第2部ラスボス『逆行した藤丸立香』 作:プレイヤー名:⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎
いつも誤字報告、感想、ここすき、など。色々とありがとうございます。
とても嬉しく読ませてもらっています。
※この二次小説は『カルデア全員生存イフ』として考えていました。
ですが終局特異点を読み返していたところ、『レフの爆弾で200人死んでいたこと』をダ・ヴィンチちゃんがアナウンスしていまして……。
この小説の第二話の『200に満たない最後の生存者』というセリフと矛盾することが判明しました。
———よって該当箇所を『200→300』に変更します。
周囲の景色が、
ふかふかと沈み込み、不安定で真っ白な足元を踏みしめて、藤丸立香はゆっくりと立ち上がった。
ブリテンの風を
そうしていると、後方から声がかかった。
「———藤丸立香くん」
声のした方、左後方を振り返ると、モフモフの地面の上に青年が立っていた。立香は彼を認めると、感謝の言葉を返したのだった。
「さっきはありがとうアーサー王。かなりピンチだったから、本当に助かった」
「礼には及ばないさ。僕は聖剣で
アーサーが隣に立つ一組の夫婦に目を向けて、そして藤丸に視線を戻した。
「それに、私は本来ビーストを狩る者。Dr.ロマンと面識がある事もあってカルデアに身を寄せる
そこまで言ったアーサー王は優雅に肩をすくめて、とある花の魔術師の声真似をする。
「『いくらハッピーエンドだとしても……だ。その過程がつまらない。アーサー、ちょっと行ってビーストに味方しておいで』と、言うわけだ」
「そう、レディ・アヴァロンが……」
「君にはビーストが付いているから最初は
アーサーが、ケルヌンノスの頭のてっぺんから周囲をぐるっと見渡した。
「色々あったけれど、この国は好きだよ」
「たくさんのモノを見てきた
「確かに、
———救われてほしいと、僕も思う」
「それについても、感謝を。
「それについては、本当に」と騎士王は爽やかな笑顔を向ける。「僕自身が、この世界には救われてほしいと思うんだ。たとえ———妖精國の滅びが確実なものであったとしてもね。それでも……」
アーサーが後ろを振り返り、遠くを見た。藤丸は彼がキャメロット城を見ているのだとアタリをつけた。
アーサーは言う。
「ここのモルガンは、6000年の孤独の末に絶望を与えられていい存在ではないと、強く思うよ。彼女の孤独は
「
彼女はトコトコと前に歩き、先頭で振り返り、藤丸とアーサーという2人の王に微笑みかけた。
「モルガンが知りたがったという理由もあるのだけど……、結果として藤丸さんの死が確定してしまって以来。ずっと塞ぎ込んでいた彼女は
「ぁあ……ふふっ。あれは
彼は懐かしむように、ゆっくりと
「———“王の
妖精國を
トネリコが話を
「あの日、全ての異聞帯の民と藤丸さんが、共同で作ったチョコを送ったという事をもって、モルガンは正式に異聞帯全ての王妃になったのです。それ以来、7つの異聞帯では新郎が新婦にチョコを送ることをもって
———そしてなにも救われたのは、モルガンだけではありません」
トネリコは、自らが持つ杖をトンッとついてモフモフの地面に魔法陣を描き出す。
「———ほら、出てきなさい」
「ちょっとッ! さすがにそれは強引ではありません?」
魔法陣の描かれた場所、モフモフの中から引きずり出された女性は声を
「引っ張り出す女性に化粧の時間も与えないとか、救世主の名が
「
トネリコの反論に「ぐぅッ!」と、ちょっと
大胆に胸をはだけた白の和装。真っ赤な帯を巻き、その上からしめ縄のようにツイストされた真っ赤な
藤丸の、声のトーンが少し上がった。
「闇のコヤンスカヤっ」
「ええ、お久しぶりでございますマスター。しばらく見ないうちに
「あれから6000年は
コヤンスカヤは……ケルヌンノスの巫女になってたんだ」
「ええ。
「……コヤンスカヤ、お礼」
トネリコの声が横から刺さる。
闇のコヤンスカヤはジトっとした目を彼女に向けた。声のトーンも
「実に6000年ぶり。感動の再会だというのに、コレでは風情も台無しですわね……。———まあ、いいでしょう」
コホンっと
「“チョコレートの奇跡”、実に見事でございました。心の持ちようが危機的状況下でいかに勝利に役立つか、ということを見事に物語っておりましたわ。それによってモルガン陛下は士気を取り戻し、結果としてケルヌンノスに“
結末は———ご覧の通り。
闇のコヤンスカヤはモフモフの足元に視線を向ける。それから見事なお辞儀を披露した。
「ケルヌンノスの巫女として、マスターには多大なる感謝を」
そして大きく深呼吸して、目を細めて立香を見た。
「しかし……。本当にこれで良かったのですか?
このままカルデアに攻撃して良いのですね?」
「お願い、コヤンスカヤ。これで勝てるかどうかはともかく、追い詰めるところまではいかないと」
「…………、
コヤンスカヤは振り向きざまに左手を
「
———そうして、彼女の手は振り下ろされた。
ケルヌンノスの口から放たれる呪力のこもった魔力収束砲。それはイマジナリ・ボーダーの結界に突き刺さり、突き抜ける。
破壊音や衝撃は、結界に遮られてコヤンスカヤたちの
トネリコは、コヤンスカヤとケルヌンノスがビームを撃ちまくる様子を
彼女は立香の隣まで来て、爆音に負けないように声を張り上げた。
「藤丸立香さん。事前に説明していた通り、“左手の令呪”の使用タイミングは完全に
彼女の言葉に、立香は自分の左手の甲を見る。そこには水色に輝く3画の令呪があった。
「その令呪にはサーヴァントへの命令権はありません。サーヴァントの行動をブーストする効果もありません。
その令呪でできるのは『私にタイミングを伝えること』だけ。それも、“
トネリコは過去を振り返る。自分がまだ妖精歴にいた頃の話。
トネリコたちは計3回、未来から転送されて来た攻撃を
……もちろん、やり直し前の世界でモルガンがやっていたように矛盾を
だから今回は、妖精歴に飛ばす攻撃を3回までと決めていた。そしてこういった『回数制限のある切り札をどのタイミングで切るのか』という判断において、彼の右に出る者はいないだろうと意見が一致した結果、トネリコにそのタイミングを知らせるために、藤丸立香の左手には特殊令呪が3画、刻まれていた。
「藤丸立香さん、『何を過去に飛ばすのか』という判断を我々は
私たちは自分の意思で、それを
「ありがとう」と立香はトネリコの方を見て、それから前方の森に隠れていた巨大戦艦に視線を戻した。
「トネリコの方こそ気をつけて。君はモルガンとは違ってサーヴァントじゃない。キチンとこの異聞帯を生きている妖精なんだ。君が死んだら、元も子もないよ」
「
そしてトネリコは走り出す。ぐんぐんとスピードを上げ、コヤンスカヤより前に出て、ケルヌンノスの頭から飛び降りる。杖を槍に持ち替えて、自らの夫に声をかけた。
「行きますよウーサー! 聖剣を持って私に続けーーっ!」
「僕がついて来てなかったらどうしてたんだい?」
すぐ後ろから懐かしい声が返ってきた。この決戦に向けて2000年ほど眠りについていた自分の夫、ウーサー。限られた寿命をいつ使い切るのかという命題において2017年を選んでくれた、我が生涯の
彼のお
イマジナリ・ボーダーの
自分の大切な人が自分の事を想ってくれている。ただそれだけがどれ程の力になるのかを、あの日の自分は
敵戦艦へ向けて飛び降りている
右隣にも、同じく黄金の輝きが
———その瞬間、トネリコは魔力によって空中に足場を作り出し、跳躍。ウーサーの前に躍り出て、己が聖槍を起動させた。
「
聖剣の一撃をすり抜けてきた剣の嵐に向かって聖槍を突き出す。黄金の
トネリコの作った空中の足場にウーサーと2人で着地する。
自分たちの
「……なるほど。これがテスカトリポカの、因果律にすら干渉し
「———おいおい、オレの権能を
霊体化を解除して、テスカトリポカが姿を現す。まばらにいるサーヴァントたちの
「何と言うか、だ。オレは確かにお互いの攻撃の時間軸をズラして、それぞれを素通りさせたワケだが……。色んな神話体系、色んな宝具の可能性がある中一発で、ノータイムでオレ1
———お前たち、異常だぞ」
ウーサーがトネリコより前に出る。
「何を言うかと思えば……、人理修復に
「……何?」
「我らの王は、人理修復の旅を
汎人類史の英霊に対する理解度は、君たちのマスターを
ウーサーの呼吸の
テスカトリポカは、そんなトネリコを見て舌打ちし、頭を
当然のように
「……まあ、ミクトランまで行ってたオレがここにいるって事は、だ。
———アッシーくんもいるってコトだぜ」
瞬間、トネリコの頭上からドスの効いた女性の声が
「誰がアッシーくんだ、ボケが」
助けに入ろうとしたウーサーにはエミヤの
—————だが。
カイニスが居た場所は
カイニスを追撃するように地面から長く伸びて来た黒い腕が掴みかかって来たが、カイニスは肉体の一部を炎に変えて羽ばたき、
「
「—————
グランドアーチャー:オリオンが放ったその宝具は、相手が魔性・魔獣の
つまり、この瞬間。ケルヌンノスの呪層の防御全てを貫通してコヤンスカヤが撃ち抜かれる未来が確定した。
藤丸がそこにいなければ。
「—————特殊令呪起動、
この一撃をお願い、トネリコ」
闇のコヤンスカヤの正面の空間が水色の光を放ちながら盾のように波打ち、オリオンの放った
「何だと!」というオリオンの声を聞いてコヤンスカヤはほくそ笑んだ。
……厳密にいうと、防いだのはコヤンスカヤではなくケルヌンノスで、防いだのは妖精歴の時間軸なのだが。
つまり、オリオンの宝具の『あらゆる防御系スキルや宝具を無効化する』効果に対して藤丸は、『
思い出して、コヤンスカヤはちょっと笑った。
一連の攻防を見届けて、コヤンスカヤは戦場を
要するに、敵の
「
———そして、“呪層汚染”が発動する。
ケルヌンノスに、そしてケルヌンノスが巫女と認めた存在“グレイマルキン”に攻撃した者に与えられる、神の呪い。ケルヌンノスが自分自身を呪っているこの呪いは、ケルヌンノスを攻撃することで感染し、攻撃者を殺しにかかる。
オリオンとて英霊、それもグランドなので死ぬ事はないが、感染した呪層を気合いで
さらにオリオンが感染源となって呪いをばら
コヤンスカヤは顔に出さずにため息をついた。……ほんと、
カルデアに召喚された後で当時の戦闘記録を観ても、何でアレで勝てるのかがさっぱり分からないままだった。
スゥッ、と目を細めて敵の状況を観察する。
よって
「
こうなれば向こうとて理解した
コヤンスカヤはため息をついた。やはりこうなりましたか、と。
できれば出て来て欲しくはなかった。けれど、この状況なら出てくるだろう存在。
———我らがマスターの天敵が。
出て来たのは、4人だった。
青年が1人、男が1人、少女が1人、そして女性が1人。彼らの存在を認めたマスターの声が、コヤンスカヤの後ろから聞こえてくる。
「キリシュタリア、レフ・ライノール、アルトリア・キャスター。…………ダ・ヴィンチちゃん」
そして彼らは、元々
———
その間に、暴れていたトネリコ、ウーサー、アーサーがケルヌンノスの頭まで戻って来た。
ケルヌンノスの呪層汚染空間となった船の
「———これはかつて
アルトリア・キャスターが、宝具を高らかに
「
宝具の解放と共に爆発的に広がった心象風景は、元々あった世界を
———“妖精領域”。
力ある妖精が持つとされる、自らの本質によって世界を作り変えてしまう特性。ケルヌンノスの呪層がどれほど
作り変えられ、一面の花畑となったボーダーの
「———やってくれたね」
彼の声は、低く響いた。
藤丸立香が、コヤンスカヤの右隣に並び立つ。
「オレは異聞帯全ての、
「異聞帯とは、“本来なら
「どうだろう。『生きたい』というのは、生き物の根源的な本能だと思う。せっかくチャンスが与えられたなら、それを最大限
「……なるほど」
キリシュタリアの杖が光り、魔法陣が展開される。単発効果12、重複効果も合わせるとさらに8、防御系の魔術式が存在していた。それらが巨大戦艦を
そうしてから、キリシュタリアはゆっくりと後方を振り返る。
「———
「そうねぇ。その子、概念防御を持ってるわよ」
コヤンスカヤは
キリシュタリアの背後から
ペペロンチーノはキリシュタリアの左手に立ち、こちらを見上げて口を開けた。
「彼の運命はこの妖精國と
このブリテンが滅びるまで、彼は死なないわね」
「それは……。どういう
「いいえ、どちらかというと予言に近い
「———ふむ、だが
「ああ、ごめんなさい、言い方が悪かったわ。
『彼は妖精國が滅んだ後に必ず死ぬ』わ。その運命を丸ごと受け入れる事によって、逆説的に『妖精國が滅びるまでは死なない』という概念防御を獲得しているみたいなの」
「———なるほど、それは良い事を聞いた。これまでの戦闘では、常に君は狙われていたからね。こうしてゆっくり観察する時間が取れて良かったよ」
キリシュタリアは
「礼には
「いつかはバレる事だと思っていたよ」と言ったマスターの言葉を、コヤンスカヤは受け
「スカンジナビア・ペペロンチーノ様。
ペペロンチーノは目を糸にしてニッコリ笑う。
「———“
自分の
それが彼の終わりを告げているの。『この異聞帯が終わった後は無理』ってね」
コヤンスカヤは、一歩右にズレてマスターの近くに行った。
「……であれば、やはり最後まで聞いて正解でしたね、マスター。この事実を敵が知っている事を知っている。それもまた一つの武器となりましょう」
立香が返答しようと口を開きかけた時、
「———そう上手く行くかな、
コヤンスカヤは、自分の隣のマスターが一瞬、硬直したのを感じた。
「どういう……意味?」
「そのままの意味だとも、藤丸立香。『異聞帯全ての存続を願う』だと? そんなものは達成不可能だと知った上での
「まさか、心の底から本気だよ」
それを聞いたレフが笑う。最初は
顔を
「本気なら
レフは顔を
「人理焼却事件の裏側に貴様がいた事など……、
そもそも、貴様が異聞帯を望まなければ人王ゲーティアとて動かなかったろう。汎人類史の70億人は今も平穏な日々を過ごしていたのだ。彼らを一度殺し、その平穏を
———人を救うために人を殺しているという矛盾。
これをどう説明するつもりかね」
コヤンスカヤは素早く自分たちの陣営を見た。みんな
「それは汎人類史でも日常的に起こっていた
「そうだな、それは確かだ。……だが汎人類史では必ず大義名分が必要になる。『自分たちは悪くない』『アイツらが悪い』『よってコレは正義のある戦争だ!』」
レフがその両手を広げる。
「しかしどうだッ!? 貴様の戦いにそれがあるか?
異聞帯の
……
大義を
———我ら
パチン! と、指を鳴らした音が鳴り響く。
その瞬間、虚数空間を使って過去から送り届けられたレフ・ライノール自身の魔力が
魔法陣を重ねた
「我らは、レフ・ライノール・フラウロス! カルデアの組織に味方するため、人王ゲーティアに反逆した魔神柱が
貴様を
———天の星々が
レフの
キリシュタリアの杖が輝き、
キリシュタリアの声が、響き渡る。
「この異聞帯を囲む光りの壁は“世界の壁”にも等しい。よってこの衝撃は異聞帯の外には
そしてレフの右腕が上がった。
「死ね、藤丸立香。運命の加護を失ったお前は、
異聞帯の存続を願いながら汎人類史にも生きてほしいと望む。その矛盾さえ
———マシュ・キリエライトはこれからも、カルデアで平穏に
コヤンスカヤの優れた聴覚がレフ・ライノールの
いくら自分たちが“グレイマルキン”のスキルで守られているとは言え、あんなものを叩き込まれてしまってはどうなるか分からない。仮に自分たちだけは無事だったとしても、島の
さらに。と、コヤンスカヤは
レフ・ライノールは未来視持ちの虚数属性。さらにこちらの事情も
———全く、ため息を
追い込めば追い込むほどに新たな
このままだと、我がマスターは死ぬだろう。かつてモルガンが知った彼の終わり、『妖精國より長く生き、その
やり直し前の世界で、自分がマスターに
……異聞帯の王も空想樹も無事である以上、マスターが死んでも計画は続く。マスターの事を思うと、ここで死ぬのは比較的マシな終わり方ではないか、とも思った。
コヤンスカヤは藤丸を見た。彼の表情
彼女のマスターは、隕石を前に立っている。そしてその左手は、右手首を
一瞬の
そのウィンドウの向こうから聞こえる、ダ・ヴィンチに似た女性の声。
「藤丸立香、ユガ・クシェートラからのメッセージです。
『コヤンスカヤは到着した。私は……いつでも出撃可能です』と」
マスターの
右手の甲を正面に
「———令呪をもって、命ずる。
アルジュナと共に来いッ! コヤンスカヤーーーッ!!」
マスターの令呪が赤く輝く。冬木の大聖杯によって与えられた令呪は、その力を発揮する。
頭上の空間が歪み、同時にコヤンスカヤの単独顕現によって、彼女と共にユガ・クシェートラの唯一神が
「滅亡と創世はこれ表裏一体。なれどその隕石は———妖精國に不要なり」
かくて、アルジュナの手は振り下ろされる。
「———
当然、ここはインドではないし、アルジュナの力が100%発揮できる状況でもない。しかし、モルガンから提供されたマスターの記憶の中でダウングレードさせて使っていたように、限定させた空間内で破壊を発生させるというやり方であれば、この異聞帯にもさほど影響は
「何より———この異聞帯にとっても異物であれば、我が
その存在を、
真っ先に我に帰ったレフ・ライノールが指を鳴らす。……だが、何も起きない。
動揺するレフに向かって、神たるアルジュナが言い放つ。
「そこの無駄な魔力も……この
◇ ◇ ◇
———風がたなびく。
硬直した戦場で、レオナルド・ダ・ヴィンチは考えていた。自身の正面に
名を、藤丸立香。カルデアでは⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎として記録しているけれど、彼が本当は48人目のマスター候補だったことまでは調べがついた。
……いや、そこまでしか調べられなかった、というべきか。
彼と、コーンウォールの名なしの森で
そうして初めて、
削除されていた記録をなんとか復元して、『特異点Fにレイシフトする直前に1人の人間がカルデアに入館した』という情報をサルベージする事に成功した。
……だけど、それ以上のことは分からなかった。
『塩基配列:ヒトゲノム。
霊器属性:善性・中立。
魔術回路:3本。
レイシフト適正:100%。
そして間違いなく、汎人類史の霊長類の一員であること』
それだけが、彼に
3本という魔術回路の本数は、魔術師の家系ならまずあり
それから半日
そんな藤丸立香という人間の
———いつだったか、マシュの
確か『世界を焼却しようという
目の前の少年が実はビーストと繋がりがあり、どうもそれら人類悪と
———そして今、やっと。
レオナルド・ダ・ヴィンチはこれまでの推測の確信を
もう一度、少年を見上げる。
少年は空中に展開したウィンドウを使って何か会話しているのだけれど、そのウィンドウの向こうにいる存在の事を、ダ・ヴィンチはずっと前から知っている。
私が
ダ・ヴィンチは、頭の中で質問する事を整理しながら、ゆっくりと歩きだす。今のうちに聞きたい事は全部聞いておかなければならない。自分たちはもうすぐ
———戦場に
考えを
「……あのっ! お名前は藤丸立香さん……と、おっしゃるのですよね」
振り返ると、マシュは盾を右手でぶら下げていた。そのまま左手を胸に当て、少年に声を張り上げる。
「あなたは
あなたは———戦うことを選んだのですか?」
少年は、少しだけ身を乗り出すようにして———。
「選んだよ。オレは確かに」
「それは、どのような感情なのでしょうか。わたしたちは、気がついたら世界が燃えていて、逃げてしまったら……。でもっ!」
「うん」
「死んでしまった人は生き返ってくれません。壊れたものは、もう元には戻らないのです」
「それでも、守りたいと思ったものがあったんだよね。助けたいと思った人がいて、死んでほしくないと盾を
「…………はいっ!」
「オレも同じだよ。死んでほしくないと思った人がいて、チャンスがあるならせめて守りたいと思った。
———どう取り
「その……、あなたは人王ゲーティアと面識があるのですか?」
「直接はないよ。だけどゲーティアが人理焼却をしなければ、オレの望みは始まらなかったから。そういう意味じゃあ、共犯かな」
「…………ではそのっ! 人理を焼却しないと始まらない望みというのは、何なのですか?」
「それは
その
「……マシュ・キリエライト。
———聞かせてほしい。君にとって、取り戻した歴史とは何なのか。その旅の終わりに、君が何を得たのかを」
マシュは、知らず知らずのうちに歩いていたのだろう。気がついた時にはダ・ヴィンチの右隣にいて、ただ少年を見上げていた。
「人王ゲーティアは言いました。『この歴史に意味はない。人類にそれだけの価値は無い』と。
私は、それを否定しました。
たとえ失われ、忘れられる命であっても、彼らが生きた
人間の価値は、その人が生きている
———“たとえ命がもう
「それが、君の旅で見つけたもの……なんだね。分かった。ならオレも覚悟を決めるよ。
たとえこの命が、
頭上の少年は大きく息を吸い、声を張り上げる。
「カルデアの人たち!
その圧倒的な魔術の技量と、チームワーク、人類史を背負わされてなお
少年は自分の後ろで浮遊する白髪のアルジュナに
「汎人類史を守りたいなら、オレを殺さなくちゃいけない。どんな手を使っても、どんな策を講じても良い。オレを本当に
少年の後ろに浮かんでいる神たるアルジュナが右手を
———ダ・ヴィンチが
神たるアルジュナの手が
それと全くの同時に、ダ・ヴィンチの宝具も発動した。
「——————
やり直し前。
藤丸立香がいた頃のカルデアでは、演算リソースも解析リソースも魔力リソースも全てカルデアの運営のために回していたから、藤丸立香も見た事がない、彼女の宝具の本当の
即座に相手の宝具の現実化プロセスを解明し、同じモノをコピーする事で相殺する事も、何なら攻撃を弾き返す事もできる反射系宝具。
それが、“
レオナルド・ダ・ヴィンチはもう、神たるアルジュナの“
たとえ“
———そうして、アルジュナは気づかぬうちに感覚を狂わされ、宝具を不発させられていた。
「ッ———コヤンスカヤ!」
少年が声をかける。モフモフの神性が動き出す。
黒色のビームを発し———キャメロットの城壁が
黒い長腕が押し寄せて———キリシュタリアの隕石群が粉砕し。
アルジュナの“
ライダースーツを着た方のコヤンスカヤが時々差し込んでくる狙撃をレフが未来視で撃ち落とし。
アーサー王の
そして———イマジナリ・ボーダーの管制室から通信が入る。
「物理・神秘ともに保護結界、展開完了! 撤退準備できましたっ!」
キリシュタリアが右手を
「カイニス、令呪をもって命ずる。
大海流でボーダーを———異聞帯の外まで押し流せ」
「……全く、おまえが
「私も焼きが回ったかな。少し引き
「———ハッ! まだまだ余裕かましてる男が言うセリフじゃねーよ」
「—————
荒れ狂う大波が自分たちの服をずぶ濡れにする。
そして、
「行くぜオラァーーーーッ!!」
カイニスの
大量の海水、その下に森。海に沈んだ森の上を、イマジナリ・ボーダーが流されていく。振り返ったダ・ヴィンチの視界、その遥か遠くに、
ザバァァァンと、もう一波。そしてカイニスの“海を渡る権能”によって、異聞帯の外に飛び出した。
◇ ◇ ◇
海の水が引いていく。
立香の頭上に浮かぶアルジュナは、上げていた手をそっと下ろして口を開いた。
「異聞帯の王、藤丸立香。敵を取り逃してしまいました。ここに謝罪を」
「ううん。ケルヌンノスと闇のコヤンスカヤにお願いして、それでも行動不能まで持っていけなかったオレの責任」
「しかし……
「うん、オレは死ぬ。きっと。
———でも、元々“汎人類史を潰してこの地球を乗っ取る案”には、オレもあんまり乗り気じゃなかったから。国民の反対も大きかったしね。
だから予定通りだよ、アルジュナ。汎人類史はそのままにして、でも特異点として異聞帯を割り込ませる。そうすればこの妖精國のように、汎人類史への移住もできるようになる。いいこと
後は、オレの死因が何なのかって事なんだけど……」
立香は、ケルヌンノスの頭の上から妖精國を見渡した。この國は、後どれくらい生きるのだろうか。自分は、その後どのように死ぬのだろうか。
ブリテン島の北部、空想樹のあるオークニーの方を見る。“今回のキャメロット城がある場所”だ。そこには今モルガンがいて、藤丸立香は———モルガン自身のレイシフトによって世界がこう変わるまで、あそこで眠り続けていた。
「ねぇコヤンスカヤ。コヤンスカヤは、この後オレがどうやって……」
北を向く立香の右隣、闇のコヤンスカヤはため息をついた。
「これ、森の植生どうなるんでしょうねぇ。ことによっては塩害で大変ですよマスター」
「……えっと、そういう話じゃないんだけど……」
「いいえマスター。これはそういう話ですわよ」
コヤンスカヤはジッと北を———真っ直ぐ前を見て、息を吸って、吐いて。そしてもう一度深呼吸していた。
立香も
———岩や
そしてその、遥か遠く。ブリテン島の北部に、黒く巨大な
———“奈落の虫”。
……何というか。懐かしくもあるそのフォルムを見ていた立香の耳に『ガチャ、チャリン』という、
立香の左隣に並んだ光のコヤンスカヤは、落下する
「もしやアレが、ブリテンの滅びの原因だとでも思ってらっしゃる?
———まさかマスター、そんな
その時、立香たちの正面に半透明のウィンドウが出現、ムネーモシュネーから連絡が入った。
「藤丸立香、取り急ぎご報告いたします。ミクトランにて召喚されていた
原因は———
「……そう来たか」
立香は、一緒に戦っていたみんなを見渡した。
トネリコ、ウーサー、アーサー王、アルジュナ。そして立香の両隣にいる、光と闇のコヤンスカヤ。
「みんな、
ケルヌンノスはビーストじゃないから、グランドサーヴァントは全力で戦えないからね」
息を吸う。
「ミクトランで
だからこっちは闇のコヤンスカヤとケルヌンノスを軸に———」
「いいえ、その必要はありません。
ケルヌンノスは
いつの間にか出現していた二つ目のウィンドウからモルガンの声が割り込んできた。
「モルガン! でも……」
「本当に必要ないのですよ、我が夫。だって———時間はたっぷりとあったのですから」
画面の中のモルガンが立ち上がり、ゆっくりと、一定のリズムで歩いていく。立香の目に映るウィンドウの画面は、それでも
彼女の口の動きを、ウィンドウははっきりと映し出す。
「確か……トモエやジナコの使う言葉に『強くてニューゲーム』というものがありましたね。いえ、『あーるぅてぃーえー』……でしたか?
……まぁ何であれ、今のでニュアンスは伝わったでしょう。
であれば、私の言いたいことも
立香から見えるモルガンは……何というか。この最大の危機に
「この私が、全ての因果とあらゆる結末を知った状態で、妖精國を一からやり直したのですよ。どうしてそれが、以前と同じだと思うのです。
言ったではないですか。『現在の妖精國は対カルデア用のリーサルウェポンだ』と。
その理由を———
どういうことだろう。と一瞬考えた。そのタイミングに合わせるように、空から懐かしい声が降ってきた。
「良いかお前らッ! 今こそっ! この
その声は、立香がカルデアでずっと聞いていたものだった。
その声は、前回の
カルデアでは、せめて幸せな夢の中にいてほしいと、誰もが願った妖精だった。
「ここが私たちの歴史の終わり。6000年間待ち
藤丸は空を
モルガンの声が、バーヴァンシーを
「この私が、我が娘を取りこぼす
———
緩やかに落下してくるバーヴァンシーの頭上が
「———水鏡、最大展開」
彼女の頭上にあった
「
今こそ、始まりの鐘を鳴らせ!」
巨大化し、
やってきた妖精たちの顔ぶれを見て、藤丸立香は思わず彼らの名を呼んだ。
「———バーゲスト、ムリアン。ウッドワス、ガレスちゃん。牙の氏族のみんなまで……」
「私も、ずっと失念していました。妖精國はどうあれ手遅れなのだと、私にできるのは、
ですが違いました。妖精國は、はじめから完璧だったのです」
「心ゆくまで眺めていると良いでしょう。これが妖精國の、本当の姿なのですから」という言葉を最後に通信を切られ、立香の前のウィンドウが消える。
そうやってフリーズした立香の周りに、上から何かが降ってきた。……光の粒だ。
ブリテン島北部の上空。バーヴァンシーが展開した水鏡の波紋より、さらに上。蝶のような
「ホープ、という名の妖精ですわ」
立香の左隣から、光のコヤンスカヤの声が聞こえる。
「妖精國の妖精は、汎人類史でも何らかの伝承を持つ存在の名を持って生まれてくることが多い。“バーゲスト”、“バーヴァンシー”、“ウッドワス”、“ムリアン”などです。ですが、そうではない名を持つ妖精も生まれることがありますわ。何故でしょうか。
何故———あそこにいる彼女は“ホープ”という名を持って生まれてきたのでしょうね、マスター」
「それは……希望を与えるため?」
「誰に? 誰に希望を与えるために?」
「大切な誰かに……とか」
「ええ、そうです。ですから彼女は、前回の妖精國であらゆる妖精たちにこき使われた。そして最後に、ただ一人の剣の妖精に、
———ならば仮に、彼女が大切に育てられたら? 大切に育てられ、良き仲間に恵まれ、真の意味で大妖精へと成長したというならば———妖精國の妖精全てに希望の
「それに……」と、光のコヤンスカヤが人差し指で天を指す。立香は、指に
———いつの間にか夜になっていた、この妖精國の空。その満天の星の下に巨大なオーロラがかかっている事に気がついた。
「そういえば、
それは確かに、ムカつく程にムカつく特性ではありましたが……。ですがこの
見上げる先、ブリテン島を
「……ねぇマスター。そもそもどうして、前の妖精國の妖精は楽園の妖精をあんなにも嫌っていたのでしょう。
それはもちろん、楽園の妖精が『はじまりの六人の罪を
それはつまり、妖精は罪悪感を強く
———これは、汎人類史の人間にも起こる心理状態です。確かに、罪悪感とは『罪を
……
そんなオーロラの中心に浮かんでいる妖精を、立香は確かに見てとった。純白のドレスを
「そう
———妖精たちは2000年前、やっと原罪から解放されて、自分の歴史を歩み始めた。
心配などいらないのです。何故なら、本当の意味で巡礼を終えたはじまりの6人の
両隣のコヤンスカヤが共に前に出て振り返り、立香を見つめてウィンクを1つ。頭のミミに手を
立香も
それだけじゃない。それと同時に、色々な方向から妖精たちの歌が
『ならせ、ならせ、
ならせ、ならせ、
6つの
『ならせ、ならせ、
ならせ、ならせ、
———亜鈴返り6
鏡の氏族は“未来を詠む力”を持っている。未来とはこれからの歴史であり、歴史とは熱量である。
鏡の氏族は歴史という光を使って
風の氏族が火の勢いを調節し。
牙の氏族は己の牙を
土の氏族は
雨の氏族は、焼きを入れた剣を急速に冷やすための水を作る。
そして、
———かくしてモルガンの下に、6つの剣が届けられる。
ブリテン島北部、奈落の虫の目と鼻の先。モルガンが水鏡でやってきた。
モルガンが天を指し示す。6
「……全く。2000年
なので、最後の一振りは任せましたよ、エクター!」
空中に投げられた6つの剣に向かって、モルガンが青い火の玉を投げ入れる。その時、バーヴァンシーの開いた水鏡から、髭がもじゃもじゃの妖精が
青黒い炎の柱が、モルガンの目の前、一直線に立ち昇る。モルガンはゆっくりとその中に右手を差し入れて、中から一振りの———輝く聖剣を抜き出した。
「2000年———
“今を生きる楽園の妖精”———さあ、
いつの間にか、モルガンの隣で浮いているトネリコはその聖剣を受け取って、立香の方を振り返った。
そして星の聖剣を
「藤丸立香さんっ! この
———だからどうか、
私たちに、お任せを!」
トネリコの言葉を、モルガンがそっと引き継いだ。
「少し……待っていてください。
必ずこの虫を潰して、
それまでの……ほんの少しのお別れですね」
立香は、この
「ありがとう! オレ、この
だから———行ってきます」
返事はただ、一つの言葉で———
『——————いってらっしゃい———』