確かにね」
———と。
キリシュタリアは静かに、藤丸立香に気づかれないように、回路を回し始めた。
「
「もちろん。水着霊基なんかは分かりやすい例よね。
———スカサハは水着霊基になった時にアサシンの霊基を獲得していたけれど……彼女、隠れる気がまるで無いんだもの。“ビーチクライシス”なんてスキルが
「そう、つまりそれは霊基を持つ以上———ビーストと言えども同じであると見るべきだろう?」
……一瞬、
「それは……つまりどういう事かしら」
ペペロンチーノの返しが本当に分かってなさそうだったので、キリシュタリアは笑ってしまった。
「あぁいや、すまない。つまり、こういう事だ」
一歩、二歩と前に出る。
背後の
自分の声色があまりにもリラックスして聞こえたからか、
そして、声を張り上げた。
「———藤丸立香ッ!!」
戦場に声が
それでいい。これだけ声を張り上げて誰も見向きもしないという事は、意識して無視しているという事だ。つまり、キリシュタリア・ヴォーダイムという1人の人間を、戦場という場所から浮き上がらせる事には成功している。
「確かに君は、優秀なマスターではあったのだろう。様々なサーヴァントと平等に
だが裏を返せば、それは特別な1人のサーヴァントを選び
“ネガマスター”。なるほどそれは、あらゆるサーヴァントからの効果を無効化する絶対の盾であり、全てのサーヴァントを
だから……別にいい。
「———
だが、彼についてだけは別だ。
彼と
失敗すれば終わりだ。おそらくその瞬間に、この戦いにおける敗北が
可能性は
だからこそ、右手をグッと握りこむ。そして突き出す。
「——————
見返すことなく、一つ
続いて発した詠唱は、彼女とのハモりになっていた。
「「汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
星を
我は常世全ての善となる者。我は常世全ての悪を
汝、星見の言霊を
抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ——————!!」」
光がさざめく、魔力がささやく。
白い大地が光を弾き、魔力を
霊基に魔力が
白と黒の2人の髪が風を受けて舞い踊る。
魔力の
「———よう。
◇ ◇ ◇
ベリル・ガットは、藤丸立香の背後をとって爪を振り抜こうとして、危機を感じて
魔力で
どれだけ
ひと息ついてふと後ろを見るとキリシュタリアがいる。
そして、2騎のサーヴァント。
「おっと……」
でも
『あらゆるサーヴァントに対して命令でき、攻撃が効かない』とか言う、マスターからしたら理不尽の塊みたいな能力を持つ敵の目の前で、退去させられた
だがこれで藤丸立香は最高峰のマスターではないと証明されたワケだ。少なくとも、カイニスと項羽に関しては。
カルデア陣営が無意識にキリシュタリアを中心にまとまったせいで出来た戦場の空白に、ベリルはビーストたちの顔色を観察する。
カーマ、キアラ、ドラコーとモルガンは涼しい顔をしているが、対照的に藤丸立香の顔色には
———ならばここは一つ。言葉で
カルデアの連中はどいつもこいつも善性のヤツらばかり。悪ぶっているペペロンチーノにしても、その根底には優しさと思いやりがある。だから純粋に悪であるのは何だかんだベリルだけ。
そう言う
……まぁ、殺人鬼を殺人鬼のまま
「よう先輩。これは後輩からの
手をパタパタさせながら笑いかける。
……反応はなし。しかし
「“ネガマスター”だなんて大層な名前を貰っちゃいるが、結局のところコレは『お前さんがマスターの中で最も優秀である』って
……もしもこの世界のどこかにお前さんよりも優秀なマスターがいるってなりゃ、それだけで無意味になるんだろう?」
藤丸立香の顔から余裕が消える。その
なら、この仮説はだいたい当たり。つまり———
「つまりコレは『格付け』なワケだ。
オレたちカルデアのマスターと、先輩と『どっちが優秀なマスターでしょう』ってな!
オレたちが勝ちゃあ、お前は終わりだろ」
「———ない」
凛とした、モルガンの声だった。
「そこな
最終決戦の『格付け』において、我らの敗北は
「そんなワケあるかよ。実際、カイニスと項羽は取り返してる。その分そっちのスキルは
もう召喚できてるだろ」
ベリルの後ろで、4つの魔力が
それぞれ誰が召喚されたなんて、ベリルには考えるまでもない。
「そらもう一つ、
アシュヴァッターマンが飛び出して、巨大なチャクラムをぶん投げる。カーマがヴァジュラで迎撃した瞬間にペペロンチーノが、
真っ白な魔力腕が
そうやって一瞬、カーマとキアラの意識を
カルデア陣営を
「本当に、たった一手で戦況を一変させやがった。コレだからアイツは———」
ベリルはマシュと共に、カルデア陣営の守りのためにAチームの元に
◇ ◇ ◇
藤丸立香は、必死の対応に追われていた。
……マズい、決して突かれてはいけない
サーヴァントのスキルとは、自己申告ですらそのカタチが変動するもの。
知っていた
理由不明のまま何故か
他にも
ビーストとなった自分のネガスキル、“ネガマスター”は『藤丸立香は史上
この中で『藤丸立香が史上
そして今、立香はだんだんと『藤丸立香はあらゆるマスターの頂点に立つ存在だ』と、自分に言い聞かせる事ができなくなりつつあったのだった。
『ドンッ』と、立香の右前方で爆発があった。ドラコーのいた
彼女が
「ドラコーーー!!」
右
立香は、自身の前方で戦っているキアラとカーマに視線を向ける。
キアラは
……だが、そんなものはオリオンによって割り砕かれる。
———みんな劣勢だ、と立香は
「マズい、近いうちに誰かがやられる」と声に出す。
こうなった原因など分かりきっている。立香のネガスキルの出力低下によるものだ。
その弱体化の影響は何も、Aチームによるファーストサーヴァントのマスター権の
何故なら“ネガマスター”というスキルは、あらゆるサーヴァントに対して『藤丸立香が己のマスターであるという状態』を強制するため、立香と敵対しようという意志を持つだけでそのサーヴァントにはデバフが入る。『藤丸立香が己のマスターであるという状態』に
そのデバフが、今は、ほとんど効果を発揮していない。
彼らのファーストサーヴァント達だけでなく、グランドサーヴァント達でさえもまともに弱体化が入っている気が、しない。
敵もそれに気がついているのだろう。グランドサーヴァント達が次々と、カルデアのマスターと主従契約を結び、パスを繋ぎはじめている。ドラコーとキアラが押されているのも、グランドサーヴァント達が契約して強くなったからだし……、キアラとカーマが魅了系のスキルを
キアラ、カーマ、ドラコーはそれぞれ、このやり直し後の世界においてビーストの霊基を
かつて立香がカルデアにいた頃、ビースト成体として
モルガンは、これからの事を考えるとあまり無理はさせられない。
となると、
……だが現実は、藤丸立香が
前方からアシュヴァッターマンのチャクラムが
その瞬間、アシュヴァッターマンの後ろにいた、ペペロンチーノがタタラを踏んだ。
———神足通で移動しようとしたところを、カーマは“
右わき腹の肉が弾け飛ぶ。
次の瞬間にはカーマが操るシヴァの炎が周囲を覆い、立香の足元から発射されるモルガンの魔力砲が飽和した。
だが魔力砲が突き抜けた後、ペペロンチーノは意外と近くにいたままだった。
ペペロンチーノが立っているのは、立香の前方20mといったところ。
彼女は2人の
「こんな言い方は良くないのでしょうけど……、正直
———人間だった時の方が脅威だったわよ、アナタ。とペペロンチーノは付け足した。
そこに、モルガンが
「『格付け』の結果はもう出たわね、モルガン。アンタの旦那は人間だった時よりも格下のマスターになった。それをキリシュタリアが打ち破って、今じゃあ私たちもその
虞美人が目を細めるのと同時、周囲が
立香が
虞美人の声がシンと
「キリシュタリアの理想魔術、“惑星轟”。それと太公望の“
お前たちビーストをここで排除して、レイシフトで異聞の起点を修復して。カルデアは人類史を取り戻す。
———これで終わりよ。藤丸立香」
『ドンッ』という衝撃波とともに飛ばされてくるキアラが、立香の背後に着弾して砂煙が舞う。振り返ると……キアラの両腕はねじ曲がり、内出血で青黒く変色し、それでも
思考が飛んだ立香の耳に、空気が爆発する音が聞こえた。
何も考えずに戦場の右翼を見ると、ドラコーが空を舞っていた。立香の右側に
……脚をおさえる両腕は焼け、脇腹は切り裂かれている。痛みに歯を食いしばりながら、立ち上がろうとするドラコー。
今度こそ動こうとして———立香は無理矢理にでもその動きを固めてとめた。
—————前を見る。
ペペロンチーノがこちらを見ている。
神足通は、簡単にイメージするなら『どこにでも現れる能力』だ。塀や壁に囲われた場所、そこが密室であろうとも、
この瞬間に立香が攻撃されていないのは、
もしも今、立香がキアラとドラコーの元に向かえば、それが確実な
ペペロンチーノも
右手の令呪に魔力を
カルデア本陣、戦艦の甲板にいる太公望が反応した。空中に
———息が浅い。呼吸が激しい。
このままだと誰か死ぬ。……誰かが死ぬなら———
◇ ◇ ◇
「———ねぇ、ロマニ。“天才”とはどういう人をいうと思う?」
「いきなり難しい質問だね。そうだなぁ……。
ありきたりで良ければだけど『自分自身の使い方を知っている人』じゃないかな。
天才と呼ばれる人は才能を発揮できる場所にいるから天才なんだと思うんだ。“世界一の絵の才能を持つ者”に戦場で剣を握らせたところで、その才能が発揮される事はないからね」
「あぁ———。ロマニらしい
「レオナルドは、どう思っているんだい?」
「私かい? 私は万能の天才だからね、あらゆる
レオナルドはその日、壁にもたれ掛かりながらコーヒーを飲んでいた。
「人は誰かを“天才”と呼ぶ時、そこに自分には無い才能を見る。人間、自分が当たり前にできる事を“才能”とは呼べないようにできているからねぇ。
『自分には欠けているモノを持つ誰か』を見た時にこそ、人は強烈に
「レオナルドはそうやって、
「そうとも。あらゆる
人は能力の優劣を、数値の概念で考えたがる。現代風に言うならば、偏差値みたいな考え方をする人が多いってコトさ。『能力値は高ければ高い方が良く、その極地を天才と呼ぶ』んだと人々は信じて疑わないけれど……。これは本当にそうなのかな?」
「それはつまり……『才能が無い事に意味はあるのか』という命題だね」
「うん。———昔、私がまだ若かった頃の事だけど。どんな事でも『レオナルドはすごい』と言って私を尊敬してくれていた人がいた。もう顔も名前も思い出せないんだけど……確かに、そういう人がその時いたんだ。
その当時は『こんな当たり前にできる事で何を
少しだけ首を
———私はね、ロマニ。その人がいたから天才に
「私にとっては当たり前にできる事が『誰にでも当たり前にできる事でない』という事を教えてくれたのは
そうやって
だから思うんだよ、ロマニ。
何の才能もなく、それ
白い紙コップと、それを
白黒の2色をロマニの方に突き出して、レオナルドは言葉を
「『才能が無いが
———“マスター”って、きっとそういう者のことを
◇ ◇ ◇
「——————マスター」
キアラの声がそっと、藤丸立香の後ろから聞こえた。
倒れたままのキアラが、己がマスターに語りかける。
「マスター、そう……固くならずとも……。
誰が何と言おう———と……、
証明する
「
虞美人が、少し硬い表情で反論する。
「“ネガマスター”を取り戻したいのかも知れないけど、
これはマスター同士の、無意識の格付け勝負なの。
たとえどれだけ言葉で
———少しの沈黙。
でも、それはキアラが声を殺して笑っているからだと、立香は気づいた。
「なんッ……ふふっ———何を
でしたら———ええ。この『格付け』は、……マスターのかち」
カーマとモルガンがさらに
それに対抗するために、ペペロンチーノが虞美人と項羽の後ろに回りながら、こちらに声をかけてきた。
「『この状況を逆転できる一手がある』と言いたいのね。何か、奥の手のようなものが……、宝具かしら」
聞かれても、立香には全く分からなかった。
この状況を打開できるようなもの。スキルも宝具も、立香には心当たりがない。
何もできないでいると———『ザリッ』と、地面を少し
立香の右隣、ドラコーが———無い左脚を投げ出しながらに、右脚で立ち上がろうとしていた。
「
「
「人類最後のマスターに
そして、最高のマスターでなければ意味のない宝具だ」
「…………でも、結局オレは……、ビーストになっても宝具なんて———」
立香が言い終わるより前に、目の前のモルガンが
「見覚えがない、なんて言わせませんよ。我が夫」
「えっ? ……でもモルガン、そんな———」
言いかけて、立香はその水晶の中を見た。
それは小さな、
「————
「ちょっと、
虞美人は、言いかけて口を閉じた。
モルガンがあまりにも優しく、水晶体の中身を眺めていたから。
「私は、
「そうかもしれない。2000年も前の事とはいえ、モルガンにチョコレートを贈った方法を忘れるなんて」
モルガンが、
ペペロンチーノが反射的に神足通に入ろうとして———魔王カーマが巨大化していた。
「——————
カーマはその肉体の中に味方の4人全員を取り込み、自身をもって盾とする。大きな身体で小さくしゃがみ、両手で胸をかき
情報はもう共有されているのだろう。……でも、誰も動かない。
当然だ、とカーマは笑う。
あんなものを見せられて、これが宝具だと言われても混乱するだけだろうから。現代人なら
———だってそれは、ただのカードなのだから。
大きなカーマの
「———これは、我が夫が生涯にわたって持ち続けたもの。
『生涯にわたって持つことが許された唯一のもの』と言い換えることもできるだろう」
彼は過去に巻き戻され、世界は一度やり
それは
「
モルガンが
その中にあったものは、水色と群青の硬質カードだった。
「————————宝具、開帳」
◇ ◇ ◇
「これは……ギフトカード?」
バレンタインデー、夜。
チョコとお返しが
お風呂あがりにマイルームのベッドに
渡された
ネモ船長が、『
「そう。トリトンサービスのギフトカード。
もちろんただのカードじゃない。
それは今回のクリスマスの工程で
ネモサンタは「ようするにスペシャルなカードってコト」と笑って言った。
「
この先、必要なものが出来た時、そのカードに場所と
ネモサンタは安心・安全な輸送に関しては最優のサンタだ。トラックに入るものなら必ず届けに行くよ。
———
軽く、あまりにも軽く。ネモは『必ず』と口にした。
その軽さに、どれだけの思いと覚悟を込めているのか。その
だから立香も、
「そっか。———ありがとう、サンタさん」
「こちらこそ、マスター。
今年のバレンタインは僕たちにとっても宝物だ。
こうして一緒にコーヒーを飲めたのも。
———ふふ。キャプテンだけの役得だね」
◇ ◇ ◇
モルガンが水晶体の封印を
自分の手元に急に現れたカードを見て、立香は少し笑ってしまった。何故なら、そのカードにはもう『場所と
筆跡を見れば誰が書いたのかくらいは分かる。モルガンだ。
なるほど、異聞王妃はここまで
———宝具が、起動した。
その声を最初に聞いたのは、一体誰だっただろう。
子供の、笑い声が聞こえていた。
「いぇい、いぇい!」だとか「ごーごー!!」だとか。
ともかく何かみんなで楽しそうに“ごっこ遊び”をしているような、そんな声が聞こえている。
「「「じんぐるべーる、じんぐるべーる、ネモサンタッ! やー!!」」」
聞こえたのは、立香の後ろ。
振り返って、それを眺める。
高床の装甲トラック。運転席の上部にはハッチが付いていて、そこから1人が顔を出していた。
「メリークリスマス、マスター。
—————プレゼントを届けにきたよ」
【トリトンギフトカード】
ネモサンタからのお返し。
ネモサンタが使っているバーコードリーダーと、
個人配達業者トリトンサービスのプラチナギフトカード。
使用期間:無制限、限度金額:常識の範囲で。
一見するとただのギフトカードだが、
「一回きりだけど、どんな時でも、どこにいても、きっと贈り物を届けに行くよ」というネモサンタの意志が込められている。