ヒキニートが「監禁された!」と騒いでいる 作:薄皮パン君
喫茶店「モーパッ山」の店内には年老いた店主の男が一人、若い男の客が一人。客はパーマに黒縁メガネを掛けていて、一見するとインテリ風である。
カランとドアベルが鳴り、黒髪ショートに赤のインナーカラーが入った若い女が店に入ってきた。女は店主に会釈をすると迷わず、黒縁メガネの座る長椅子を目指した。
「谷川先輩、早いですね? 講義サボりました?」
「なんだ。みつ子か」
「なんだ」と言われ、みつ子は怒り顔を作って谷川に身をぶつけ、揺らす。
「ちょっと先輩! 一回セックスしたからって扱いが雑ですよ!」
「ちょ! 声がデカいよ!」
「あの日はラップ現象に遭ってメンタルが不安定になっていたから、それを落ち着けるためにセックスしただけですからね!」
「分かったから! 一々説明しなくていいから!」
谷川が何度か謝ると、やっとみつ子は普段の表情に戻って話し始めた。
「昨日連絡した監禁部屋の件ですけど、先輩はどう思います?」
「あれなぁ。赤城さんが音信不通になって、代わりに地下アイドルの監禁が始まったってやつ。地下アイドルが何でも「アリ」ってのは聞いていたけど、バズるためにあそこまでするとは思えないんだよなぁ~」
「ですよね~」
二人が落ち着いたのを見計らって店主が席にやってくる。店主がローテーブルにお冷を置くと、みつ子は「ブレンドください」と慣れた様子でオーダーした。
「猫林もみじ=玉タッチのマリが本当だとすると、恨みを買っていた可能性はある。猫林さんを監禁した犯人が赤城さんを模倣したケースもあり得るな……」
「それ! あると思います!! 猫林さんが本当に出会い系詐欺女だった場合、玉タッチのマリ以外でももっと酷いことをしていると思うんですよ。で、猫林さんにダメージを与えるために仕返しを計画したと。今のタイミングだと、赤城さんを絡めるとバズりますからね……」
みつ子は腕組みをして考え込む。
トレイを持った店主がブレンドコーヒーをローテーブルに置き、香ばしい湯気がみつ子の険しい顔を少しだけ解した。
「ただなぁ。赤城さんが監禁されてからまだそれほどの日数が経っていないのに、模倣犯があそこまで精度の高い監禁部屋を用意できるのかが疑問なんだよなぁ」
「私もそれは引っ掛かっています。赤城さんの監禁部屋について、事前に知らないと準備は間に合わないですよね」
谷川は冷めたコーヒーに口をつけると、床に置いていたバッグからノートPCを取り出し、情報を整理し始める。
【赤城ゆうや】
■年齢:40前後
■性別:男
■職業:無職
■趣味:アニメ・漫画・ゲーム・アダルトグッズ収集
■家庭環境
父親と母親との三人暮らし。本人は少なくとも十年以上引き籠りのニートをしている。父親は会社役員らしく、暮らしは比較的裕福。
■監禁のきっかけ(想定)
①承認欲求を満たすための自演
②引き籠りの状況を改善させるため、ショック療法として両親がゆうやさんを監禁しているのでは?
③得体のしれない何かによって
■オカルト要素
①スマホの位置情報が狂っている
②赤城家のゆうやさんの部屋でラップ現象発生。白い顔の女
【猫林もみじ】
■年齢:20
■性別:女
■職業:地下アイドル/コンカフェでアルバイト
■趣味:コスプレ/アニメ/アイドル
■家庭環境
一人暮らしっぽい
■監禁のきっかけ(想定)
①承認欲求を満たすための自演
②出会い系詐欺の被害者の恨みを買って、監禁された
②得体のしれない何かによって
■オカルト要素
①スマホの位置情報が狂っている
②監禁前日の記憶が曖昧
「うーん。猫林もみじさんの監禁ですけど、恨みを持つ模倣犯の仕業だとしても、スマホの位置情報までは弄れないですよね? やっぱり赤城さんともみじさんは何か関係があるのでは? って気がします。少なくとも、二人は近い場所にいる気がします」
二人の情報を見比べ、みつ子は自分の考えを述べる。
「そうだな……。ちょっと赤城さんは置いておいて、猫林さんの方を調査してみるか?」
「ですね! 歌舞伎町のレンタルルームと■■のライブハウスあたりに行ってみましょう!」
コーヒーを飲み終えると、二人は立ち上がった。そして「モーパッ山」を出て行く。カップをクロスで拭きながら、店主はその背中を眺めていた。