「貴方は、神に逆らって生きている。─そうとしか思えない」
サルディニア島の道端で露店占いをしている男は信じられない眼で手に触れた中年男性の手を見つめていた。一回二千円の占いで生計を立てているこの男は誰しもが一目置く凄腕の占い師だった。運命さえも見渡せる力量にまで到達した占い師は、男性が抱え持つ運命に対して本能的に惹かれた。今までに訪れた客のように、占い師は初めて懇願した。彼が神妙にその提案を受け取らなければ、占い師はきっと全財産を彼へ差し出したであろう。ハンカチで軽く拭き取られたその掌を見据えて、占い師は冷や汗に塗れていた。
「『
陽射し避けに被っていた深藍色のローブを外し、手の皺にある毛穴すら見て、占い師はか細げにつぶやいた。その言葉に、事実を告げられた核心にあたる語り口に、喪服のような漆黒のスーツを着こなした男は特徴的な三角形の瞳孔を動かさなかった。
「『光と影』、『表と裏』、『二重の人格』…!その『秘密』を貫けば永遠に貴方は輝くことが約束された…!人の死が降り積もるごとに幸福の山が雲霞の如く呼び寄せられ、栄華は廃れることなど、あり得なかった…!」
「だろうな。DIOの残党どもの小競り合いに拘ることになったのは、我が『パッショーネ』にとって不幸でしかなかった」
「その命綱が死に直結すると!貴方は理解していたはずだ!
占い師の魂さえ込められた言葉に、泰然としていた男は初めて意志を込めた目線で返した。血を被ったような深紅のロングヘアーをオールバックで後ろに纏めた翠の眼がギラギラと欲に輝く男の名は、ディアボロといった。悪夢の名を冠する男の背後には全身に張り巡らされた網目模様を持つ真紅の人外が佇んでいたが、不幸なことに占い師の眼にはそれが映ることはなかった。
「この私の占い師人生の生涯全てを賭けて告げよう!
「─キング・クリムゾン」
人外の瞼の無い眼球がぎゅるりと回転する。唇の存在しない歯茎が剥き出しなその顔つきは常に怒り狂っているように見えた。スタンドと呼ばれる生命力の具現化はディアボロ自身の精神性を剥き出しにする。人外の額に刻まれた嘲笑う表情で固定された人面瘡はディアボロの思うがままにその能力を発揮した。
「─はっ!」
占い師は己が手を見た。先程まで対面で椅子に座っていた自身が数メートル先の路地裏に佇んでいることを自覚した。何が何やら理解できない彼は、それでも自身の絶望の元となった生命線を見て、その
「どんな人間だろうと…一生のうちには『浮き沈み』があるものだ」
からんからん、と占い師の足元へ鋏と剃刀が落とされた。僅かに血の滲んだ金属片に、占い師は理屈など抜きにして本能的に首筋へ手を這わせた。朝には存在しなかった瘡蓋の上から、僅かに指を湿らせた血を、占い師はゾッとするほど冷たく感じた。
「『成功という道』、或いは『失敗という穴』。それ自体はどうでもいい。問題なのは、
「私の…運命を、覆したとでもいうのか…!?」
「
ディアボロがその名を名乗るまで、幾つもの葛藤があったことは否定しない。悪の結末は常に不幸で苦痛だけが与えられる結果であることを彼はよく理解している。いっときの彼はその類稀なる能力を善行に差し向けたことさえあった。しかし、結論から語れば彼はマフィアのボスとしてイタリアの電話、郵便、交通、マスコミ、警察、政治など社会の全てを牛耳っている。それがどれほどの空手形であろうとも、全ての犯罪はディアボロに行き着く運命となっているのだ。
「悪は、俺が選ぶ」
恐怖に震えた占い師を観ていたディアボロへ発砲音が鳴り響く。ディアボロへ到達した銃弾は計五発だった。余裕を持ってスタンドで弾いたディアボロの周囲の壁に跳弾がめり込む。スタンドを持たない占い師には偶々弾丸が逸れたようにしか見えなかっただろう。あたふたと商売道具を捨て置いて逃げ出した占い師に、ディアボロは横目で彼の姿を見た。コマ割りから描かれない位置にいる彼は慌ててマイカーに乗り込んで発進したが、運命が訪れた彼にすぐさまの死は与えられなかった。
「…人目がつかない場所へ行くとしよう」
あたりに人影が見えないことを承知にディアボロは呟いた。スタンドはコントロールしている限りパワーと操作距離が反比例する。ゲームのスキル設定のように才能というポイントで割り振りがされているのだ。ディアボロのキング・クリムゾンは近距離に特化した仕様であり、その能力はコンクリートを豆腐のように貫くことが出来る。物理干渉を任意で行えるスタンドで脚部分のみを顕現すれば、あっという間にスーパーマンの完成だ。
スタンド使いにしか聞こえない音を立ててディアボロは数百メートルはあろう長距離をひと蹴りで稼いだ。跳ぶ際に上から見た路地裏には
中・遠距離型のスタンドはその距離感故に咄嗟の対応が遅れがちだ。ディアボロはスタンドの
ディアボロが戦場に選んだのは視界の開けた小高い丘だった。土と背の低い草が半々の、とにかく感知をしやすい場所だ。サルディニア島はディアボロの肉体の故郷である。成人前まで暮らしてきた土地は月日が経っても馴染みやすいものだった。
「
ディアボロは極悪人である。憑依転生者のラベルを貼った産まれ初めに肉体の持ち主を
世界の画素数が削減され、ありとあらゆる物体が
この
音は無い。だが、スタンドを介しての視界には確かに空間がぶれる不可思議なコマが表示された。一度捕捉すればディアボロの眼から逃れることは出来ない。それに対して正面への相対を維持したまま、ディアボロは優雅に腕時計を見た。
「十二時には娘と漸く再会の予定だ。ちょっかいならそのまま帰るがいい。今から二十分後にフェリーの出港がある。俺の名を出せばツケておいてやろう」
「…生憎だが、俺には帰る道など存在しない」
暗殺者が姿を見せた。否、迷彩を緩くしたと結論すべきか。瞬きの間に映った姿は百九十センチよりもやや低い長身にサスペンダー付きの黒いロングコートを素肌の上から直接着ている整った顔の男だった。横縞模様のズボンと纏うフードが玉飾りの主張と合わさり全体の風貌が捉えにくい。スタンドに影響されたと思わしき黒い眼球が彼の全てを表していた。
「大雑把…しかし狙いは正確の上、向き先は此方を向いたまま。流石は『ボス』というべきか。これまでの暗殺の経験で初の『脅威』だ。だからこそ、俺がその能力を解き明かし、俺のスタンド『メタリカ』の全力をもって殺すに値する」
「…リゾット・ネエロか」
迷彩を濃く、慎重に操作したからかディアボロの予知すら描かれない透明化に、彼は敢えて目をつぶって首を準備運動として回した。あからさまな挑発に、リゾットは内心の苛立ちを無理矢理押し込めながらスタンドを完璧に操作し続けた。
「…二年だ」
血の滲んだ怒りに塗れた深く低い声をリゾットは喉から出した。密輸チームとして貢献していた期間を吐き出すかのような声だった。仲間には決して見せなかった素の感情を、独りとなったリゾットは思うがままに曝け出していた。
「恐怖と金に首輪を付けられた犬コロ同然となっていた俺達が、探し求めていた『
「ソルベとジェラートの仇か」
「最期の暗殺業務としてソルベとジェラートをアメリカへ引っ張った貴様はあの時、贋作者としてアイツらに
後の新聞に『ファンタジー・ヒーロー事件』と呼ばれた事件。アメリカの一地方の人口と世界中の経済が滅茶苦茶になった現象。リゾットとして確かに犠牲は必須かと飲み込めたソレは、その後のパッショーネの内部規範の低下に伴ってじわじわと彼の精神を苛んだ。
「思えば十にも満たない
「卑下することはない。お前は優秀だ。アレは必要な犠牲だった」
「世界中の災害と経済を情報として売り払えるアンタがソレを語るな!!」
「……」
「今やパッショーネは三分割だ…!
トリッシュ・ウナというディアボロの娘の存在の発覚により、誰しもがディアボロの弱体を疑っていない。イタリアの暗黒界に於いて数十年に渡る完璧な予知を授けていた神の
「このザマは!狙って使い潰したと思っていいんだな!アンタの我欲のためにパッショーネは壊れかけていると!娘を優先した結果だと…そう信じてもいいんだな!?」
2001年3月29日。ジョルノ・ジョバーナが幹部ポルポと面会。試験を受ける。幹部ペリーコロによりトリッシュを回収。
2001年3月30日。ジョルノがブチャラティチームの配下になる。パッショーネへの報告後、ポルポが自殺を行う。
2001年3月31日。ポルポの財産を巡りブチャラティチームがズッケェロ・サーレーと抗争し勝利。その後、幹部ペリーコロの独断によりトリッシュの護衛を命じられる。
2001年4月1日。トリッシュを巡り輸送チームのホルマジオ、イルーゾォ、プロシュート、ペッシ、メローネと交戦し、全てを撃破。
2001年4月2日。輸送チームのギアッチョと交戦を理由に合流地点をサルディニア島に変更。反対派筆頭の薬剤チームにより誤報を受けたカルネにより個人用ジェット機が墜落される。
2001年4月3日。ディアボロとドナテラ・ウナとの最期の語らい。ドナテラの死後、サルディニア島へ。
2001年4月6日。現在。
運命は歪んでも変わらず、死は当然のように降りかかっていた。
「そうだ。俺は常に、運命を打破する存在を求めてきた」
「ならば…なら!俺も全力をもって!抗わせてみせよう…!!」
【キング・クリムゾン】
破壊力-A スピード-A 射程距離-E 持続力-D 精密動作性-B 成長性-D
近距離パワー型のスタンド。憑依者の嗜好により能力が多少変化している。
【日程】
読み返す限りのスケジュール工程。回復間に合わない気もするが本編がそうなっているので大丈夫なのだろう。