運命は絶対的で在るべきか   作:ややや

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囚人vs黄金 その①

「やったァー!金と食料がたんまりだァ!夜逃げしたビビリの家に感謝ダゼェ!!」

「ひゅー!やるじゃねえか!流石は三階建ての高級住宅ゥ!」

「コッチにはワインセラーだ!酒だ酒!」

 

 ディアボロ達が決戦を繰り広げる少し前、彼らが戦っているコロッセオから数キロ先は浮浪者と泥棒の聖地となっていた。コロッセオに出されたテロ予告。バイオテロとして政府に送られたカビ兵器は想像を絶する恐怖を住民に齎した。痛みもなく厳重な防護服に身を包んだ研究者が瞬く間に粉々に散りばめられる動画はニュースを真に受けない陰謀論者すら政府の指示で避難勧告を粛々と受け入れるほどの狂気があった。空白地帯となったコロッセオに居座る狂人達を見守るのは、詳細が気になる好奇心が高いもの達が設置した中継カメラだけだった。

 

『マイクテス、マイクテス。あー、私はチョコラータという』

 

 退廃的な姿を映していたカメラに届いた変化は、ハウリング後に拡声器から放たれたチョコラータの愉悦に満ちた声だった。バックグラウンドに響くのは恐怖と苦痛に呻く犯罪者達の断末魔。ズレたカメラには割れた窓ガラスから吹く風によって首が千切れ落ちる浮浪者の姿が映っていた。

 

『この度は私の実験に参加していただき、誠にありがとう。君達は幸運なことに、私が作り出す新世界の住民として選ばれた』

「チョコラータ…!!」

「父さんが隔離していたスタンド囚人ってやつ!?」

 

 薬物に浸り切ったスタンド使い達を一蹴したブチャラティは喜悦と優越感に満ちた下衆な声に歯軋りをした。隣で息を吐いたトリッシュはハンカチで汗を拭いながらブチャラティへ問いかけた。ブチャラティは頷いて肯定し、主流派から亀と引き換えに調達した車に全員を乗せ次第、声のする方向へアクセルを踏んだ。

 

「全世界の医療や自然動植物保護を掲げるスピードワゴン財団最強のスタンド使いとボスが協力して捕らえた『吸血鬼の復活』を目論む五人囚ッ!生まれつきのスタンド使いと技術を昇華させたスタンド使いによる狂気の実験の犠牲者は千人を下らない!奴らは間違いなく『実験』を再開するぞ!!」

「殺せよそんな奴!」

「奴らは不完全とはいえ『基幹』情報を握っていた。吸血鬼…おそらくボスが語ったDIOの残党は未だに世界中に存在する…吐かせるまで殺せなかったんだ」

 

 ミスタの指摘にブチャラティは言い返したが、その顔は後悔に満ちている。道中で散らばる緑色の端切はチョコラータのスタンドだろう。捕まった時点でスタンドを持つ存在はDIOの部下であるジョンガリとミドラーしか居ない。監獄という狭く不自由な閉じた世界で彼らはスタンドを開花させたのだ。鬱屈した犯罪者が行う憂さ晴らしの成果に、ブチャラティは唇から血が出るほど歯を食いしばった。

 

『監獄に収監されたあの日、私は世界が未知に満ち満ちていることを漸く知った。超能力、サイボーグ、怪異、幽霊、そして吸血鬼。世界に溢れる『禁忌』は私が犯したチンケな犯罪とは比べモノにならない。井の中の蛙、猿山の大将。産まれて初めて『謙虚』した。好奇心で射精をした(イっちまった)のは二度とないだろう』

 

 視界が開けた直線道路に乗ったブチャラティ達の車を襲ったのは、亜音速で迫り来る緑色の弾丸だった。普通であれば必殺の一撃も、スタンド能力の前では牽制に過ぎない。ミスタは一切動じずに自らのスタンド『セックス・ピストルズ』でその弾丸を弾いた。ミスタのスタンド能力は『弾丸の操作』。併せて群体型の六人の操作にかかれば軌道を予測して防御をするなど朝飯前だ。小人の六人衆は軽快な掛け声と共に喜びの舞をしていたが、弾き返した『No.5』が爆発したのを見たミスタはフィードバックによりグズグズに腐り始めた右手と共に車外へそれを投げ捨てた。

 

「痛ってえ!コレが主流派の連中が言っていた予言のカビか!」

「凡そ一メートル下落すると爆発的に増殖するスタンド能力。だが、この立地は俺達に味方している。ジョルノ、俺と運転を換わるんだ。ミスタを治したら一気に突貫する」

「そうですね。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 『予言』通りにというジョルノの内心はギリギリで口から出なかった。お膳立てされた敵。心底本気を出して勝ち目が浮かぶ強さ。敵の『悪意』だけは本物なのがタチが悪い。結局は、ジョルノ達が戦っている敵は潜在的に立ち向かう必要のある存在なのだとジョルノは理解していた。ディアボロはジョルノ達の敵を効率良く整理して糧にさせている。

 

「はっ。所詮は父さんが捕まえた負け犬の集団でしょう?さっさと終わらせてあのピンク髪を毟り取りに行くわよ」

「…いまさらですが、死地に飛び込む必要はないのでは?」

「母さんの葬式もやらずに世界平和に邁進するバカ父の言葉に従う義理はないわ。()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 優しくも残酷で、無慈悲なあの男は、トリッシュだけは親としてあしらっていた。彼女だけが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。未来を知るディアボロを止めるには、彼自身が止まるのを決心させなければならない。

 

『特に『ムラムラ』したのは吸血鬼だった。エジプトのカイロを根城にした未だ信奉者が存在する伝説の存在。これがまさか()()()とはおったまげたよ。『石仮面』による吸血鬼化。問題は手法ではない。()()()()()()()()()()()()()()。この結果こそ、重要な事柄だった』

 

 ブチャラティはアクセルを全開に車を暴走させた。摩擦音と併せて擦過傷をアスファルトに残しながら百キロを超えた速度でチョコラータへの距離を詰めていく。選挙前の政治家のように、チョコラータは装甲車の上で下卑た笑みを浮かべて演説していた。全てを見下した笑顔は、ブチャラティの車を見た途端に人外めいた喜悦を浮かばせた。

 

「たかだか八本の骨芯で脳に刺激した程度で人外へと変貌する。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。その全てを解き明かし、私に結果を反映したらどれほど『高み』で『見下せる』のか…!『夢』は力になる。道先が定まった私のスタンドは、更なる高みへと進んだ」

 

「起動せよ。グリーン・ディ・ラヴ・スレイヴ

 

 ブチャラティ達の車との境に存在した大量のカビに塗れた死体が蘇った。石仮面の実話と人体実験、そしてミドラー達が抱えていた『聖遺物』(チョコラータに言わせれば『邪遺物』)を元に創り上げたカビは殺傷性をそのままにあるひとつの機能を付け加えた。自動でチョコラータの命令を受け付ける屍生人。世界中を巻き込んで壊し尽くすために追加された邪悪な生命体が、ブチャラティ達の車を完全に押し留めた。

 

 屍生人の緩慢な振り下ろしが車のボンネットへ叩きつけられる。骨と皮しかない老人の一撃は金属を引き裂いてその身体をオイルで染め上げた。何十倍にも力の向上した屍生人達はあっさりと車を解体し、解体に関わったその全ての屍生人がブチャラティによってバラバラにされた。

 

「マジでバケモンだなありゃ」

 

 チョコラータが思わずぼやいた。脳なしとはいえ屍生人のスペックは人類を遥かに超えている。鍛えて()()屍生人による打撃は音速に近い速度で振るわれている。その全てが無意味にブチャラティに散らされる。チョコラータは元がつくが優秀な医者である。たまの()()()()はしたが、そこらにいる手術に失敗する可能性のある無能(いっぱんじん)と比べても段違いのスキルを有している。その能力全てが、ブチャラティの動きが明らかに人を超えた反応速度を前提にしていることを示していた。

 

 チョコラータは手元にある『矢』を見た。拳銃自殺したポルポの遺体を解体して取り出した『スタンド製造』の力。ディアボロにはない、アドバンテージの塊は彼ら囚人の希望だった。

 

「幾人か刺して分かった事がある」

「チョコラータッ!!」

 

 数十メートルは離れた距離にも関係なくブチャラティは己のスタンド『スティッキィ・フィンガーズ』で殴った。腕が『ジッパー』により投げ縄の紐として長く延長されたことによる遠距離攻撃だった。ブチャラティの『ジッパーを取り付ける』能力は魂という不定形な存在を認識することで更なる発展を手にしていた。

 

「『矢』がスタンドを覚醒させるのは、内部のエネルギーが肉体に与えられるためだ。スタンド使いは誰しもがショック死とは無縁だ。膨大なエネルギーを消化し、解放した結果が『スタンド』になる。エネルギーの集合体としての保存先を拵えるわけだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「『オアシス』ッ!!」

 

 チョコラータを守ったのはアスファルトの下から()()してきたダイバースーツを着たセッコだった。自らのスタンド名と併せてジッパーへ殴りつけた暴挙は、スタンドを知るものほど愚かに見える。スタンドはスタンドでしか触れないからだ。ミスタの援護射撃に任せて無視したブチャラティだったが、彼のダイバースーツに触れた途端に撓むジッパーの感覚に判断を誤ったことを自覚した。スタンド像を持たない装着型のスタンド。致命的な隙を晒したブチャラティの腕は、()()()()()()()()()()()()()()

 

 セッコは驚愕した。彼のスタンド能力は物質を泥にする力。如何にスタンドで生成された物質でも影響は免れないはずだった。実際に、ミスタが脇下に撃ち込んだ弾丸は水滴のように泥となり弾け飛んでいる。セッコは動物に近い本能に従ってチョコラータの足元へ近寄った。本能に忠実な彼は生命の危機に殊更に敏感であった。

 

「コ、ここいつ!オレの『オアシス』が効かねえ!『泥』にならねぇ!チ、チョコラータァ!」

「落ち着けセッコ。ディアボロは病的に『不公平』を嫌う。人数差とポルポの『矢』を此方が有している以上、私達は『弱く』奴等は『強い』。『対等』なんだ。私達はあの『ライオンさん』に『お人間』として知恵を絞る必要がある…分かるな?」

 

 慈しみを込めてチョコラータはセッコを撫でた。犬のように撫で摩る光景は人を人として扱わない歪さと狂気が溢れていた。ジョンガリの舌打ちに肩をすくめたチョコラータは無言でオープンカーに飛び乗った。土の中へ潜航したセッコによりブチャラティ達は警戒しかできない。車の中心で体育座りをしていたケンゾーが空を指差して叫んだ。

 

「『上』じゃあっ!『吉』の高さは『十メートル上』ッ!!」

「バネばかりでも仕掛けてんのかァ〜!その車によォォ!」

 

 銃弾をリロードするミスタが叫んだ。チョコラータは惚けた顔で首を傾げた。馬鹿を見る目でボンネットを指先で叩き、下世話な顔で嘲笑った。

 

コレが車に見えているかね?

 

 がごんと異音が鳴った。オープンカーの表面に血管が浮き出た。咄嗟にミスタが放った銃弾は金属質の音を鳴らして弾かれた。金属の塊は巨大な人面となり、車にいたチョコラータ達を一飲みにした。丸い塊となったソレはミドラーのスタンドだった。あらゆる鉱物に化けるスタンドは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だった。囚人達のアドバイスにより拡張された能力は、あらゆる機械へと変化する力を身につけていた。

 

女教皇(ハイプリエステス)

 

 暴風がブチャラティ達の服を押し上げた。女教皇(ハイプリエステス)は猛スピードでプロペラを回していた。ゆっくりとホバリングしていた。鈍重だが、十メートルほど浮いた領域は人間には手を出せない『空』という聖域だった。チョコラータ、ミドラー、ジョンガリ、ケンゾーを載せた『ヘリコプター』は末端からカビを撒き散らしながらブチャラティ達を見下ろした。

 

「対『最強』相手の『傑作』だ。歴史は血を絵の具として描かれる。学の無いお前らに『品性』は求めちゃいないが、猿でも分かるように言ってやる」

 

 ヘリコプターの下部が不気味に蠢き、歪んだ風船のようにぼこりと変形した。現れたのは成人男性がうつ伏せになれる程度の空間に、機関銃と衛星状のスタンド『マンハッタン・トランスファー』。その全てがカビと暴風で無軌道にブチャラティ達の壁となっていた。

 

()()()()()()()…『屠殺業』こそ最も強い戦法だろう?」

 

 機関銃が回転を始めた。死体を弾丸にした緑色の弾幕が、ブチャラティ達に襲いかかった。




【グリーン・デイ】
破壊力-A スピード-C 射程距離-A 持続力-A 精密動作性-E 成長性-A
好奇心と破壊欲、支配欲が具現化したスタンド。自身より低い位置に存在する「生きているもの」を無差別で侵食する殺人カビを放出し、『適合』しない弱者をカビ人間として操る。ただし、チョコラータがそれを脳なしとして認識しているため操作性は著しく悪いものとなっている。
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