ヒキニートが「監禁された!」と騒いでいる   作:薄皮パン君

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第12話 〇〇大学オカルト研究部④

 歌舞伎町にはレンタルルームが多数存在する。レンタルルームとはベッドとシャワーだけの簡易的ラブホテルのことだ。

 

 その利用客の多くは風俗客と風俗嬢、パパとパパ活女子だ。一般のカップルもゼロではないが、狭くムードも何もないレンタルルームよりはラブホテル。という人がほとんどであろう。

 

 谷川とみつ子は歌舞伎町を訪れていた。レンタルルーム■■■■の店員に取材するために。

 

 Twittorや匿名掲示板で収集した情報により、「玉タッチのマリ」が利用していたレンタルルームは特定出来ていた。

 

「玉タッチのマリ」の被害者は多い。何度もレンタルルーム■■■■へ出入りしていた筈だ。店員とも顔見知りになっていた可能性が高い。何か猫林もみじに関する情報を得られるのでは? と谷川とみつ子は考えたのだ。

 

「すみませーん」

 

 雑居ビルの二階。狭い螺旋階段を上った先の受付に向かって、みつ子は声を掛けた。スキンヘッドの小太りの男が顔を見せる。

 

「部屋、空いてますか?」

 

 いきなり、猫林もみじについて聞き込みをするのは悪手であると、二人は事前に話していた。一旦客になってしまえば、邪険にされることはないだろうと。

 

「大丈夫ですよー。ご利用時間は?」

「30分で」

「1500円になります」

 

 谷川が二千円を出すとお釣りとルームプレートが渡される。二人は一旦部屋に入って荷物を置くと、すぐに受付に戻った。

 

「……? 部屋に何かありました?」

 

 小太りの店員は怪訝そうな表情になる。

 

「ちょっと聞きたいことがあって。これ、私の友達なんですけど見覚えありますか? 実は行方不明になっていて」

 

 みつ子はTwittorに貼られていた猫林もみじの自撮り画像(未加工)をスマホに映して尋ねる。店員は画像を見て、渋い顔をした。明らかに何か知っていそうだ。

 

「この子ね……。前はよくウチを使ってたよ。一度お客さんがウチに対して文句言ってきたことがあって、「ほどほどにしてね」ってその子に言ったんだよ。それからは別のレンタルルームに行くようになったみたいだよ」

「それって、詐欺に合った男の人が店側に対してキレたってことですか? 滅茶苦茶ですね」

 

 谷川が店員に同情した様子で話す。

 

「本当だよ。我々は場所を提供しているだけで、部屋の中のやり取りに関しては完全にノータッチだからね。それを『グルだ!』みたいに言われて頭にきちゃったよ」

 

 どうやら店員は当時のことを随分と根に持っていたらしい。谷川とみつ子が部屋に戻るタイミングを見失うぐらいに話し続けている。

 

「すみません! ちょっと退いてもらえますか!?」

 

 受付の前で道を塞ぐように立っていた二人に対し、金髪ショートカットにマスクの女が声を掛ける。女は誰かと電話しており、急いでいるような雰囲気がある。

 

「あっ、すみません」

 

 谷川とみつ子は壁ギリギリにまで寄ると、金髪女はサッと逃げるように受付の前を通り過ぎ、螺旋階段を下りていった。店員がしかめっ面をする。

 

「あれも、たぶん詐欺女だよ。たしか、その写真の子の友達じゃなかったかな。この辺りを二人で歩いているのを見たことあるけど」

 

 写真の子とは猫林もみじである。つまり、先ほどの金髪女は猫林の友人で同業者だ。二人は顔を見合わせる。

 

「俺が追う。みつ子は荷物を持って来てくれ」

「了解です!」

 

 谷川は急いで螺旋階段を降りて行く。みつ子は慌てて部屋に戻ると荷物を引き上げ、ルームプレートを受付に戻して谷川の後を追った。

 

 

#

 

 

「池袋。池袋」

 

 谷川とみつ子は山の手線から降りた金髪女の尾行を続けていた。

 

 二人がスマホを駆使して車内で調べたところによると、 レンタルルームから走り去った女の通称は「鬼電のリン」。出会い系詐欺女界隈では「玉タッチのマリ」に次いで有名らしい。

 

 金を受け取った後に男を全裸にするところまでは一緒で、その後いざ「プレイ」というタイミングでリンのスマホが鳴るらしい。リンは一度着信を切るがスマホは再び鳴る。

 

 リンは「親から鬼電。何か急用かも」と言ってスマホで話ながら部屋を出て行く。という手口らしかった。

 

「おっ、待ち合わせっぽいな」

 

 西口の地上出口で中年男性と合流したリンは、交番を避けるようにして線路沿いに歩く。

 

「この先はホテル街だ」

「先輩。詳しいですね……」

「こ、この辺のホテルに心霊スポットがあるんだ!」

 

 二人はカップルを装ってリンを尾行する。リンと男は古びた外観のホテルへと入っていった。

 

「さて。どうする?」

「待ちましょう。どうせすぐに出てくるんですから」

 

 予想通り、「鬼電のリン」はすぐにホテルから飛び出してきた。みつ子が「警察には言わないので、ちょっと話を聞かせてくれませんか? 猫林もみじさんの件で」と言うと、リンは場所を移動することを条件にして、あっさりと了承した。

 

 

#

 

 

「へぇぇ。リンさんも地下アイドルなんですね」

 

 池袋から山手線に乗って数駅。若者で賑わうチェーン居酒屋に三人はいた。リンとみつ子はレモンサワーを谷川はハイボールを飲んでいる。

 

「そう。もみじとは別のグループだけどね。元々同じイベントに出てて、仲良かったんだ。で、『お金がなーい』って話をもみじにしてたら、『めっちゃ簡単に稼ぐ方法があるよ』って言われて……」

 

 リンは全く悪びれる様子はない。

 

「もみじさんの今の状況って知ってますよね?」

 

 みつ子が尋ねると、流石にリンは表情を険しくした。

 

「ヤバイよね。DMも電話もしたけど、あれ自演とかじゃなくてガチなんだって。警察にも相談してるけど、場所が分からないことには動けないらしい」

「何か手掛かりとかはないんですか? あと、犯人に心当たりとか?」

 

 谷川の問いに、リンは首を振る。

 

「Twittorに載ってるぐらいのことしか分からないよ。犯人は心当たりがあり過ぎて困るよね。地下アイドルのファンもヤバイ奴多いし、詐欺の被害者もいるし、あともみじって結構アングラな人達ともつるんでたっぽいし」

「アングラ?」

「そう。闇バイトの人を集める側の手伝いとかもしてたっぽい」

 

 リンは酒の勢いもあってか、猫林もみじについて洗いざらい話した。そして、どんどん晴れやかな表情になっていった。まるで、もみじの悪事を白状することによって、自分の身が潔白になるかのように。

 

「じゃ、そんな感じで。これ、私の分」

 

 テーブルに三千円を置くと、リンは一人だけ先に店を出て行った。軽い足取りで。

 

「先輩がそのお金預かってください」

「え~やだよ。やる気マンマンでレンタルルームに入って四つん這い待機してる男性の生霊がついてるから。みつ子にあげるよ」

「絶対いらない」

 

 金を押し付け合いしたあと、結局谷川の財布に仕舞われることになった。

 

「そういえば猫林さんは大丈夫なのかね?」

「あっ、しばらく見てませんでしたね」

 

 二人は同じタイミングでスマホを取り出し、Twittorのアプリを立ち上げた。

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