第2部ラスボス『逆行した藤丸立香』   作:プレイヤー名:⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎

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第四話:守りましょう!

 

 

 

 

 カドック・ゼムルプスは、マスタールームでレオナルド・ダ・ヴィンチの放送を聞いた。

 

『Aチーム諸君、ブリッジに集合したまえ。ブリーフィングの時間だぜ』

 

 カドックは黒のトップスを取り出した。

 マスター礼装である“極地用カルデア制服”に着替え、身だしなみを整え、令呪が三画存在するのを確認して、自室から外に出た。

 すると同じタイミングで隣の自動(とびら)がスライドし、見知ったサーヴァントが廊下に出て来た。

 

「あら、ちょうど同じタイミングだなんて……つくづく息が合うみたいね、(わたくし)たちは」

「…………。そうだな」

「あらっ? 卑屈になるのは辞めたの? それはとても良いことよ、マスター。

 それとも、世界を救ってやっと自信が付いたのかしら。それは少し問題ね。

 ———世界など救わなくても、貴方(あなた)は素晴らしいひとなのに」

 

 カドックはアナスタシアを見ることをやめ、艦橋(ブリッジ)へ向かって黙々と足を動かした。

 自分の少し後ろから感じる『からかいの気配』を振り払うように、捨て台詞を口する。

 

「別に……。ただ僕は人理焼却からの2年間で、卑屈になるとお前が饒舌(じょうぜつ)になって、話が進まなくなることに気づいただけだ」

 

 アナスタシアはスピードを上げ、カドックの隣に並ぶ。

 

「それなら、仮初(かりそめ)でも胸を張りなさい。

 自信があるフリをするの。『自分はすごい』と言い続けるの。

 ———そしてやりたい事だけを、やりたいようにやりなさい。

 それが貴方(あなた)の力になるわ、マスター」

 

 聞こえているだろうに……ワザと無視するマスターに、アナスタシアは何も言わない。

 

 この人の卑屈は筋金入りだ。自己肯定感の低さは折紙付きだ。

 それでもアナスタシアは、己がマスターがとても凄い事を知っている。

 

 結局それ以降は、二人とも何も言わなかった。

 

 

 艦橋(ブリッジ)に到着して、カドックは周りを見まわした。

 そして、ペーパー・ムーンの前に立っているダ・ヴィンチに、七人の到着状況を聞いた。

 

「まさか僕が一番乗りか? イヤに珍しいな」

 

 ダ・ヴィンチはその大きな胸の下で腕を組み、カドックを振り返る。そして、口を(ひら)いた。

 しかしダ・ヴィンチが答えるよりも先に、カドックの後ろから声が聞こえた。

 

「そうでもないさ。カドックが早乗りする確率は、三分の一より多いくらいだよ」

「それってつまり、残りの三分の二は遅いってコトだろ? キリシュタリア」

 

 噛みつくようにカドックが返すと、当の本人は笑いながらブリッジの中にやってきた。

 “極地用カルデア制服”の黒いトップスの上に広がる金色の髪が、歩く彼を追いかけている。

 キリシュタリアがカドックの隣まで来た一瞬の後に———流れるような金髪は、その動きをようやく止めた。

 

「お前、その服やっぱり似合ってないよな」

 

 一部始終を観察したカドックは、何度目かの感想をもらす。

 もちろん、キリシュタリアは見事に着こなしてはいるが、それでもカドックは思うのだ。『キリシュタリアには白が似合う』と。

 

 チラリとカドックの表情を見てから、キリシュタリアは返答をする。

 

「そうかい? それでも、私がこれを着たいんだ。

 皆と一緒にもう一度、世界を救える気がするからね」

 

 ペーパームーンの側で何やら操作しているダ・ヴィンチに一歩近づいて、キリシュタリアが(のぞ)きこむ。

 

「……なるほど、浮上先の時間軸が割り出せた訳だね。『ブリテン島から逃げ、虚数潜航に移行したあの日から数えて一月(ひとつき)()の現実時間に浮上する』

 ———そこまで詳細に算出できたという事は……そろそろかい?」

「そうだね。つい先程、確度の高い(えにし)を掴んだ。

 だからこれから浮上する事になるわけだけど……。その前に、みんなで一度確認しようか。

 ———今までずっと、やってきたようにね」

 

「———()い事だ」

 二人の会話に、もう一つ声が加わる。

 続いてブリッジに入って来たのは、デイビット・セム・ヴォイド。

 極地用のマスター礼装の上からかなり沢山(たくさん)、米軍仕様のアタッチメントが取り付けられていた。

 

「そういったルーティーンによる精神的なコントロールは、任務の成功率に大きく貢献する。

 これからの戦いの中では、より必要になるだろう」

 

 そうして、デイビットも話の輪に加わった。

 先に来た3人のマスターが、ダ・ヴィンチも含めて4人で話していると……いつの間にか、8人のAチームが揃っている。

 

 その光景を、そばで観ていたアナスタシアはそっと笑った。そして、周りをみる。

 Aチームが全員揃っているという事は、当然、サーヴァントたちもいるという事だからだ。

 

 そして彼女は、自分のマスターからさらに下がって、サーヴァントたちが(ひと)(かたまり)になっている一角に向かった。

 

 

 アナスタシアが、その一団に近づいていく。

 

 カイニス、項羽、アシュヴァッターマンと、テスカトリポカ、マシュ。そしてシグルドと、その中にいるスルト。

 

 彼らの輪の中にスルリと入って、アナスタシアはマシュに告げた。

 

「マシュ、Aチームは貴女(あなた)を除いて揃っているわ。早く行ってあげなさいな」

「ありがとうございます。アナスタシアさん」

 

 マシュはシグルドとスルトとの会話を切り上げると、トテトテと、マスターたちの方に駆けていく。そして皆に声をかけ、反応したベリルと二言(ふたこと)三言(みこと)言葉を交わした。

 

 その時の、マシュとベリルの横顔を見て、カイニスはふと声を漏らした。

 

「……にしてもよ、最初はどうなる事かと思ったが……。

 なんだかんだ良い組み合わせになったよなぁ、アイツら」

 

(しか)り」と項羽が返答する。

「我が演算において()()()()確率は限りなくゼロに等しかった。そのごく僅かな、(まさ)しく“奇跡”を手繰り寄せたマシュ嬢の功績は、一流のサーヴァントにも匹敵する偉業であろう。

 ———あるいはそれ(ゆえ)に、ギャラハッドは彼女を選んだのか」

 

 などと言う項羽の感想を、鼻で笑う男がひとり。

 デイビットのサーヴァントである、ルーラー:テスカトリポカだった。

 

「何が“奇跡”だ。

 項羽、アレはなるべくして成ったんだよ。要するに必然ってヤツだ。収束・収斂(しゅうれん)と言い換えてもいい。

 ———これだから、人間ってヤツは面白いのさ」

 

 テスカトリポカは語る、ベリルの心の欠け方の話を。

 ベリル・ガットという人間は大切な物が分からない。それは『好き嫌いを判別する心の機能』が、『愛や尊敬といった感情を認識する機能』が、はじめから壊れているからだ。

 

 ———“好き嫌い”とは、自分にとって大切なものとそうでないものとを区別するための心のバロメーター。

 愛やら尊敬やらといった心の働きを一度も経験したことがない人間が、それでも大切な何かが欲しいと願ったならば。

『大切だろう』と想定した存在を、なるべく残酷に、壊してしまうべきだろう。

 

 そうやって壊れたモノをみて、心を痛めて初めて『自分の心が悲鳴を上げているって事は、それは大切だったに違いない』と安心する事ができるのだから。

 

 そんな『他者を害することによって自らの心を傷付ける』事でしか、大切なものが分からない感性。

 ———そのような状態では、生きている実感など得られる(はず)もない。

 

「そんな男に、唯一『傷付ける前に自分の心が傷付く』と感じさせた人間が、試験管ベビーのマシュ・キリエライト。

 カルデアという組織の中で(もっと)も、自分の生を認めていなかった女だ。

 ……数奇なもんだ。逆にコレしかねぇ、って組み合わせに思えてくる」

 

 テスカトリポカは、チラリと右側に視線を向ける。

 

「そう言う意味じゃあ、お前さん達も大概だがな」

 

 テスカトリポカの右隣にいたサーヴァント、シグルドは、急に話を振られてちょっとだけ驚いていた。

 

 神は笑う。

 

「そうだろう、スルト。

 ———剪定事象の“黒き者”。現在北欧に発生している異聞帯にいたお前さんを見つけたのが、よりにもよってオフェリア・ファムルソローネだった。

 でもって、お前さんがシグルドの召喚に割り込んだせいで『異聞帯が汎人類史の上に存在する事態が確定してまった』と嘆く終末の巨人。

 ……よくもまぁ、これだけのモノが(そろ)ったもんだ。トラソルテオトルの関与すら疑いたくなる」

 

 あのヤロウ、そろそろ召喚されて来るんじゃないか? と結ぶテスカトリポカ。

 シグルドは、少しズレた眼鏡を直した。

 

「当方も、運命のイタズラという解釈には同意する。

 偶然と奇跡の連鎖。しかしそれこそが必然であったのだとすら思える程の巡り合わせによって、我らのマスター達は、世界を救った事実がある」

 

 

 ……やいのやいの。他人の事情について盛り上がる男性サーヴァントたちの会話を一歩離れて聞いていたアナスタシアに、カイニスが半歩、体を寄せた。

 

「どいつもこいつも、感情の在処(ありか)を論理的に語りやがって。

 あのキリシュタリアですら、もうちょっと感情に寄ってるってのに……」

 

 眉間にシワを寄せるカイニス。

 アナスタシアは、少し笑った。

 

「そうね。お互い、癖の強いマスターを持つと苦労するわね」

「あ? 今の流れでどうしたら、そういう結論になるんだよ」

「それはもう貴女(あなた)、マスターの言葉選びが移っている(あた)りとか。表情と口調からもたくさん(あふ)———」

 

 “パンパンッ”と、ダ・ヴィンチが手を叩く音で会話が途切れた。

 サーヴァントたちが振り向く。それを確認したダ・ヴィンチは人差し指を一振りして、半透明のウィンドウを空中に呼び出した。

 

「よろしい。みんな揃ったようだね。

 ———ではこれから、ブリーフィングを始めよう」

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 ———10年前。

 2008年、元日。妖精國、玉座の後ろ———円卓の間。

 

 この国(妖精國)の王妃であるモルガンは、“円卓にあって唯一背もたれのついた椅子”の左隣に腰掛けて、魔力を込めて通信を始めた。

 

「ではこれより、我が夫歓迎セレモニーの打ち合わせを開催します」

 

 “玉座の奥”。円卓の席の一つに座ったモルガンは、他の席に座った立体映像を確認してから、その始まりを告げるのだった。

 

「知っての通り、我が夫の起床まで後10年となりました。『あの人には最高の目覚めを』をスローガンに、我々“異聞連合”の存在を、その心に刻み込まなければなりません」

 

 モルガンが周りを見渡す。円卓に座る異聞連合の他の6人は、その目をまっすぐに見返した。

 

(わか)っているとは思いますが、地球白紙化後———つまり10年後に目覚める我が夫は何も知りません。『一晩の眠りにつき、目覚めたら世界が一変していた』という認識になる(はず)です。

 ———ですのでこのタイミング。第一印象で全てを決するべく、段取りを決めてしまいましょう」

 

 モルガンは、円卓を取り囲む立体映像を順に眺める。

 真っ先に声をあげたのは、秦の始皇帝だった。

 

「……全く、生まれもって長命のモノたちはこうであるから困る。

 マスター……つまり異聞連合の王が目覚めてからの段取りは10年前に取り決めた。アレからの変更点がないのであれば、5秒で終わる打ち合わせだろうに。

 それよりも———」

 

 今度は始皇帝が円卓を見渡し、その瞳をモルガンにとめた。

 

「宝具の管理はどうなっている」

 

 その一言で注目されることになったモルガンは「ふむ」とだけ相槌(あいづち)をうち、始皇帝を見返した。

 

「『どうなっている』とは?」

「どうも何も、そのままの意味だろうに。“()の宝具”は、この長い異聞帯の歴史の中でたった一度だけ発動した。

 発動した場所はオリュンポス。そして効果が認められたのが———妖精國」

 

 無言で続きを(うなが)すモルガンに、始皇帝は結論を叩きつけたのだった。

 

「お前が持っているのだろう? 

 ———()の伝説を」

 

 モルガンは左の(てのひら)を上に向け、少しばかり掲げてみせる。

 その(てのひら)から上に向かって青白い炎が昇ったかと思った瞬間、そこに“宝具”が出現した。

 水晶のような結晶体に封印されていると(おぼ)しきソレは、彼女の(てのひら)と同じくらいの大きさだった。

 

「……なるほど、ソレが宝具か」

 

 見たことがなかった始皇帝の言葉がもれる。

 スカディもまた、モルガンの(てのひら)の上を見た。

 

「私としても初めて見る。これほどまでに丁寧にその概念を扱ったモノは見た事がない。

 その宝具を作った者は、相当に稀有(けう)な能力と経験とを持っていたのだな」

 

 スカディは、宝具を作った者に心をはせた。

 

 左手を掲げて宝具を見せていたモルガンは、それを自分の目の高さまで下げてじっくり眺める。

 

「これは見てわかる通り、たった一度のみ使える宝具。

 つまり本来であれば、もう二度と使えない(はず)のもの」

 

 モルガンの瞳が、水晶の中のモノを(とら)えた。

 この宝具はすでに一度、その発動が確認されている。にも関わらず、その掌の上にあるものは———

 

「ですが私が封印しているこの宝具は未使用のもの。未だ発動された事のない、正真正銘まっさらの宝具だ」

「……それが。お前の自信の(みなもと)か」

 

 (しわが)れた、ゼウスの声。

 その主神は宝具を一瞥(いちべつ)したあと、懐かしむように(ちゅう)を見上げた。

 

「……モルガン。お前は一度過去へと戻り、異聞帯をやり直したのだったな。であれば、ソレこそが本物か。

 なるほど、ソレが未使用のまま残っているのも納得というモノ。

 そしてお前の切り札がソレであるのなら———」

 

 ゼウスは異聞連合を見渡して、その続きを口にする。

 その声色は、よく知る者たちでないと気づかないくらいほんの(わず)かに、喜びの色が混じっていた。

 

「カルデアとの戦い。その最終決戦の序盤における我らとカルデアとの『格付け』において、我らの———敗北の目は無くなった」

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 ———10年後。

 白紙化された地球において虚数空間を潜航している、戦艦のようなフネがあった。

 そのフネは海上をすすむバトルシップの形状でありながら、潜水艦のように虚数空間を潜航している。

 

 カルデアの技術部門によって秘密裏に建造されていた巨大戦艦。

 虚数戦闘大艦イマジナリ・ボーダーは現在、現実空間に浮上する準備に取り掛かっているのだった。

 

 イマジナリ・ボーダーのブリッジ、フネの運航を管理するスタッフとレイシフトを管理するスタッフとが周囲に階段状に配置されたその空間の中心にて、技術部門のトップ、特別顧問のレオナルド・ダ・ヴィンチがカルデアのマスターたちに囲まれながら、今度(こたび)の作戦におけるブリーフィングの開始を、宣言した。

 

「よろしい。みんな揃ったようだね。

 ———ではこれから、ブリーフィングを始めよう」

 

 ダ・ヴィンチは空中に呼び出した半透明のウィンドウを確認しながら、その続きを話しはじめた。

 

「じゃあまずは、現状確認からいってみようか。頼んだよ———所長」

 

 ダ・ヴィンチの後ろから、一人の少女が前に出てくる。

 

 ———その少女は、銀髪だった。

 

 オレンジと黒のジャケットに赤いスカーフ・短いスカート・スパッツに身を包み、腰に手を当て、胸を張っているその少女は、大げさな手振りで空中に浮かぶウィンドウに指をはしらせ、内容を確認する。

 

 そして、Aチームと対面した。

 

 一瞬、会議独特のピリッとした緊張が駆け巡り、彼女はその口を開いた。

 

未曾有(みぞう)の地球白紙化事件から、現実時間換算で4ヶ月が経過しました。

 異聞帯ブリテンでの宣戦布告と、屈辱的な撤退からは約1ヶ月。

 我々は、汎人類史としての威厳を取り戻さなければなりません」

 

 彼女の名は———オルガマリー・アニムスフィア。

 

「シミュレーションは飽きるほどにやったでしょう。ですから、ヤボな事は言いません」

 

 一度死に、失った肉体をカルデア職員たちの尽力により取り戻した、()()()()()()()()である。

 

「私たちのオーダーはただ一つ、勝つ事よ!」

 

 

 ———こうして、戦争は始まった。

 フィニス・カルデアを襲ったコヤンスカヤの眷属たちから因果をたどったブリテンの次に、強力に繋がった因果を持つ北欧の異聞帯へ上陸した。

 

 何もない雪原に、巨大な船が出現する。

 雪の海をかき分けながらしばらく前進した後、停止。

 アンカーを固定しながら、管制室の職員たちは状況を声で共有しあう。

 

「アンカー、雪原に固定……完了です!」

 

「イマジナリ・ボーダーの隠蔽を開始します」

 

「異聞深度、測定誤差の計測を開始しました」

 

「索敵結果でました! 周囲に敵性生物、確認できません!」

 

「周囲の大気情報の解析、結果でました! 

 魔力密度・大気成分共に許容範囲内。外気温さえ礼装で補正すれば、鼻口部(びこうぶ)を露出したまま活動できます!」

 

「異聞深度、B+と測定! 

 以前計測されたブリテンのような規格外の数値ではありませんが、汎人類史とのズレはかなり大きいと予想されます。

 よって、非常事態に備えてシバによるモニターを開始。その存在を実証し続けます!」

 

「ボーダーの隠蔽、完了しました! 

 現在、レベル3の強度で展開されています」

 

 職員たちの声を固唾(かたず)()んで見守っていた一行は、隠蔽・保護用のシステムが十全に稼働したのを聞いてからひと息ついた。

 

 レオナルド・ダ・ウィンチは息を吐いて身体の緊張を緩和してから、現状を声に出して整理した。

 

一先(ひとま)ず、上陸直後に奇襲されるような事態にはならなかったようだね。第一関門は突破したといえるだろう。———ロマニ」

 

 彼女の要請を受けたロマニ・アーキマンもまた発言し、その意見をすり合わせる。

 

「異聞深度の区分けは以前話した通りだ。ボクたちが踏み込んだ異聞帯が、汎人類史からどれくらい離れた並行世界なのかを測定する指標。

 ———“もはや全くの異世界だと言っても構わないくらいに汎人類史から乖離していた異聞帯”、あのブリテンを極限(EX)()えて、そこから僕たちの汎人類史までの世界間距離を7等分しているんだ」

 

 ブリテンの異聞帯がEX、汎人類史がG。

 

「ボクたちが今いる異聞帯の深度はB+。つまり、かなり昔の段階で汎人類史とは別のルートを歩き出した並行世界と言える。

 ここの歴史に、ボクたちの知る英霊たちがどれくらい記録されているのか……なんとも言えないところだね」

 

 少なくとも紀元元年からこっちの英霊は、まず居ないと思った方がいい。とロマニ・アーキマンは締めくくった。

 

「そうか! 知名度補正かっ!」

 

 ロマニの最後の言葉を受けて、カドックが反応した。

 

「ブリテン異聞帯に乗り込んだ時、英霊たちの出力が(のき)なみ低下していたのはそういう(わけ)か! 

 あそこの歴史にアナスタシアは存在していなかった。だから、あそこの異聞帯にとってアナスタシアという英霊は、まさしく異物だったのか」

 

 カドックは、現実に浮上する(さい)の揺れに耐えるために設置された、管制室中央の手すりから右手を放し、(あご)にそえた。

 

「だったら、僕たちの魔術がちゃんと発動していたのは……」

「私たちは、“今を生きる人類”だからね」

 

 考えこむカドックの肩に、キリシュタリアが手を置いた。

 

「未来を切り開くのは、いつだってその時代に生きている人間なんだよ。カドック」

「……そうか。そうだったなキリシュタリア。悪い、忘れるところだった」

「構わないさ。私たちは友人だからね」

 

 スタッフたちの一連のやり取りに始まり、キリシュタリアとカドックの問答にいたるまで完全に置いていかれたオルガマリーはちょっと大袈裟に咳払いして、皆の注目を取り返した。

 

「いいですか皆さん。敵勢力、異聞連合とやらには1か月の時間がありました。それだけの時間を、私たちは与えてしまったのです。

『連合』というからには、私たちが観測している7つの異聞帯は個々別々の勢力ではなく、一つにまとまった合衆国のようなものと考えなさい」

 

 オルガマリーは、ひと息入れた。

 

「それぞれの異聞帯が別々の王を(いただ)いているのか、それとも大統領が存在するのかは分かりませんが、気をつけなさい。

 ———自分たちより強力な、団結する勢力を倒す方法は古今東西ただ一つ。分断することです。

 ですがその前に倒れてしまっては、汎人類史を積み上げてきた先輩方に言い訳がたちません」

 

 オルガマリーはAチームを見渡す。

 Aチームは、オルガマリーの話に聞き入っていた。

 サーヴァントたちもまた、彼女の話を聞いていた。

 

「だから必ず、全員が生きて……またここに帰って来るように。良いですね!」

 

 その返答はてんでバラバラに。

 しかし皆、同じ意味を発声していた。

 

 

 そうして、戦艦型のイマジナリ・ボーダーの船底部分のハッチが(ひら)く。

 ハッチの位置から、雪原までの高さは訳3メートル。

 

 マスターとサーヴァント、計14人が雪の上に降り立った。

 彼らは手慣れた感じにお互いをフォローしながら陣形を組み、まず、先頭のマシュから順に結界の外に歩み出していった。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

「———レオナルド、どうだい?」

 

 ロマニ・アーキマンはマスターたちの何度目かの見送りを終えて、彼らの持ち帰った資料を精査しているダ・ヴィンチのデスクに歩みより、その背後から声をかけた。

 

「順調極まりないとも、ロマニ」

 

 作業の手を止めたダ・ヴィンチは、右肘(みぎひじ)をデスクに置いたまま左肘(ひだりひじ)を背もたれに乗せて振り返り、左目の(はし)でロマニを見上げた。

 

「あの子たちは?」

「……ああ。実際に会っても、通信と変わらず元気だったよ。第23集落から遠出して手に入れた物もさっき解析班に渡してきたから、キミにもすぐに回ってくると思うよ」

 

 (すで)にAチームの面々は、何度かボーダーに帰還している。

 その上で異聞帯を調査すべく、シャドウ・ボーダーを与えられて情報収集に(いそ)しんでいた。

 

 彼らは元気だと答えたロマニの言葉に、()()けたダ・ヴィンチに「どうしたんだい」とロマニが問う。少ししてから、彼女はゆっくりと語りだした。

 

「『どんな手を使っても敵を倒さなければならない』という状況は終局特異点と同じだけれど、あの特異点は短期決戦だっただろう? 

 だが、現在の状況はもっと長期的だ。

 なんとしてでも、7つの異聞帯は消滅させる必要がある。けれどそこに住む人々は必死に今を生きている。———たとえ彼らの歴史が、人類史そのものから見放されているとしても、ね」

 

 彼女の言葉を聞いて、ロマニはその先を理解した。

 カルデアのマスターたち7人は、どうあれ7つの異聞帯を歴史ごと殺さなければならない。

 その時、彼らの心はどうなるだろうか。

 

 無辜(むこ)の人々を殺す役割を押し付けられた彼らの心をこそ、ダ・ヴィンチは(おもんばか)っているのだと。

 

 ダ・ヴィンチは今度こそ、ロマニ・アーキマンを正面から見上げて言った。

 

「私はね……どうしても願ってしまうんだ、ロマニ。この事件の犯人が、どうしようもない心根の持ち主でありますように、と」

「いいんじゃないかな」

 

 ダ・ヴィンチの、ある種懇願(こんがん)にも似た告白を、けれどロマニは、(まばた)き一つで受け止めた。

 

「いいんじゃないかな、レオナルド。

 キミのそれは残酷な思想なんかじゃない、優しさの発露なんだから。

 それに、———ボクが一人で悩んでいた時、見抜いて踏み込んでくれたのはキミじゃないか。

『一人で悩む必要はないさ。我々は人類なのだからね。

 人間という生き物は、問題を共有するという特徴によって霊長の座に(すわ)った種族だぜ』

 ———あの時の言葉を、キミに返そう」

 

 

 ———悩みがあるなら、それを話したいと思った者に話せば良い。恐怖によって話せないのは人間という生き物の(さが)だけれど。

 でもね、恐怖のままに話してごらん。

 ロマニ、君の人生は何一つ無駄ではなかったのだと、私が証明してみせようじゃないか———

 

 

 レオナルド・ダ・ヴィンチが立ち上がる。

 ロマニ・アーキマンの肩を叩いて通りすぎ、彼の後ろから声をかけた。

 

「解析班に会いにいくよ、ロマニ。

 道ながら話そう。異聞連合に、致命的な亀裂を入れられるかもしれない策を———見つけたのさ」

 

 資料解析室までの道のり。ロマニに顔を見られないように歩くダ・ヴィンチに根負けして。彼は彼女の、少し前を歩くのだった。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

「ここからが本格的な戦争になります。各々(おのおの)、気を張りつめるように」

 

 オルガマリーは声を張り上げて、カルデアの職員たちを見渡した。

 イマジナリ・ボーダーは(すで)に、虚数空間に潜航している。

 

 その、艦橋(ブリッジ)

 

 管制室としても利用しているこの空間にて、カルデアの主要職員が勢揃いしていた。

 

 自分の周りに浮かぶ半透明のウィンドウの一つを巨大化させてみんなに見えるように表示する。

 オルガマリーの頭上で光るウィンドウに表示されているのは、雪山の中の洞窟で見つけた、太古の壁画だった。

 

「この壁画に描かれているのは、(へりくだ)る人々とそのリーダー。そして、向かい合うように立つ何者か。

 Aチームの尽力によってここの異聞帯、つまり北欧異聞帯の人々から聞き出してもらった『(ほか)の異聞帯の伝説』とも照らし合わせることで、我らカルデアは一つの仮説にたどり着いたのです。

 ———異聞帯には“王”がいたのだ、と」

 

 オルガマリーは続けて言った。「それは、北欧の異聞帯に限った話ではありません」と。

 

「おそらくは、7つ全ての異聞帯全てに“王”はいたのでしょう。

 それは我々に宣戦布告をした7人。

 北欧異聞帯を統括しているスカサハ=スカディの情報から考えるに、『今を生きている存在として、各異聞帯には王がいた』と、推測されます。

 ……ですが」

 

 オルガマリーが左隣を見やる。

 視線を受けたダ・ヴィンチが前に出る。そして、後を()いで説明を続けた。

 

「イマジナリ・ボーダーが北欧異聞帯に上陸する少し前に、北欧異聞帯の王から通達があったことが判明したんだ。

 直接彼らの生活に関わることではなかったから、そういう事態があったことを知るまでにかなりの時間がかかってしまったけれど———」

 

『ピッ』という電子音と共に頭上の画像が切り替わる。

 次に映し出されたのは、巻物のように丸めた羊皮紙だった。

 

「読める人は読んで欲しいのだけれど、念の為に私の方でも翻訳しようか」というダ・ヴィンチの声をマイクが拾った(のち)、彼女はその文章を読み上げる。

 

「『①この度、我が異聞帯を“ゲッテルデメルング”と呼称することと決定した。

 ②それにともなって我ら7つの異聞帯は“連合王国”を結成し、新たな国王を(いただ)くことを全ての国民に命ずる。

 ③国王は異聞帯全てのマスターとなり、“令呪”を持つ国民全てから魔力を税として徴収する』」

 

 ①から③まで、ダ・ヴィンチが読み上げた内容は、異聞帯という領域の君主変更を意味していた。

 彼女の背後上空に、新たなウィンドウが出現する。

 

『君主制(王政)×7 ➡︎ 連合王国 ×1』

 

「……いいかい? みんな、この意味が分かるかい?」

 

 ダ・ヴィンチは職員たちを見渡して、そのザワメキを確認してから「我々はもう既に、本格的な戦争状態にあるという事さ」と発言した。

 

「歴史学的に戦争状態とは『敵対する大規模な集団が、()()()()()()()()()()()()しようとする行為』と(とら)える。

 そして当然、我々カルデアは異聞帯を歴史ごと消滅させようとしている(わけ)だ。

 

 さらに、———この情勢下で異聞帯(てきたい)勢力が一つにまとまったという事は、……()()()()()

 

 今この瞬間に襲撃されても、何もおかしくはないんだぜ?」

 

 ドンっと、息が詰まるような重苦しい空気が管制室にのしかかる。

 ダ・ヴィンチはみんなを見て、危機が迫っている事に気づいていた職員がそれなりにいる事に安堵した。

 ……とはいえ、危機感の共有は絶対に必要だ。

 危機感さえ共有できていたら、まとまって戦う事ができる。逆に危機感を共有できていない者同士では、背中を預け合う事すらできなくなる。

 (さいわ)い、カルデアの職員たちは他人の意見を頭ごなしに否定する事はしない。人理焼却を阻止するために力を合わせたカルデアの職員たちは、他人の意見を否定することが自分たちの死に直結することを、身をもって体験している。

 

 そして今、オルガマリーとダ・ヴィンチによって危機感の共有がなされた事で、カルデアという組織は再び、軍隊として機能する集団となった。

 

「———みんな、覚悟はできたわね」

 

 オルガマリーが、ダ・ヴィンチから引き継いだ。

 

「私たちの汎人類史は、未曾有(みぞう)の侵略を受けています。侵略者の領域を、私たちは“異聞帯”と呼称することを決定しました。

 ———並行世界論に見捨てられ、敗北した歴史。

 剪定された世界はこの宇宙から消去されます。『バッドエンドだった』と記録されることすらありません。それが、人理の出した結論です」

 

 ———濾過(ろか)人理(じんり)補正(ほせい)現象(げんしょう)

 

 オルガマリーは、ハッキリと言い切った。

 

「失敗したのですから、本来であれば(いさぎよ)く消滅しなくてはならない(はず)の並行世界は、しかし人理に反旗(はんき)(ひるがえ)しました。

『まだ失敗していないお前の世界をオレたちに寄越(よこ)せ』と。

 それが、七つの異聞帯なのです」

 

 一歩、二歩。オルガマリーは前に出る。

 

「このままでは、私たちの歴史は乗っ取られ、無かったことにされてしまう。私たち汎人類史の先祖たちが何千年もかけて築いたモノが、ゼロになる。

 それは———到底許容できるものではありません」

 

 “人理保証”をグランドオーダーとするアニムスフィア家としても、カルデアの一員としてのオルガマリーとしても。

 

「だからこそ、私たちが戦いましょう! 

 父や母。私たち自身の体に(めぐ)る血を、何百万年もかけてリレーしてくれた、名も知らぬ沢山(たくさん)の先祖の方々。

 明快な答えも記されていない航海図を(たよ)りに、ここまで人理を発展させてくれた、汎人類史の英霊たち。

 そんな無数の、数限りない輝きを次に(つな)いで行くためにこそ、カルデアという組織は発足(ほっそく)したのですから」

 

 オルガマリーは、自分を見つめるたくさんの目を見返した。

 

 ———最初は、侮蔑(ぶべつ)と失望の目線が怖かった。

 あんなに優しく、純粋なマシュの言葉でさえ、私を憎んでるものと拒絶した。

 近未来観測レンズ・シバでは観測できない、特異点を発見してからはもっと大変だった。

 魔術協会の君主(ロード)の連中はここぞとばかりにアニムスフィアの利権を切り崩しにくるし、国連の各国は騒ぎ立てるし、常任理事国にいたっては拒否権をチラつかせてくる始末。

 

 ストレスと自己否定とで、私の精神はボロボロだった。

 

 ……でも、あの“最悪の日”。

 レフの管制室爆破事件から始まった ビーストⅠ・人王ゲーティアの人理焼却事件を()て、オルガマリー・アニムスフィアの世界は一変(いっぺん)した。

 

 苦しくて、辛くて、一歩間違えれば死んでしまいそうな日々だったけれど———そこには確かに、カルデアの人々との(ぬく)もりがあったのだ———

 

 オルガマリーは管制室の、階段状の職員席のその向こう、一番奥にレフ・ライノールの姿を見つけた。

 奥の壁のちょうど真ん中、両開きのスライドドアの横に、腕を組んで(たたず)んでいる。

 オルガマリーの視線に気づいたレフは、(まぶ)しそうにフッと笑った。

 

 オルガマリーは職員たちの、自分を見つめるたくさんの目を見返した。

 

「守りましょう! 家族との大切な記憶を。

 守りましょう! 仲間と守った“今”という未来を。

 守りましょう! 私たちは確かに生きているのだという証明を。

 守りましょう! 私たちが生まれてくるまで、たくさんのモノを積み上げてくれた世界の歴史を!!」

 

 

 オルガマリー・アニムスフィアという、孤独で臆病だったひとりの少女は———

 2年間の旅路を終えて、立派に所長をやっていた。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

「あの時はすみません、ドクター。何故か、敵性存在の記録映像を観ながら泣いてしまって」

「いいんだ、マシュ。

 レオニダスやドレイクも……なんだったらあのゲーティアだって言っていたように、君は“戦う者”じゃない。

 “心を震わせて敵を倒す者”ではなく、“そういう人たちの心の震えを取り除いてあげられる者”だ。

 ———君は泣いたっていいんだ、マシュ。

 この極限下においてなお泣けるという君の心の純真さに、ボクたちはみんな、助けられているんだから」

 

『カシュ』という排気音。ロマニとマシュは、同時にドアの方を振り返る。

 入り口のドアの開く音。その向こうからダ・ヴィンチが姿を見せた。

 

「ロマニ、マシュ。所長の演説が終わったよ。

 これから具体的な作戦概要を説明する。行こうか」

「どうやら、時間みたいだね。行っておいで、マシュ。僕も資料を持って追いかけよう。

 汎人類史の———反撃作戦だ」

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 作戦会議・行動指針など、具体的なことを説明する際に矢面に立つのはいつも、キリシュタリアだと相場が決まっていた。

 

「———ではこれより、作戦の概要を説明しよう」

 

 管制室。階段状に並んだ職員席のちょうど正面、さっきまでオルガマリーが演説していた壇上に、キリシュタリアが登壇した。

 

「先程のダ・ヴィンチ女史からの報告にもあった通り、7つの異聞帯は“異聞連合”として一つにまとまった。

 だがそれは、つい最近の出来事だ」

 

 キリシュタリアがステージ台脇のダ・ヴィンチに合図を送る。

 ダ・ヴィンチは機具を操作して、キリシュタリアの背後に図の投影を行った。

 

「私たちAチームは7つの異聞帯を、安全を第一に少しずつ、それなりの期間をかけて調査した。その結果、『各異聞帯はにそれぞれ固有の歴史がある』ことが判明している。

 それら異聞帯の歴史からみて、この連合結成はとても最近の出来事だ。

 連合国王を名乗る異聞帯のマスターは、民衆からの魔力徴収を始めた。

 こういった生活に直結するマイナスの変化は、民衆の不満を必ずため込む。

 さらに、今までの異聞帯の王を蹴落として、自らが王の座に()くなどという行為は不和と不信の温床(おんしょう)になる」

 

 ———そこに、彼らの(すき)がある。

 

「作戦名『王さまをやっつけろ』

 異聞帯の民と交流し、我々の目的と立場を明かした上で、異聞帯のマスターと戦ってくれる人たちをかき集める。———と同時に、申し訳ないがネガティブキャンペーンを張らせてもらおう。

 

 空想樹はカルデアスの機能とはいえ、凍結・封印されていた(はず)だ。

 ならばこの機能を解凍し空想樹を植えたのは、まず間違いなく異聞帯のマスターだからね。『わるい王さま』として周知しよう。

 

 そうやって各地で仲間を集め、マスターとの一騎打ちに持ち込もうじゃないか」

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 藤丸立香は円卓の間で、連日会議と調整に大忙しだった。

 なぜなら、異聞帯はそもそも詰んでいるからだ。

 

 異聞帯は、本来なら抹消されている(はず)の剪定事象に属する並行世界が、カルデアスというバグによって生きながらえているだけであり、大本であるカルデアスか、アンテナである空想樹を破壊されるとそれだけで消滅してしまうものであるからだ。

 

『キーン』という、澄んだ金属を打ちつけたような音をともなって、青白いエフェクトと共に書類が転送されて来た。

 コヤンスカヤの単独顕現を利用して、魔術礼装を身につけた立香との(あいだ)でのみローコストでの相互転送を可能にする、NFFの試作サービスだ。

 

 書類を読んだ藤丸立香が、深呼吸して円卓を見渡す。

 隣にいる1人と立体映像が6つ、見返した。

 

「コヤンスカヤから連絡があった。カルデア陣営が本格的に仲間を集めだしたらしい。

 つまり、分断工作が始まった」

 

 立香はスカディとゼウスを見る。

 

「一時移住政策と段取り、間に合った?」

「「間に合わせたとも」」

 

 男女の声が綺麗にハモった。

 2人の神は目配せし、ゼウスが代表して返答をする。

 

「マスターから大聖杯の提供があり、モルガンとスカディの組み上げた術式がある。———これで仕損じるようであれば、我は主神を名乗れまい」

「良かった。第一ステップは完了だね。

 じゃあ次は第二ステップ。『全異聞帯の特異点化』

 7つの異聞帯はただのシミュレーションではなくて、一個の歴史として確かに存在しているんだという事を、汎人類史の人理に———証明してもらおう」

 

 藤丸立香は立ち上がる。

 一拍おいて、異聞帯の王たちも立ち上がる。

 

「みんなは時間稼ぎをしながら、最終決戦の準備をお願い。

 オレは空想樹を伐採されないように、カルデアのみんなをブリテンに引き込んで一騎打ちに持ち込むから」

 

 秦の始皇帝が(わざ)とらしく大袈裟に笑った。

 

「マスターの最初の構想か。よくもまぁ、あのブリテン狂いの王妃が許したものよ」

「戦闘が望みならばそう言うがよい。カルデアより先に、貴様を消し飛ばしてやろう」

「ハッ、ごめん(こうむ)る。

 朕には中華を存続させるという責務がある。はっちゃけている(あいだ)に空想樹を切られたとあっては(たま)らんからなぁ」

 

 イラッとしたモルガンが画面越しに呪いを転移させようとして、やっぱり思いとどまった。立香に腕を引かれたからだ。

 

「じゃあ行こうか。7つの人理を、全部守る戦いだ」

 

 

 

 

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