第2部ラスボス『逆行した藤丸立香』   作:プレイヤー名:⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎

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 大変お待たせしました!
 めちゃくちゃな難産でした……。これも一発ネタなんてタグをつけるからだと、反省していた2週間でした。

※すみません、誤字報告の処理をミスってしまって大変な事になってしまいました。現在はバックアップから貼り付けなおしましたので、なんとかなっているかと思います。
“ここすき”をしてくださった方々、すみません。
お騒がせいたしました。




第八話:()()れするような犯罪理念だネ

 

 

 

 ここは、虚数戦闘大艦イマジナリ・ボーダー。サーヴァントたちのマイルームの一室。

 カイニスの大海嘯(だいかいしょう)を引き起こす宝具“海の神、荒れ狂う大海嘯(ポセイドン・メイルシュトローム)”によって藤丸立香とケルヌンノスの襲撃から脱出したカルデア一行は、一夜明けて小休止に突入していた。

 

 その日の朝、カドックは朝食も()らずにロード・エルメロイ二世の部屋を訪れていた。

 ノックして入室の許可をとる。返事を待って入ってみると、ロード・エルメロイ二世の他にアナスタシアが座っていた。

 

「なんだってお前がいるんだよ……」

 

 カドックの気の抜けた声に、飲み終えたカップをソーサーに置いたアナスタシアが立ち上がりながら返答した。

 

「だって……貴方(あなた)は朝食も食べずにここへ来たでしょう? 

 ミスターもそうだけれど、朝食はちゃんと()るべきよ。気合いを入れたい日なら、尚更(なおさら)ね」

 

 ロード・エルメロイ二世は飲みかけのカップをソーサーに戻して、息を吐きながら立ち上がる。カドックの方に歩きながら口を開いた。

 

「カドック、君の行動はレディに読まれていたようだが……気にする事はない。女性とはそういうものだ。

 朝食を共にしよう。

 君の話は、その後にでも聞かせてほしい」

 

 

 カドックはロード・エルメロイ二世の後ろを歩きながら、右隣のアナスタシアに小声で聞いた。

 

「……で、結局お前は何であそこにいたんだよ」

 

 アナスタシアもまた、カドックの方に首を(かたむ)けた。

 

「そんなもの、そろそろ貴方(あなた)がロード・エルメロイを頼る(ころ)だからに決まっているじゃない」

「だから、何で今日、あの人を頼るって知ってるんだよ」

 

 その言葉を聞いたアナスタシアはキョトンと目を丸くして、それから「ふふっ」と少し笑う。

 

貴方(あなた)意固地(いこじ)だから、『自分が(いだ)いた疑問くらいは、自分で納得のいく答えを見つけるんだ』って意気込んでいたでしょう? でも……もう時間はない。

 何かをするにしても、何もしないとしても……。———現状を把握(はあく)できていない状態で動くことの危険性を熟知している貴方(あなた)は、タイムリミットまでにどうしても真相を知る必要があるわ。

 ———こういう時、貴方(あなた)は周りを頼ることができる人だもの」

 

 アナスタシアはこちらの表情をチラリと確認して、それからニヤリと勝ち誇った。

 

「ほら。貴方(あなた)は今日、ロード・エルメロイの部屋にくる。

 当たったでしょう?」

「……完敗だよ」

 

 カドックは両手を上げた。首を振り、ため息をつく。

 

「このまま、我が姫君が疑問の答えを見つけてくれたら言う事はないんだがな」

「あら、それは現代魔術科の君主(ロード)が教えてくれるものでしょう?」

 

 アナスタシアは君主(ロード)の後ろから「そうよね、教授」とからかい、君主(ロード)は前を向いたまま肩をすくめて「私の霊基は諸葛(しょかつ)(りょう)孔明(こうめい)だ」と反論した。

 

大体(だいたい)何故(なぜ)私を頼る」

「マスターにとっては、貴方(あなた)もまた憧れの一つなのよ。

 “解体屋”。“魔術世界の破壊者”。“神秘に対する冒涜者”。

 全ての努力が失敗した後の最終手段として頼るのも、とても()に落ちる話だわ」

「そういった二つ名は普段から否定して回っている。レディも是非(ぜひ)、私のことは“二世”を付けて呼んでほしい」

 

 そう言って“ロード・エルメロイ二世”は、スライドしたドアをくぐって食堂に足を踏み入れた。

 

 

 

 そうして、お(ぼん)を持って席を探していた3人は、意外な———

 

「あら、これは珍しい組み合わせね」

 

 最初に気づいたのはアナスタシアだった。そのテーブルについていた面々を見て、歩み寄って声をかける。

 

 メルトリリス、パッションリップ、アルトリア・キャスター、そして殺生院祈荒(きあら)。彼女たちはアナスタシアの声に顔をあげて、カドックたち3人を確認した。

 イマジナリ・ボーダーの食堂のテーブルは椅子(いす)が8つある長テーブルで、彼女たち4人はその真ん中の4席に座っていた。

 メルトリリスが「そっちの方こそ珍しい組み合わせね」と返答し、パッションリップが相席を(すす)める。

 パッションリップの隣の席はもうどうしようもなく使えないので、カドックはメルトリリスを(はさ)んで反対側、アナスタシアはその向かいの席。二世は、アナスタシアの隣の隣。アルトリア・キャスターと殺生院祈荒(きあら)(はさ)んで、パッションリップの向かいの席に座った。

 

 カドックの左隣に座るメルトリリスは、(そで)()しに(つか)んだフォークで刺したハンバーグを飲み込んで、チラリと視線を右に———カドックの表情を見て口を開いた。

 

「まあ……まだマシな顔になったじゃない。悩みは解決したの?」

「してない。でもタイムリミットが近い。

 仕方(しかた)がないから、誰かを頼ることに決めたんだ」

 

 カドックがちぎったパンをスープに(ひた)していると、隣から「……そう」という(つぶや)きが流れてきた。

 

「でも貴方(あなた)、『頭脳労働系のサーヴァントは今忙しいから、僕が自分で考えるんだ』とか『頼るにしても、ヒマしてるモリアーティからだ』とか言ってたけど。

 モリアーティ(そっち)はどうなったのよ」

()きに行ったさ」

 

 カドックはひと息入れて、それからメルトリリスを見た。

 

「そうしたらアイツ、『(じつ)()()れするような犯罪理念だネ』なんて言いやがったんだ」

 

 

 ———カドックは昨日、ケルヌンノスや神たるアルジュナから(のが)れた後、ジェームズ・モリアーティのところを(おとず)れていた。

 そこで(かね)てからの悩み、『何故⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎は、トネリコ(とウーサー)の存在をカルデア陣営に隠していたのか』という疑問を、モリアーティにどう思うか()いてみたところ、彼から返ってきた感想がコレだった。

 

 あの時、モリアーティは、一人()けの革張りのソファで脚を組み、その上で両手の指を絡めた。

 そして、「全く……実に()()れするような犯罪理念だネ。弟子にほしくなるよ」と口にしたのだ。

 

「犯罪理念としては実に見事だ。実際のテクニック云々(うんぬん)を全て抜きにしても、ただ理念だけで完全犯罪に(ちか)しいところまで()ぎつけるとは……。

 それに比べれば———(あつか)っているもの自体は平凡(きわ)まる。ありきたりな一発ネタだがね」

 

 モリアーティの言葉を受けて、カドックが「どういう事か説明しろ」と言うと、「コレに関しては君自身が見つけることだネ」と返ってきた。

 

「いいかな。君が(いだ)いている疑問は、⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎(かれ)が隠そうとしている事の中枢(ちゅうすう)へと切り込む謎だ。それ(ゆえ)に、軽く(のぞ)き込むだけでも込み入った事情が見え隠れしている。

 ———こう言った事情はね、(のぞ)き込んだ者の主観がかなり大きく作用してくるものだ。

 ここで私が語ってしまえば、それは『ジェームズ・モリアーティの主観による真実』となってしまう。そうなれば、君のこれからの判断にも影響が出るだろう」

 

 モリアーティはソファの上で優雅にふんぞり返り、組んだ脚と指はそのままに、最後にこう締めくくった。

 

「君は『ただ真実が知りたい』というものではないだろう? 主観の入らぬ事実を見つけ、それをもとに『自分は何をするべきか』を(さだ)めたいのだろう? 

 ならば少なくとも、“悪のカリスマ”に聞くべき(もの)ではなかったな」

 

 

 ———だから。

 

「だから僕は、ロード・エルメロイ二世にアポイントを取った。明日———つまり今日のことだが———、朝からの時間をもらったんだよ」

 

 カドックの話が終わると、テーブルに沈黙(ちんもく)がおりた。

 このテーブルで朝食をとっている全ての者が、一様(いちよう)にロード・エルメロイ二世を見つめていた。

 (とう)の本人は黙ったまま、2本の箸でお茶碗から口へと白米を運んでいたが……ついに視線に耐えきれなくなったのか、少し音を立てながらお茶碗と箸を置いて、それから(うら)めしそうにテーブルにいる一同を(にら)みつけた。

 

「まさか……。ここで私に推理しろとは言わないよな」

 

「……でも、えっと……」と、メルトリリスにフォークでハンバーグを食べさせてもらっていたパッションリップは、遠慮がちに発言した。

 

「わたし、知りたいですっ。カドックくんが悩んでいること」

 

 その言葉を聞いたメルトリリスが、二世にフォークを突きつける。ドヤ顔で勝ち誇った。

 

「さあ、私たちも聞いてあげるから、ここでキリキリ推理しなさい。

 それに———語るに落ちたわね。『()()()私に推理しろとは言わないよな』という言葉が出てくるということは、貴方(あなた)()()()推理できると考えているという事よね。

 だって普通なら『私に推理しろとは———』っていう感じになって、『ここで』って単語は出てこない(はず)だもの」

 

 再度、沈黙。

 

 何秒かがたった後で、二世は大袈裟(おおげさ)にため息をついた。そして今度こそ、カドックの方に向き直った。

 

「……承知した。確かに、ここで推理できない(わけ)ではない。だがその(ため)には、いくつか足りないピースがある。

 ———とは言えそのピースは、ある程度このメンバーの証言で(そろ)うのだがな」

 

 二世は黒い紙コップホルダーを持ち上げて、コーヒーをひと口、流し込んだ。目を細めながらお盆の上に戻して、紙コップの中のコーヒーを見ながら語り始めた。

 

「まずは、君の疑問を整理しよう。

 カドック、君の知りたい事は“Whydunit(ホワイダニット)”———すなわち理由(りゆう)だ。

『⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎は何故(なぜ)、戦力の低下を許容してまでトネリコの存在を隠していたのか』というのが、君の疑問の主題だな」

「そうだ。

 ……トネリコやウーサー、男のアーサー王なんて戦力を、アイツはギリギリまで隠し続けた。“アルビオンの左手”だって、僕たちとヤツらとの戦争が本格的に開始して大分(だいぶ)()ってから投入された戦力だった。……それだけならまぁ、あり得なくはない。

 でも、『アイツがそうやって出し()しみした所為(せい)で、異聞帯陣営からの離反者はかなり増えている』っていうトリスメギストスの演算結果も出てるんだ」

 

 カドックは一度みんなを見渡して、それから、自分の心の内を()き出した。

 

「異聞帯陣営からの離反者には四つのパターンがあった。

 一つ目は、そもそも、汎人類史とは戦うべきではないというパターン。

 二つ目は、どうしても⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎を殺したいんだというパターン。

 そして三つ目の、カルデア勢力が優勢だからウチに(くだ)ったというパターン。

 それと“その他”」

 

 カドックの握る手に、少し力がこもった。

 

「一つ目と二つ目は、僕たちの離反政策の成果だとみる事もできる。でも三つ目『カルデアが優勢だから離反した』タイプは、明らかにアイツの落ち度なんだよ。

 昨日初めて出てきた“ケルヌンノス”とかいう神性だってそうだ。最初から戦線に参加していたなら、妖精國での戦いで、僕たちが優勢で有り続けるなんて事は起こらなかった(はず)だ。

 実際その第三の理由(しっさく)で、ヤツは2割以上の離反者を出している。それ以外の離反者の数も合わせると、今や異聞帯の人民の約半分が僕たちカルデアについてくれている事になる。それはヤツのお膝元(ひざもと)である妖精國でも例外じゃない。その半分は僕たちの味方だ。

 ———それなのにアイツは、ギリギリまでトネリコの存在を()せ続けた。それがどうしても、頭から離れないんだ」

「なるほど」

 

 二世は、テーブルの上に両(ひじ)を置いて、両手の指を(から)め合わせた。

 

「そして彼が、そうまでしてトネリコたちを隠していた理由として真っ先に思い当たったのが、妖精國の歴史の誤認だった、と。

 ———確かに私も、その意見には賛成だ。

『トネリコが今も、モルガンとは別の存在として生きている』という事を知らなければ、我々はその歴史を誤認する。妖精國各地に点在していた遺跡や妖精たちの(あいだ)で語り継がれる(うた)から『本来の異聞帯はセファールの襲来により一度滅んだ。その()、神の死骸(しがい)の上に(さか)えた妖精國はヴォーティガーンの厄災によって完全に消滅していた』というストーリーにたどり着くのは容易(たやす)い。

 我々カルデアは今まで、この歴史を現在の妖精國の歴史に変えた()()()()()が、“モルガンから記憶を受け継いだトネリコ”だと考えていた」

「———けど、トネリコも生きてるんじゃ、その考えが間違ってたって事になる。

 モルガンは霊基を維持したまま過去へレイシフトしていて、過去の自分と共に妖精國の歴史を変えていってたんだ」

 

 カドックの言葉の後、二世の左に座っている殺生院祈荒(きあら)はするりと手を()げて、口を開いた。

 

「でも、それがどうしたと言うのです? 妖精國の歴史が改変されていた事に変わりはないのでしょう? 

 ならば、そう見咎(みとが)めることもないと思うのですけれど」

「そう、()()()()()()()()んだよ。

 なのにアイツは、この事実を何ヶ月も隠し続けた。自分たちが劣勢になっても、異聞帯から離反者が続出(ぞくしゅつ)しても、隠す事をやめなかった。

 それが何か異様に思えてくるんだよ。何かを見落としているような気がする。だから昨日モリアーティのところに行って———今日、ロード・エルメロイに時間を作ってもらったんだ」

 

 カドックの左でカチャっという音がした。ティーカップをソーサーに置いたメルトリリスは目線を上にして、頭の中を探りながら言葉を探していた。

 

「ねぇカドック、そのモリアーティの言葉なんだけど、私にはよく分からないのよね。“犯罪理念”とか“完全犯罪”とか“一発ネタ”とか……あれ、どういう意味なの?」

「いや、実は僕も分からない。モリアーティのヤツが思わせぶりな事を言うのはいつもだから、適当に聞き流したんだけど」

 

「———ああ、それについては簡単だよ。レディ」

 

 二世は今も、ずっと指を絡めたまま、目を細めてじっとしている。

 

「“一発ネタ”というのは、『最初の1回だけ効果があるネタ』のことを指す。一回のボケで笑いをとる“一発ギャグ”と混同して使われることもあって、だいたいはギャグやお笑いの世界で使われる用語だ。

 だが、それ以外の時に使われない事もない。

 “ネタ”という言葉は、“アイデア”という意味で使われる事もあるからな。その言葉は、小説などの創作物を(ふく)めたかなり広い範囲をカバーしている。

 ……だが、そのほとんどは“一発ネタ”にはならないんだ。恋愛もの、ゾンビなどのパニックもの。それが何であれ、一度しか使えないネタなど、創作の世界ではほとんど無い。同じネタであったとしても、作者が違えば、それは作者自身のオリジナリティの一部として評価されるものだからだ。

 ———だが、たった1つだけ、それが絶対に通用しないジャンルがある」

 

 どれほどオリジナリティを()らしても、どれほど自分独身の視点で表現したとしても。同じネタを使っていたというだけで、その評価を地の底まで叩き落としてしまう性質を持ったジャンル。

 

「——————“ミステリ”、と呼ばれるジャンルだ」

 

 (すなわ)ち“推理小説”、あるいは“探偵小説”。

 

 二世は同じテーブルに座る面々を見渡してから、「もちろん“一発ネタ”という特性は、ミステリに限定されるものではないが」と前置きした。

 

「だが、ジェームズ・モリアーティが“犯罪理念”“完全犯罪”などという推理小説でよく使用される用語と共にこの言葉を口にしたのなら、十中八九(じゅっちゅうはっく)こう言うことだろう」

 

 メルトリリスの顔から納得の色を読み取ったのか、二世は一つ(うなず)いた。

 

「モリアーティ氏がカドックの疑問を受けて“犯罪理念”、“完全犯罪”と口にした以上、藤丸立香という少年は何らかの罪を犯したのだろう。そしてそれを隠すために、トネリコたちを我々に見せる(わけ)にはいかなかった……」

 

「あるいは現在、(なん)らかの作戦が進行しているかも。彼はそれを(わたくし)たちに気づかれないようにする(ため)に、彼女たちを隠したのやも」

 

 殺生院の言葉に、二世は「それもあり()る」と相槌(あいづち)を打ち、「やはり、その理由(ホワイダニット)が気になるところか」と(つぶや)いた。

 

「とは言え、その理由に心当たりがない事もない。モルガンが霊基を(たも)ったまま過去に飛ぶことができたのなら、他にも同じことができた者がいると考える事が自然だろう。実際、ケルヌンノスの頭の上に乗っていた彼女はコヤンスカヤと同じ霊基を持っていた。それが2000年前にモルガンに倒された(はず)のケルヌンノスを制御していた事を考えると、彼女———第2のコヤンスカヤもまた、過去に飛んでいたのだと推測する事もできる。

 ———つまり、仮説その1だ。

『藤丸立香はコヤンスカヤが過去に飛んでいたことを隠すために、コヤンスカヤの関与によって変化した事象をカルデアから隠していた』

 まずはこの仮説を、検証してみよう」

 

 二世は(あご)に手を当ててからくちを開いた。

 

「実際、『トネリコの存在がバレた(のち)すぐに、敵陣営はケルヌンノスという(ふだ)を切ってきた』という事を()まえて、最初の仮説としては及第点(きゅうだいてん)だろう」

 

 そして左を向き、殺生院のもう一つ隣に座っているアルトリア・キャスターに問いかけた。

 

「アルトリア・キャスター、妖精國の歴史を教えてほしい」

 

 アルトリア・キャスターはパンの最後の一片(いっぺん)を口に放り込み、()み込んでから「うーん」と(うな)った。

 

「そういうの、あんまり(くわ)しくないんです。私は生まれた瞬間から、使命を取り上げられた楽園の妖精だったから」

 

 ———アルトリアは語る。自分は“巡礼の旅”を完成させるために楽園から派遣された存在だけど、自分が湖水地方に流れついた時には(すで)に、巡礼が終わる事が決まっていたのだと。

 

 モルガンは妖精歴の終わり、つまり2000年前に、みんなと力を合わせてケルヌンノスを説得した。そしてヴォーティガーンを封印することで、ブリテンには平和がおとずれた。

 

「これが女王歴元年の出来事(できごと)。一般には“王の婚姻(こんいん)”とか“チョコレートの奇跡”とか言われている、モルガン王妃のお伽話(とぎばなし)です。この時、みんながモルガンにチョコレートを渡したことで、モルガンは正式に異聞王妃になったんだって。

 異聞帯の、結婚する時にチョコを(おく)る風習は、このお話が元になっているみたいです」

 

 アルトリアは少し笑った。

 

「こうして妖精國は一つになって、妖精たちは罪を(つぐな)う覚悟を決めた。本当ならこの時にみんなで聖剣を作って、それでお役目はおしまいになるはずだったんだけど、モルガンが聖剣を(つく)るのを延期するように命令したんです。

 理由は確か……『妖精國に本当の危機が(おとず)れた時、それに対抗した武器にするため』だったかな」

 

 ———たとえば、アラヤによって派遣される人理の守護者は“カウンターガーディアン”と呼ばれたりする。これは(せま)り来る危機に対して、アラヤが後出しで守護者を派遣する為だ。

 よって絶対に勝てる守護者(もの)が、絶対に勝てる状態で派遣される(わけ)だ。

 

 これと同じことを、モルガンは聖剣でやろうとした。

 汎人類史で作られた聖剣:約束された勝利の剣(エクスカリバー)は、セファール襲来時に(ほし)の後押しを受けた楽園の妖精たちが製造した。だからこそ、この聖剣は“セファールを倒すための剣”であった。

 

 モルガンはこれを、未来にやってくる本当の危機のために使おうとしたのだ。(すで)に存在しない“セファールという危機”ではなく、この後にやってくる危機に対して、“それを倒すための剣”を作りたかった。

 だから妖精たちに命令して、聖剣(づく)りを延期した。

 

「そうやって、延期を続けて2000年。ついに(しび)れを切らした星の内海(うちうみ)によって私が派遣された(わけ)なんだけど……私の仕事は、やっぱり無かったのです」

 

 アルトリアが物心(ものごごろ)ついたころ、鏡の氏族のいる湖水地方にモルガンが直々(じきじき)にやってきて、アルトリアに直接言った。「(あと)17年もすれば聖剣は鍛造(たんぞう)される。貴女(あなた)の役割は、この地に(はじ)めから存在しません。よって、星の内海に帰ることもない。使命を果たせぬ楽園の妖精に、帰るべき場所などないのですから。

 ———大きくなったら、どこへなりと行きなさい。そこで新しく“自分の意味”を見つけるのです」と。

 その言葉の通りという(わけ)ではないけれど、15歳になったアルトリアは色んな場所に行って、色々と体験して、カルデアの人たちに出会った時に、これ(さいわ)いとついて行った。

 

 (ゆえ)にアルトリアに運命はなく。彼女が今を生きている意味は、彼女自身が積み重ねてきた出会いの中で(はぐく)んできたものだった。

 

 アルトリアの言葉に「なるほど」と言ったロード・エルメロイ二世は「ならば君の知る限りでいい、2000年前にあったという“王の婚姻(こんいん)”について教えてほしい。異聞帯の王であるモルガンが異聞王妃となったこの出来事を———……」

 

 二世はそこで言葉を切った。アルトリアの不思議そうな顔を見て「何かおかしかったかね、レディ」と問いかける。アルトリアは「えっと……」と口ごもりながら、言葉を選んでいた。

 

「えっと、訂正(ていせい)するほどでもないし、みんなあんまり気にしてないんだけど……。

 異聞連合の首脳陣に言っちゃうとイヤな顔されるかもな〜くらいの……」

「それでも(かま)わない。教えてほしい」

「あのね、実は“異聞帯の王”っていう地位(ちい)はたった1人に与えられたもので。“異聞帯の王”っていう言葉は、狭い意味では、その1人だけを指す言葉なのです。何千年も前からずっと。

 だからモルガンとかゼウスとか、始皇帝とかを“異聞帯の王”って言っちゃうと、本人たちに嫌味(いやみ)を言われるかもなので、気をつけてくださいね」

 

 アルトリア・キャスターの助言に、カドックは声を上げずにはいられなかった。テーブルに手をつき、腰を少し上げて、ちょっと()い気味に声を上げる。

 

「待て、じゃあ誰の事なんだ? “異聞帯の王”っていうのが“各異聞帯にいる最高存在”のことじゃないなら、一体なんの……いやそれより、『1人だけを指す言葉』だって? 異聞帯が白紙化地球に投影されるより前の段階から“7つの異聞帯でただ1人を指す言葉”が存在するなんて、おかしいだろ!」

「えっと、異聞帯の成り立ちについては(くわ)しくないので、確かなことは言えません。でも、“異聞帯の王”が誰を指すのかは知っています。

 それは、ただ1人の人間を指す言葉なのです。

 ———藤丸立香という、異聞帯の全てにおいて、古今東西ただ1人の王さまを」

 

 カドックは沈黙した。疑問で言葉が出なかったからだ。

 人間なのに、何千年も前から王だと? 秦の始皇帝のように自分自身を改造したのか? いや……そんな感じはしなかっ———

 

Fuck(ファック)ッ!!」

 

 カドックの耳にロード・エルメロイ二世の声が飛び込んできた。

 

「そういう事かッ! だから概念防御を獲得(かくとく)していたのか! 

 これは確かに、トネリコを(かく)して余りあるアドバンテージになる……だが待て、それでは教授の言葉と矛盾する。確かにトリックではある。あるが……だからといって“理念”と呼べるほどの思想(しそう)は感じない。“完全犯罪”というにも(とぼ)しい。そもそも犯罪と呼べるほどの……」

 

 と、ブツブツ(つぶや)いていた二世が硬直した。そして空中を見つめあまま「……そういう事なのか?」と声を()らした。

 (しばら)く固まったまま、脳みそを回転させていたらしい二世が体から力を抜いたのを見て、カドックは遠慮がちに提案した。

 

「ロード・エルメロイ二世、もし良かったらもう一度モリアーティに———」

「いや。それはあまりおすすめ出来(でき)ない。()がどれほど誠実なサーヴァントであったとしても、彼がバアルに召喚され霊基を共有している以上、その発言を素直(すなお)に受け取るわけにはいかないからだ」

「それは———」

 

 カドックは椅子(いす)に座り直して、息を吸い込んでから聞いた。

 

「それはジェームズ・モリアーティが異聞帯側のサーヴァントで、スパイか裏切り者だってことか?」

「それに(かん)してはどちらも否定しておこう。彼は異聞連合と通じている(わけ)でも、異聞連合から送られてきたスパイでもない。———とは言え、スパイだったとしても関係なくなってしまったのだが」

 

 二世はゴソゴソと(ふところ)(あさ)って、胸ポケットから葉巻を取り出した。ハサミのような形のシガーカッターで先端を切り飛ばしてからマッチで火を付け、大きく煙を吸い込んでから吐き出した。

 

「私の推理に間違いがなければ、我々カルデアと異聞帯との敵対構造そのものが意味をなさなくなる。“敵”や“味方”といった概念が崩壊し、我々の認識は根底(こんてい)からひっくり返るだろう」

 

 

 ———朝の食堂、その一角(いっかく)。このテーブルに何度目かの沈黙が降りてきた。

 カドックは、同じテーブルを囲む面々(めんめん)と顔を見合わせる。

 ロード・エルメロイ二世を(のぞ)いた全員が、息を(ひそ)めているのが分かった。みんなからのアイコンタクトを受けたカドックが代表して二世に聞いた。

 

「ロード・エルメロイ二世、(わか)ったなら教えてくれ」

「いや……確証がない。(ゆえ)にまだ語る(わけ)にはいかない。

 だから君たちに聞きたい。

 もしも私の推理に間違いがなければ、君たちはその片鱗(へんりん)を見聞きしている(はず)だ」

 

 二世は胸ポケットから携帯灰皿を取り出し、葉巻の灰を落とす。もう一度葉巻の煙を吸い込んで、その先端を携帯灰皿の中に入れた。

 そして、右手の人差し指を立てる。

 

「まず一つ、全ての異聞帯で(やつ)とは戦ったと思うが、妖精國で戦った時以外で、藤丸立香が姿を見せたことはあったか?」

「それは……」とカドックが空中を見上げた。頭の中を(さぐ)りながら口を開く。

 

「そう言われれば、確かにそうかもしれない。他の異聞帯で戦ってた時は、陣の後ろにいることはあっても、前線に直接出てくることはなかったと思う」

「よく分かった」

 

 そう締め括った二世は、中指も立てて2本をしめした。

 

「それでは2つ目だ。

 カドック、アナスタシア、メルトリリス、パッションリップ。君たちはそれぞれ、ビーストⅢのLとRと対峙(たいじ)したな。

 ビーストⅢ(L)の魔王カーマ/マーラ。

 ビーストⅢ(R)の随喜(ずいき)自在快楽天。

 ———この2体のビーストと戦っていた時、このビーストたちが口にした『あの人』や『彼』、『マスター』と言った言葉があった(はず)だ。(ある)いは人王ゲーティアのように、『この歴史に意味はない。人類にそれだけの価値は無い』といった(むね)の言葉を吐いていたなら、それも。

 ビーストたちは、どういう文脈でそれらを口にしたのかを、私に教えてほしい」

 

「そうね」とカドックの正面に腰掛けるアナスタシアが返答した。

 

「吉原特異点は『この世全ての人間に快楽を叩き込むための特異点』だったのだけど、カーマ本人は、誰か1人を懸想(けそう)していたように思うわね。キリシュタリアが『どうしてこんな事をしたのか』と聞いた時、カーマは『大切な人には安らかな余生(よせい)を過ごしてほしいというのは、全人類が共通にもつ望みでしょう?』って返答したもの。

 今から思えば、カーマは自分の次にやってくる(はず)のセラフィックス特異点でカルデアに()んでほしくなくて、カルデアのマスターに耐性を付けさせようとしていた(ふし)があったのかもしれないわ。『この程度の快楽に負けるとかみっともな〜い』って言って、散々マスターたちを(あお)っていたものね」

 

 二世が、今度はメルトリリスとパッションリップの方を見た。

 

随喜(ずいき)自在快楽天も、同じようなことを言っていたのか?」

 

 少しして、パッションリップが「えっと……」と声を上げる。

 

「ビーストの方のキアラさんは、あの時たしか、『苦しい汎人類史など剪定(せんてい)してしまえば良いのです』って言ってました」

 

 

 ———セラフィックス特異点。

 真っ先にレイシフトできたカドック以外のAチームは、特異点の時間加速によって置き去りにされた。

 よってあの時、ビーストⅢ(R)が成体(せいたい)になるまでに倒せる———つまり地球と合一(ごういつ)するのを防ぐことができるマスターは、カドック1人だけだった。

 

 その最終決戦で、殺生院キアラはカドックたちに問いかけたのだった。

 

貴方(あなた)方はここで全滅する。フィニス・カルデアに放流したアーノルド・ベックマンたちによってカルデアという組織が内側から()()くされる。ベックマンを殺そうとしたデイビットさんは職員やサーヴァントたちに止められ、その(あいだ)にキリシュタリアさんが殺される。

 後は、成体(せいたい)になった(わたくし)がカルデアを気持ちよくして、お仕舞(しま)い。

 ———それで()いではありませんか」

 

 (ひざ)をつくカドックと、彼に寄り()うアナスタシア、メルトリリス、パッションリップ、そしてアルクェイド・ブリュンスタッド。BBによってキアラの権能が封殺されてなお、彼らは劣勢だった。

 それは(ひとえ)に「地球の性感帯とかやめなさーいッ」とアルクェイド・ブリュンスタッドが割り込んできた、という事も、理由の一つではあったのだろう。

 

 魔力で編み込まれた真っ白な手、巨大な(てのひら)の上に立ちながら殺生院キアラは笑っていた。「汎人類史からのカウンターで召喚されたサーヴァントは、アルクェイドさんただ一騎。世間知らずとしての本来の貴女(あなた)であれば、無垢(むく)(ゆえ)(わたくし)の快楽を無視することもできたでしょうが、“今”の貴女(あなた)ではとてもとても———」と。

 

貴方(あなた)方は海に沈み、(わたくし)というビーストによってカルデアは快楽に(おか)される。そうすれば次の災害を防ぐ者はいなくなりますし、それ以前に(わたくし)の手で汎人類史は終わりを(むか)える。

 ———何が不満なのです? 貴方(あなた)方の歴史の終わり方としては、とても良心的(りょうしんてき)だと思うのですけれど」

 

巫山戯(ふざけ)るんじゃないわよ!」とカドックを抱き止めていたメルトリリスが言い返す。

 

「それだと歴史ごと消えてしまうじゃない。

 ———やっと分かったわ。どうして人間たちが歴史を積み上げるのか。どうして、人理を守ろうと足掻(あが)くのか。

 残したかったのね。

 ……生きて、育ち、出会って、恋をした。

 だったら、その(あかし)を焼き付けておきたいと思うのは、至極(しごく)当たり前のことだったのよ!」

「それを実行できると思って? 

 この特異点の危険度を誤認させてマスターの数を(しぼ)らせました。フィニス・カルデアにはセラフィックス職員を避難(ひなん)させることで内部崩壊するよう誘導しました。レイシフトを(あつか)える組織が無くなるだけで、特異点案件は全て後手(ごて)に回らざるを()なくなります。

 ———そうなれば、この並行世界を剪定(せんてい)させることも容易(ようい)になる。それの何が問題なのです? 

 もう十分苦しんだのではないですか? ならば苦しい汎人類史など剪定(せんてい)してしまえば良いのです」

 

 ———心地よい世界線だけを残す。それが並行世界論なのですから———

 

 

 パッションリップが語り終えると、ロード・エルメロイ二世は(うなず)いた。

 

「———なるほど、良く分かった。

 ならば、やはりWhydunit(ホワイダニット)は解消される。藤丸立香が何故トネリコを隠していたのか。これで間違いないだろう」

 

 ロード・エルメロイ二世は、テーブルに置いてある携帯灰皿の口から葉巻を取り上げ、大きく煙を吸い込んだ。

 

「—————謎は、これで解けた」

 

 

 

 

 

 






 次回『第九話:ロード・エルメロイ二世の推理』
 明日14日の00:00に予約投稿、完了。
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