第2部ラスボス『逆行した藤丸立香』 作:プレイヤー名:⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎
たくさんの感想、誤字報告、ここすき、評価してくださった方々も、本当にありがとうございます。
感想、いつも楽しみながら読んでいます。
「ならば、やはり
———謎は、これで解けた」
ロード・エルメロイ二世が葉巻を大きく吸い込んでから発した言葉に、カドックは息をのんだ。
自分の正面にいるアナスタシアなんかは優雅にカップを
「それでは探偵さん、真実を教えてくれないかしら。
私、カドックが色々悩み出してからずっとだから、こう見えてかなり待ちくたびれたの」
二世は、燃えてだいぶ短くなった葉巻の灰を携帯灰皿に落としながら、横目でアナスタシアを見た。
「レディ、私たちが触れられるのは多種多様な事実であって、たったひとつの真実じゃない。それだけは覚えておいてほしい。
そうして今度こそ、二世は葉巻を携帯灰皿に押し込んで消火した。少し分厚くなった携帯灰皿を
「では、この事件の最初からいこうか」と、語り始める。二世はカドックに問いかけた。
「そもそも、藤丸立香とは何者だ?」
「何って、異聞帯のマスターだろう。キリシュタリアが⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎と名付けた男。2015年、特異点Fにレイシフトする日にカルデアにやって来て、そのまま消息不明になった」
「その男の資質は?」
「塩基配列:ヒトゲノム。
霊器属性:善性・中立。
魔術回路:3本。
レイシフト適正:100%。…………それがどうしたんだ?」
「付け加えるなら、魔術とは全く縁がなかったただの一般人というところだが……。カドック、君は自分がただの一般人だとして、そしてある日突然異聞帯に放り出されたとして———果たしてその全てを踏破した上で、“7つの異聞帯全ての王”などという地位を手に入れているイメージはできるか?」
「そんなの———」
カドックは即答する。少し体が
「そんなの、できる
二世は、その返答に乾いた笑みをこぼしていた。
「ああ、そうだ。才能
神秘の度合いも文化も風習も、全く違う7つの文化圏。その中でも
二世は、
「だがその通りだ。君たちAチームの面々ですら、それぞれに相性の良いサーヴァントとの絆を深める事で、マスターとサーヴァントとの
どんな人間でも相性の良い悪いはあるものだ。全てのサーヴァントとの
———複数のサーヴァントと仲良くやれている君たちAチームは、まさに奇跡のようなマスターチームなんだ。それが『全てのサーヴァント相手に』となると……そんな
二世のゆったりとした語りを聞きながら、カドックは息が浅くなっているのを感じていた。
そうだ、よく考えれば異常なのだ。『7つの異聞帯の全てで王の地位を獲得した』という情報そのものの持つ異常さに、指摘されるまで気づかなかった。
「なら、魔術回路が3本しかないただの一般人に、それができると思うか?」
「でも、実際できているだろ。……どうやったかは、分からないけど」
「そうじゃない、カドック。
我々が神秘に
この場合も同じだ。
———彼は何故、あらゆる文化圏のあらゆる存在と、
何故“異聞帯全ての王”にならなければならなかったのか、という疑問もあるが、この場合はどちらでもいい。
何故ならどちらの答えも同じく、『全く何も考えつかない』となるからだ。
「『全く何も考えつかない』というのなら、それは『その謎を解くために必要な情報が足りていない』という意味だ。情報が足りていないなら、別の情報を追加する必要がある。
たとえば———『彼は何故、トネリコを隠し続けていたのか』というものだ」
藤丸立香がトネリコをカルデア陣営から隠していたのは、妖精國の歴史を誤認させたかったからだろう。モルガンが霊基を維持したまま過去にレイシフトしたことが知られるとマズいと考えたからだ。
では、何がマズいというのだろうか。
真っ先に考えつくのは、『モルガン以外にも過去の妖精國にレイシフトした存在がいた事を隠したいから』といった
ならばその“誰か”は、カルデア陣営の知らない存在か? いいや、それはない。カルデア陣営の知らない誰かが過去にレイシフトしていたとしても、それを
———で、あるならば。
カルデアの知っている“誰か”が過去にレイシフトしているのだろう。だが、それは誰か———
カドックは、二世の語りに口を
「それはコヤンスカヤなんじゃないのか」
「確かに、コヤンスカヤだというのであれば
何故ならば、コヤンスカヤが単独顕現のスキルを持っているだろう事は
———つまり『コヤンスカヤの過去への顕現を隠すこと』が理由だった場合、トネリコを隠しても意味がない」
———だから違う。とロード・エルメロイ二世は言い切った。
『
ロード・エルメロイ二世は指で
「誰であるか分からないなら、過去へとレイシフトした“誰か”の
そして見つけたんだ。過去に戻った存在を。
—————藤丸立香本人だよ」
「そんな馬鹿なッ。
だって、仮にソイツが過去レイシフトしたとして、その後どうするんだ。現在まで生きられずに、過去で死ぬことになる」
「そうだな、私もそう思っていた。だが方法はあったんだ。仮に妖精歴4000年にレイシフトしたとしても、現在まで生きている方法が」
「それは? 秦の始皇帝のように肉体を捨てたとでも言うのか」
「いや、ただ眠っていただけだろう。それこそ冷凍保存のような形で6000年間を寝て
「それなら……、それならレイシフトしていないのと同じじゃないか。6000年間傷の治療をしていたなんて言うならまだしも。そうでないなら、そのレイシフトはそもそも意味がない」
「———いや、意味ならあるんだ。
本当にただの一般人ならば無意味だっただろうが、彼は異聞帯を
カドックと二世は、同時に同じ動きをしていた。
「思い出してほしい、カドック・ゼムルプス。
英霊の座には時間の概念がないんだ。過去に死んだ英霊も未来で死ぬ英霊も等しく
汎人類史の人間が自分たちの異聞帯を
カドックは、少し考えてから質問した。
「証拠があるのか? ⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎が、過去で召喚されていたという証拠が」
「そうだな。では仮に、『妖精國よりも長く生き、その
「それは———」
「『他の異聞帯では召喚できるのに妖精國では召喚できない』という結果になる
———これが、彼の持つ概念防御の正体だ」
———もう一つ。『藤丸立香という存在は、妖精國ではサーヴァントとして召喚できない』と考えるなら、“チョコレートの奇跡”の
藤丸立香を連れて過去にレイシフトしたモルガンは、彼を召喚しようとしてできなかった。召喚式の方ではなく、召喚される藤丸立香の方に問題があったのなら、何度トライしても失敗するだろう。
そんな彼女を
二世の
「……ですが、赤い
「妖精國の座には、どうやっても登録されることはない。何故なら妖精國は最初、歴史を持てなくなる程に滅び果てていた
「あらっ」と声をあげて、
カドックも納得していた。
……そうだ。
「アルトリア・キャスターの『“異聞帯の王”とは全ての異聞帯でただ一人の人間を指す言葉』だという証言もある。
よって彼、『藤丸立香という少年が、7つの異聞帯では
カドックの左隣で「なるほどね」と声がした。
メルトリリスが、目を細めて少し
「そうね、確かにこれは
過去から現在まで彼が絶え間なく、消滅する
モルガンたちは
「そうだとも、レディ。『モルガンは召喚の
「あれ?」と、パッションリップは首をひねった。
「でも、それって犯罪なのかな。わたしたち戦ってるんだし、隠すのは当たり前なんじゃ?」
「いい疑問だ。そして私も、そこで一度引っかかった。だからもう一段
———何故、異聞帯の
そして、ジェームズ・モリアーティは何故、カドックに『これが犯罪である』と伝える必要があったのか———
「それは?」と、誰かの言葉が
でもそれが誰の言葉だったのか、カドックには分からなかった。
ロード・エルメロイ二世が、2本目の葉巻を取り出した。
「過去からのやり直し、それが何故、異聞帯の中だけで発生していたと思い込んでいたのだろうか。
……そうではない。そうではなかったんだ。
“
我々は『ビーストとムネーモシュネーが
———カドック、異聞帯に属する存在以外で、藤丸立香に
「そうだな。……ゲーティア、コヤンスカヤ、ムネーモシュネー。
マーリンは中立を貫いていて、カーマとキアラは不明」
「それらは全員、記憶消去に対する耐性がある連中ばかりだろう」
二世は言う。
「つまり、単独顕現のスキルによる過去改変への耐性によって、彼らだけが“改変前の記録”を有している可能性だ」と。
「ムネーモシュネーも記憶消去に対する耐性を持つ存在であるし、何より彼女は、あらゆる並行世界を観測する性質を持つ。
この世界が仮にやり直ししていたとして、彼女だけはそれ以前の“やり直しが起きなかった並行世界”の情報を入手できる存在だ」
「待て」と、カドックは手を出して二世を
「僕たちのいる“この並行世界”が、汎人類史である事は確認し続けているんだぞ。過去改変によって歴史が変わっているのだとしたら特異点まっしぐらじゃないか。
それを、シバもトリスメギストスも感知できない
「だからカドック、考えるべきは
否定材料を探すなら、『それを
———そしてこの“世界のやり直し仮説”には、行うべき理由がある」
「想像してみてほしい」と、ロード・エルメロイ二世は煙を吐いた。
———もしも、過去の記録を持っている者が何騎かいて、彼らが
そう、きっと
彼に関する情報はそれだけじゃない。
彼は何故か、あらゆる文化圏のあらゆる存在と、
そうなればもう、藤丸立香という少年の
———彼は、カルデア唯一のマスターだったんだよ。過去改変前の世界ではね。
カドックは意識して深呼吸して、息を吐いて力を抜いた。
「……ロード・エルメロイ二世。それが正しかったとして、アイツはやり遂げられなかったのか?」
「もしも彼が失敗していたのなら、人理焼却によって何もかもなくなっている
「守り切ったなら……それこそッ、やり直すことに意味なんてない
「本当にそう思うか? カドック、“人理修復を成し遂げた一般人”を前にして魔術協会が何もしないと、本当に思うのか?」
カドックはおし黙った。『絶対にない』とは言い切れないくらいには、魔術協会の事を知っていたからだ。
二世は、そんなカドックを見て少し笑った。
「いいかね。レイシフト先で君たちが死ねば、それは汎人類史でも死んだ事になる。つまりレイシフトした者は、レイシフト先の影響をモロに受けるという事を
君たちは、真エーテルの影響を確実に受けている存在なんだ。
———君たちの肉体を調べれば、真エーテルの証明に
———魔術師たちの総本山の一つ、魔術協会が設立されたのは紀元元年。
その理念は『神秘を未来に残し続けること』。
古い書物によると、どうやら当初の理念は『神秘はいずれ消え失せるが、過去を知る学問として残していこう』というものだったらしいのだが、今では『そのためには実践可能な状態で神秘を保存するべきだ』という考えだと解釈されている。
西暦20年ごろに
……と、いうか。現代の魔術師は
———それを、西暦の世で再現できる可能性。
確かにそうなれば、魔術師たちはこぞってその肉体を切り分けにかかるだろう。なんたって大切に使わなければならないのだ。肉の
魔術師ならばこういう時、その“素材”をどういう風に保存するのかなんて、カドックは知りすぎるほどに知っている。
気がついたら、反論していた。
「でも、そうなったらサーヴァントたちが黙ってないだろ。いくら天下の魔術協会とはいえ、複数のサーヴァント相手じゃ
「———では、君たちが人理修復を成し遂げた後、カルデアにはどういう命令が
———サーヴァントたちの、強制退去命令。
組織運営の観点からみると、“個人のために戦うサーヴァント”は信用できない。人理のためではなく、マスターのために力を
だからこそ、『人理修復がなされたなら
自分たちが今いる“このカルデア”は、キリシュタリアやオルガマリーの
……ため息をついた。
「だから“犯罪”なのか? 汎人類史に敵対して
だがそれなら、レフの爆破事件の時に全員殺すだけで終わった
二世は少し
「それならば、確実にやり直しを覚えているだろう者の言動に注意してみると良い。———たとえば、レフ・ライノール。彼はかつてゲーティアの一部だった。つまり単独顕現による記憶保護は効いている
彼が
カドックは思い出した。昨日の戦闘、ケルヌンノスやトネリコと戦ったあの戦闘において、レフ・ライノールが藤丸立香になんと言っていたのかを。
あの時、レフは藤丸立香に対して『貴様を
つまり、レフ・ライノールは藤丸立香をある
———他には、『我ら
『まぁせめて、安心して
そうだ、レフ・ライノールは藤丸立香に、『マシュは平穏に生きていけるから安心して死んでも良い』と口にしていた。それはつまり、藤丸立香の望みが『マシュ・キリエライトの平穏だ』と言っているようなもので、先ほどからのロード・エルメロイ二世の推理と合わせて考えると、藤丸立香の犯行動機は復讐ではなく———
「そう、彼女の保護だ。
恐らく、やり直し前の世界ではマシュが悲劇にあったのだろう。彼女は“唯一のデミサーヴァントの成功例”だ。彼女を再現できるようになれば、魔術師たちは“死徒化”よりも効率的な延命手段を手に入れる事になるからな。
———なんて言っても“自らの肉体を霊基に
カドックは、葉巻を吸う二世から目を
ここまで説明されて初めて、最初に二世が何故『“敵”や“味方”といった概念が崩壊する』と言ったのか、何故『ジェームズ・モリアーティがスパイだったとしても関係ない』と言ったのか。その
「そうか……アイツは僕たちの先輩で、僕たちにマシュの平穏を
キリシュタリアが後ろにいる現状なら、協会に属する魔術師ではマシュに手を出せなくなる。ぺぺとベリルがいるのなら、暗殺その他にも対応できる。———マシュを守るには、まさに理想の
ロード・エルメロイ二世が朝食のお
カドックがその背中を見ると、二世は立ち止まった。
「昨日、君にモリアーティ教授が語ったように、こう言った事情は
君が『主観の入らぬ事実を見つけ、それをもとに『自分は何をするべきか』を
君がどのように決断しようとも、私はそれを
彼は、テーブルにいるみんなを確認して、少しだけ声を
「ここまで推理して、確信を持ったことが一つだけある。『事件はまだ始まっていない』
———気をつけておきたまえ」
そうして、ロード・エルメロイ二世は歩き出した。
その背中にアナスタシアが「ロード・エルメロイ二世の推理、とても素晴らしかったわ」とだけ投げかけ、二世は一瞬だけこちらを見ると、やはりまた歩き出した。
◇ ◇ ◇
彼が去った後、食堂のテーブル。
カドックの左正面に座っているアルトリア・キャスターが、ボソッと言った。
「私、異聞帯から来たみんながどうしてあんな事を言ってたのか、やっと分かった気がします。
『王さま相手に正々堂々と戦うなんてダメだ』『どんな手段を使っても良い、確実に彼を殺すべきだ』。
みんなはカルデアに、王さまを殺して欲しかったんですね。その苦しみから解き放つために」
アルトリアの隣、
「そうですわね、どれだけの苦しみがあったのか……。マシュさんの安全が彼の望みで、それがやっと達成されたのなら、もう……楽になりたいでしょうから。
———今になってやっと、魔神バアルの言っていた意味を理解することができました」
そう言えば、とカドックは思い出す。魔神バアルは新宿の特異点でカルデアの仲間になった存在で、藤丸立香殺害の過激派だった。
自分自身が、
実際にその作戦は実行され、昨日の夜。バアル、デイビット、カイニス、テスカトリポカ、山の翁のパーティでミクトランを
聖杯を抱え込んだバアルが“穴”に飛び込んで、
その帰りにヴォーティガーンの封印を山の翁が
異聞帯の有識者の見解では、これでも足りない可能性があるとのこと。2つの災厄を突破した藤丸立香にどう対処するのか、
そういった
「
「そうだな」
と、カドックは目を閉じて返答した。
「これから、デイビットに会ってくる。予定通りならそろそろアイツ、またミクトランに出発する
その前に、話しておきたい事ができた」
「そうですね。デイビットさんとキリシュタリアさんは、もしかしたらこの事を知っていたのではないか、と思わせる何かを持っています。
これからの事を決めるなら話し合いは必要かと」
「行ってらっしゃい」とメルトリリス。
「わたし、応援してますね」とパッションリップ。
彼女たちの声に背中を押されて、カドック・ゼムルプスは立ち上がる。
そして、デイビットを探して廊下に出た。
◇ ◇ ◇
カドックの予想通り、デイビットは出発する直前だった。
イマジナリ・ボーダーの、
振り返ったデイビットは、カドックの表情を見た。そして少し、笑った気がした。
「———追い求めていた謎に、答えを得たのか」
「モリアーティにヒントをもらって、ロード・エルメロイ二世に解いてもらったんだ。僕が気づいた
「いや、それも力だ。サーヴァントを頼る、それは誰しもができる事じゃない」
カドックは息を吸って、デイビットと正面から向き合った。
「お前は……知ってたのか?」
「いや、知らない。経験と
そう言ったデイビットの
「藤丸立香を、殺すのか?」
「そうだ。ヤツは恐らく
「どうして、殺すんだ?」
「きっと、その方がいいだろうから。つまりはただの———
デイビットは、一瞬、考えていたかと思うと———「欲張らなければ、もう少し時間はあるな」と
そして、カドックのことを
「オレたちはきっと、アイツの夢の中を生きているんだ。
昨日、キリシュタリアも言っていた。『
だからこそ敬意を持って、あらゆる手を尽くしてアイツを殺す。でないと安心してマシュを任せて
先輩に、オレたちも強いんだってところを見せないとな」
その言葉が、とても優しい
「そうか、———
「まさか。オレは
藤丸立香は明らかに、『殺してみせろ』と言ってきている。だから、本当の戦いはこれからだ。覚悟しておけ、カドック。きっと、今までとは
デイビットはカドックの表情をもう一度見て、一つ
その後ろ姿にカドックは、つい声を
「それを知りながら相手の
お前らしいよ、全く」
そう言い切ってから、カドックは気づいた。事実を知っても、やる事は何も変わっていないという事に。
何も知らなかった頃の自分も、事実を知った後の自分も、何かを予感しているデイビットでさえも。
……なるほど。モリアーティ教授が『完全犯罪に近い』という
きっと自分たちは、まだ藤丸立香の
———そんな、予感がした。