ヒキニートが「監禁された!」と騒いでいる 作:薄皮パン君
十五時過ぎの〇〇大学カフェラウンジ。人影は疎らでしんとしており、ひどく時間がゆっくり流れていた。
オカルト研究部の部長である谷川は一人で四人掛けの丸テーブルを占拠し、頑丈さが売りの国産ノートPCと睨めっこをしている。
じっとモニターを眺めては、急に思い出したかのようにタイピングを始め、レポートを埋めていく。
レポートの表題には「ヒキニートが『監禁された!』と騒いでいる ~SNSを騒がせる連続監禁事件の真相に迫る~」とある。
今現在、谷川とみつ子が追っている連続監禁事件とその周辺で起こる怪異事象についてまとめたものだ。
レンタルルームの店員、そして「鬼電のリン」への取材から得た情報を打ち込むと、谷川は深く息を吐いた。そして吐き出した分を補給するように、冷めたコーヒーを勢いよく飲む。
コーヒーが喉を通ったところで、静謐さが売りの昼下がりのカフェラウンジに硬い足音が響いた。谷川は顔を上げ、足音の主へ視線を送る。
主はミニスカートにアンクルブーツ、赤いニットの上にレザージャケットを羽織った相田みつ子だった。みつ子は首を振ってカフェラウンジ全体を見回し、谷川は見つけると早足で歩きだした。
丸テーブルに到着すると、みつ子は椅子を動かして谷川のすぐ隣に座った。そしてノートPCのディスプレイを覗き込む。
「先輩! 鬼電のリンの外見描写がやたら詳細なんですけど! もしかしてあーいう感じがタイプなんですか!?」
みつ子は形の良いアーモンドアイを細めて、谷川の顔を睨んだ。
「皆、鬼電のリンの容姿は気になるところだろ? どんな子が出会い系詐欺を働くのか……」
「レポートの本筋と関係ないですけど?」
「いいだろ。別に……。そんなことより、猫林もみじの方が大変なことになっているけど、みつ子は見たのか?」
谷川は誤魔化すように話題を変えた。みつ子はスマホを取り出すと、さっとTwittorアプリを立ち上げる。画面には全裸でM字開脚している猫林もみじの姿があった。白目を剥き、舌を出し、涎を垂らしている。
「わぁ……。またエスカレートしてる……。リプ欄が調教係になっているんですよね……。『〇〇すると監禁部屋から出られるかも?』って指示して、もみじちゃんにいろいろやらせてて……。マジで男の人ってキモイ」
「いや、よく見ると女性の裏垢っぽいのも混じっているぞ? 若くて可愛い子を虐めて楽しんでいる女性もいるってことだ。人間の醜悪さが男女どちらかに偏っているってことはないよ」
谷川が諭すように言うと、みつ子は反省するように首をすくめた。
「話を戻すけど、俺が気にしているのは猫林もみじのこの呟きだ」
自分のスマホを手に取り、谷川はみつ子に見せる。
『もう人を売ったりしません。反省してます。ここから出してください』
みつ子はバツの悪そうな顔をした。
「あっ、そんな呟きしてたんですね……。エッチな投稿に気を取られて見逃してました……」
「まぁ、もの凄い回数呟いているからな。猫林もみじは。見逃すのも仕方ない」
「人を売ったっていうのは、あれですかね? もみじちゃんがアングラな人達と繋がりがあったっていう」
「そうだろうな」
石川は遠くを見つめて眼つきを鋭くする。
「実は『鬼電のリン』の本垢を突き止めたんだ。回堂リンネっていう名前で地下アイドルをやっている」
「えっ、リンちゃんをやっぱり狙っているんですか?」
「違う! 猫林もみじとアングラ界隈との接点を追加でヒアリングする為だ。DMすると、ちゃんと返してくれた」
「先輩、イケメンだからなぁ……」
「それは関係ない」と強めに言い放ち、谷川は続ける。
「どうやら、猫林もみじは〇〇公園で立ちんぼをしている女の子に仕事を斡旋していたらしい」
「仕事……ですか? どんな?」
「あぁ、鬼電のリンも仕事の内容までは知らないらしい」
「ということは、現場で聞き込みですか?」
谷川はゆっくりと頷く。
「いつ行くんです?」
「この後」
「私、今日はバイトなんですよねぇ……」
みつ子が申し訳なさそうな顔をした。
「いいよ。今回は俺一人で行く。一回で何か掴めるとも限らないから、次は付き合ってくれ」
「申し訳ないです……」
少し会話を続けた後、みつ子はアルバイトへ。谷川は〇〇公園に向けて移動を開始した。